連合と政党との関係性
このブログは毎週1回、土曜か日曜に更新しています。以前から「文章が長い」という指摘が多く、あまり話題を詰め込みすぎないように注意しています。当初、この話までつなげようと考えながらも、長くなってきたため次回に送る時が増えています。時事の話題を取り上げる際、鮮度が落ちてしまう場合もありますが、単発で終わるブログではないためご容赦願っています。
前回の記事は「枝野前代表の問題意識」でした。ちなみに前回の記事でも、当初『【解説】岸田首相が連合大会に出席の狙いは「野党の分断と連合票の切り崩し」立憲は「ご安全に!」』という話までつなげるつもりでした。改めて今回「連合と政党との関係性」というタイトルを付けて書き進めていきます。
10月5日、連合の第18回定期大会に岸田総理が出席しました。自民党政権の総理大臣としての定期大会出席は2007年の福田元総理以来16年ぶりで「次期衆院選をにらみ、労働組合との距離を縮める思惑もありそうだ」と報じられていました。
岸田総理は「コロナ禍を乗り越えた国民は今、物価高に苦しんでいる。今こそ成長の成果を適切に国民に還元すべきである。皆様のご尽力もあり生じた賃上げの大きなうねりを持続的なものとし、地方や中堅、中小企業にまで広げていかなければならない。最低賃金についても2030年代半ばまでに1500円となることをめざす」と来賓挨拶の中で語っています。
岸田総理の出席に対し、立憲民主党の泉代表は「自民が呼ばれた訳でない」という認識を示されています。岸田総理、武見厚労相の後に来賓として挨拶した泉代表は次のように語っていました。
本日は政党としては立憲民主党、国民民主党、この2党が招待されている。これはまさに政府から来た、首相や厚労相とはまた異なり、政党として皆様とともに歩むという姿勢が明確であるわれわれにお声をかけていただいたということで、私たちもその期待に応えてまいりたいというふうに思っております。
来賓挨拶が終わった後、記者から「岸田総理の出席が野党分断につながるか」と問われた泉代表は「全然つながっていない」と答えています。国民民主党との連携については「連合運動をしている皆様は(立民と国民民主が)協力して議席獲得をめざせという声が多いのではないか。その声を受けとめて我々は進めていくべきだ」と述べています。
同じく来賓挨拶を終えた後、国民民主党の玉木代表は「立憲と分かれているのは連合が分かれているから」という見方を示しています。的を射た指摘なのかどうか分かりませんが、今回のブログ記事での論点提起とも言える見方ですので報道内容の全文を紹介します。
現状としては二大政党的な政権交代は難しい。連合は旧総評系、同盟系を一つにするためのキーワードとして「反自民・非共産」、「二大政党的な政権交代」を掲げてきたが、現状の政治状況と選挙制度のもとで、果たしてそれが実現可能なのか。
連合の中の産業別労働組合(産別)で、原発は動かした方がいいという産別があり、原発はやめろという産別もあり、究極、連合の中の問題なのかなと。連合の中で、中心的な政策について分かれていることが、政党が(立憲民主党と国民民主党に)分かれていることにもつながっている。
それをまとめていくということであれば、連合の中で、原発をはじめとしたエネルギー政策、安全保障、憲法、こういう問題について整理が必要だ。連合の中でも話し合っていただきたいし、我々と連合の中でも、しっかり話し合いをしていきたい。(国会内で記者団に)【朝日新聞2023年10月5日】
確かに連合の中で産別組合ごとに個別政策に対する温度差や距離感の違いがあります。連合の結成前、総評と同盟等に分かれていた時代からそのようなカラーの違いがあり、基本的にそのような傾向は現在まで続いていると言えます。
それでも政権交代を果たした民主党時代、重要な理念や個別政策の方向性について連合内で一致させ、連合全体として一つの政党を応援できていたことも間違いありません。このブログの少し前の記事「時事の話題、国政の話 Part2」の中で、次のように記していました。
