兵庫県の元総務部長、停職3か月
前回記事「政治家の言葉、露わになる資質」の冒頭で『斎藤知事側近の元総務部長を懲戒処分へ 告発者私的情報の漏洩を認定 停職3カ月案も』という新たな報道があったことを記していました。
今回の新規記事では、その問題を取り上げながら改めて兵庫県政の現状や混乱ぶりに切り込んでみます。まず『兵庫県、元総務部長を停職3カ月 告発者の私的情報を漏洩』という見出しの付けられた日本経済新聞の記事を紹介します。
兵庫県は27日、斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを内部告発した元県幹部の私的情報を漏洩したと第三者委員会に認定された井ノ本知明元総務部長を、同日付で停職3カ月の懲戒処分にしたと発表した。
井ノ本氏が知事からの指示があったと主張しているのに加え、懲戒処分により社会的、経済的な制裁を受けているとの判断から刑事告発はしないとした。
報告書は「知事の指示及び同調する元副知事の指示により、議会の会派の執行部に対し『根回し』の趣旨で漏洩した可能性が高いと判断せざるを得ない」と指摘。県の波多野武志職員局長は「根回しであっても伝えるべきでなく、元総務部長の行為は正当化されるものではない」と話した。
再発防止策として階層別の研修などによる個人情報取り扱いの徹底や、所属部署での会議などを通した綱紀粛正の徹底を挙げた。
上司の指示に基づく正当業務だと主張している井ノ本氏は、代理人を通じて「情報漏洩と評価され誠に残念。審査請求及び執行停止の申し立てを行い正当性を主張したい」とのコメントを発表した。
情報漏洩疑惑を巡っては、告発者の元県幹部が公用パソコンに保存していたとされるデータを政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏がX(旧ツイッター)などに掲載し、拡散された問題を別の第三者委が調査した。
13日、拡散した情報が「県保有情報と同一のものと認められる」とし、漏洩者や漏洩経路は「現時点では究明には至らなかった」とする報告書をまとめた。県は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで県警に告発状を提出した。【日本経済新聞2025年5月27日】
この処分について、複数の関係者が県の綱紀委員会で当初「停職6か月」とする案が示されていたことを明かしています。最終的に軽減されて「停職3か月」となった理由は「井ノ本氏が知事・副知事による指示があったと信じているため」などと説明されています。
しかし、斎藤知事は「漏洩については指示していないという認識だ」とし、いつものように自分に非はないという姿勢を貫いています。直接的な自らの非は認めていませんが、漏洩が認定された責任を取って自身の給与をカットする意向だけは示しています。
この斎藤知事の認識に対し、井ノ本元総務部長が次のように証言していることを『「文書あること議会に情報共有しといたら」斎藤知事からの指示 元総務部長が具体的に証言』という産経新聞の記事が伝えています。その記事の一部を抜粋して紹介します。
井ノ本氏の証言によると、昨年4月4日か5日ごろ、井ノ本氏は県の理事(当時)同席のもとで、元県幹部の私的情報が記載された大量の文書があることを斎藤氏に報告。すると斎藤氏は、「そのような文書があることを議員に情報共有しといたら」と指示したという。
同席した理事も第三者委に「私的情報の件も含めて報告した際、私的情報を含め根回しというか、議会の執行部に『知らせておいたらいいんじゃないか』という趣旨の発言があった」と証言した。
さらに理事が片山安孝副知事(同)に斎藤氏からこうした指示があったことを報告。片山氏からは「『そらそうやな。必要やな』という発言があった」という。
斎藤氏は第三者委の調査に否定したが、第三者委は報告書で「知事の供述には不自然さも否めない」と指摘。「知事、元副知事の指示により情報漏洩を行った可能性が高いと判断せざるを得ない」と結論付けた。
上記のとおり斎藤知事の認識を真っ向から否定する具体的なやり取りを3人の部下が証言しています。第三者委員会は「可能性が高い」と断定調の報告を避けていましたが、斎藤知事の指示がなく、井ノ本元部長が「根回し」することは考えられません。
この問題一つ取っても、斎藤知事の欺瞞的な姿勢が顕著であり、自らの責任を率直に認めない不誠実さに憤りが禁じ得ません。しかしながらSNS界隈では斎藤知事を擁護し、問題視されている振る舞いの一つ一つの正当性を訴える動画などを数多く目にすることができます。
いつも注目している増山誠県議の動画『【解説】斉藤知事は問題無い!情報漏洩問題の責任について解説します。』では、予想していたとおり斎藤知事の責任を問う姿勢は皆無です。ブックマークしているYouTubeのトップ画面には、増山県議と同じように斎藤知事を熱狂的に支持されている方々によって投稿された内容の動画が並びます。
閲覧履歴が分析され、個人の好みにあった情報を表示するというアルゴリズムと呼ばれる機能です。以前「SNSが普及した結果…」という記事を投稿していましたが、フィルターバブルやエコーチェンバーという言葉を耳にするように「自らの見たいもの、信じたいものを信じる」という傾向は強まっているようです。
私自身、そのような傾向がないか、戒めていかなければなりませんが、いつも意識的に幅広い情報を得るように努めています。前々回記事「両極端な評価のある兵庫県知事」の中で記していましたが、増山県議のように全面的に擁護されている方々も多いため、斎藤知事は強気な姿勢を押し通せていけるのだろうと見ています。
斎藤知事を非難する側こそ「オールドメディア」の言い分を鵜呑みした情報弱者であり、見当外れな批判を繰り返しているという構図についても触れていました。これまでSNSを通し、斎藤知事擁護派の皆さんの主張にも耳を傾けてきた立場ですので、どのような事案に対する認識が双方の対立点となっているのか、少し書き添えてみます。
