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2023年7月29日 (土)

『大本営参謀の情報戦記』から思うこと Part2

前回記事「『大本営参謀の情報戦記』から思うこと」の中で、ビッグモーターの不正事件について取り上げました。ようやく先週火曜日、ビッグモーターは記者会見を開き、兼重宏行社長と息子の兼重宏一副社長の辞任を発表しました。

経営全般の実権を委ねられていた兼重宏一副社長は会見に出席せず、兼重宏行社長の発言内容には驚かされました。不正請求行為について、板金塗装部門が単独で行なったとし、自分自身を含む経営陣は「知らなかった」と述べています。

6月26日に特別調査委員会の報告書を受けて初めて知り、「本当に耳を疑った。こんなことまでやるのかと、愕然としました」と述べ、まったく他人事のような発言に終始していました。本当に知らなかったのかも知れませんが、それはそれで大きな問題です。

そもそも記者会見に臨む前、どのような発言がNGなのか、綿密な打ち合わせがされていたのでしょうか。いずれにしも後々語り継がれるような反面教師とすべき謝罪会見だったと言えます。

前回記事で大本営参謀の情報戦記』という著書に綴られている問題意識に重なる点があり、ビッグモーターの不正事件を取り上げたことを伝えています。東洋経済ONLINEの記事ビッグモーター「しくじり謝罪会見」に見る“最大の弱点”ーー強権組織は「負け戦」の正しい戦い方を知らない』には次のような見方が示されています。

事態収拾を図る釈明の場で、現社長を称賛する次期社長の姿勢に、根本的な組織の弱さを見ました。それは圧倒的な強権体制、有無を言わさぬ上意下達な組織が共通して陥る“弱さ”です。

第二次世界大戦末期、敗色濃厚なナチスドイツ本営には、独ソ戦の戦況が十分に届かなくなりました。史上希に見る独裁者の機嫌を損ねるようなニュースを届ける者は、もはやドイツ軍には誰もいなかったといわれます。つまり、強権的独裁者には「悪い知らせ」は届かなくなるのです。

経営において何より欠かせない情報。最も尊ぶべきは「正確さ」です。しかし強大なトップに忖度する組織においてはこの情報が歪められ、不正確あるいはトップに耳障りの良い情報だけが届くようになります。

創業者である兼重宏行社長にも、やはり耳障りの良い情報だけが届くようになっていたのかも知れません。そのため、今回のような不正に関して「知らなかった」と断言できる構図になっているのだろうと理解しています。

今回の記者会見に臨む際も、兼重宏行社長が発言しようと考えている内容に対し、軌道修正をはかれなかったのかも知れません。それでも記者会見中、環境整備点検の質疑では同席した他の役員が兼重宏行社長の発言をさえぎって、口をはさんでいた場面がありました。

これができるのならば事前にもっと綿密な打ち合わせをしておけば良かったのに、と思っています。結局のところビッグモーターの経営陣自体、現場の責任であり、組織的な不正ではなかったと考えながら記者会見に臨んでいたとしたら会社全体としての危機意識の薄さに驚かされます。

危機意識の薄さでは岸田内閣のマイナカードを巡る対応ぶりも同様です。私自身の問題意識はマイナカードの混乱と政治の責任マイナカードの混乱と政治の責任 Part2」という記事で詳述しています。

河野氏、来秋の保険証廃止堅持  与党も再考促す、参院閉会中審査』という報道のとおり岸田内閣は保険証廃止に固執しています。野党側の追及にとどまらず、自民党の議員からも「期限ありきではなく、信頼回復を優先して丁寧に国民の理解を得るよう努めるべきだ。与党の中からもそういう声が大きくなっている」と指摘し、廃止時期の再考を促しています。

健康保険証を2024年秋に原則廃止してマイナ保険証への切り替えを決めたことで、任意だったマイナカードの取得を事実上義務化したことで大きな混乱を招いています。このような点を懸念する声もあったようですが、マイナカードを国民全体に普及させたいという目的のために懸念する意見は軽視されたようです。

その結果として、拙速な方針転換が各自治体や関係団体に過剰な負担を強いています。現場の実態を知らず、正しい情報が届かず、不合理な方針を定めてしまう、まさに『大本営参謀の情報戦記』から教訓化すべき点が現在の岸田内閣に問われています。

