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2025年3月29日 (土)

『機械仕掛けの太陽』からコロナ禍を回顧

NHKの朝ドラ『おむすび』が終わりました。これまでの朝ドラの中で歴代ワーストの平均視聴率だったようです。評判を耳にした前作『虎に翼』が始まった直後の週末、初回から5回分をまとめて視聴するため、その時に初めてNHKプラスを利用登録しています。

それからもNHKプラスであれば、帰宅後に15分弱の時間で見られる手軽さから最終回まで見届けていました。そのような平日夜の習慣ができ上がっていたため『おむすび』も毎回欠かさず見ていました。突飛なストーリー展開に一部から不評を買っていましたが、肩肘張らず楽しめるドラマだったのではないでしょうか。

『おむすび』の最終盤では新型コロナウイルスが蔓延し、街頭から人影が消えた風景をはじめ、医療従事者の苦難が描かれていました。コロナ禍で非日常の生活を強いられた時期を思い出しながら、少し前に読み終えていた『機械仕掛けの太陽』でも綴られていた医療現場での苦闘が重なり合っていました。

現役医師として新型コロナを目の当たりにしてきた人気作家が満を持して描く、コロナ禍の医療現場のリアル。2020年初頭、マスクをして生活することを誰も想像できなかった――これは未知のウイルスとの戦いに巻き込まれ、〝戦場〟に身を投じた3人の物語。

大学病院の勤務医で、呼吸器内科を専門とする椎名梓。彼女はシングルマザーとして、幼児を育てながら、高齢の母と同居していた。コロナ病棟の担当者として、最前線に立つことになる。同じ病院の救急部に勤務する20代の女性看護師・硲瑠璃子は、結婚目前の彼氏と同棲中。独身であるがゆえに、コロナ病棟での勤務を命じられる。

そして、70代の開業医・長峰邦昭。町医者として、地元に密着した医療を提供し、息子にはそろそろ引退を考えるように勧められている。しかし、コロナ禍で思い掛けず、高齢で持病もある自身の感染を恐れながらも、現場に立つことを決意する。

あのとき医療の現場では何が起こっていたのか? 3人はそれぞれの立場に苦悩しながら、どのようにコロナ禍を生き抜くのか。全人類が経験したあの未曾有の災厄の果てに見いだされる希望とは。自らも現役医師として現場に立ち続けたからこそ描き出せた感動の人間ドラマ。

上記はリンク先に掲げられている『機械仕掛けの太陽』の紹介文です。2019年秋に生まれた新型コロナウイルスを燃え上がった太陽に例えたプロローグから始まり、実際にあったコロナ禍での出来事を時系列に伝えながら、3人の医療従事者の苦しみや奮闘ぶりが描かれた小説です。

主人公らは架空の人物だろうと思いますが、 安倍元総理らは実名のまま登場しているため、ノンフィクションの著作に触れた読後感でした。きっと架空の登場人物も実在のモデルが存在し、様々なエピソードも現実に起こっていた事例をそのまま描いているはずです。

『おむすび』と重なり合った医療従事者の苦難として、持病のある高齢の母親に感染させないため、自宅に帰らずビジネスホテルから病院に通うというエピソードがその一つです。いつ収束するのか先が見通せない中、幼稚園に通う息子とも離れて暮らさなければならない女医の辛さは『おむすび』の主人公の苦難と重なり合っています。

「カズ君のママって、コロナなんだろ。バイ菌がうつるから一緒に遊ばないよ」と幼稚園の友達から言われた話も『おむすび』の中で同じように描かれていました。コロナ診療に当たる医療従事者への差別意識が子どもにも伝わり、いじめとなっていた理不尽な事例は数え切れないほど多かったのだろうと顧みています。

社会のために危険を冒している医療従事者、そしてその家族がなぜ差別の対象にされなくてはならないんだろう。守ろうとしている人々から蔑まれるとしたら、私たちはなんのためにこの半年間、『敵』と戦い続けてきたのだろう。

上記は『機械仕掛けの太陽』の中に綴られている女医の憤りと嘆きを表わした言葉です。テレビ電話の母親からは「あなたは自慢の娘だよ。私はあなたを誇りに思う」という言葉が投げかけられ、女医は涙で目を潤ませています。安倍元総理の辞任が発表された2020年8月28日、その夜の話でした。

このブログでは2020年2月29日に新型コロナウィルスの感染対策」という記事を投稿し、新型コロナウイルスについて初めて取り上げています。当時は、これほどコロナ禍という長く暗いトンネルが続くことを想像していませんでした。

その記事では、安倍元総理が全国の小中高校などを3月2日から春休みまで一斉休校するよう要請したことを受け、学校現場や保護者らが戸惑い、混乱していた報道等を紹介しています。

唐突感や違和感が拭えなかった中、『機械仕掛けの太陽』では「新型コロナウイルスは子どもの間では比較的伝播しにくいというデータが出ている。全国で休校を行なうという判断が正しいのか」と女医に語らせています。

2020年4月12日には「緊急事態宣言発令」という記事を投稿しています。この記事では、安倍元総理が医学の専門家の意見をあまり聞かず、側近である官邸官僚の声に左右されがちだったことを伝えています。布マスクを全世帯に2枚配布する施策も「国民の不安はパッと消えます」という官邸官僚の発案でした。

表明した日が4月1日だったため「エイプリルフールだろ」「信じられないほどの愚策」と酷評されたアベノマスクは、昨年開かれた裁判でも400億円ものムダ遣いが指摘されています。ただ意外なことに『機械仕掛けの太陽』の中では次のように評されていました。

不足しているマスクを買い占め、高額で転売していた者たちが値崩れの不安から一気に在庫を吐き出した結果、市場に大量のマスクが出回るようになった。政府がそこまで意図していたかどうかは分からないが、少なくとも医療現場にもマスクが十分に供給されるようになり、これまで3日ほど使いまわしていたサージカルマスクを毎日交換することができるようになっていた。少なくとも、医療現場からは『アベノマスク』に対して感謝の声が上がっている。

