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2023年4月22日 (土)

仕組みを変えたければ

統一地方選挙の後半、政令市以外の基礎自治体の首長と議会議員の選挙が明日投開票されます。戦後まもない1947年、新憲法施行前に自治体の首長と議員の選挙が一斉に行なわれました。その後も任期はすべて4年ですので選挙への関心を高めるため、全国的に日程を統一してきました。

ただ任期途中での首長の辞職や死去、議会の解散があった場合、統一地方選の日程から外れていきます。さらに市町村合併の広がりによって、ますます統一的な日程で実施される選挙の数は減る傾向を強めていました。ちなみに私が勤める自治体は都知事、都議会、市長、市議会、すべて統一地方選から外れています。

それでも三多摩地区では3分の2ほどの自治体で、この時期に選挙が行なわれます。組合の委員長だった時、直接お会いすることの多かった議員の皆さんのお名前を各選挙区の立候補者一覧から目にしています。私どもの組合が引き続き推薦している候補者の皆さんであり、ぜひ、最良の結果が得られることを願っています。

今回、同時に参院大分選挙区、衆院千葉5区、和歌山1区、山口2区、山口4区の補欠選挙が行なわれています。先週土曜、和歌山1区の候補者を応援するための演説場所で、岸田総理に向けて爆発物が投げ込まれました。威力業務妨害容疑で逮捕された木村隆二容疑者は「弁護士が来てから話します」と動機を黙秘していました。

翌日以降も同様なセリフの報道にとどまっていましたので、国選弁護人なのか私選弁護人なのか分かりませんが、それほど弁護士選びに日数を要するものなのか疑問に思っていました。自白は進んでいないようですが、火曜日あたりから徐々に動機につながるような事実関係が伝わってくるようになっています。

弁護士の人選については週刊文春の記事『爆弾で岸田首相襲撃  木村隆二容疑者が依頼しようとした弁護人は宇都宮健児氏だった』によって、弁護士の選任まで日数を要した事情が分かりました。結局、2日後に取り下げられたそうですが、このような要望を受け付けていたことに意外な印象を持っています。

動機や事件の背景についても明らかになりつつあります。読売新聞の記事『木村容疑者「参院選に立候補できず不当」…昨夏「本人訴訟」で国に損賠求め1審棄却』では、木村容疑者が被選挙権年齢や高額な供託金の問題を疑問視し、法の下の平等などを定める憲法に違反すると主張していたことを伝えています。

精神的苦痛を受けたとして10万円の損害賠償を求め、代理人の弁護士をつけない「本人訴訟」を行なっていました。スポニチの記事『木村容疑者 国を提訴していた 年齢など理由に参院選立候補できず 安倍元首相国葬も批判』では、次のように岸田総理や安倍元総理を批判していたことも伝えています。

提出した準備書面では「岸田内閣は故安倍晋三の国葬を世論の反対多数の中、閣議決定のみで強行した。このような民主主義への挑戦は許されるべきものではない」と、銃撃事件で死亡した安倍元首相を呼び捨てにしたり、岸田政権を批判する記載もあった。

安倍氏を「既存政治家」と評し「政治家であり続けられたのは旧統一教会のようなカルト団体、組織票を持つ団体と癒着していたから」と主張、こうした政治家がいるのは被選挙権が制限されているためと訴えていた。

この提訴に対し、神戸地裁は公選法の年齢要件や供託金制度は合理性があるとして昨年11月に請求を棄却しています。木村容疑者は、これを不服として大阪高裁に控訴し、来月5月に判決の言い渡しが予定されているとのことです。

その訴訟の準備書面では、年齢要件や供託金制度を定めた現行の選挙制度は「普通選挙ではなく、制限選挙だ」と主張。この「制限選挙」によって組織票を持つ既存政党・政治家に有利な仕組みが作り上げられ、岸田内閣による安倍氏の「国葬強行」のような「民主主義への挑戦」が可能になっていると指摘した。

産経新聞の記事『首相襲撃・容疑者「安倍氏の国葬強行、許されない」 国賠訴訟で岸田政権批判』では、上記のとおり訴訟の準備書面の内容をもう少し詳しく紹介していました。木村容疑者にとって被選挙権の側面から「制限選挙」という問題意識を抱き、既存の政治への批判を強めていたようです。

木村隆二容疑者(24)が投げ込んだ爆発物に、ナットのような部品が複数取り付けられていたことが19日、捜査関係者への取材で分かった。和歌山県警はナットを飛散させることで殺傷能力を高めようとした可能性もあるとみて、殺人未遂容疑も視野に爆発物の詳しい構造を調べる。

時事通信は『筒にナット、殺傷力向上か=60メートル先に穴―岸田首相遊説爆発・和歌山県警』という上記の内容の記事を配信していました。このような報道によって、死者や重傷者を出さなかったことは奇跡的な「不幸中の幸い」だったものと受けとめています。昨年7月に起きた安倍元総理の銃撃事件以上の大惨事となっていた可能性を想像すると、たいへんな戦慄を覚えています。

