10時間を超えたフジテレビの記者会見
前回記事「混迷を深める兵庫県政」の冒頭、トランプ大統領の就任やフジテレビの問題など時事の話題が目白押しな中、私にとって兵庫県に絡むニュースが最も関心の高いものとなっていることを伝えていました。そのような傾向は変わっていませんが、フジテレビの問題も見過ごせなくなっています。
前回記事の最後には「余談ですが」とし、フジテレビ労働組合の80人ほどだった組合員数が500人を超えたという興味深い話を紹介していました。勤めている職場で不安や不満が高まったことで、労働組合の存在感が高まった証しだろうと思っています。長く組合役員を務めてきた一人として、そのように頼ってもらえていることを好意的にとらえています。
現在、ネット上ではフジテレビの問題を伝えるサイトを数多く目にすることができます。SMAPのリーダーだった中居正広さんによる女性トラブルの問題がフジテレビの経営を揺るがせています。社長らによる最初の記者会見がクローズで、動画の撮影さえ拒んだことが激しい批判にさらされました。
一転して月曜午後4時から始まった記者会見はフルオープンで、1回の休憩をはさみながら時間無制限だったため深夜まで及んでいました。視聴率は13%を超え、世間からの関心の高さがうかがえました。私自身も生中継を視聴していましたが、さすがに最後までテレビ画面の前にいた訳ではありません。
翌朝、起きてから終了時刻が2時半近くだったことを知り、たいへん驚きました。その異例な長さとともに記者会見のあり方など、いろいろ考えさせられる点が多くあります。まず『フジ報道局編集長、10時間超の会見に「自業自得」と自社をバッサリ 参加したジャーナリストにも「何らかの問題がある」と警鐘も』という見出しの付けられた記事を紹介します。
元タレント中居正広氏と女性とのトラブルを巡り、フジテレビ社員の関与が報じられた問題で、フジの港浩一社長らが27日午後4時から、記者会見を開いた。191媒体、473人が参加 した会見は午後4時から、休憩を挟み日付をまたいで午前2時23分、所要約10時間23分で終了した。フジテレビでは会見を全て中継。終了後には総括するコーナーが約8分放送された。青井実、宮司愛海の両アナウンサーに加え、平松秀敏・報道局編集長も出演した。
平松氏は10時間を超えた異例のロング会見について、「私、フジテレビの人間なので、フジテレビの人間としてコメントすると、やっぱりこの10時間を超える記者会見っていうのは、本当長いですけど、これはもうフジテレビの自業自得です」と自社をバッサリと切り捨てた。参加者を制限するなどした17日の会見が原因で「想像以上に注目され、多くのメディアが集まって、これぐらい紛糾するような記者会見になった」というのがその真意だった。
一方で一人のジャーナリストとしての感想も加えた。「一つの話題の記者会見が10時間を超えるっていうのは、これはね、健全じゃないです」と語り、怒号を飛ばしたり、何分も「演説」をする質問者がいた状況をチクリ。「今回、フジテレビも悪いですけれども、参加したジャーナリストにも何らかの問題があるんじゃないかと私は思います。今後こういうことが続いていくんじゃないかなっていう気はします」と警鐘を鳴らしていた。【スポーツ報知2025年1月28日】
リアルタイムで視聴した私自身の印象をいくつか書き添えていきます。フジテレビの社長らは本当に長い時間、激高することなく、対応されたことに敬意を表しています。ただ明確に説明できない内容が多く、歯切れの悪い答弁も目立ち、全容の解明が近付いたかというと到底そのように至っていません。
このあたりを強い口調で追及する記者が多く、上記の記事の中で参加したジャーナリストに苦言を呈していますが、私も同様な問題意識を抱いています。もう一つ『フジ記者会見、識者の見方…「80年代のノリのまま」「外資納得しない」「社長交代時期も疑問」』という読売新聞の記事も紹介します。
元タレントの中居正広さん(52)の女性トラブルにフジテレビ社員が関与したと一部週刊誌で報じられた問題で、同社は27日、東京都港区の本社で記者会見を開き、嘉納修治会長(74)と港浩一社長(72)がいずれも同日付で引責辞任したと発表した。港氏は記者会見で「人権侵害が行われた可能性のある事案に対し、社内での必要な報告や連携が適切に行われなかった。私自身、人権への認識が不足していた」と謝罪した。
識者はこの記者会見をどう見たか。危機管理コンサルタントの石川慶子氏の話「記者会見の参加人数や時間を制限しなかったことは前回よりも改善された。しかし社内で問題が発覚した時点で担当部署に情報を共有しなかった理由など、経営陣としての判断の誤りや再発防止策について説明が尽くされず、形だけ整えた印象だ。このタイミングで社長を交代させたのも疑問。嘉納会長と港社長は辞任を表明したうえで、責任を持って対応に当たるべきだったと思う」