ノンフィクションに近い小説ですので、実際そのように評価されていたのだろうと改めて理解しています。ちなみに『政府備蓄米41銘柄、10日に入札実施  3月下旬にも店頭へ』という最近の報道にある備蓄米の放出も、アベノマスクの時と同じような効果が発揮されていくことを願っています。

2020年11月22日、病棟の騒がしさが描かれています。一般病室まで人工呼吸管理の患者を診察せざるを得なくなっていました。10月後半から全国で感染拡大傾向となり、毎日2千人を超える新規感染者が確認される第三波に突入していました。その大きな切っかけは10月1日から始まった「GoToトラベル」だったと多くの専門家が考えていました。

安倍元総理の後を継いだ菅元総理は強い批判を受け、11月21日に一時停止及び運用見直しを発表しましたが、医療現場から「あまりにも遅すぎる対応だった」という批判が続出していました。2020年12月20日の記事「迷走するGoTo」の中で、当時の私自身の問題意識を次のように記しています。

菅総理の「アクセルとブレーキを踏みながらやっている」という言葉は矛盾したもので、国民に誤解や混乱を与えがちな考え方だと言わざるを得ません。パンデミックの終息が宣言されるまでGoToという「アクセル」は時期尚早だったものと思っています。

ロックダウンや緊急事態宣言は避けながら「新たな日常」のもとに経済を静かに回す、このような発想が必要だったように考えています。例えれば「エンジンブレーキ」です。アクセルは踏まず、車を止めないけれども、ゆっくり走行していくという発想が望ましかったのではないでしょうか。

2021年を迎え、新型コロナワクチン接種の具体的な日程が見えてきた頃、週刊誌やウェブメディアによってワクチンの不安を煽る記事が目立つようになっていました。そのことを憂慮した主人公たちの会話が小説の中で描かれています。その後もワクチンを巡る騒動が描かれていますが、作者である知念実希人さんの「コロナ禍を終わらせるためにワクチン接種が不可欠」という強い思いを感じ取っていました。

このブログでは2021年6月6日にもう少し新型コロナについて」という記事を通し、ワクチン接種に対して様々な考え方があることを伝えていました。私自身は接種する意義を理解し、5回目まで指定期限内に対応してきています。

小説の最後の日付は、エピローグとされた2022年6月6日です。主人公の一人、女医が人気のないコロナ病棟の廊下を歩いています。先週、治療を受けていた患者が退院し、稼働から2年3か月、初めて病棟から患者がいなくなっていました。ただオミクロン株や亜型の変異ウイルスに対する警戒感を緩めていません。

「機械仕掛けの太陽は、これからも人間社会の中で燃え上がり続ける。けれど、いつかは人間の科学力が、ウイルスを駆逐できるはず」と信じている主人公の思いを伝え、小説は結ばれています。この小説を読み終え、コロナ禍の出口をめざし、奮闘されてきた関係者の皆さんに改めて感謝したい気持ちを高めています。

最後に、前回記事は「出口の見えない兵庫県政の混乱」でしたが、斎藤知事の第三者委員会の報告を「重く受けとめる」という表面的な言葉の軽さに物凄い残念さを強めています。加えて、何が何でも斎藤知事を熱狂的に応援される方々の数多さに驚き、たいへんな悩ましさを感じています。また機会を見て取り上げるべき問題だろうと思っています。

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2025年3月22日 (土)

出口の見えない兵庫県政の混乱

前回は「会計年度任用職員制度の現況」というタイトルの記事で久しぶりに小見出しを付け、いつにも増して長文ブログとなっていました。それでもさらに付け加えたい内容もある現況ですが、今週末に更新する記事は、最近ずっと注視している兵庫県政に関わる話題を取り上げていきます。

火曜日『「明らかに違法」 百条委より踏み込んだ第三者委  斎藤知事に逆風か』という見出しの下記の記事が伝えるとおり兵庫県の斎藤元彦知事によるパワハラを認定し、公益通報者保護法違反を指摘した第三者委員会の報告が示されています。

「(知事ら)当事者が関与した違法な通報者探索を行い、通報自体を理由に懲戒処分を科した」。19日に公表された兵庫県設置の文書告発問題に関する第三者委員会の報告書は、斎藤元彦知事らの一連の対応について明確に違法性を指摘した。県議会調査特別委員会(百条委)より踏み込んだ厳しい評価も多い。報告書に法的拘束力はないが、斎藤氏への逆風が強まるのは避けられない情勢だ。

報告書の公表を受け、報道陣の取材に応じた斎藤氏は「告発文は誹謗中傷性が高い」と従来の見解を繰り返した。だが、個別の論点について問われると「報告書の内容を精査したい」とかわした。

報告書は、告発文を公益通報と扱わず、告発者である元県西播磨県民局長を懲戒処分としたことは「明らかに違法」とし、告発を理由とした処分は無効と評価した。また、斎藤氏のパワーハラスメント疑惑についても告発文などで指摘された16件の行為について検討し、10件をパワハラと認定した。

パワハラに関しては、職員への厳しい叱責で精神面に悪影響を与えたばかりでなく、伝え聞いた職員を萎縮させて勤務環境を悪化させたとも言及。長期間にわたって夜間、休日のチャットによる叱責や指示が繰り返されていたこともパワハラと認め、これとは別に、記者会見で元局長を「うそ八百」と非難したことも該当するとした。

第三者委の藤本久俊委員長は会見で、約250ページに及ぶ報告書によるこれらの認定について「厳しい批判ではない。これがスタンダードだ」と語った。

3月4日に公表された百条委の報告書でも、公益通報者保護法違反の可能性や事実上のパワハラを認定された斎藤氏。百条委の結論を受け、怒りをコントロールする研修の受講や贈答品に関するルール作りの提言は「しっかりやっていきたい」と述べた。その一方で、「(違法の)可能性というからには他の可能性もある」と強弁した。元局長の懲戒処分への「救済・回復措置」については「処分は確定している」と一顧だにしなかった。

