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2023年5月20日 (土)

保守派に配慮しがちな岸田政権 Part2

前回記事「保守派に配慮しがちな岸田政権」を読み返してみると、随分散漫な内容だったものと省みています。特に最後の「軍靴の音が聞こえるよう…ネット騒然!岸田首相表紙の「米タイム誌」と「NATO東京事務所開設」報道』という顛末も、岩盤支持層を配慮した結果だろうと思っています」などは言葉足らずな終わり方でした。

そのため、今週末に投稿する新規記事のタイトルは迷わず「保守派に配慮しがちな岸田政権 Part2」とし、前回記事を通して伝えたかった内容や私自身の問題意識を書き足していこうと考えました。まず上記のリンク先の記事内容を改めて紹介します。

「長年の平和主義を捨て去り、自国を真の軍事大国にすることを望んでいる」 米誌タイム(電子版)が5月22、29日号の表紙を公表。岸田文雄首相(65)とともに「日本の選択」として紹介された一文に衝撃が走っている。

記事は4月28日に首相公邸で単独取材されたもので、岸田首相が「世界第3の経済大国を、それに見合う軍事的影響力を持った大国に戻すことに着手した」と指摘しているが、一体どこの誰が「長年の平和主義を捨て去り」「真の軍事大国」を望んでいるというのか。日本が今でも掲げているのは「専守防衛」だろう。

SNS上でも、《日本国民はそんな選択していません》《軍事大国に突っ走っているのは岸田自民党だけ》《軍事大国化?冗談ではない》と批判的な意見が少なくないが、さらにネット上をざわつかせているのが、NATO(北大西洋条約機構)が東京に連絡事務所をつくる方向で調整している、との報道だ。

ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、NATOは2022年6月に「戦略概念」を改定。中国を「体制上の挑戦」と位置づけ、インド太平洋地域で連携する国として、日本との関係強化を模索してきたという。

松野博一官房長官(60)は10日の記者会見で、NATOの連絡事務所開設について、「現時点で設置が決まったとは承知していない」としたものの、「NATOは信頼できる必然のパートナーであり、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分との共通認識の下、協力をさらに強化していく」と発言。

好意的な受け止めだったが、NATOはれっきとした「軍事同盟」だ。それなのに日本政府がなぜ、「軍事同盟」の窓口を東京に作ることを歓迎しているのか。

《待て待て。日本は将来、NATOに加盟するつもりか?》《NATO東京事務所が攻撃されたら、どうなるの。加盟しなくても反撃するとか》《たとえ日本がNATOに加盟しなくても、ロシアは面白くないよね。これって攻撃の口実になるんじゃないの》

「軍靴の音」が静かに聞こえてきているようで、SNS上で懸念が広がるのも無理はない。【日刊ゲンダイ2023年5月11日

政権批判を専らとしているメディアですが、伝えている内容は事実であり、前回記事の最後に紹介させていただきました。この後、『米タイム誌 岸田首相の「日本を軍事大国に変える」記述を変更』という報道のとおり日本政府の抗議を受けたためなのか、ウェブ版のタイトルだけは「岸田総理大臣は、平和主義だった日本に国際舞台でより積極的な役割を持たせようとしている」と変更されています。

出版される雑誌の表紙には「岸田総理大臣は何十年も続く平和主義を放棄し、自国を真の軍事大国にしたいと望んでいる」と書かれたままであり、こちらの記述は変更されていません。

AERAの記事岸田首相の表紙が“物議”の米タイム誌  メディアは問題の本質を伝えているか?』の中で、そもそも「平和主義を放棄」という記述のほうが「これは日本の安保政策の現状を表した的確な表現」だと感じているという戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんの見方を紹介しています。

インタビュー記事は内容に即したタイトルをつける必要があります。その部分に関しては、岸田首相の言葉に沿ったタイトルに変更するのは妥当です。他方、表紙の文言については、様々な事実を分析し、首相の全体的な姿勢を論評したもの。つまり、アメリカのタイム誌から見て、日本は軍事大国化に舵を切ったと見えるということです。

