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2023年3月25日 (土)

受けとめ方の落差

前回記事「放送法での政治的公平性 Part2」の冒頭に「季節の移ろいを感じ始めていく来週末までに3大会ぶりの優勝を見届けられることを願っているところです」と記していましたが、WBCで日本代表は14年ぶり3度目の優勝を果たすことができました。

準決勝で村上選手がサヨナラ打を放った瞬間、思わず目頭が熱くなりました。残念ながら翌日の決勝戦は仕事を休めず、リアルタイムで優勝に向けた瞬間の感動を味わうことができませんでした。それでも夜の録画放送などを通し、大谷選手らの奮闘ぶりを目に焼き付けています。

さて、前回記事の最後には「総務省の行政文書の問題は今後の推移を見守りながら改めて取り上げることになるのかも知れません」と記していました。今回の記事はタイトルに掲げた「受けとめ方の落差」という切り口から総務省の行政文書に絡む問題に対し、いろいろ思うことを書き進めていくつもりです。

今回もネット上に掲げられたサイトの記事の見出しにリンクをはりながら様々な情報や考え方を拡散する機会としていきます。まず選挙ドットコムちゃんねるまとめの記事『放送法第4条「政治的公平」とは?高市大臣発言はどこが問題?』を紹介します。その中でジャーナリストの津田大介さんは次のように解説しています。

彼女が立場を変えた時に、どうして彼女が立場を変えざるをえなかったのかを想像することは大事だなって。僕は問題だと思うし辞任すべきだと思うけれど、彼女も政治的な大きな圧力の中で巻き込まれた当事者だっていうところもある。

どうして高市大臣が捏造だと言ったのかと問われた際、津田さんは「安倍さんの真似をしたんじゃないですかね。安倍さんが森友の時にそれやって、あのたんかがかっこいいからと思ったのか…あれ言わなければこんな問題になってないですよね。まだわからないんで、どこまで本物なのか精査して確認して対処いたしますくらいにしていれば、こんなことにならなかったはずなんで」と答えています。

最も重要な論点は放送法の解釈が不当な政治的な圧力によって、ねじ曲げられたのかどうかであり、高市大臣の不用意な発言で本質的な議論から遠ざかりがちなことを憂慮しています。共同通信の総務省、文書捏造なかったと結論 放送法「安倍氏に説明」』の報道による事実関係は次のとおりです。

総務省は22日、放送法の「政治的公平」の解釈を巡る行政文書について最終的な調査結果を発表し、捏造があったとは「考えていない」との見解を示した。2015年に、担当局長が当時の高市早苗総務相に対し、政治的公平の解釈を説明したとの記載がある文書に関し、放送に絡む何らかの「レクがあった可能性が高い」と指摘した。

ただ、高市氏の15年の国会答弁前に解釈に関連する説明をしたかどうかは確認できなかったと結論付けた。調査結果では、礒崎陽輔元首相補佐官が「(政治的公平の解釈を巡る)この問題について、安倍晋三元首相にレクをした事実はある」と証言したことを明らかにした。

高市大臣は当初「文書自体が捏造だ」と言い切っていました。行政文書としての存在が明らかになった以降は「自分自身に関わる内容が不正確である」という言い方に変えています。不正確な一つとして「大臣レク自体なかった」と説明しています。しかし、その指摘自体も高市大臣の思い違いであるようです。

前々回記事の中でも記したとおり自分自身の経験則で言えば記憶は当てになりませんが、記録を読み返せば事実関係を思い出すことができます。実際、徴税吏員という職務を通して大勢の方々と面談し、その都度、相談内容の記録を残しています。1週間前にお会いした方だったとしても、その時のやり取りを思い出せないことのほうが専らです。

それでも記録を読み返すことで相談内容を思い出すことができます。万が一、すべて明解に思い出せなかったとしても、その時の記録内容に沿って新たな相談や今後の対応方針について判断していくことになります。相談内容の記録は担当者以外の徴税吏員も確認できるシステムとしています。

担当者が不在の時に突然来庁された方に対し、前回の相談内容を踏まえて対応できるような仕組みとなっています。したがって、当たり前なことですが、相談内容は正確に記録しなければなりません。上司の決裁が必要な文書ではなく、あくまでもメモという扱いですが、なかったことをあったことのように書くことなどあり得ません。

ただ録音している訳ではなく、すべて速記録のように残せていませんので、会話した内容の一字一句が記録された完璧なメモではありません。言い回しや表現の仕方が異なり、担当者が意訳することで結果的に発言した当事者の意図を充分くみ取れていない場合も生じているのかも知れません。

しかし、前述したとおり右か左か、◯か✕か、事実関係を真逆に歪曲や捏造することは絶対あり得ません。ちなみに聞き取った病名について正確にメモできなかった場合などは、あえて具体的な病名は記録に残さないようにしています。もちろん病気だったという事実関係は書き残しておきます。

このような自分自身の経験則に照らし、総務省のホームページから「厳重取扱注意」とされた問題の文書全文を閲覧していました。細かな経緯や個々の発言内容に多少差異があっても、そこに書かれた内容は大筋で間違いないものだろうと受けとめています。そもそも内部文書の内容を総務省側に偽る必要性がないため、高市大臣の記憶のほうが曖昧なのだろうと推測していました。