さらに、斎藤氏は元局長の私的情報が含まれる公用パソコンの中身について、情報公開請求の対象とするか検討するとも口にした。実際の公開請求に対して、担当である県人事課は「この情報を公開することで県政の混乱が収束するとは考えられず、公開に公益上の理由はない」として、非公開対象と結論付けている。

議会の指摘に真摯に向き合わないとも取れる斎藤氏に対し、第三者委の報告書は「正面から受け止める姿勢を示していない」と指弾した。藤本委員長は「(元局長による)告発文の作成と配布、公益通報は県の組織体制の改善につながった」と評価。斎藤氏が示唆した私的情報の公開を人事課が押しとどめたことについて「自浄力を発揮してホッとした」と述べた。

第三者委の結論について、最大会派・自民党県議団の北野実幹事長は「客観的で的確な判断だ」と評価。維新の会県議団の門隆志幹事長は「知事はどこが間違っていたのかよく読んで反省し、自分の言葉で県民に説明を」と注文を付けた。斎藤氏を支持する躍動の会の増山誠幹事長は「想定以上に違法性に言及されていた」と驚きを見せた。

法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「公益通報者保護法の違反やパワハラが認定された知事が職に居座り続ければ『兵庫県には法の支配が存在しない』と見られかねず、知事は自ら身を引いたほうが潔い」と話した。【毎日新聞2025年3月19日

第三者委員会の委員長は記者会見で「厳しい批判ではない。これがスタンダードだ」と語っています。ネット上で『古市憲寿氏  斎藤知事の第三者委報告書に「職員側からみればパワハラと思ったこともあるでしょうけど…」』という記事も目にしていますが、知事側からすれば「パワハラではない」という指摘は誤りだと思っています。

立花孝志氏、兵庫の第三者委に疑問「勝手にパワハラ定義」申告ないのに認定+暴行・脅迫も含む→収拾つかない』という記事が伝えるような認識もパワハラについて無理解な批判につながっています。前々回記事「混乱と分断が続く兵庫県政 Part3」の中で記しているとおり厚労省が「パワーハラスメントの定義について」を公表しています。

このような定義に照らした時、斎藤知事による10件の行為が「パワハラだった」と認定した報告書だと言えます。その10件の行為の違法性は確かに裁判で争われる余地が残されています。そのため、第三者委員会も「パワハラが違法」と表現していません。

あくまでも第三者委員会は「パワハラを認定」と報告しています。したがって、内部告発は「嘘八百」でなく、そのようなパワハラ被害に苦しめられていた兵庫県職員の窮状を訴えた元県民局長を処分したことに対し、公益通報者保護法に違反すると断じています。

捜査が進められている可能性のある他の事案に関しては憶測での判断を示さず、第三者委員会が「厳しい批判ではない」公正中立な立場で報告書をまとめられたものと理解しています。それにも関わらず、第三者委員会の立場性や報告書の内容自体を批判する声がネット上に散見していることを憂慮しています。

このような声に後押しされているのかどうか分かりませんが、斎藤知事は『第三者委員会が「告発者の処分は違法」指摘も  斎藤知事「私の、県としての考え方としてはこれまで会見で述べさせていただいた通り」と「処分は適切だった」認識を変えず』という報道のとおり自らが託した第三者委員会の報告に対し、極めて不誠実な姿勢に終始しています。

報告書を受け取った翌日、報道陣からの取材に対して「まだ全てに目を通していない」という言葉にたいへん驚いています。本当に激務続きで全文に目を通す時間がなかったとしても、違法性を結論付けられた報告書に向き合う姿勢として到底信じられない受け答えだったと思っています。

このような初動対応から元県民局長の処分取り消しをはじめ、自分自身の出処進退に言及するつもりのないことが見受けられていきます。このまま兵庫県政は斎藤知事が居座り続けるのか、再度の不信任決議によって議会解散、もしくは知事選挙が繰り返されるのか容易に見通せません。

出口の見えない兵庫県政の混乱は職員の気力やパフォーマンスを削ぎ、その影響は県民サービスの低下につながりかねません。ちょうど1年前、斎藤知事が元県民局長の告発に真摯に向き合い、公益通報者保護法に対する認識を誤らなければ、このような混乱は避けられていたはずです。

いずれにしても最も悔やまれるのは、自死された方々の命が二度と戻ってこないという厳粛な事実です。そのため、ここまで深刻な事態を招いてしまっては、今さら斎藤知事が自分自身の誤りを認めることはあり得ないのかも知れません。

FRIDAYデジタルの『元県民局長PC暴露が「言ったとおり」と注目の奥山教授に聞く、斎藤元彦知事が「通報者を貶める理由」』という見出しの記事によって、斎藤知事の思考について次のような特徴や傾向があることを伝えています。ポイントとなる内容のみ紹介しますが、興味を持たれた方はリンク先の全文をご参照ください。

昨年9月の百条委員会に参考人として招かれ意見を述べた、公益通報制度に詳しい上智大学の奥山俊宏教授によれば、《内部告発をした人は大抵あることないことを織り交ぜ誇張された人格攻撃にさらされる》という。告発された側は告発の“内容に反論”するのではなく、“告発した人”を攻撃するのが常と分析。それは、海外でもよく見られる典型的なパターンだという。

公益通報者保護法違反に際し、斎藤知事の責任が極めて重いことに間違いありませんが、当時の側近の動きも問わなければなりません。ディリー新潮の『「亡くなった元県民局長の“私的文書”を誰が盗んだか特定できる可能性も」 斎藤元彦知事を追いつめる「新たな一手」とは』という記事に注目しています。

最後に『商品券配布、自民で慣習化  石破首相の説明迷走  国会』という報道のとおり国政での混乱からも目が離せません。違法性を問われなかったとしても「李下に冠を正さず」という格言があります。信頼できる政治の実現に向けては、これまで以上に政治家の規範意識の高さが求められているものと考えています。

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2025年3月15日 (土)

会計年度任用職員制度の現況

前回記事は「混乱と分断が続く兵庫県政 Part3」でした。まだまだ目が離せない兵庫県政ですが、さすがに「Part4」は避け、今回は私どもの組合の労使課題の現況について取り上げます。どこかのタイミングで、このブログで取り上げなければならないものと考えていた現況です。

