会計年度任用職員の課題
最近、ネット上で『「ウクライナと台湾を同一視するのは……」 石破茂元自民党幹事長が安易な防衛増税論に異議』という記事に接しています。防衛費をGDP比2%に引き上げる問題について、自民党の石破元幹事長が 「そもそもなぜ2%なのか、なぜ43兆円なのか、その根拠は分かりません」と疑義を呈していました。
「本来は、これとあれが必要だからいくら必要だ、といった話になるはずなのですが」と述べていますが、まったくその通りだと思っています。このような論点は機会を見ながら改めて深掘りしたいと考えています。今回は前回記事「政策実現と財源問題」から一転して私どもの組合の切実な課題を取り上げます。
昨年夏に「不安定雇用の会計年度任用職員」「会計年度任用職員の雇用継続に向けて」という記事を投稿しています。私自身、執行委員長を退任する前に一定の解決をはかりたいものと考え、ブログ記事で伝えているように市長にも直接働きかけ、私どもの市としての自主的な判断に向けた道筋を見出せるよう力を尽くしました。
残念ながら私の任期中には組合側が納得できる解決をはかれず、会計年度任用職員の雇用継続の課題は新執行部に託しています。ただ私どもの市を含め、都内の自治体の大半は東京都のルールに準じ、公募によらない再度の任用を原則として連続4回としているため、まだ2年ほど猶予があると言えます。
一方で、全国的には『年度末に雇い止め危機の非正規地方公務員、数十万人規模か 「3年目の壁」自動では契約更新されず』という報道のとおり総務省のマニュアルに沿った圧倒多数の自治体は公募によらない再度の任用を連続2回としているため、今年3月末が大きな境目となっています。
公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)のサイトでは『会計年度任用職員”3年目公募問題”(2022年度末問題)特集』という記事が掲げられ、はむねっとは冒頭で次のような問題意識を示しています。
今年度(2022年度)は、地方自治体で直接任用されている非正規公務員の多くに関係する「会計年度任用職員制度」がはじまってから3年目の年度です。このままいくと、今年度末には、全国の地方自治体で現職として働いている人が、いったん雇止めとなり、継続を希望する人は、再度の「公募」に応じなければならないという、大量の「雇止め/公募」が実施される見込みです。はむねっとは、継続して必要とされる職に就いて問題なく働いている人を一律に「公募」にかけることは、大きな問題があると考えます。
私どもの組合も同様の考えであり、労使交渉を通して「現職者の培ってきた業務に対する知識や経験を重視し、5回目に際しては引き続き任用を希望する現職者を対象とした選考試験を実施する。選考方法は面接試験とする。欠員が生じる場合などは新規採用希望者を別途募る。その際は広報等を通じて募集する」という対応案を市側に示しています。
市側も培ってきた知識と経験を重視しているため現職者には「アドバンテージがある」という見方を示しています。いずれにしても業務に熟知した職員が継続的安定的に携わっていくことは住民サービスの維持向上に直結していきます。さらに新規採用者に仕事を教えていく負担が軽減されていく利点もあります。
このような経緯や利点を踏まえた際、5年に1回、現職者と新規採用希望者を競合させることが適切なのかどうか組合は疑問視しています。新規採用希望者と現職者が同じスタートラインに着いていないというアンフェアな見られ方もされかねません。
そもそも法改正時の国会の附帯決議では公務における同一労働同一賃金に重点を置いた対応を求めています。したがって、高年齢者雇用安定法で使用者側に65歳までの安定的な雇用確保を求めている中、会計年度任用職員の皆さんも65歳までの雇用継続が欠かせないものと考えています。
『「正職員に嫌われたら終わり」非正規公務員の苦悩 「2023年問題」自治体7割強で雇い止めの可能性』という記事の中で、非正規公務員の問題に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授は次のように訴えています。
既存職員が積み上げてきた経験や知識が、公募のたびに丸ごと職場から失われ、行政サービスの質が低下するというデメリットも招きかねないため、人事評価で職務に見合う能力があると判断した職員については、公募せずに契約を更新するべきだ。
その記事の中では、460の自治体が公募を実施していないことも伝えています。理由について「勤務を通じて能力を実証できる職員を継続任用する」などと回答し、公募でなくとも能力評価は可能だという判断がうかがえています。
直近の動きを探るため、ネット上を検索したところ2月3日に開かれた松本総務大臣の閣議後記者会見の概要が確認できました。会計年度任用職員の再度任用問題について、記者の質問と松本大臣の答えの全文が掲げられていましたので、そのまま紹介します。
問:自治体で働く会計年度任用職員についてお伺いします。再度の任用について、制度開始から3年となる今年度末に多くの自治体でいわゆる公募による試験が予定されていて、雇い止めにつながるのではないかという指摘があります。労働組合や支援団体はじめ当事者からは不安の声が上がっていますが、総務省としての見解を教えてください。
答:ご承知のとおり、会計年度任用職員は一会計年度を超えない範囲で任用されるものであります。その中で、前年度の職員を再度任用することは可能であることもご案内のとおりでありますが、そもそもその任用に当たっては、地方公務員法に定める平等取扱いの原則、成績主義の原則を踏まえて、できる限り広く募集を行うことが望ましいと考えております。実際に具体的な任用の方法については、各自治体において、地域の実情などに応じて適切に対応いただくべきものであると考えているところであります。
