混乱と分断が続く兵庫県政 Part2
前回の記事は「『賃金とは何か』を読み終えて」でした。著者の濱口桂一郎さんのブログ「EU労働法政策雑記帳」にコメントを投稿し、その記事のことをご案内したところ「伝えたいことを、そのまま受け止めていただいた、とても嬉しい書評でした」という光栄なお言葉を頂戴しています。ありがとうございました。
さて、前回記事の冒頭で、日を追うごとに新たな事実や疑惑が伝えられている兵庫県政に関わる話は「また機会を見ながら取り上げていくことになるはずです」と記していました。さっそく今回の記事を通し、たいへん驚くべき兵庫県政に関わる最近の動きを取り上げていきます。
前々回記事が「混乱と分断が続く兵庫県政」でしたが、今回の記事は「Part2」とし、日本維新の会の県会議員が引き起こした到底許容できない不祥事に絞って書き進めていくつもりです。火曜朝の読売新聞の社説は『維新の兵庫県議 選挙を歪めた自覚はないのか』という見出しのもと次のように伝えています。
昨年11月の兵庫県知事選で、県議が真偽不明な情報を拡散させていたとは、驚きを禁じ得ない。公正であるべき選挙を歪めた責任は重大だ。しかも記者会見では、謝罪する一方、自らを正当化するような釈明も行った。県民は、自分たちが選んだ議員の言動をどう受け止めているのだろうか。
斎藤元彦知事を巡る内部告発問題で、日本維新の会の県議3人が知事選の最中、「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首に、告発した元県幹部の私的情報に関わる、音声データと文書の提供などに関与していたことを認めた。音声は、県議会百条委員会が非公開と決めていた元副知事の証人尋問を、県議がひそかに録音していたものだという。元副知事が、告発とは何ら関係のない元県幹部の私的情報に触れようとして、制止された場面が含まれていた。
一方、立花氏に渡した文書には、元県幹部や、知事を追及していた元県議を中傷するような内容が書き込まれていた。作成者が不明なものもある。こうした情報を基に立花氏は選挙戦で、非があるのは元県幹部であり、「斎藤氏は悪くない」といった主張を展開し、斎藤氏を応援した。その後、知事を追及していた元県議も批判の対象にした。
結果としてSNS上には不確かな情報が氾濫し、誹謗中傷の拡大だけでなく、選挙結果にも影響を及ぼした可能性がある。県議3人の行動は、立花氏を利用して意図的に世論を誘導した、と言われても仕方あるまい。元県幹部も、知事を追及していた元県議も死亡した。元県議は誹謗中傷に悩まされていたという。いずれも自殺とみられている。
今回の問題を受け、県議2人は責任を取って百条委の委員を辞めたが、それで済む問題なのか。記者会見では、立花氏に情報提供した理由について「県民が知るべき情報をメディアが流していない」と述べた県議もいたが、筋違いも甚だしい。真偽不明な情報を報じないのは、事実に基づいて伝える報道機関として当然だ。
県議3人は昨年、知事の不信任決議に賛成していた。その後の知事選には元維新の候補も出馬していたのに、斎藤氏を応援していたことになる。政党として維新の統治機能はどうなっているのか。維新の吉村洋文代表は、今回の県議の行動について「本人たちの思いは分かるが、ルール違反だ」と述べている。身内に甘い姿勢が緩みを招いているのだろう。
この社説の内容を紹介するだけで、多面的な情報を提供する場としての今回記事の意味合いは済みそうです。「自らを正当化するような釈明」「真偽不明な情報を報じないのは、事実に基づいて伝える報道機関として当然」という指摘など、私自身の見方や問題意識と重なる内容にまとめられていた社説でした。
高校時代、アルバイトで読売新聞の朝刊を配達していたというご縁もあり、自宅に届く新聞はずっと読売です。以前、このことをブログで記した時に「OTSUさんの立ち位置からすると朝日や毎日でないのが意外ですね」というコメントをいただいていました。
確かに政治的なテーマでは相反するような主張に接する時が多かったかも知れませんが、それはそれで幅広い情報に触れられる貴重な機会としてとらえてきました。話を戻すと今回の社説の内容などは一字一句、共感を覚えるものです。同じ筆者だろうと思われますが、1月23日の社説『SNS上の悪意 人の死まで中傷する残酷さ』の内容にも強く共鳴していました。
ネット空間で悪意に傷つけられる人が後を絶たない。心ない言葉は時に人の命さえ奪う。まして死者を侮辱する中傷まで横行するような状況は放置できない。兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを調べる県議会百条委員会の委員だった前県議が死亡した。自殺とみられている。
