ゼロ歳児にも選挙権、維新の公約から思うこと
火曜の朝、自宅に届く読売新聞の一面に「定額減税額 給与明細に」という見出しが掲げられていました。減税を実感してもらうことが狙いと書かれていましたが、事業所側の事務負担が頭に思い浮かびました。読み進めると「減税額の明記義務化は、6月1日施行の関係省令改正で行う」と記されています。
たいへん驚きました。6月に支給する給与明細は数週間前から準備されていくはずです。義務化の改正日が、まさしく泥縄である6月1日、現場の苦労に想像力が働かない判断に『「減税アピうっっっざい」岸田首相「定額減税4万円」明記義務づけに寄せられる憤慨「事務負担多すぎ」「低額減税なのに」』という声が上がっています。
前回記事「『公営競技史』を読み終えて」の冒頭で、世間の風向きに対する自民党政治家の感度の鈍さについて触れていました。『立憲、法施行までパーティー容認 禁止法案との「言行不一致」批判も』という報道も、どのような反応が生じるのか想像力を働かせ、避けなければならない動きだったように思っています。
政党や政治家の政策判断が日々、伝わってくる中、最も驚いている話は日本維新の会のゼロ歳児にも選挙権を与えるという公約です。東京新聞の『「ゼロ歳児にも選挙権」吉村洋文・大阪府知事の真の狙いは? 識者は「新たな不平等を生む」と指摘』という見出しの掲げられた記事の最後には次のように記されています。
「これまで民主主義の中で1人1票を確立してきた歴史がある。そして投票価値の格差を是正するために何十年も訴訟が続いてきたのに、そもそもの大原則を根底から崩す考え方だ」と東京経済大の加藤一彦教授(憲法学)は批判する。
若者にバランスを取ったように見えるが、「選挙至上主義で、数字によって解決しようとしてこのような議論が出てきている。民主主義で選挙は重要だが、選挙以外の多様なルートによって意見をくみ取る仕組みも必要だ」と強調した。
日刊ゲンダイの記事には、もっと辛辣に『吉村維新はアホちゃう?「0歳児選挙権」で金権選挙さらに蔓延確実 “腐敗政治”いらっしゃ~い!』という見出しが付けられています。ただ記事本文の内容は下記のとおり説得力のある文章で数々の問題点を指摘しています。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう指摘する。「そもそも、基本的人権のひとつである選挙権は年齢に関係なく、すべての主権者国民が持っています。その行使にあたって、主体的に行動できる適正な年齢を指しているのが『成年』で、教育や文化水準によって定められる。日本は2022年の改正民法施行で20歳から18歳に引き下げました。世界を見渡せば16歳以下の国もあります」
■買収横行の可能性 維新案の肝は、親による選挙権の代理行使だ。3子の父親である吉村府知事が「僕は4票の影響力がある」と力んでいたように、子だくさんの親ほど投票数を増やそうというのである。
「親がいない子の1票はどうなるのか。憲法14条は法の下の平等を定めており、0歳児だろうが何だろうが、不平等を生じさせてはならないし、歪んだ形での権利行使は許されない。選挙権は譲り渡す性質のものではないのです。『第2自民党』を自負する維新がいかにも言いそうなことですが、実現したら買収が横行し、金権選挙がさらに蔓延してしまう」(金子勝氏)
普通、平等、秘密、直接──。民主的選挙を担保する4原則をぶっ壊そうとする権威主義のヤカラに政治をやる資格はない。
明石市の市長だった弁護士の泉房穂さんは『吉村知事の維新公約「0歳児から選挙権」に苦言「基本的な哲学が間違っている。愚かな選挙対策」』という記事の中で「〝子ども〟は〝親〟の持ち物じゃなく、〝子ども〟は〝子ども〟だ。反映させるべきは、親の声ではなく、子ども自身の声だ」と強調した上で「基本的な哲学が間違っている。愚かな選挙対策で、私は反対だ」と訴えています。
政治家に限らず、誰もが自分自身の「答え」の正しさを信じているはずです。時には自信を持てない「答え」を示している場合もあろうかと思います。しかしながらゼロ歳児にも選挙権という公約に関し、吉村知事はその正しさに自信満々なのだろうと見受けられます。
正しいと信じた「答え」も多面的な情報をもとに再考した場合、その正しさへの自信が揺らぐこともあります。今回の公約を声高にアピールする前に日本維新の会の中で、紹介した上記の記事のような視点での議論は交わされなかったのでしょうか。議論を尽くした上で、公約に掲げているのであれば、それはそれで党としての一つの判断です。
ただ『「発想がブラック企業」維新の会“法令遵守“SNSで促した議員を「悪口流したら懲戒免職」に批判殺到』という報道などを目にすると、日本維新の会の組織的な土壌や体質について疑問視しなければなりません。党内から上がった警告を悪口と見なし、排除しようとする強権的な発想に驚いています。
属性を先行させた批判は慎むべきものと考えていますが、貴重な一票を投じる先として政党それぞれを評価しなければなりません。朝日新聞の記者だった鮫島浩さんのブログ『自公連立揺らぐ「政治資金規正法改正案の自民単独提出」の衝撃、維新との連立視野か〜裏金事件で大逆風の自民、組織力低下の公明、大阪万博で失速の維新、落ち目の3党の駆け引き激化』の内容に注目しています。
日本維新の会の馬場代表は、次期衆院選で与党が過半数割れとなった場合、自民党政権に参加する可能性に言及しています。『「与党入り排除せず」維新・馬場代表、発言に本人「言ってません」否定も「ポーズだけ」の自民批判に国民酷評』という記事の中で、発言について否定していますが、鮫島さんのブログの内容と照らし合わせれば詭弁であることが明らかです。
このような馬場代表の発言によって、分かりやすい選挙戦の構図となっていくことを歓迎しています。先月の記事「残念な与党、されど野党 Part3」の中で記していましたが、立憲民主党と日本維新の会が手を携えて政権交代をめざす姿をまったく想像できていません。そのため今後、自民党や日本維新の会による政治を是とするのかどうかという選択肢が明確化されていくことを切望しています。
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