昨年12月には、この旨を通知するとともに、公募を行う場合であっても、客観的な能力の実証を経て再度任用されることがあり得ること、選考において前の任期における勤務実績を考慮することも可能であることなどの考え方を併せてお示ししております。会計年度任用職員に関しては、今申し上げたような丁寧な情報提供を行うとともに、勤勉手当の支給など処遇改善にも取り組んでまいりたいと思っているところでございます。
「地方公務員法に定める平等取扱いの原則、成績主義の原則を踏まえて、できる限り広く募集を行うことが望ましい」という言葉を重視した場合、既定方針通りの自治体が多くなってしまうのかも知れません。一方で「前の任期における勤務実績を考慮することも可能」という言葉に重きを置けば、理不尽で不合理な雇い止めを防いでいけるはずです。
ちなみに組合の委員長時代、自治労や連合等から組合に送られてくる情報は決裁の一つとして紙ベースで毎日チェックしていました。退任後は自ら入手する努力を怠れば余程大きなニュースでない限り、知らないままとなります。自宅に配達される読売新聞、もしくはヤフーのトップ画面等に掲げられるニュースでないと知らないままとなりかねません。
先日、同じ職場の会計年度任用職員の方から「ネットニュースを見たんですが、私たちにも勤勉手当が出るようになるんですか?」と問いかけられました。自治労は署名活動に取り組み、組織内参院議員の岸まき子さんらが総務省と交渉していましたが、そこまで確定的な動きがあることは知りませんでした。
この問いかけを受けた後にネットを検索し、共同通信が1月22日に『非正規公務員のボーナス拡充 格差是正に向け総務省法改正へ』という見出しの記事を配信していることを知りました。その時点で読売新聞の紙面では見かけていなかったニュースでしたので、共同通信のスクープだったようです。
総務省は、自治体で働く単年度契約の非正規職員(会計年度任用職員)のボーナスを拡充する方針を固めた。公務員のボーナスは期末手当と勤勉手当で構成。会計年度任用職員には期末手当しか支給できないが、正規職員や国の非正規職員と同じく両方を支給できるようにする。格差是正が狙い。地方自治法改正案を通常国会に提出、早ければ2024年度から適用する。関係者が22日明らかにした。会計年度任用職員は20年4月時点で約62万人。業務は新型コロナウイルス対応など多岐にわたり、自治体運営に欠かせない。【共同通信2023年1月22日】
雇用継続の課題は、まだまだ楽観視できない現況です。それに対し、勤勉手当支給に関しては上記のような報道に至っているのであれば、ほぼ間違いなく実現できるはずです。さらに安心できる材料として、1月28日に時事通信も『自治体非常勤職員に勤勉手当 24年度にも支給可能に―総務省』という後追いの記事を配信していました。
総務省は、地方自治体が非常勤の「会計年度任用職員」に対し、勤勉手当を支給できるようにする方針だ。公務員のボーナスは期末手当と勤勉手当で構成するが、現在は期末手当しか支給できない。勤勉手当も支給可能にすることで国の非常勤職員と待遇をそろえる狙いで、関連規定を盛り込んだ地方自治法改正案を今通常国会に提出する。早ければ2024年4月の施行を目指す。
勤務成績を反映する勤勉手当は、会計年度任用職員の約9割を占めるパートタイムについては自治法で支給が認められておらず、フルタイムは法律上可能だが、総務省の通知で「支給しないことを基本とする」とされている。ただ、内閣人事局によると、21年度時点で国家公務員の非常勤職員には、対象者全員に勤勉手当が支給されており、自治体から国に合わせ支給可能にすべきだとの要望が出ていた。
これを踏まえ、総務省は法改正により、パートタイムについて勤勉手当の支給を可能にする方針。フルタイムも通知の改正で対応する。期末手当は、20年度に会計年度任用職員制度が創設された時点から支給できる仕組みとなっており、法改正に伴いボーナスの増額につながる見込み。待遇改善により、会計年度任用職員の業務意欲の向上などにつながることが期待される。自治体側が勤勉手当を支給するに当たっては、条例改正などの対応も必要。支給額は、それぞれの職員の職務内容や勤務時間などに応じて、各自治体が決めることになる。【JIJI. COM 2023年1月28日】
会計年度任用職員の一時金は期末手当のみの支給に限られ、勤勉手当が支給されていません。そのため、年間一時金の支給月数は常勤職員の半分ほどにとどまっています。さらに人事院や人事委員会の勧告で、2年続けて公務員全体の期末手当が引き下げられていました。
しかしながら今年度、久しぶりの引き上げ勧告は勤勉手当に絞られ、会計年度任用職員の皆さんにとって理不尽な事態が続いていました。今後、勤勉手当が支給されるようになれば年収増とともに、そのような理不尽さも解消できます。何としても法改正の動きが確実なものになることを願っています。
会計年度任用職員の皆さんに関わる様々な課題に対し、私自身、直接的な労使交渉の場に立てません。それでも一組合員、一協力委員として、現執行部を応援していければと考えています。そのような意味合いから今後も当ブログの中で、会計年度任用職員の課題を逐次取り上げていくつもりです。
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