『安倍晋三 回顧録』と『国策不捜査』 Part2
ロシアがウクライナを侵略し、1年が過ぎました。プーチン大統領は戦争開始後初めての年次教書演説で軍事侵攻の正当性を強調しています。権力者の意思によって止められるはずの戦争も、それを支える国民の多くが支持している限り、たいへん残念ながら出口を見出すことが容易ではありません。
2月6日には人間の意思でコントロールできない大地震がトルコとシリアを襲っていました。ただ『トルコ・シリア大地震、死者4万人「人災」の指摘 被害拡大の背景に建物の脆弱な耐震性』という報道のとおり自然の脅威に対し、人間の意思や努力によってダメージを減らすことはできたはずです。備えさえあれば救えた数多くの命の無念さにやるせなさを感じています。
さて、前回記事の最後のほうで「今回のブログ記事も長くなるものと思っていました」と記していました。発売日当日に手にした『安倍晋三 回顧録』は予想以上に面白く、興味深い内容が多い書籍だったからです。
それにも関わらず、記事タイトルは「『安倍晋三 回顧録』と『国策不捜査』」としていました。『国策不捜査 「森友事件」の全貌』は副題のとおり森友学園の問題を掘り下げたハードカバーの書籍です。こちらはブックオフで購入し、たまたま『安倍晋三 回顧録』と読み終えた時期が重なっていました。
そのため、森友学園の問題を安倍元総理の言葉で振り返る際、一方の当事者である籠池泰典元理事長の回顧も併せて紹介すべきものと考えました。長い新規記事になっていましたので、途中で一区切り付けて今回、その続きを「Part2」として改めて書き進めていきます。
安倍さん、なぜ『嘘』つくんですか!? 森友事件 籠池泰典氏が、初めて明かす衝撃の事実。500ページに及ぶ独白の記録を2月19日に迫る地裁判決を前に緊急出版!日本中を巻き込み、過去類例を見ない一大疑獄へと発展した「森友事件」。総理夫人との密接な関係、不可解な国有地の割引売却、公文書の改ざん、担当者の自殺――数々の疑惑を残したまま、事件発生から早3年が経とうとしている。
その間、絶えず密着取材を続けてきた赤澤竜也氏は籠池氏の本心を聞き出すことに成功。300日に及ぶ過酷な拘置所生活の実態や、昭恵夫人からかかってきた電話の中身、「身を隠せ」と指示した財務省の思惑、「日本会議」と「生長の家」との因縁、自殺した近畿財務局職員との知られざる交流など、森友事件の数々の「謎」に光を当て、その全貌を明らかにする。
上記はリンク先に掲げられている『国策不捜査』の紹介文です。ブックオフで手に入るとおり3年前に出版された書籍です。地裁判決後も争われていた補助金不正受給事件の上告は棄却され、籠池夫妻の実刑判決が確定しています。
小学校の建設工事や幼稚園の運営を巡り、国、大阪府、大阪市の補助金、合わせて1億7600万円を騙し取ったとして詐欺などの罪に問われた事件でした。籠池夫妻にとって承服できない結果であるようですが、補助金に関する事件は大きな節目を刻んでいました。
この事件で実刑判決に至っている森友学園の籠池元理事長らが責任を問われ、反省すべき点があることは確かだろうと思っています。しかし、いわゆる「森友事件」の全貌からすれば傍流の一事件に対しての結論が出たという話に過ぎません。
『安倍晋三 回顧録』の中で100万円を寄付したことの事実関係などを問われた際、安倍元総理は「理事長夫妻はその後、国や大阪府などの補助金を騙し取ったとして詐欺などの罪に問われました。もう、私と理事長のどちらに問題があるのかは、明白でしょう」と答えています。
このような理屈で自分の言葉の正しさをアピールする安倍元総理は「桜を見る会」前日に催した夕食会を巡り、国会質疑の中で虚偽答弁を118回も繰り返していました。仮に同じ理屈で比べた際、どちらに問題があるのかどうか、あまり明白だとは言い切れなくなります。
私自身、これまで安倍元総理が国益のため、国民のために力を尽くされてきたものと思っています。その上で「批判ありき」ではなく、あくまでも安倍元総理の具体的な言動に対し、いろいろ個人的な思いを当ブログの中で批評してきました。
森友事件に関しては2017年3月に「森友学園の問題から思うこと」という記事を投稿しています。その中で「森友学園の問題で安倍首相や昭恵夫人が贈収賄につながるような働きかけを関係機関に行なっていないことはその通りだろうと考えています」と記していました。2020年3月には「財務省職員の遺書全文公開」を投稿し、次のような問題意識を訴えていました。
昭恵夫人が森友学園と関わっていたことは事実でした。そのことを把握されていなかったのかも知れませんが、安倍首相が国会で「私や妻が関わっていれば、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁したことも事実です。そして、この答弁が一連の公文書改ざんの問題につながり、赤木さんの自死という悲劇を招いたことも事実だろうと思っています。
改ざんの指示が佐川元理財局長だったことも事実認定されています。ただ佐川元理財局長や財務省の判断による「忖度」から始まった問題だったのか、官邸や政治家からの指示があったのかどうかは不明瞭なままだと言えます。安倍首相が公文書の改ざんに直接関わっているとは考えられませんが、財務省だけに責任を負わせる問題だったのかどうかは釈然としません。
上記の問題意識は現在も変わっていません。国側が再調査に消極的で裁判を通しても、核心的な真相が明らかになっていないからだと言えます。『安倍晋三 回顧録』の中で、安倍元総理は昭恵夫人とともに一切関与がなかったことを強調し、「土地交渉は、財務省近畿財務局と国土交通省大阪航空局のミス」だったとしています。