政権交代を実現させた民主党と連合は、かつて次のような3本の柱を基軸に強い絆を結んでいました。一つは連合が力を注いできたテーマを表した「働くことを軸として、安心できる社会を作っていく」であり、あと二つは「2030年代に原発をゼロにする」「強い言葉で外交・安保を語らない」という言葉です。
その記事では「連合のめざしている社会像が国民の多くから支持され、その目標に向かって共同歩調を取れる政党との関係性が明確化できることを理想視しています」とも書き添えています。
一方で、連合は政治団体ではありませんので「組合員にとってどうなのか、働く者にとってどうなのか」という視点や立場で様々な方針を決めています。そのような連合の方針を実現していくため、緊密な連携をはかれる政党や政治家と支持協力関係を築いてきています。
このような経緯や背景を踏まえ、より望ましい政治に近付けていくためにも、連合全体として応援できる政権の受け皿となり得る野党が存在感を発揮していくことを願っています。複数の政党が連携する場合は、野合と批判されないような旗印を掲げた政治的な勢力であることを期待しています。
さらに民主党政権時代の失敗を教訓化し、改めていくべき現状は一つ一つ、より丁寧なアプローチのもとに進めていく政権であって欲しいものと思っています。そのような意味で前回記事で紹介した枝野前代表の問題意識には共感するものがあり、まっとうな政治の実現に期待を寄せています。
連合と政党との関係性において「反自民・非共産」という原則が連合結成以来掲げられています。そのような原則も「組合員にとってどうなのか」という視点を重視するのであれば、状況に応じて柔軟な対応が求められているように感じつつあります。
岸田総理が連合の定期大会に出席されたことも、選挙戦において立憲民主党の候補者が共産党から支持を得ることも、個人的には大きな違和感を抱かなくなっています。その上で、前述したような問題意識のもと現政権与党の対抗軸となり得る選択肢が定まることを切望しています。
最後に、多面的な情報を提供する一つの場として、ネット上で目にした『連合は決して自民党に取り込まれてはならない/中北浩爾氏(中央大学法学部教授)』という記事の中で、特に興味深かった箇所をそのまま紹介させていただきます。
これまで日本の労働運動は一貫して労働者の代表として野党を応援し、政府とは対決的な立場をとってきたが、ここにきて自民党はいよいよ連合の抱き込みを本気で図ろうとしているかに見える。そしてあろうことか連合の方も、その状況を「満更でもない」と受け止めているように見える。
政治学者で連合の歴史にも詳しい中央大学法学部の中北浩爾教授は、自民党は労働組合の票を狙っていると言う。医師会、農協、宗教団体などほとんど全ての団体が与党に寄っていく中、連合だけはこれまで一貫して野党勢力を応援してきた。加入者数は減少傾向にあるとはいえ、700万人の組合員を抱える連合が、創価学会と並ぶ日本最大の組織票であることは間違いない。
しかし、ここにきて高齢化による支持母体の先細りに直面する自民党は、いよいよ労働組合にもちょっかいを出してきた。自民党から見れば、そこに手を出さざるを得なくなってきたという面もあるが、その一方で、労働組合の側も自民党の取り込みに抗いきれなくなってきているようだ。
しかし、もし労働組合が部分的にでも自民党支持に回ることになれば、日本には与党に太刀打ちする勢力が無くなってしまう。連合票だけでは選挙には勝てないと言われるが、無党派層の票だけで戦えるほど小選挙区制の選挙は甘くない。中北氏も組織票というベースの上に無党派層の票をどれだけ上乗せできるかが日本の選挙の戦い方だと指摘する。
その意味で55年体制の発足以来、一貫して野党勢力の後ろ盾となることで日本の政治に一定の緊張感をもたらしてきた与野党対立の構図が、今ここに来ていよいよ崩壊しかねない最終局面を迎えていると考えるべきだと中北氏は言う。
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