組合員からの電話に絶句

記事タイトルに掲げている会計年度任用職員制度の現況が、悔やんでも悔やみ切れない非常に残念な事態に至っています。2月中頃の昼休み、昔から顔馴染みの組合員の方から私のスマホに電話がありました。「だめだったの…」という試験結果の連絡でした。

その方は学校事務職場の会計年度任用職員で、2次試験の結果が示され、不合格という知らせを受けたとのことです。理不尽にも次年度以降、本人の意に反して職を奪われることになります。連絡を受けた直後は文字通り絶句、しばらく言葉が出てきませんでした。

健康課という職場で一緒だった方で、直営の人間ドック事業の嘱託職員として事務に従事されていました。組合員だったため、人間ドック事業が廃止された際、何らかの形で雇用が継続できるよう力になれたことを思い出しています。

今回、組合役員から離れているため、私自身が何か直接的な力になれることのない無力感や歯がゆさから言葉を失っていました。このような悩ましさとともに、組合員である現職者に対する労使交渉の「成果」が1次試験免除だけであることを言い添えなければならない事態に呆然としていました。

もともと明るい性格の方であり、極端な沈痛さを感じさせない声色でしたが、内心の無念さははかり知れないものだったはずです。大きな瑕疵がない限り、試験結果は基本的に受け入れざるを得ない不本意な制度設計を最終的に組合も認めています。そのため、少しでも期待を持たせられるような言葉を一言も告げることができませんでした。

このような連絡が組合員からあったことは委員長らに報告したいと伝え、電話での会話を終えています。その後、委員長に確認したところ学校事務以外の職場も含め、複数の組合員から不合格とされた結果について連絡や相談を受けていることを知らされています。

委員長時代の労使交渉

昨年6月の記事改めて会計年度任用職員の課題」で詳述していますが、私どもの組合は、保育園、学童保育所、学校事務職場などで働く嘱託職員の皆さんが組合加入し、労使交渉の積み重ねによって65歳までの雇用継続を勝ち取ってきました。それが会計年度任用職員制度が始まり、5年で雇い止めされるかも知れないという不安定な雇用に後戻りしていました。

全国的には3年から5年という雇用年限を定めていた団体が大半だったため、会計年度任用職員制度が始まり、国は3年、東京都は5年というマニュアルが整えられました。その結果、雇い止めの心配のなかった自治体の非常勤職員が一転して雇用不安にさらされています。

高年齢者雇用安定法では、使用者側に対して65歳までの安定的な雇用確保を求めています。会計年度任用職員制度を成立させた時の国会の附帯決議では、公務における同一労働同一賃金に重点を置いた対応を求めています。それにも関わらず、労働者にとって最も重要な雇用継続の課題を「改悪」する結果を招いていることの理不尽さに忸怩たる思いを強めてきました。

そもそも法律上、会計年度任用職員の再度の任用回数に上限は設けられていません。任用回数に上限を設けた場合でも、競争試験や公募は必須とされず、現職者を対象にした選考で雇用継続していくことは問題ありません。

このような点を把握していましたが、2019年10月、都内の自治体の中で私どもの市が突出した内容で決着することは困難でした。「公募によらない再度の任用は原則として連続4回」という東京都の示している基準を受け入れる際、組合からは「これまでの労使確認事項も尊重していく」という一文を付け加えることを求め、このことについても労使で確認していました。

「これまでの労使確認事項も尊重していく」という一文は、会計年度任用職員の65歳までの雇用継続が引き続き課題として残っているという問題意識です。しかし、このような問題意識は労使で隔たりがありました。市当局は5年に1回、現職者と新規採用希望者が競合する公募による採用試験を予定し、このことについて組合も合意しているという認識でした。

確かに改めて労使協議を提起しなければ、その内容で公募試験に進んでいくことを組合も合意していました。以前の記事「労使の信頼関係について思うこと」に綴っているとおり信頼関係を維持するためには「約束したことは守る」という土台が欠かせません。約束が守れない場合、変更しなければならない場合、相手方に事情を丁寧に説明し、納得を得られるように努力しなければなりません。

2022年8月、公募試験実施まで2年を切る中「これまでの労使確認事項も尊重した」雇用継続のあり方について、改めて協議すべきものとして団体交渉で申し入れました。組合の対応案は下記のとおりで、この時、市当局側に渡した一連の資料は当時の市長にも私から直接手渡していました。

【組合の対応案】

人事評価による再度の任用は原則として連続4回とする。現職者の培ってきた業務に対する知識や経験を重視し、5回目に際しては引き続き任用を希望する現職者を対象とした選考試験を実施する。選考方法は面接試験とする。欠員が生じる場合などは新規採用希望者を別途募る。その際は広報等を通じて募集する。

会計年度任用職員制度を導入する際、市当局は「培ってきた知識と経験を重視しているため現職者にはアドバンテージがある」という見方を示していました。しかし、このような見方のもとに現職者と新規採用希望者を競い合わせ、結果的に現職者全員が合格していった場合、競争試験のあり方に疑義を招きかねません。

このような懸念を解消し、現職者の雇用不安を取り除く手立てとして、組合は上記のような具体的な対応案を市当局側に示しました。人事評価による選考は連続4回という原則は崩さず、5回目は現職者のみを対象にした面接試験を実施するという案です。公募した後に新規採用希望者と競い合わせることの不合理さを解消するための切実な要求でした。

悩ましい立ち位置のもとで

2022年11月に組合の執行委員長を退任した後、当たり前なことですが、後任の委員長らがやりにくくならないよう相談を受けない限り、労使課題について口を出させないように努めていました。昨年度末に現職者の一次試験免除を確認したことで、公募による競争試験そのものを現執行部が合意したことを知ったのも交渉が終わってからでした。

労使合意したという話を耳にした時、個人的な思いは非常に複雑でしたが、その判断を表立って批判しないように自重していました。雇用継続の課題は自分が現職の時に詰め切れず、大きな宿題として残してしまったという自戒の念もあり、現執行部の判断を信頼しながら受けとめていました。

