『機械仕掛けの太陽』からコロナ禍を回顧
NHKの朝ドラ『おむすび』が終わりました。これまでの朝ドラの中で歴代ワーストの平均視聴率だったようです。評判を耳にした前作『虎に翼』が始まった直後の週末、初回から5回分をまとめて視聴するため、その時に初めてNHKプラスを利用登録しています。
それからもNHKプラスであれば、帰宅後に15分弱の時間で見られる手軽さから最終回まで見届けていました。そのような平日夜の習慣ができ上がっていたため『おむすび』も毎回欠かさず見ていました。突飛なストーリー展開に一部から不評を買っていましたが、肩肘張らず楽しめるドラマだったのではないでしょうか。
『おむすび』の最終盤では新型コロナウイルスが蔓延し、街頭から人影が消えた風景をはじめ、医療従事者の苦難が描かれていました。コロナ禍で非日常の生活を強いられた時期を思い出しながら、少し前に読み終えていた『機械仕掛けの太陽』でも綴られていた医療現場での苦闘が重なり合っていました。
現役医師として新型コロナを目の当たりにしてきた人気作家が満を持して描く、コロナ禍の医療現場のリアル。2020年初頭、マスクをして生活することを誰も想像できなかった――これは未知のウイルスとの戦いに巻き込まれ、〝戦場〟に身を投じた3人の物語。
大学病院の勤務医で、呼吸器内科を専門とする椎名梓。彼女はシングルマザーとして、幼児を育てながら、高齢の母と同居していた。コロナ病棟の担当者として、最前線に立つことになる。同じ病院の救急部に勤務する20代の女性看護師・硲瑠璃子は、結婚目前の彼氏と同棲中。独身であるがゆえに、コロナ病棟での勤務を命じられる。
そして、70代の開業医・長峰邦昭。町医者として、地元に密着した医療を提供し、息子にはそろそろ引退を考えるように勧められている。しかし、コロナ禍で思い掛けず、高齢で持病もある自身の感染を恐れながらも、現場に立つことを決意する。
あのとき医療の現場では何が起こっていたのか? 3人はそれぞれの立場に苦悩しながら、どのようにコロナ禍を生き抜くのか。全人類が経験したあの未曾有の災厄の果てに見いだされる希望とは。自らも現役医師として現場に立ち続けたからこそ描き出せた感動の人間ドラマ。
上記はリンク先に掲げられている『機械仕掛けの太陽』の紹介文です。2019年秋に生まれた新型コロナウイルスを燃え上がった太陽に例えたプロローグから始まり、実際にあったコロナ禍での出来事を時系列に伝えながら、3人の医療従事者の苦しみや奮闘ぶりが描かれた小説です。
主人公らは架空の人物だろうと思いますが、 安倍元総理らは実名のまま登場しているため、ノンフィクションの著作に触れた読後感でした。きっと架空の登場人物も実在のモデルが存在し、様々なエピソードも現実に起こっていた事例をそのまま描いているはずです。
『おむすび』と重なり合った医療従事者の苦難として、持病のある高齢の母親に感染させないため、自宅に帰らずビジネスホテルから病院に通うというエピソードがその一つです。いつ収束するのか先が見通せない中、幼稚園に通う息子とも離れて暮らさなければならない女医の辛さは『おむすび』の主人公の苦難と重なり合っています。
「カズ君のママって、コロナなんだろ。バイ菌がうつるから一緒に遊ばないよ」と幼稚園の友達から言われた話も『おむすび』の中で同じように描かれていました。コロナ診療に当たる医療従事者への差別意識が子どもにも伝わり、いじめとなっていた理不尽な事例は数え切れないほど多かったのだろうと顧みています。
社会のために危険を冒している医療従事者、そしてその家族がなぜ差別の対象にされなくてはならないんだろう。守ろうとしている人々から蔑まれるとしたら、私たちはなんのためにこの半年間、『敵』と戦い続けてきたのだろう。
上記は『機械仕掛けの太陽』の中に綴られている女医の憤りと嘆きを表わした言葉です。テレビ電話の母親からは「あなたは自慢の娘だよ。私はあなたを誇りに思う」という言葉が投げかけられ、女医は涙で目を潤ませています。安倍元総理の辞任が発表された2020年8月28日、その夜の話でした。
このブログでは2020年2月29日に「新型コロナウィルスの感染対策」という記事を投稿し、新型コロナウイルスについて初めて取り上げています。当時は、これほどコロナ禍という長く暗いトンネルが続くことを想像していませんでした。
その記事では、安倍元総理が全国の小中高校などを3月2日から春休みまで一斉休校するよう要請したことを受け、学校現場や保護者らが戸惑い、混乱していた報道等を紹介しています。
唐突感や違和感が拭えなかった中、『機械仕掛けの太陽』では「新型コロナウイルスは子どもの間では比較的伝播しにくいというデータが出ている。全国で休校を行なうという判断が正しいのか」と女医に語らせています。