しかしながら日刊ゲンダイの記事『高市氏が“話を盛る”たび議論は脇道へ…総務省の新証言で「水掛け論」に終止符を』のとおり高市大臣は自分自身に関わる内容に対する不正確さを訴え続け、夕刊フジは『放送法文書問題めぐり「濡れ衣晴らす」高市早苗氏が大反撃』という動きを伝えています。

高市氏は24日発売の月刊誌「WiLL」に「『捏造』です! 事実に二つなし」という独占手記を発表し、「月刊Hanada」では「『小西文書』は絶対に捏造です」という独占インタビューを受けている。

「月刊Hanada」のインタビューで、高市氏は「私が言わないことが数多く書かれている極めておかしなメモ」「(メモの)配布先から事務次官や大臣室が外され(中略)不正確な内容が保存されていることを知る術もなく、抗議することも不可能」「(自身が登場する)文書は捏造されたものである、と自信を持っています」などと、計10ページにわたって詳細に説明している。

今回の放送法文書問題をどう見るか。官僚組織に詳しいジャーナリストの石井孝明氏は「そもそも、最大の焦点だった『放送法の解釈変更』という点は、松本剛明総務相が『(当時の)高市大臣の答弁は、従来の解釈を変更するものとは考えておらず、放送行政を変えたとは認識していない』(16日、衆院総務委員会)と否定している。審議の焦点があいまいで、高市氏は政争に巻き込まれた印象がある。

一方、政府・自民党の沈黙も謎だ。安倍元首相亡き後、『触らぬ神にたたりなし』という雰囲気が漂っているのか。ただ、ネット世論は『高市氏擁護』の意見が強い。月刊誌での反撃開始は、こうした世論を盛り上げるのではないか」と分析している。

「高市大臣は政争に巻き込まれた印象がある」と語られていますが、たいへん違和感のある見方です。『高市早苗氏「濡れ衣を晴らす絶好の機会」テレビ入り予算委員会で「挙手しても答弁させて頂けず」』という報道もありますが、捏造でなければ辞任するという軽率な発言さえなければ今回の問題の主役は礒崎陽輔元総理補佐官だったはずです。

当初、放送法の解釈を変更することに慎重だった高市大臣が官邸側のシナリオ通り「一つの番組のみでも極端な場合は、政治的公平を確保しているとは認められない」と国会答弁することに至った経緯に対し、上記に紹介した津田さんの「彼女も政治的な大きな圧力の中で巻き込まれた当事者」という言葉につながっているものと理解しています。

このような経緯があったことから目をそらすため、あえて脇道に誘導しているとしたら非常にしたたかな戦略家だと思います。本当に記憶を思い出せないままだとしたら重責を担い続けていくことを不安視しなければなりません。思い出しているけれども振り上げた拳を下げられず、意固地になっているとしたら最悪な話だと言えます。

私自身、総務省の文書の内容が大筋で間違いなく、少し正確性を確認できないという説明は実際の経験則に照らせば、あり得る幅の問題だと思っています。加えて、総務省側が断定した言い方を控えがちな傾向は、ある意味で高市大臣の面子を配慮しているようにも見えがちです。

しかし、高市大臣の言い分が100%正しいという前提に立った場合、この問題の受けとめ方は激変するようです。NEWSポストセブンの記事『高市早苗大臣の放送法文書問題 岩盤保守層の支持失うのを恐れて岸田首相は更迭できず』では、安倍元総理を信奉されている方々から高市大臣が根強い支持を受けていることを伝えています。

FLASHはそのような岩盤支持層を意識した立場で立憲・小西議員「極秘文書」でツイート炎上 管理簿に存在しない状況めぐり「だからこそ極秘」「怪文書?」分かれる意見高市大臣を「公開説教」の末松参院予算委員長「議会人かくあるべし」「立憲にも同じことを」賛否沸騰』という記事を発信しています。

特に厳格な管理を要する行政文書の取扱い等に関するマニュアル(概要)』に沿った行政文書だからこそ「提供者はこの文書を使って違法な解釈を廃絶し、言論の自由と民主主義を守って欲しいとの思いで私に託してくだった」と小西議員は説明しています。それに対し、管理簿に記載されないような怪文書など信頼できないという批判の声が上がっています。

今回の記事タイトル「受けとめ方の落差」は上記のような現状を焦点化したもので、痛いニュースというサイトの『【悲報】小西議員のTwitterリプ欄で有志が2択アンケート 驚きの投票結果が…』では圧倒多数が高市大臣を支持し、小西議員の言動を痛烈に批判した結果を伝えています。

確かに私自身の見立てが誤りだった場合、高市大臣に対してたいへん失礼な言葉を発していたことを猛省しなければなりません。いずれにしても重要な論点は放送法での政治的公平性のあり方についてです。ぜひとも今後、総務省の行政文書に綴られている事実関係が明らかになり、より建設的な議論につながっていくことを切望しています。

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