前県議については、百条委で斎藤氏を追及する動画がSNS上で拡散され、中傷する投稿や嫌がらせの電話が相次いでいた。自分や家族の身の危険を感じ、「誰が家に来るかわからない。怖い」と漏らしていたという。兵庫県の問題では、別の死者も出ている。極めて異常かつ深刻な事態だと言えよう。
政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首は、街頭演説で前県議の動静を情報提供するよう聴衆に呼びかけ、自宅に押しかけるような発言をしていた。しかも、前県議の死後には「前県議は逮捕される予定だった」と語り、まるで逮捕を苦に自殺したかのような動画を投稿した。
これに対し、県警本部長は議会で、立花氏の発信内容を「全くの事実無根」と否定した。警察のトップがこうした形で捜査情報を明らかにするのは極めて異例だ。容認し難いと判断したのだろう。立花氏は県警の対応を踏まえ、動画を削除して謝罪した。だが、謝って済む話ではなかろう。
立花氏の投稿は、多くの人が拡散し、前県議の名誉は著しく傷つけられた。立花氏、そして安易に虚偽の情報を広めたSNSユーザーたちの責任は重い。刑法の名誉毀損罪は、死者に対しても成立することを認識する必要がある。
兵庫県知事選を巡っては、知事派と反知事派の対立が深まり、知事を追及してきた県議会も激しい攻撃の対象となった。健全な批判と誹謗中傷は異なる。政策などへの建設的な批判はあって当然だが、人格を貶めたり、脅迫まがいの言葉を投げつけたりすることは許されない。言論の自由には責任が伴う。相手を傷つける自由などあり得ない。
今回は県警の説明によって、投稿がウソだと明確になったが、SNS上には、真偽が不明なまま多くの人が信じ込んでいる情報も少なくない。誹謗中傷と並び、虚偽情報への対策も急務である。SNS事業者に、誹謗中傷などへの迅速な対応を求める法律が間もなく施行される。問題のある投稿を野放しにせず、厳しく対応することが求められている。
前県議を自死に追い込んだNHK党の立花孝志党首の攻撃的な言動や誹謗中傷、その背後で百条委員を務めていた維新県議が暗躍していたことになります。このような一連の流れの中で、岸口実県議、増山誠県議、白井孝明県議らの卑劣さが際立ち、責任は極めて重いものと考えています。決して百条委員の辞任程度で済むような問題ではありません。
『紀藤正樹弁護士 維新・増山県議に「議事情報のリークは違法というだけでなく…大きな問題をはらむ」』という報道のとおり司法面での追及も欠かせないはずです。さらに維新の会としての組織的なガバナンスや吉村洋文代表の責任を問う声も広がっています。特に吉村代表の「思いは分かる」発言の真意が取り沙汰されています。
『玉川徹氏「そういう議員が集まっている政党ですか?」情報漏えいの維新3県議 吉村代表もバッサリ「『思いは分かる』って、分かっちゃダメでしょ」』『橋下徹弁護士15年前に維新を作った責任を感じる」維新県議が非公開の音声データをN国・立花氏に提供 兵庫県知事選で拡散』『「思いはわかる」発言の真意は? 維新・吉村代表に直撃 N党・立花党首へ情報提供で兵庫県議2名処分 党のガバナンスはどうなっているのか』という報道を紹介します。
当初、増山県議らは斎藤元彦知事に対する不信任決議案に反対していたようです。しかし、吉村代表の判断で維新県議全員が賛成票を投じたという経緯を上記の報道などから把握できます。このような経緯を知ることによって、ますます3県議の情けない振る舞いに対する憤りが高まります。
不信任決議案に際し、離党して反対票を投じるか、せめて棄権するという判断を下さなかったのは本人の選択と責任です。党の判断に従ったのであれば、県知事選でも自党が支援する候補者の当選をめざすべきであり、他の候補が有利に働くような裏工作の画策は言語道断な振る舞いだったと言わざるを得ません。
しかしながら別な角度から驚くべきことがあります。SNS上で増山県議の行為を称える声や動画を数多く目にしています。「自らを正当化するような釈明」という記者会見は、このような声が後押ししているのだろうと推察しています。代表的な声は『立花孝志氏「離党勧告」処分の維新・増山県議に言及「うちの党だったらほめ称えている」』という記事のとおりです。
二つの社説全文を紹介したため、いつも以上に長文ブログとなっています。冒頭に記したとおり今回の記事は維新県議の不祥事に絞り、多面的な情報を提供するという意味合いで取り上げています。斎藤知事に直接関わる『兵庫・百条委「パワハラ過言でない叱責」 報告書案合意』『野球優勝パレード疑惑の告発受理 兵庫知事らの背任容疑』などは次回以降、機会を見て取り上げていければと考えています。
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