木村容疑者が選挙制度の仕組みに問題意識を持ち、岸田総理や安倍元総理を批判することは言論や表現の自由として許容されていかなければなりません。しかし、批判する相手を暴力によって抹殺するような行動は絶対容認できません。安倍元総理の銃撃事件直後の当ブログの記事明日は参院選、今、願うこと」の中では次のように記していました。

より望ましい「答え」を見出すため、自分自身の考えが正しいと信じているのであれば、異なる立場の方々が「なるほど」と思えるような言葉を駆使しなければなりません。いろいろな「答え」を認め合った上、いがみ合わないように努めながら言葉を競い合っていくことが重要です。

まして「気にくわない相手だから殺してやる」などいう発想は言語道断であり、暴力に訴える行為そのものが絶対許されません。言葉の競い合いを具現した選挙戦の最中、そのような蛮行を目の当たりにすることになった事態は様々な意味で残念でなりません。

今回も選挙戦の最中に起きた衝撃的な事件でした。そもそも被選挙権の年齢制限の緩和や供託金の廃止などの仕組みを変えたければ、言論活動によって共感者を広げ、既存のルールのもとで改めていくべきという賛同者を広げていかなければなりません。

その一つに選挙という既存のルールがあり、言葉の競い合いによる一票一票の積み上げが仕組みを変えていける可能性を残しています。地道で非常に時間がかかり、容易に実現できない高い壁ばかり立ちはだかるのかも知れません。

それでも木村容疑者が仕組みを本気で変えたいのであれば、根気よく一歩一歩積み重ねていく努力が求められていたはずです。そのような努力を放棄し、暴力に訴えた行為は、それこそ「許されない民主主義への挑戦」だったと自らが批判を受けるべき取り返しの付かない結果を招いています。

前回記事は「多面的な情報を提供する場として 2023年春」でした。ここまで事件の背景に関わるメディアの記事をいくつか紹介してきました。今回の衝撃的な事件の後、ネット上で様々な論評を目にしています。上記に紹介した記事と同様、見出しをクリックされれば当該のサイトを参照できるようになっています。

LITERAの記事『岸田首相襲撃で古市憲寿と橋下徹が安倍銃撃を持ち出し暴論!「山上被告を英雄視したせい」「統一教会被害者救済法をつくったのが問題」』は古市憲寿さんと橋下徹さんの発言を紹介した上で、それぞれの発言内容の問題性を指摘しています。普段通りのLITERAらしい立ち位置の記事内容だと思っています。

夕刊フジの記事『安倍元首相の「暗殺成功して良かった」で大炎上、作家で法大教授の島田雅彦氏 発言翌日に岸田首相襲撃 夕刊フジに寄せた全文を掲載』は島田雅彦教授の発言の問題を取り上げています。島田教授は「軽率であった」と反省していますが、政治家であれば即時に責任を問われるような失言だったはずです。

最後に、日刊ゲンダイの記事『岸田首相襲撃の根源に「アベ政治」への激しい怨嗟…見えてきた木村隆二容疑者の犯行動機』を紹介します。やはり普段からの政権との距離感が反映されている記事内容だと言えます。後半の記事内容をそのまま掲げますが、国際政治学を専攻している高千穂大の五野井郁夫教授の言葉に目を留めていました。

振り返れば、安倍政権は「民主主義への挑戦」の連続だった。選挙で勝利するたび「民意」を錦の御旗に、多くの重要法案も数の力に任せて強行採決。集団的自衛権の行使容認も閣議決定の解釈改憲で片づけてしまった。

民主的な手続きを骨抜きにする政治スタイルを岸田首相も踏襲。防衛予算倍増や原発政策の転換など、自民1強をいいことに、やりたい放題である。

「持てる者」が「強者の論理」に寄りかかり、対話と熟議に基づく民主主義をないがしろにする──。10年以上に及ぶ「アベ政治」が、木村容疑者を蛮行に駆り立てた背景にあるのではないか。

自民党内からは「テロを起こした人間の主張や背景を一顧だにしない」(細野豪志衆院議員)との意見も出ているが、「木村予備軍」は確実にいる。だからこそ、再発防止のために動機や背景を探る必要があるはずだ。

木村容疑者の犯行が民主主義の破壊行為であることは言うまでもありませんが、ゆえに動機も背景も捨て置くというのは、あまりにも雑です。政治家なら、この国の格差や世襲といった本質的な問題を問うていかないといけないと思います」(五野井郁夫氏)

政治への怨嗟を放置していては、また同じことが繰り返されるだけだ。再び襲撃犯を生みださない責任は、権力を持つ政治側にもある。

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