トレンド評論家の牛窪恵氏の話「会見では人権を守るべきだと強調していたが、1990年代にセクハラ防止の配慮義務が企業に課され、2020年にはパワハラ防止法が施行されており、一般企業に勤める視聴者からはあまりに時代遅れに映る。会見や問題への対応も含め、対ハラスメント意識が更新されていない企業風土が垣間見える。日枝久氏の責任に踏み込んだ言及はなく、残念ながら外資の株主が納得するとは思えない」
立教大の砂川浩慶教授(メディア論)の話「社長や会長辞任などの人事の発表と、17日の会見が失敗だったという話だけで、何のための会見なのか分からなかった。問題の根本には、日枝氏が40年以上フジテレビを支配し、1980年代のノリのまま、女性の人権が軽んじられてきたことがある。そこから出直すんだという決意表明がなければ、スポンサーも視聴者も納得できない」【読売新聞2025年1月28日】
記者会見の後、週刊文春は最初の報道内容の一部を訂正していたことを明らかにしています。中居さんと女性とのトラブルがあった日、フジテレビ社員が直接関与していなかったという事実関係です。それではフジテレビが今回の問題に無関係なのかと言えば、そうならないことも確かだろうと思っています。
そもそも社員だった女性が中居さんとのトラブルについて会社の上司に相談していながら適切な対応をはかれていなかった点、重大な加害責任のある中居さんを様々な番組で起用してきた点、このような事実関係に対する責任がフジテレビに問われていることも間違いありません。ITジャーナリストの本田雅一さんが『中居問題をフジを揺るがす大騒動に発展させた“コタツ記事”の威力』という記事の中で次のように語っています。
フジテレビ幹部は「A氏の関与はあり得ない」「X子さん本人の希望により少人数での情報共有にとどめ、プライバシーに配慮した」と、ある面で当事者として確実な情報を持ち、第三者ではあるものの中居氏とX子さんのトラブルも把握、和解をしている中で(トラブルそのものに対しては第三者である)、週刊誌報道に対するフジテレビとしての立場を説明しようとした。
これが最初のフジテレビ・港社長の記者会見だった。この会見内容が伝えられると、すぐに確証バイアスとエコーチェンバー効果で“フジテレビの罪は明らかだ”と考える人たちが、一斉に非難し始めたのは当然の成り行きと言えるだろう。フジテレビの現状認識や問題意識、ネット世論を形成する歪んだ事実認定の乖離は大きく、巨大メディア企業が“女性個人”や“個人事務所所属のタレント”を押しつぶし、何かをもみ消しているかのように映ったに違いない。
もし、フジテレビがネットコミュニティから見えている景色を少しでも理解できていれば、記者会見の結果は大きく違っていただろう。和解内容は守秘義務であり、それまでの社内調査や聞き取りもすべてを公開できるわけではない。そこには“外部からは見えない正当性”があったはずだ。法的なリスクを優先して「説明不能な沈黙」を選んだ結果、「隠蔽の確信犯」と誤解されるリスクを軽視してしまった。
昨年12月、この問題が発覚した後、フジテレビ側の危機意識の乏しさが初動対応を誤り、スポンサー離れによる経営危機を招いています。もし最初の会見をオープンな場とし、フジテレビの組織としての至らなかった点を率直に認め、その致命的な責任を取るため社長らが辞意を表明していれば、ここまで激しい批判にさらされていなかったのかも知れません。
いずれにしても今回のフジテレビの一連の対応は反面教師とすべき点が多々あるように受けとめています。最後に『「フジ社長と中居正広」は消えるべきだったのか…「文春報道」を前提に袋叩きにしてきたネット民が向き合う現実』という記事の中で、 情報法制研究所事務局次長・上席研究員の山本一郎さんが次のように指摘していることを紹介します。
確かに、中居正広さんと被害女性の間で男女関係の何らか大きい問題があって、9000万円の示談金らしきものが提示されて解決したようだ、という緩い事実公表が発端なのです。当事者同士で具体的な内容は一切開示されておらず、途中中居さん側が「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」とオウンゴール、さらに問題が大きくなってから「芸能活動を永遠に引退」とさらにオウンゴールして、周りにアドバイスしてくれる人がいないんだろうなって話が際立っていたぐらいでしょうか。
それが、なぜかフジテレビだけでなく放送業界全体の「#metoo運動」みたいになったはいいけれど、確実な性接待の事実関係や組織ぐるみの指示や報告も一切出ない中で、お気持ちとして「テレビ業界けしからん」ってなって、広告が全部止まり、株主から怒られ、程度の低いジャーナリストから会見で「日枝久出てこい」とか煽られ、正直どういうことなんでしょうかねえ、これは。
女性が望まない宴会の席に組織からの指示で強引に連れて来られて性接待されたって話が具体的に出てきているわけではない中で、緩い疑惑のレベルで会社が潰されそうなフジテレビの問題については、やはりみんなもうちょっと冷静になろうね、っていう気持ちしか抱きません。はい。
最近のコメント