2020年4月12日には「緊急事態宣言発令」という記事を投稿しています。この記事では、安倍元総理が医学の専門家の意見をあまり聞かず、側近である官邸官僚の声に左右されがちだったことを伝えています。布マスクを全世帯に2枚配布する施策も「国民の不安はパッと消えます」という官邸官僚の発案でした。
表明した日が4月1日だったため「エイプリルフールだろ」「信じられないほどの愚策」と酷評されたアベノマスクは、昨年開かれた裁判でも400億円ものムダ遣いが指摘されています。ただ意外なことに『機械仕掛けの太陽』の中では次のように評されていました。
不足しているマスクを買い占め、高額で転売していた者たちが値崩れの不安から一気に在庫を吐き出した結果、市場に大量のマスクが出回るようになった。政府がそこまで意図していたかどうかは分からないが、少なくとも医療現場にもマスクが十分に供給されるようになり、これまで3日ほど使いまわしていたサージカルマスクを毎日交換することができるようになっていた。少なくとも、医療現場からは『アベノマスク』に対して感謝の声が上がっている。
ノンフィクションに近い小説ですので、実際そのように評価されていたのだろうと改めて理解しています。ちなみに『政府備蓄米41銘柄、10日に入札実施 3月下旬にも店頭へ』という最近の報道にある備蓄米の放出も、アベノマスクの時と同じような効果が発揮されていくことを願っています。
2020年11月22日、病棟の騒がしさが描かれています。一般病室まで人工呼吸管理の患者を診察せざるを得なくなっていました。10月後半から全国で感染拡大傾向となり、毎日2千人を超える新規感染者が確認される第三波に突入していました。その大きな切っかけは10月1日から始まった「GoToトラベル」だったと多くの専門家が考えていました。
安倍元総理の後を継いだ菅元総理は強い批判を受け、11月21日に一時停止及び運用見直しを発表しましたが、医療現場から「あまりにも遅すぎる対応だった」という批判が続出していました。2020年12月20日の記事「迷走するGoTo」の中で、当時の私自身の問題意識を次のように記しています。
菅総理の「アクセルとブレーキを踏みながらやっている」という言葉は矛盾したもので、国民に誤解や混乱を与えがちな考え方だと言わざるを得ません。パンデミックの終息が宣言されるまでGoToという「アクセル」は時期尚早だったものと思っています。
ロックダウンや緊急事態宣言は避けながら「新たな日常」のもとに経済を静かに回す、このような発想が必要だったように考えています。例えれば「エンジンブレーキ」です。アクセルは踏まず、車を止めないけれども、ゆっくり走行していくという発想が望ましかったのではないでしょうか。
2021年を迎え、新型コロナワクチン接種の具体的な日程が見えてきた頃、週刊誌やウェブメディアによってワクチンの不安を煽る記事が目立つようになっていました。そのことを憂慮した主人公たちの会話が小説の中で描かれています。その後もワクチンを巡る騒動が描かれていますが、作者である知念実希人さんの「コロナ禍を終わらせるためにワクチン接種が不可欠」という強い思いを感じ取っていました。
このブログでは2021年6月6日に「もう少し新型コロナについて」という記事を通し、ワクチン接種に対して様々な考え方があることを伝えていました。私自身は接種する意義を理解し、5回目まで指定期限内に対応してきています。
小説の最後の日付は、エピローグとされた2022年6月6日です。主人公の一人、女医が人気のないコロナ病棟の廊下を歩いています。先週、治療を受けていた患者が退院し、稼働から2年3か月、初めて病棟から患者がいなくなっていました。ただオミクロン株や亜型の変異ウイルスに対する警戒感を緩めていません。
「機械仕掛けの太陽は、これからも人間社会の中で燃え上がり続ける。けれど、いつかは人間の科学力が、ウイルスを駆逐できるはず」と信じている主人公の思いを伝え、小説は結ばれています。この小説を読み終え、コロナ禍の出口をめざし、奮闘されてきた関係者の皆さんに改めて感謝したい気持ちを高めています。
最後に、前回記事は「出口の見えない兵庫県政の混乱」でしたが、斎藤知事の第三者委員会の報告を「重く受けとめる」という表面的な言葉の軽さに物凄い残念さを強めています。加えて、何が何でも斎藤知事を熱狂的に応援される方々の数多さに驚き、たいへんな悩ましさを感じています。また機会を見て取り上げるべき問題だろうと思っています。
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