作家の赤澤達也さんが『斎藤元彦兵庫県知事の法解釈問題。消費者庁がその見解を否定する法的通知を全国に発信し、さらに波紋広がる』という記事を通して詳しく綴られていますが、公益通報者保護法違反に対する認識が最も大きな対立点だろうと思っています。さらに報道機関等に対しての3号通報だったかどうか以前の対立があります。
そもそも元県民局長の告発文書は「怪文書」に類するものであり、「嘘八百」に近い内容だったという主張が知事擁護派から繰り返されています。告発文書に関わる第三者委員会の調査報書書では、調査した7件の事項に対して明確に事実認定したのはパワハラのみでした。
パワハラは暴行・脅迫や強制猥褻などの犯罪行為に当たらない限り、公益通報者保護法の対象外となっています。このことをもって、斎藤知事の判断を正当化する指摘がSNS上では散見しています。
ただ第三者委員会の報告がパワハラ以外の事項を明確に「シロ」と断定している訳ではありません。あくまでも第三者委員会の調査では「クロ」とまで断定できなかったというものです。このような点を踏まえれば、昨年3月の段階で通報者探しに至った兵庫県の行為は違法だったと言わざるを得ません。
元県民局長の私的情報は、告発問題の是非を判断する上で欠かせないという主張が知事擁護派から示されています。一般的な見方は告発者の属性は問わず、告発内容そのものを検証すべきというものです。しかしながら知事擁護派はセットで検証しなければ「クーデター」だったという構図などが不問にされてしまうと問題視しています。
そのため、増山県議らの知事選での暗躍は「正義の行為」であり、井ノ本元部長の情報漏洩も必要な「議員に対する事前レク」だったという見方を強調しています。このように元県民局長の私的情報の取扱いに対する認識が大きく食い違っています。斎藤知事は具体的な言葉にしていませんが、同じような見方をずっと抱いているのだろうと受けとめています。
様々な情報を自分に都合よく解釈するという事例として、公務員の告発義務の問題があります。兵庫県は週刊文春の取材に対する情報提供も、内部情報の漏洩として県警に容疑者不詳で刑事告発しました。報道の自由に圧力をかけるものだという批判に対し、知事擁護派からは次のような言い分が示されていました。
刑事訴訟法239条2項で「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」とされています。したがって、報道の自由の問題にとらわれず、法律に沿って告発した兵庫県の判断を全面的に支持していました。
しかしながら今回、兵庫県は井ノ本元部長に対する刑事告発を見送るという判断を表明しています。このような兵庫県の一貫していない対応について、今のところ知事擁護派のコメントをSNS上では見かけていません。
たいへん長い記事になっていますので、そろそろまとめなければなりません。元県民局長による告発文書問題は1年以上にわたり、兵庫県に混乱と分断をもたらしています。最高権力者である斎藤知事の特異な資質、真偽不明な情報が影響を与えた知事選の結果など、様々な要因が考えられます。
「オールドメディア」と揶揄されるようになり、なぜ「メディアの敗北」とまで言われる事態が起きているのか、NHK神戸放送局で報道の責任者を務めてきた小林和樹さんが『兵庫“メディアの敗北”の真相⑦元県民局長が知事会見に「反論」その波紋が…』という記事を配信しています。
小林さんは「表の報道」からだけではうかがうことができない、メディアの内幕や兵庫県の動きの全てを記録に残したいと語っています。この記事は連載中であり、興味深い事実関係に触れることができます。「嘘八百」と断じられた知事会見を受け、自死される前、元県民局長は反論文をメディアに送っていました。最後に、リンク先の記事に掲げられている反論文の一部を紹介します。
先日の知事記者会見の場で欠席裁判のような形で、私の行為をほとんど何の根拠もなく事実無根と公言し、また私の言動を事実とは異なる内容で公にされましたので、以下の通り、事実関係と、自分の思うところをお伝えします。
私への事情聴取も内部告発の内容の調査も十分なされていない時点で、知事の記者会見という公の場で告発文書を「誹謗中傷」「事実無根」と一方的に決めつけ、かつ信用失墜行為である、名誉棄損の告訴・(守秘義務違反の)被害届を検討するなどの発言がされています。
「ありもしないことを縷々並べた内容を作ったことを本人も認めている」という知事の発言がありました。また、それを受けての報道もありますが、私自身がそのことを認めた事実は一切ありません。
情報の精度には差があり、中には一部事実でないものもあるかも知れません。ただ、事実でないものについては配布先から世間に出回ることはないだろうという判断から、可能な限り記載しました。
現体制になって、一部の職員による専横、違法行為がなされているという話を多く仄聞しました。困っています、なんとかならないのかという嘆きの声として。
今の県政運営に対する不信感、将来に対する不安感、頑張って働いている職員の皆さんの将来を思っての行動です。決して自分の処遇への不平不満から出たものではありません。自分自身の県庁生活にはとても満足しています。
本来なら保護権益が働く公益通報制度を活用すればよかったのですが、自浄作用が期待できない今の兵庫県では当局内部にある機関は信用出来ません。
人事当局は私の行為に関する調査ではなく、もっと大きな違法行為、信用失墜行為についての事実関係を早急に調査すべきです。第三者委員会を設立するか、司法による調査・捜査をすべきです。お手盛り調査、お手盛り処分はご法度です。
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