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2024年1月20日 (土)

『国防』から思うこと

自民党の裏金問題は派閥を解散する動きにまで至っています。昨年末の記事2023年末、今の政治に思うこと」の中で、今後「ルールを変えました」と説明されたとしても、ルールを守ることを軽視した政治家が一掃されない限り、同じ過ちは繰り返されていくのではないか、そのように記していました。

そもそもリクルート事件で国民からの政治不信が高まった時、自民党は「派閥解消」を唱えていました。その時の決意は上辺だけの軽いものであったことが、浮き彫りにされている規範意識の乏しい組織体質の現状から明らかになっています。

土曜朝の読売新聞の『編集手帳』で、岸田総理は先日まで「派閥」とは極力口にせず、「政策集団」と言っていたことを伝えています。派閥解散論を煙に巻くつもりだろうと思われていたところ突然、急先鋒に立ち、自身が率いた宏池会を解散すると明言しています。派閥の功罪はさておき、数の力で支配する政治を変えられるのかどうか、岸田総理の「中身による」と結ばれていました。

私自身、派閥から離脱していた岸田総理が宏池会の解散を決めていることに違和感を抱きながら、本質的な問題や病巣に切り込まないまま論点そらしのための大胆なパフォーマンスに打って出たようにしか思えてなりません。このことで仮に内閣支持率が上がり、自民党の裏金問題が収束していくようであれば残念な話だと言えます。

この問題は、きっと機会があれば改めて掘り下げていくことになるのだろうと思っています。今回の記事タイトルは「『国防』から思うこと」としています。前回記事「もう少し田中角栄元総理の言葉」の最後のほうで、自民党の幹事長だった石破茂さんの著書『国防』を読み進めていたことを記していました。

これまで当ブログでは 「『◯◯◯』から思うこと」というタイトルの記事を数多く投稿しています。『カエルの楽園』から思うこと」「『ウクライナにいたら戦争が始まった』から思うこと」「『大本営参謀の情報戦記』から思うこと」などがあり、読み終えた書籍から私自身の思いを深掘りしていく内容となっています。

「『◯◯◯』を読み終えて」 との違いは、当該の書籍の紹介がメインではなく、そのテーマから派生した自分自身の思いが中心になるかどうかです。ただ「『◯◯◯』を読み終えて」のほうも直接的な書評ではありませんので、それほど大きな違いはないのかも知れませんが、個人的なこだわりとして使い分けています。

したがって、防衛庁長官を務めていた石破さんの『国防』という書籍の内容にとどめず、国防のあり方を巡る時事の話題などを絡めながら書き進めていくつもりです。そのことによって、年末に投稿した記事「今年も不戦を誓う集会に参加」からの宿題「どうすれば戦争を防ぐことができるのかどうか」に対する一つの「答え」につながればとも考えています。

北朝鮮のミサイルをどう防ぐか?  自衛隊イラク派遣に意味はあるのか?  徴兵制は憲法違反か?  日本のテロ対策は万全か?  長官在任日数・729日(歴代2位)、国防の中枢を知る著者が、いま、すべてを語る。

上記はリンク先に掲げられた書籍の紹介文です。防衛省になる前、防衛庁時代の長官を石破さんは歴代2位に及ぶ期間務め、自衛隊のイラク派遣を小泉元総理とともに決めていました。石破さんは『国防』の中で、イラク戦争の大義について次のように語っています。

大義は国の数だけあり、結果としてイラクは大量破壊兵器を持っていなかったが、国連の査察に応じなかったことによって生じた事態であると説明しています。しないことによって受けるかも知れない被害を防ぐための大義をアメリカやイギリスは判断したというロジックでイラク戦争を省みていました。

石破さんは自衛隊のイラク派遣の理由を四つあげていました。第一は石油の依存割合の高い日本にとって死活的に重要な地域であること、第二は国連からの要請であり、第三はイラクの人たちの希望に応えることを理由としてあげていました。そして、第四の理由として日米の同盟関係の信頼構築の大切さをあげています。

全体を通して分かりやすい言葉や説明ばかりで、たいへん読みやすい書籍でした。ただ「なるほど」と思える箇所が多かったとしても、必ずしも石破さんの考え方そのものに賛同していた訳でもありません。自民党の政治家として当たり前なことですが、国際社会の中では標準的な国防観に沿って語られています。

20年近く前に発刊された書籍ですが、敵基地攻撃能力がないことの問題意識など石破さんの率直な考え方に触れる機会となっていました。自衛隊の装備や法律面の不充分さをはじめ、その当時から現在までにつながる様々な論点が示されていたため「古い著書ですが、内容は色褪せていません」と前回記事に記したような感覚で読み終えていました。