さらに『マイナ保険証 「メリットをもっと説明するべき」菅前総理が岸田総理にアドバイス』という報道を目にするとガックリしてしまいます。岸田総理が菅前総理から「方針を変えたらかえってダメになる。マイナ保険証のメリットをもっと説明するべきだ」とアドバイスを受けたという報道です。

そもそもマイナ保険証の取得は任意だったのにも関わらず、唐突に方針を変えたことで生じている混乱です。マイナ保険証のメリットが周知理解されていけば取得者も増え、必然的にマイナカードの取得も国民全体に普及していったはずです。

本来、当初の方針で地道に努力していくことが現場の実態や国民の声に即した望ましい政治のあり方だったように思っています。上記報道の記事に対し、ヤフーのコメント欄の中には次のような河野大臣への辛辣な意見も見受けられています。

河野大臣は、コロナワクチンの際に、ワクチンのデメリットを一切口にせず、ワクチンによる健康被害など発生していないと発言している。頑として認めなかった経歴がある。申し訳ないが、彼がなにを説明しようが信用に値しないと考えている。

河野太郎とワクチンの迷走』という著書があるとおりコロナ禍の中で、河野大臣の仕事ぶりの評価は大きく分かれています。河野大臣の強引さや独善的な振る舞い、部下に対するパワハラなどは猛省すべき点だろうと思っています。今回、マイナ保険証の問題は河野大臣の短所が事の発端になっているように見ています。

同じような短所が懸念される菅前総理の仕事ぶりの評価も大きく分かれています。そのような意味で、岸田総理が菅前総理からアドバイスを受けたという話は「聞く力」を疑問視する事例の一つに加わっていました。

2年前、菅政権の時に「3回目の緊急事態宣言も延長」「驚きの4回目の緊急事態宣言」という記事を投稿しています。東京五輪を緊急事態宣言期間中に開催するという迷走ぶりに驚いていました。緊急事態宣言の中味も酒類などを提供する飲食店への休業要請が中心で、どこまで実効性の伴う対策なのかどうか不信感を募らせていました。

長い記事になっていますが、もう少し続けます。最近コロナとの死闘』という書籍を読み終えています。新型コロナウイルス感染症対策を担当した西村康稔経産大臣の著書で、カスタマーレビューの1つ星が圧倒多数で、あまりにも低い評価が話題になっていました。

そのことに興味を持っていたため、ブックオフの書棚で200円という廉価で見つけた時、すぐレジに運んでいました。前例のないコロナ禍に直面し、西村大臣が懸命に力を尽くされてきたことは伝わってくる著書です。緊急事態宣言に対しては次のような考えだったことも分かりました。

何度も流行は起こる。大きな波となれば強い措置をとり感染を抑え、感染者が収まってくれば措置は解除する。そして、再び活動が盛んになり、やがてまた感染者が増えてくれば強い措置が必要になる。諸外国を見ても同じだ。

分科会の専門家も「感染者が減ってくれば解除して“息継ぎ”をすることも必要」と述べていたことを西村大臣は説明しています。マスクなしで会話する飲食の場が感染拡大の「起点になっている」という専門家の分析も紹介しています。

それぞれの考え方に異論はありません。しかし、アクセルを踏んだり、急ブレーキをかけたり、それを繰り返すことの社会的な混乱を防ぐことも政治の役割だったはずです。私自身、2回目以降の緊急事態宣言の発令には懐疑的でした。平穏な日常に戻れる2021年に」では次のような言葉を残していました。

年賀状に一言添えたとおりコロナ禍から必ず平穏な日常に戻れる日が来るはずです。その日が早く訪れることを切望していますが、慌てないことも肝要です。すぐに終息しないことを覚悟し、長丁場の闘いとして持続可能な対策を心がけていくことが欠かせないのだろうと考えています。

パンデミックの終息が宣言されるまでGoToというアクセルは「慌てすぎ」だったものと思っています。アクセルは踏まず、車を止めないけれども、ゆっくり走行していく「エンジンブレーキ」という発想が望ましかったのではないでしょうか。

経済や財政に大きな負荷をかける緊急事態宣言というブレーキは避け、アクセルは踏まないまま車を止めず、平穏な日常に戻れる日が来ることを待ち望んでいます。

「『大本営参謀の情報戦記』から思うこと Part2」という記事タイトルを付けて書き進めてきましたが、論点は拡散気味でブログのサブタイトルのとおり「雑談放談」であることをご容赦ください。いつも申し上げているとおり多面的な情報を提供する場の一つとしてご理解願えれば幸いです。

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