出口の見えない兵庫県政の混乱
前回は「会計年度任用職員制度の現況」というタイトルの記事で久しぶりに小見出しを付け、いつにも増して長文ブログとなっていました。それでもさらに付け加えたい内容もある現況ですが、今週末に更新する記事は、最近ずっと注視している兵庫県政に関わる話題を取り上げていきます。
火曜日『「明らかに違法」 百条委より踏み込んだ第三者委 斎藤知事に逆風か』という見出しの下記の記事が伝えるとおり兵庫県の斎藤元彦知事によるパワハラを認定し、公益通報者保護法違反を指摘した第三者委員会の報告が示されています。
「(知事ら)当事者が関与した違法な通報者探索を行い、通報自体を理由に懲戒処分を科した」。19日に公表された兵庫県設置の文書告発問題に関する第三者委員会の報告書は、斎藤元彦知事らの一連の対応について明確に違法性を指摘した。県議会調査特別委員会(百条委)より踏み込んだ厳しい評価も多い。報告書に法的拘束力はないが、斎藤氏への逆風が強まるのは避けられない情勢だ。
報告書の公表を受け、報道陣の取材に応じた斎藤氏は「告発文は誹謗中傷性が高い」と従来の見解を繰り返した。だが、個別の論点について問われると「報告書の内容を精査したい」とかわした。
報告書は、告発文を公益通報と扱わず、告発者である元県西播磨県民局長を懲戒処分としたことは「明らかに違法」とし、告発を理由とした処分は無効と評価した。また、斎藤氏のパワーハラスメント疑惑についても告発文などで指摘された16件の行為について検討し、10件をパワハラと認定した。
パワハラに関しては、職員への厳しい叱責で精神面に悪影響を与えたばかりでなく、伝え聞いた職員を萎縮させて勤務環境を悪化させたとも言及。長期間にわたって夜間、休日のチャットによる叱責や指示が繰り返されていたこともパワハラと認め、これとは別に、記者会見で元局長を「うそ八百」と非難したことも該当するとした。
第三者委の藤本久俊委員長は会見で、約250ページに及ぶ報告書によるこれらの認定について「厳しい批判ではない。これがスタンダードだ」と語った。
3月4日に公表された百条委の報告書でも、公益通報者保護法違反の可能性や事実上のパワハラを認定された斎藤氏。百条委の結論を受け、怒りをコントロールする研修の受講や贈答品に関するルール作りの提言は「しっかりやっていきたい」と述べた。その一方で、「(違法の)可能性というからには他の可能性もある」と強弁した。元局長の懲戒処分への「救済・回復措置」については「処分は確定している」と一顧だにしなかった。
さらに、斎藤氏は元局長の私的情報が含まれる公用パソコンの中身について、情報公開請求の対象とするか検討するとも口にした。実際の公開請求に対して、担当である県人事課は「この情報を公開することで県政の混乱が収束するとは考えられず、公開に公益上の理由はない」として、非公開対象と結論付けている。
議会の指摘に真摯に向き合わないとも取れる斎藤氏に対し、第三者委の報告書は「正面から受け止める姿勢を示していない」と指弾した。藤本委員長は「(元局長による)告発文の作成と配布、公益通報は県の組織体制の改善につながった」と評価。斎藤氏が示唆した私的情報の公開を人事課が押しとどめたことについて「自浄力を発揮してホッとした」と述べた。
第三者委の結論について、最大会派・自民党県議団の北野実幹事長は「客観的で的確な判断だ」と評価。維新の会県議団の門隆志幹事長は「知事はどこが間違っていたのかよく読んで反省し、自分の言葉で県民に説明を」と注文を付けた。斎藤氏を支持する躍動の会の増山誠幹事長は「想定以上に違法性に言及されていた」と驚きを見せた。
法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「公益通報者保護法の違反やパワハラが認定された知事が職に居座り続ければ『兵庫県には法の支配が存在しない』と見られかねず、知事は自ら身を引いたほうが潔い」と話した。【毎日新聞2025年3月19日】
第三者委員会の委員長は記者会見で「厳しい批判ではない。これがスタンダードだ」と語っています。ネット上で『古市憲寿氏 斎藤知事の第三者委報告書に「職員側からみればパワハラと思ったこともあるでしょうけど…」』という記事も目にしていますが、知事側からすれば「パワハラではない」という指摘は誤りだと思っています。
『立花孝志氏、兵庫の第三者委に疑問「勝手にパワハラ定義」申告ないのに認定+暴行・脅迫も含む→収拾つかない』という記事が伝えるような認識もパワハラについて無理解な批判につながっています。前々回記事「混乱と分断が続く兵庫県政 Part3」の中で記しているとおり厚労省が「パワーハラスメントの定義について」を公表しています。
このような定義に照らした時、斎藤知事による10件の行為が「パワハラだった」と認定した報告書だと言えます。その10件の行為の違法性は確かに裁判で争われる余地が残されています。そのため、第三者委員会も「パワハラが違法」と表現していません。