当時の組合ニュースでは「一次試験免除を勝ち取りました」と伝えています。ただ大きな成果であることを認めながらも、残念ながら私自身の懸念や不安が拭えたとは到底言い切れない交渉結果だったと言えます。実は最近、委員長から相談を受け、率直な意見を交わす機会が増えています。

会計年度任用職員である組合員複数名の雇用継続を果たせなかったという深刻な結果が生じた後、この当時の思いを改めて委員長に伝える機会がありました。自分が委員長を続けていたとしても結果は変わらなかったかも知れませんが、「勝ち取った」という伝え方はできなかったものと思っています。

その言い方には交渉の到達点という評価がこめられています。公募による競争試験が必須とされる限り、到達点ではなく、制度発足5年目の今年度、運用を巡る労使協議の継続が欠かせないものと考えていました。そのような認識に対し、合意した当時の委員長と私自身の間で温度差があったようです。

協力委員の一人として組合ニュースの配布などをお手伝いしていますが、信任投票を受けることのない役職であり、労使交渉の当事者から退いたOBという立場であることには変わりありません。一方で、2023年9月の記事「身近な政治、市長選の話」で伝えているとおり都議時代から私どもの組合と推薦関係があり、20年以上前から懇意にさせていただいていた方が現在の市長です。

さらに昨年4月には、私が入所した頃から親しくお付き合いいただき、同じ職場の直属の上司としてお世話になった方が副市長に就任されていました。このような関係性と詰め切れなかった宿題という思いがあったため、会計年度任用職員制度の労使協議の経緯や論点等をまとめた資料を市長と副市長に渡し、私自身の問題意識を伝える機会も設けてきました。

もちろん労使交渉の責任者である副市長と話した内容は委員長らに適宜報告しています。労使交渉に関わる責任や判断する権限のない悩ましい立場ですが、昨年月の記事「会計年度任用職員制度の課題、最新の動き」のとおり組合執行部と連絡を密にしながら側面からサポートしてきました。

ただ労使交渉の窓口を飛び越えてトップダウンで方針を転換させるような手法は望まず、あくまでも労使交渉の折衝窓口である人事課長らに理解を得た上、より望ましい運用をはかれないかどうかという問題意識のもと側面支援してきたつもりです。そのため、昨年7月の記事の最後には次のように記していました。

このような思いと現職の組合役員ではないという立場も踏まえ、ここから先は今後、労使協議を通して何らかの動きを作ることができるのかどうか見守っていかなければならないものと思っています。もちろんお役に立てることがあり、声をかけていただければ全力で応援していこうとも考えています。

たいへん悔やまれる残念な結果に

会計年度任用職員制度を導入した際、私どもの市と同様に「再度の任用は4回まで」と定めていた市が上限を撤廃した動きを受け、組合執行部は上限の撤廃を求めて交渉に臨んでいました。それはそれで追随すべき重要な要求ですが、これまで合意してきた労使交渉の結果を踏まえた上、現職者の雇用継続に向けた今年度における運用のあり方が最も重要で喫緊の課題だろうと考えていました。

このような問題意識を委員長らに伝えていましたが、たいへん残念ながら冒頭に記したとおり雇用継続を希望した複数名の現職者が実質的な雇い止めとなる現況に至っています。組合執行部は全力で労使協議を進めていたはずであり、やはり私自身が交渉の当事者だったとしても力は及ばなかったかも知れません。

それでも悔やまれるのがトップダウンは望ましくないなどと考えず、組合員の雇用継続を最優先にして「やれることは何でもやる」という危機意識のもとに、もっともっと積極的に組合執行部を支えていくべきだったのではないか…、取り返しのつかない現況を受け、このように省みています。

組合執行部が2月21日の団体交渉で「本人からすれば来年度も同じように働けると思っていたのに働けなくなったのは、雇用止めされたと同じだ」「当局は現職者にアドバンテージがあると主張していた。その認識は、公募を行なった所属長等に充分な周知をはかれていたのか」などと訴えたことを職場回覧資料で伝えています。

いずれにしても雇用継続を果たせなかった組合員の皆さんに深くお詫びしなければなりません。前委員長として課題を解決できず、現執行部に引き継ぎ、側面支援できる立場だったのにも関わらず、組合が望む到達点とすべき結果まで見届けられなかったことなどを猛省しています。本当に申し訳ありませんでした。

組合に加入していながら雇用を守れなかったという事態は、会計年度任用職員の皆さんに大きな動揺を与えています。組合を脱退したいという申出が急増しています。組合執行部の人数が少ない中、その対応に追われている委員長らのたいへんさにも心を痛めています。

最後に、脱退を申出されている皆さんを慰留していくためにも、来年度以降の再任回数の上限撤廃は何としても勝ち取るべき課題であるものと考えています。私自身のことですが、内定通知が届き、4月以降も市役所で働き続けられます。組合員として関わり続けられるため、お役に立つことがあれば今後も現執行部を精一杯支えさせていただきます。

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2025年3月 8日 (土)

混乱と分断が続く兵庫県政 Part3

2月24日、ロシアがウクライナを侵略し、3年が過ぎました。これまで「戦火が消えない悲しさ 」という記事などを投稿してきましたが、先日開かれたトランプ大統領とゼレンスキー大統領との会談における異様な展開に接し、ウクライナでの戦争の終結に向け、ますます暗澹たる思いを強めています。

そのトランプ大統領は民主主義の根幹をなす選挙によってアメリカの最高権力者の座に返り咲き、私自身は到底賛意を示せないトランプ大統領の主張に対し、たいへん多くの米国民が熱狂的に支持している現実を目の当たりにしています。日本の総理大臣に比べれば絶大な権力を掌握する大統領制、選挙に勝てばそれまでの政策を180度転換できるパワーに戦慄しています。