問題の土地で新たに見つかったゴミの処理が不適切で、籠池元理事長に裁判を起こされそうになって慌てた官僚たちが値下げをしたという筋立てを説明しています。公文書の改ざんは佐川元理財局長の国会答弁との整合性を取るために行なわれたと語り、財務省の動き自体を次のように見ていました。
私は密かに疑っているのですが、森友学園の国有地売却問題は、私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない。財務省は当初から森友側の土地取引が深刻な問題だと分かっていたはずなのです。でも、私の元には、土地取引の交渉記録など資料は届けられませんでした。森友問題は、マスコミの報道で初めて知ることが多かったのです。
さらに安倍元総理は「財政をあずかっている自分たちが一番偉いと考え、国が滅びても、財政規律が保たれてさえいれば満足なんです」と財務省を評しています。その章の見出しは「安倍政権を倒そうとした財務省との暗闘」と付けられていましたが、ぜひ、このあたりについては財務省側の言い分も伺いたいものです。
続いて『国策不捜査 「森友事件」の全貌』の内容にも少し触れていきます。前述した書籍の紹介文の冒頭で「安倍さん、なぜ『嘘』つくんですか!?」と問いかけています。籠池元理事長の率直な疑問や理不尽さに対する怒りが書籍全体を通して伝わってきていました。
タイトルの「国策不捜査」という造語には、籠池氏の怒りが込められているようだ。自分は国策によって補助金絡みの詐欺罪に問われ、300日近くも逮捕・勾留されて今も裁判中なのに、公文書改ざんに対しては国策によって捜査が事実上回避され、逮捕も家宅捜索も行われず、財務官僚は全員不起訴となっていることへの怒りだ。
上記はジャーナリストの内田誠さんの書評『公文書改ざん問わぬ怒り』の中の一文です。籠池元理事著は「ボクの事件を先に立件したのは構わない。並行して8億円値引きもちゃんと捜査してくれているのならそれでよかった…」と語っています。今回取り上げている二つの書籍、それぞれ当事者の声が中心となってまとめられています。
したがって、どちらが真実に近いのか、安易に判断してはいけないのだろうと思っています。しかしながら『国策不捜査』のほうで綴られている詳細な内容を読み終えた時、安倍元総理の回顧と事実関係に乖離があるように感じ取っていました。ある意味で籠池元理事長は、国側の交渉過程における方針転換によって翻弄された上、名誉も財産もすべて失うことになった「被害者」だったようにも思えています。
当初、近畿財務局に「安倍晋三記念小学校」という名前で進めるという話を伝えながらも交渉は苦戦していました。しかしながら2014年4月28日、近畿財務局の担当者に籠池元理事長夫妻と昭恵夫人とのスリーショット写真を見せた以降、ギアが3段ぐらい上がったことを書籍の中で伝えています。
森友学園の教育方針に賛同し、名誉校長就任を引き受ける話など昭恵夫人は自らの意思で籠池元理事長らを応援していたことが綴られていました。それにも関わらず、2017年2月17日、安倍元総理は国会で「私や妻が関わっていれば、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁しました。『国策不捜査』の中ではA氏とされている方の自死についても触れられています。
2月24日あるいは25日に籠池氏が近畿財務局に電話を入れると、たまたま電話に出たA氏が「あの、あの」とあせった様子で応じ、「理事長、じつはボクたちは直接お話できないことになりまして…」と苦汁に満ちた声で返答しています。このことから、A氏は口封じにも加担されていたことがわかります。
2月17日の答弁で安倍元総理は「森友学園の先生の教育に対する熱意はすばらしい」と評価していました。それが1週間後の24日には籠池元理事長について「簡単に引き下がらない」「非常にしつこい」と酷評しています。籠池元理事長は安倍元総理の手のひら返しの理由を知りたいと書籍の中で繰り返し訴えていました。
最後に、『国策不捜査』の中で最も印象深かった箇所を紹介します。いつも当ブログの中で訴えている多面的な情報に接していくことの大切さに相通じる籠池元理事長の言葉です。このような意味合いを込め、2週にわたって「『安倍晋三 回顧録』と『国策不捜査』」という記事を綴っていました。
森友事件が起こって良かったと思うことは、自分のものの見方や考え方が広がったこと。家内も同じことをよく言っている。野党の先生方や朝日新聞の記者さんなんかと話していると、「違うな」と思うこともある反面、「なるほどこういう考え方もあるんだ」と勉強になることも多い。
リベラルや左派の人の考えは、確かにボクが抱く愛国精神とは違うものの、皆それぞれに国のことを思って行動していると感じるようになった。もちろん、例えば天皇について突っ込んだ議論をすれば衝突するだろう。ただし主義主張や思想は違えど、連携できるところがあるのならしていけばいい。そう考えるようになった。
いかに自分が「産経新聞」と「正論」と「WiLL」が築き上げた世界観のなかに閉じこもって、狭い思考に固執していたか思い知った。先にも少し述べたが、森友事件に際し、野党議員の力を借りたのは自民党がウソをつき続けたから。「籠池が政治的に寝返った」とか「左翼活動家に騙された」などと言う方も多いようだが、お門違いも甚だしい。
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