岸田政権にとって不本意な見られ方かも知れませんが、山崎さんが上記のように解説しているとおり「米タイム誌から見て」という関係性は否めない現状だろうと思っています。

金曜日、G7サミットが広島市で始まりました。岸田総理は核軍縮に焦点をあてたG7初の独立首脳文書「広島ビジョン」を発出することを表明しています。このような試みをはじめ、岸田総理の平和を希求する強い思いは確かなものだろうと受けとめています。

一方で、昨年末には安保関連3文書を閣議決定し、戦後、政府が一貫して「持たない」と判断してきた「反撃能力」の保有を明記しています。さらに2023年度から5年間の防衛費総額を約43兆円とすることを決めたのも岸田政権です。私自身の問題意識は『標的の島』と安保関連3文書」という記事の中で、次のように記していました。

今回の安保関連3文書に示されているような方向性が、国民の生命や暮らしを守ることに直結していくのかどうか、根本的な議論が決定的に不足しているものと思っています。そもそも反撃能力を保有し、43兆円を費やせば実効ある抑止力を担保できるのかどうかも疑問です。 

もちろん中国や北朝鮮こそが軍拡の動きを自制すべきであることは理解しています。しかしながら「安全保障のジレンマ」という言葉があるとおり疑心暗鬼につながる軍拡競争は、かえって戦争のリスクを高めかねません。いずれにしても脅威とは「能力」と「意思」の掛け算で決まると言われています。

自民党の中で「ハト派」と目されている宏池会の岸田総理に対し、安倍元総理の路線とは一線を画していくのではないかと期待する側面もありました。しかし、残念ながら実際は「ハト派」という看板を到底掲げられないような方向性に舵を切り続けています。

その結果、米タイム誌から「長年の平和主義を捨て去り」と見られるような現状につながっていると言えます。現実的で望ましい判断であると評価されている方々も多いのだろうと思っていますが、前述したとおり根本的な議論があまりにも不足していることは否めません。

岸田総理が「タカ派」的な判断を重ねているのも安倍元総理の意志を受け継ぎ、岩盤支持層を配慮した結果だろうと思っていたため、2週にわたって「保守派に配慮しがちな岸田政権」という記事タイトルで書き進めています。すでに岸田総理と安倍元総理の政治信条に大きな差異がなくなっているのかも知れませんが、このような思いを少なからず引きずっていました。

ちなみに配慮されているはずの岩盤支持層側からすれば『LGBT法案、自公が週内提出へ 立民は修正前の法案提出か 林外相、米大使の動画「コメント控える」 岩田温氏「安倍氏死後、保守政党の軸が溶解」』という記事が伝えているような不満も高まっているようです。

その記事の中で、政治学者の岩田温さんは「安倍氏が死去してから、『自民党は本当に保守政党なのか』と、首をひねる出来事が続いている。保守の岩盤支持層は、岸田政権に失望感を募らせている。今回の対応は、保守政党の軸が〝溶解〟した印象だ」と語っています。保守の岩盤支持層側から及第点をもらえていない岸田総理ですが、今後、どちらの側に重心を移していくのかどうか興味深いところです。 

昨年の参院選前の6月に「今、政治に対して思うこと」という記事を投稿し、「いっそのこと、自民党が二つに分かれた方が夏の参院選は投票しやすくなるのに」という言葉が、私自身にとって最も共感している見方であることを伝えていました。ただ現実的な見方として、権力という軸を求心力にしている政権与党の自民党が分かれることは考えられません。

その中で、岸田政権が岩盤支持層に配慮した政策判断を重ねていくのであれば、明確な対抗軸を打ち出した野党の存在が欠かせないものと考えています。このあたりについては次回以降の記事で改めて取り上げてみるつもりです。今回の記事も散漫な終わり方になって恐縮ですが、前回の続きにあたる内容はここで一区切り付けさせていただきます。

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