日本でも自治体における首長の権限が大統領制に近いと言われています。そのような側面もあり、兵庫県の斎藤元彦知事の言動や振る舞いから目が離せません。昨年11月末に「兵庫県知事選、いろいろ思うこと」、年が明けてからも混迷を深める兵庫県政混乱と分断が続く兵庫県政混乱と分断が続く兵庫県政 Part2」という記事を立て続けに投稿しています。

前回記事は維新県議の不祥事に絞り、多面的な情報を提供するという意味合いで取り上げていました。斎藤知事に直接関わる『兵庫・百条委「パワハラ過言でない叱責」 報告書案合意』『野球優勝パレード疑惑の告発受理  兵庫知事らの背任容疑』などは「次回以降、機会を見て取り上げていければ」と予告し、さっそく今回記事を「Part3」として取りかかっています。

兵庫県議会の百条委員会を巡り、最終的に兵庫県議会が「パワハラ」「おねだり」認定の百条委報告書を可決』という報道のとおりの結果に至っています。リンク先のAERAdot.の記事では次のように伝えています。冒頭の内容をそのまま紹介します。

兵庫県の斎藤元彦知事らに対する内部告発問題で、県議会の百条委員会が作成し、3月5日に県議会が可決・了承した調査報告書は、斎藤氏の「パワハラ」や「おねだり」などの疑惑について、一定の事実を認定した。また、斎藤氏ら県幹部が、内部告発をした元西播磨県民局長を特定し、懲戒処分するなどした対応については、「非常に不適切」「公益通報者保護法の違法状態が継続している可能性がある」などと厳しく断罪した。昨年11月の知事選で再選して間もない斎藤氏だが、県議会から再び進退を問われる可能性が出てきた。

調査報告書は、元県民局長が作成した内部告発文書の7項目のうち、「パワハラ」については「斎藤知事の言動、行動については、パワハラ行為と言っても過言ではない不適切なものだった」とほぼ認定。「おねだり」については「一定の事実が記載」されているとした。阪神とオリックスの優勝パレードの寄付金集めで信用金庫等に県補助金を増額してキックバックさせたという疑惑については、「一定の事実が記載」されているとしながらも、「本件については、背任容疑の告発状が県警に受理されており、捜査当局の対応を待ちたい」と判断している。

7項目のうち5項目について「虚偽とは言えない」などの判断で、斎藤氏が「嘘八百」と言っていたこと自体が嘘だった、といえる調査報告になっている。記者会見した百条委員会の奥谷謙一委員長は、こう話した。「元県民局長の文書は、事実無根でもないし、嘘八百ではなかったというのがわれわれの調査結果です。知事および県当局は、今一度振り返って、しかるべき対応をとってほしい」 

だが、斎藤氏はこの調査報告書について報道陣に問われると、「一つの見解だ」「適法な可能性もある」などと言い、対応を改めたり、反省したりする様子は見せていない。これまで斎藤氏は、百条委員会で委員から「パワハラを認めて反省すべきではないか」と問われると、「パワハラかどうかは、百条委員会が判定すること」などと言って判断を避けてきた。だが、百条委員会が「パワハラ行為と言っても過言ではない」と判断した後も、反省の言葉はなかった。

ディリーの記事『斎藤知事「百条委報告」に反対した議員いた  本会議で演説し拍手起こったと話題 「百条委は不信任決議を正当化する結論を導く組織に」中止すべきだったと』では、調査報告書の反対演説した増山誠県議に対し、斎藤知事を支持する傍聴者から大きな拍手が起こったことを伝えています。

同じ風景を見ていても、トランプ大統領を支持している方々とそれ以外の方々では、色合いが大きく違って見えているようです。どす黒く不快な色なのか、明るく鮮やかな色なのか、感じ方が両極端に分かれがちです。斎藤知事を支持しているかどうかでも、同じような傾向が見られています。

そのような枝分かれは、それぞれが接した情報によって生じていくのだろうと思っています。より望ましい「答え」を見出すためには幅広い情報や考え方に触れていくことが重要です。このブログも多面的な情報を提供する場として「答え」の押し付けではなく、このような見方もあったのかという多面的な情報の一つとして発信しています。

しかし、それらの情報が真偽不明で、結果として誤った情報だった場合、取り返しの付かないミスリードを引き起こしかねません。最終的な評価や判断は情報に接した方々の自己責任によるものですが、極めてマイナーなブログとは言え、ネット上で虚偽の情報を発信しないよう細心の注意を払っています。

このブログの記事本文の中で様々なサイトで見かけた情報を紹介しています。主にメディアの記事の紹介が多く、必ずリンクをはるようにしています。そのメディアの報道が誤りだったというケースもあるかも知れませんが、明らかに真偽を疑う出所不明の情報は一切紹介していません。

このような注釈を加えた上、斎藤知事を支持し、百条委員会の調査報告書に反対していた増山県議に関わるディリー新潮の『「斎藤知事の父親に近寄り、スタッフも警戒」 “恥さらし会見”の維新・増山県議は知事選でもヒンシュクを買っていた』という記事を紹介します。その記事は「中身がないのに“維新の風頼み”だけで選挙に出るから、こういうヘンな人が議員になってしまうのではないか」と辛辣な言葉で結ばれています。

さて、斎藤知事のパワハラの問題です。これまで当ブログではパワハラ防止に向けてハラスメントのない職場の確立に向けて」という記事を投稿しています。ハラスメントとは「他人に対する発言や行動などが、本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えることをいう」とされ、行為者が無自覚であることが多く、受けとめる側に個人差があることも特徴です。

そもそも厚労省が「パワーハラスメントの定義について」を公表しています。「職務上の地位が上位の者による行為」として、伝わっている斎藤知事の数々の振る舞いは「パワハラ行為と言っても過言ではない」と回りくどく言う必要のないレベルで、明らかにパワハラだったと認定すべき事例です。

元県民局長の告発はパワハラの1点に限っても「嘘八百」でなく、公益通報者保護法に沿って慎重に対応すべき事案だったと言えます。このことを記者会見で追及された際の模様は集英社オンラインの記事百条委から“クロ判定”斎藤知事は「可能性ということですから」と逆ギレし「AさんのPCにわいせつ文書があった」と連呼…「死体蹴りやめろ」と会見はカオスに』が伝えています。