石破さんの興味深い言葉として「右翼の好戦主義者みたいに思われているのでしょうが、全くそうではありません」「現実的な防衛を知れば知るほど、骨太な平和主義が必要になります」「軍事を語る時には、最低でも、その船や飛行機や戦車がどのような性能を持ったものなのか知っていないといけません」というものがあります。

国防について「行け行けどんどん」みたいな議論に与せず、どのような装備や運用、法整備が必要なのか、知見と冷静さを持って考えていくべきことを石破さんは提唱しています。新たな防衛大綱策定に際しては、石破さんの視点から期限や数値など具体的な指摘を重ねていたことも記されていました。

長官から細かい指摘を受けた側は戸惑ったかも知れませんが、このあたりまでは特に異論ありません。『国防』を読み進める中で、少し極端ではないだろうかと思った箇所がいくつかあります。防衛庁長官に就任し、長官室に世界地図が貼っていなかったため、特大のものをすぐ買うように命じたことが書かれています。

護衛艦や戦闘機のプラモデルを長官室にいっぱい並べていながら、内局の官僚からは何の反応も示されなかったことに違和感を覚えたと記しています。「自衛隊管理庁」という意識で自衛隊に愛情を持っていないような物言いを耳にした時、すごく腹が立ち「なんだ、その言い方は。もういい、帰れ」と怒ったことがあると書いていました。

長官を退任した後、隊員数名から感謝のメールが届いていたことを書籍の中で伝えています。一方で「制服偏重」などと言われ、内局の幹部からは嫌われていたことを書籍の中で明かしています。内局の一部の若手とは良好な関係を築いていたようですが、退任後に「内部で長官と内局が対立」という新聞記事が出るほどの悪化した関係性のまま防衛庁を去っていました。

石破さんは国会議員になる前、田中派の事務局に勤務し、旧田中邸に出入りしていました。前回の記事の中で「田中元総理のDNAを受け継ぎやすい関係性だったようですが、石破元幹事長と田中元総理が重なり合う印象はそれほどありません」という個人的な見方を書き添えていました。

石破さんも「国民のため」の政治を念頭に置いた政治家の一人だと思っていますが、部下となる官僚との信頼関係を強められるかどうかという点で見た時、田中元総理から学ぶべきだったDNAを受け継げていないことが明らかです。

次の総理候補としてのアンケートでは常に上位にランクされています。しかしながら国会議員からの支持が広がらない現状をはじめ、石破さんには省みるべき点が多々あるのではないでしょうか。ネット上では絶対、総理にしてはいけないざんねんな石破茂』という下記のような辛辣な内容の雑誌記事も目にしています。

防衛庁長官時代、イラク派遣部隊の現場視察が計画された際に、複数回にわたって視察をドタキャンしたことも士気を下げた。十数年前には、自民党国防部会などで、勉強不足の議員らを露骨にバカにすることもあった。自分では覚えていなくても、軽く扱われた側は忘れはしないだろう。議論で相手を言い負かしたつもりでも、相手はそうは思っていない場合が多い。

石破氏自身、その頃に、派閥の先輩で頭が切れることで知られた久間章生元防衛相からこんなことを言われたと語っていた。「石破君、君は自分が一番賢い、自分が一番正しいと考えているようなところがあるが、そう思っているうちはまだまだだよ」 結局、政治家が大成するかどうかは、周囲に人が集まるかどうかで分かる。

『国防』の中で、イラクに派遣される隊員を壮行する話は度々出てきました。しかしながら現地視察の話があったこと自体、一切触れられていませんでした。防衛事務次官だった守屋武昌さんの著書『日本防衛秘録』の中では実名を伏せて記されていましたが、身の安全が危ぶまれる現地視察を何回も直前で見送ったのは石破さんで間違いないようです。

何回も断らなければならない重大な事情が重なっていたのかも知れません。しかし、生命が脅かされるリスクに怯み、隊員を派遣していながら自分自身は断り続けていたとしたら防衛庁長官としての職責を放棄していたことになります。そのような場合、石破さんの国防に関わる数々の主張に対する説得力の低下は免れません。

リスクに怯まないという意味で比べた際、岸田総理や上川陽子外相の戦地であるウクライナへの訪問は評価すべき政治家としての行動だろうと思っています。菅直人元総理の福島第一原発視察は大きな批判にさらされていましたが、自分自身の生命や安全を優先していた場合、事故直後に出向くという発想はあり得なかったはずです。

今回、最初から想定していましたが、「『国防』から思うこと」は1回でまとめ切れないものと思っていました。時事の話題にも絡む防衛費の問題などは次回以降の記事で取り上げていきます。「Part2」を付けた記事タイトルにするのかどうか決めていませんが、このあたりで今回の記事は一区切り付け、この続きは次回に送らせていただきます。

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