あくまでも第三者委員会は「パワハラを認定」と報告しています。したがって、内部告発は「嘘八百」でなく、そのようなパワハラ被害に苦しめられていた兵庫県職員の窮状を訴えた元県民局長を処分したことに対し、公益通報者保護法に違反すると断じています。
捜査が進められている可能性のある他の事案に関しては憶測での判断を示さず、第三者委員会が「厳しい批判ではない」公正中立な立場で報告書をまとめられたものと理解しています。それにも関わらず、第三者委員会の立場性や報告書の内容自体を批判する声がネット上に散見していることを憂慮しています。
このような声に後押しされているのかどうか分かりませんが、斎藤知事は『第三者委員会が「告発者の処分は違法」指摘も 斎藤知事「私の、県としての考え方としてはこれまで会見で述べさせていただいた通り」と「処分は適切だった」認識を変えず』という報道のとおり自らが託した第三者委員会の報告に対し、極めて不誠実な姿勢に終始しています。
報告書を受け取った翌日、報道陣からの取材に対して「まだ全てに目を通していない」という言葉にたいへん驚いています。本当に激務続きで全文に目を通す時間がなかったとしても、違法性を結論付けられた報告書に向き合う姿勢として到底信じられない受け答えだったと思っています。
このような初動対応から元県民局長の処分取り消しをはじめ、自分自身の出処進退に言及するつもりのないことが見受けられていきます。このまま兵庫県政は斎藤知事が居座り続けるのか、再度の不信任決議によって議会解散、もしくは知事選挙が繰り返されるのか容易に見通せません。
出口の見えない兵庫県政の混乱は職員の気力やパフォーマンスを削ぎ、その影響は県民サービスの低下につながりかねません。ちょうど1年前、斎藤知事が元県民局長の告発に真摯に向き合い、公益通報者保護法に対する認識を誤らなければ、このような混乱は避けられていたはずです。
いずれにしても最も悔やまれるのは、自死された方々の命が二度と戻ってこないという厳粛な事実です。そのため、ここまで深刻な事態を招いてしまっては、今さら斎藤知事が自分自身の誤りを認めることはあり得ないのかも知れません。
FRIDAYデジタルの『元県民局長PC暴露が「言ったとおり」と注目の奥山教授に聞く、斎藤元彦知事が「通報者を貶める理由」』という見出しの記事によって、斎藤知事の思考について次のような特徴や傾向があることを伝えています。ポイントとなる内容のみ紹介しますが、興味を持たれた方はリンク先の全文をご参照ください。
昨年9月の百条委員会に参考人として招かれ意見を述べた、公益通報制度に詳しい上智大学の奥山俊宏教授によれば、《内部告発をした人は大抵あることないことを織り交ぜ誇張された人格攻撃にさらされる》という。告発された側は告発の“内容に反論”するのではなく、“告発した人”を攻撃するのが常と分析。それは、海外でもよく見られる典型的なパターンだという。
公益通報者保護法違反に際し、斎藤知事の責任が極めて重いことに間違いありませんが、当時の側近の動きも問わなければなりません。ディリー新潮の『「亡くなった元県民局長の“私的文書”を誰が盗んだか特定できる可能性も」 斎藤元彦知事を追いつめる「新たな一手」とは』という記事に注目しています。
最後に『商品券配布、自民で慣習化 石破首相の説明迷走 国会』という報道のとおり国政での混乱からも目が離せません。違法性を問われなかったとしても「李下に冠を正さず」という格言があります。信頼できる政治の実現に向けては、これまで以上に政治家の規範意識の高さが求められているものと考えています。
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コメント
兵庫県知事のパワハラ疑惑については、真偽の程は司法の判断を待つべきものと思料いたします。
それを踏まえた上で、もし仮に公正中立とされる委員会の判断が正しいとすれば、知事にその資格無しと言わざるを得ません。
ただ、現状既存メディア、SNS等ニューメディア双方の見解が相剋状態にある以上、早計に判断するのは時期尚早と言えます。
今後も様々な情報、主張に耳を傾けて行きたいと思います。
投稿: 脳三級 | 2025年3月22日 (土) 12時17分
脳三級さん、コメントありがとうございました。
今後、刑事告発されている案件の判断が明らかにされていきます。ただパワハラに関しては今回の記事本文に綴ったとおり事実認定されていますが、今のところ司法が判断するという運びに至っていません。
刑事事件として告発、もしくは民事訴訟を提起する動きが示されていくのかも知れませんが、それを待たずに第三者委員会の結論は重大であるものと考えています。
公益通報者保護法違反に関しても違法であることは指摘されていますが、このままで刑事罰の対象にはなりません。しかし、明らかな違法性が問われながら県知事という重責を引き続き果たしていけるのか甚だ疑問です。
このように私自身の見方は定まっていますが、ご指摘のとおり今後も様々な情報や主張に耳を傾けていきたいと思っています。そのような意味合いから、ぜひ、これからも何かお気付きの点がありましたらご指摘いただければ幸いです。
投稿: OTSU | 2025年3月22日 (土) 16時44分