この期に及んで元県民局長を処分した理由をすり替え、斎藤知事は死者を冒涜しながら適切な判断だったと釈明しています。調査報告書の内容は「一つの見解」とし、公益通報者保護法違反の可能性を問われると「適法な可能性もある」という詭弁に終始しています。法律は違反しないことが当たり前であり、疑われるような判断を下していたことに対する反省や謙虚さが微塵も感じられない記者会見だったようです。

このような強気に至る理由は選挙で再選を果たし、斎藤知事を熱烈に支持されている方々の存在が後押ししているからだろうと思っています。「混乱と分断が続く兵庫県政」という記事タイトルは「Part3」まで重ねてきました。最後に「混乱と分断」という現状を伝えるメディアの報道内容を抜粋しながら紹介していきます。

MBSニュースが『元県民局長と親交あった県OB「いま兵庫は混乱の極み。本当に悲しい」 斎藤知事“パワハラ疑惑”の告発文書問題 百条委は調査報告書をとりまとめへ』という見出しの記事を配信していました。その中で内部告発した元県民局長と親しい間柄だったという県職員OBが、匿名を条件に初めてカメラ取材に応じています。

県OBは「本当に好かれていたと思いますよ。特に若手から慕われていたというのが、彼の特徴の一つだったと思う」と語り、告発の1週間後に姫路市内の飲食店で食事をともにした際、元県民局長は自身が告発者であることを伏せながらも、次のように県の未来を憂いていたと振り返ります。

当然、県の職員ですから県民のために仕事しているわけですけど、最近の県庁は知事のためだけに仕事させられていることが多いということ。知事が出張・視察に行ったりするときに、担当の職員が2回も3回も下見をし、昼食の場所までいろいろ試食して準備をしないといけないと。

その後、元県民局長が告発文書を出したと知った県OBは、本人から電話で県の強引な調査方法の一端を聞いています。元県民局長は、パソコンから何から何まで全部持っていかれたので「データが残っていないねん」「いっさいがっさい持っていかれたんで」という言い方をしていたとのことです。

県OBは、元県民局長の死の理由は「はっきりとは分からない」としながらも、県に「通報者を守る」という意識があれば、このような結果にはならなかったと話しています。取材の最後に県OBは次のような言葉で兵庫県政の現状を憂慮しています。

元県民局長が告発を勇気をもってやったら、結果として死に至ってしまったことを目の当たりにすると、今後、公益通報制度にのせて内部通報していく勇気を持てる職員なんて多分いないでしょうね。流言飛語とか誹謗中傷とか、本当の真実を覆い隠してしまうような、別の情報が氾濫してしまって、今、兵庫県は混乱の極みじゃないですか、県民も分断されてね。本当に悲しいことだと思います。

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2025年3月 1日 (土)

混乱と分断が続く兵庫県政 Part2

前回の記事は「『賃金とは何か』を読み終えて」でした。著者の濱口桂一郎さんのブログEU労働法政策雑記帳」にコメントを投稿し、その記事のことをご案内したところ伝えたいことを、そのまま受け止めていただいた、とても嬉しい書評でした」という光栄なお言葉を頂戴しています。ありがとうございました。

さて、前回記事の冒頭で、日を追うごとに新たな事実や疑惑が伝えられている兵庫県政に関わる話は「また機会を見ながら取り上げていくことになるはずです」と記していました。さっそく今回の記事を通し、たいへん驚くべき兵庫県政に関わる最近の動きを取り上げていきます。

前々回記事が「混乱と分断が続く兵庫県政」でしたが、今回の記事は「Part2」とし、日本維新の会の県会議員が引き起こした到底許容できない不祥事に絞って書き進めていくつもりです。火曜朝の読売新聞の社説は『維新の兵庫県議  選挙を歪めた自覚はないのか』という見出しのもと次のように伝えています。

昨年11月の兵庫県知事選で、県議が真偽不明な情報を拡散させていたとは、驚きを禁じ得ない。公正であるべき選挙を歪めた責任は重大だ。しかも記者会見では、謝罪する一方、自らを正当化するような釈明も行った。県民は、自分たちが選んだ議員の言動をどう受け止めているのだろうか。

斎藤元彦知事を巡る内部告発問題で、日本維新の会の県議3人が知事選の最中、「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首に、告発した元県幹部の私的情報に関わる、音声データと文書の提供などに関与していたことを認めた。音声は、県議会百条委員会が非公開と決めていた元副知事の証人尋問を、県議がひそかに録音していたものだという。元副知事が、告発とは何ら関係のない元県幹部の私的情報に触れようとして、制止された場面が含まれていた。

一方、立花氏に渡した文書には、元県幹部や、知事を追及していた元県議を中傷するような内容が書き込まれていた。作成者が不明なものもある。こうした情報を基に立花氏は選挙戦で、非があるのは元県幹部であり、「斎藤氏は悪くない」といった主張を展開し、斎藤氏を応援した。その後、知事を追及していた元県議も批判の対象にした。

結果としてSNS上には不確かな情報が氾濫し、誹謗中傷の拡大だけでなく、選挙結果にも影響を及ぼした可能性がある。県議3人の行動は、立花氏を利用して意図的に世論を誘導した、と言われても仕方あるまい。元県幹部も、知事を追及していた元県議も死亡した。元県議は誹謗中傷に悩まされていたという。いずれも自殺とみられている。

今回の問題を受け、県議2人は責任を取って百条委の委員を辞めたが、それで済む問題なのか。記者会見では、立花氏に情報提供した理由について「県民が知るべき情報をメディアが流していない」と述べた県議もいたが、筋違いも甚だしい。真偽不明な情報を報じないのは、事実に基づいて伝える報道機関として当然だ。

県議3人は昨年、知事の不信任決議に賛成していた。その後の知事選には元維新の候補も出馬していたのに、斎藤氏を応援していたことになる。政党として維新の統治機能はどうなっているのか。維新の吉村洋文代表は、今回の県議の行動について「本人たちの思いは分かるが、ルール違反だ」と述べている。身内に甘い姿勢が緩みを招いているのだろう。

この社説の内容を紹介するだけで、多面的な情報を提供する場としての今回記事の意味合いは済みそうです。「自らを正当化するような釈明」「真偽不明な情報を報じないのは、事実に基づいて伝える報道機関として当然」という指摘など、私自身の見方や問題意識と重なる内容にまとめられていた社説でした。

高校時代、アルバイトで読売新聞の朝刊を配達していたというご縁もあり、自宅に届く新聞はずっと読売です。以前、このことをブログで記した時に「OTSUさんの立ち位置からすると朝日や毎日でないのが意外ですね」というコメントをいただいていました。

確かに政治的なテーマでは相反するような主張に接する時が多かったかも知れませんが、それはそれで幅広い情報に触れられる貴重な機会としてとらえてきました。話を戻すと今回の社説の内容などは一字一句、共感を覚えるものです。同じ筆者だろうと思われますが、1月23日の社説『SNS上の悪意  人の死まで中傷する残酷さ』の内容にも強く共鳴していました。

ネット空間で悪意に傷つけられる人が後を絶たない。心ない言葉は時に人の命さえ奪う。まして死者を侮辱する中傷まで横行するような状況は放置できない。兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを調べる県議会百条委員会の委員だった前県議が死亡した。自殺とみられている。

前県議については、百条委で斎藤氏を追及する動画がSNS上で拡散され、中傷する投稿や嫌がらせの電話が相次いでいた。自分や家族の身の危険を感じ、「誰が家に来るかわからない。怖い」と漏らしていたという。兵庫県の問題では、別の死者も出ている。極めて異常かつ深刻な事態だと言えよう。

政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首は、街頭演説で前県議の動静を情報提供するよう聴衆に呼びかけ、自宅に押しかけるような発言をしていた。しかも、前県議の死後には「前県議は逮捕される予定だった」と語り、まるで逮捕を苦に自殺したかのような動画を投稿した。

これに対し、県警本部長は議会で、立花氏の発信内容を「全くの事実無根」と否定した。警察のトップがこうした形で捜査情報を明らかにするのは極めて異例だ。容認し難いと判断したのだろう。立花氏は県警の対応を踏まえ、動画を削除して謝罪した。だが、謝って済む話ではなかろう。

立花氏の投稿は、多くの人が拡散し、前県議の名誉は著しく傷つけられた。立花氏、そして安易に虚偽の情報を広めたSNSユーザーたちの責任は重い。刑法の名誉毀損罪は、死者に対しても成立することを認識する必要がある。

兵庫県知事選を巡っては、知事派と反知事派の対立が深まり、知事を追及してきた県議会も激しい攻撃の対象となった。健全な批判と誹謗中傷は異なる。政策などへの建設的な批判はあって当然だが、人格を貶めたり、脅迫まがいの言葉を投げつけたりすることは許されない。言論の自由には責任が伴う。相手を傷つける自由などあり得ない。

今回は県警の説明によって、投稿がウソだと明確になったが、SNS上には、真偽が不明なまま多くの人が信じ込んでいる情報も少なくない。誹謗中傷と並び、虚偽情報への対策も急務である。SNS事業者に、誹謗中傷などへの迅速な対応を求める法律が間もなく施行される。問題のある投稿を野放しにせず、厳しく対応することが求められている。

前県議を自死に追い込んだNHK党の立花孝志党首の攻撃的な言動や誹謗中傷、その背後で百条委員を務めていた維新県議が暗躍していたことになります。このような一連の流れの中で、岸口実県議、増山誠県議、白井孝明県議らの卑劣さが際立ち、責任は極めて重いものと考えています。決して百条委員の辞任程度で済むような問題ではありません。

紀藤正樹弁護士  維新・増山県議に「議事情報のリークは違法というだけでなく…大きな問題をはらむ」』という報道のとおり司法面での追及も欠かせないはずです。さらに維新の会としての組織的なガバナンスや吉村洋文代表の責任を問う声も広がっています。特に吉村代表の「思いは分かる」発言の真意が取り沙汰されています。

玉川徹氏「そういう議員が集まっている政党ですか?」情報漏えいの維新3県議  吉村代表もバッサリ「『思いは分かる』って、分かっちゃダメでしょ」』『橋下徹弁護士15年前に維新を作った責任を感じる」維新県議が非公開の音声データをN国・立花氏に提供  兵庫県知事選で拡散「思いはわかる」発言の真意は?  維新・吉村代表に直撃 N党・立花党首へ情報提供で兵庫県議2名処分 党のガバナンスはどうなっているのかという報道を紹介します。

当初、増山県議らは斎藤元彦知事に対する不信任決議案に反対していたようです。しかし、吉村代表の判断で維新県議全員が賛成票を投じたという経緯を上記の報道などから把握できます。このような経緯を知ることによって、ますます3県議の情けない振る舞いに対する憤りが高まります。

不信任決議案に際し、離党して反対票を投じるか、せめて棄権するという判断を下さなかったのは本人の選択と責任です。党の判断に従ったのであれば、県知事選でも自党が支援する候補者の当選をめざすべきであり、他の候補が有利に働くような裏工作の画策は言語道断な振る舞いだったと言わざるを得ません。

しかしながら別な角度から驚くべきことがあります。SNS上で増山県議の行為を称える声や動画を数多く目にしています。「自らを正当化するような釈明」という記者会見は、このような声が後押ししているのだろうと推察しています。代表的な声は『立花孝志氏「離党勧告」処分の維新・増山県議に言及「うちの党だったらほめ称えている」』という記事のとおりです。

二つの社説全文を紹介したため、いつも以上に長文ブログとなっています。冒頭に記したとおり今回の記事は維新県議の不祥事に絞り、多面的な情報を提供するという意味合いで取り上げています。斎藤知事に直接関わる『兵庫・百条委「パワハラ過言でない叱責」 報告書案合意』『野球優勝パレード疑惑の告発受理  兵庫知事らの背任容疑』などは次回以降、機会を見て取り上げていければと考えています。

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