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2022年10月22日 (土)

旧統一教会と自民党 Part2

前回記事「旧統一教会と自民党」の最後は「過去は変えられませんので、2世信者だった小川さゆりさんらの切実な声を受けとめた政治が今後実現していくことを強く望んでいます」という言葉で結んでいました。

先週末に前回の記事を投稿してから、この一週間で様々な動きが見られています。まず宗教法人の解散命令、「使用者責任」も不法行為に含まれる…首相が考え示す 』という報道です。

岸田首相は19日の参院予算委員会で、「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)を巡り、宗教法人法に基づく解散命令の要件に、民法の不法行為も含まれるとの見解を表明した。18日の国会答弁では、刑法違反のみとの認識を示しており、1日で法解釈を変更した。

首相は「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかとなり、宗教法人法の要件に該当すると認められる場合には、民法の不法行為も入りうる」と語った。不法行為に関し、指揮・監督する立場の人物の責任を問う「使用者責任」も対象に含まれるとの考えも示した。

法解釈を変更した理由について「厳格な法治主義に基づいて法律の適用を考え、政府として考え方を整理した」と説明した。刑事判決が確定するには時間がかかるなどとする野党の主張も踏まえ、刑法違反だけでは解散命令請求の可能性を狭めかねないと判断したとみられる。

解散命令の要件について、宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと」などと定めている。判例では、「刑法等」の違反があることを挙げている。これに対し、首相は「『等』には民法も含まれるという判断だ」と述べ、解釈を明確化した。

首相は18日の衆院予算委では、解散命令の要件について「民法の不法行為は入らないという解釈だ」とし、「(判例を踏まえて)刑法等で定める禁止規範や命令規範に違反するものとの考え方を踏襲している」と述べていた。

一方、首相は、宗教法人法に基づき初めてとなる「質問権」の行使に向け、弁護士ら専門家の意見も踏まえ「政府全体の総力を挙げて質問内容を練り上げていく」とも強調した。

政府は年内に調査を開始して解散命令請求の可否を判断する。政策決定の透明性を確保するため、議論の場となる宗教法人審議会などの議事録公開も検討する。【読売新聞2022年10月19日

1日で法解釈を変更したことについて「朝令暮改にも程がある」という批判も受けていましたが、岸田総理の「聞く力」が良い意味で発揮されたという見方もできます。ただ次のような舞台裏の事情が明かされると、やはり決して好意的に評価できるような話ではなかったようです。

政治ジャーナリストの田崎史郎氏が20日、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」に出演。岸田文雄首相が1日で答弁変更し、宗教法人への法令違反要件について「民法の不法行為も入り得る」との見解を示したことに言及した。

岸田首相は、19日の参院予算委員会で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する宗教法人法に基づく調査を巡り、宗教法人への解散命令請求が認められる法令違反の要件について「民法の不法行為も入り得る」との見解を示した。18日の衆院予算委では刑法違反を挙げ、民法は含まないとの認識を示しており、1日で答弁を変更した。

田崎氏は「まず押さえておかないといけないことは、総理の答弁というのは非常に重いんですね。閣議決定や法律に匹敵するくらい重いんです。それを一夜で変えるというのは極めて異例だし、変えてはいけないんですね」と指摘。

変更された経緯について「(18日に)長妻さんが要件を聞いてくると思わなかったと。質問権の話で来ると思ったのに、解散命令の話で来たんで、それでそこにあった紙を総理が読み上げてしまった」とし、「これはやっぱり総理を支える官僚の人たちの準備不足。もっと用意しておかないといけなかったんですよね」と自身の見解を述べた。

司会の羽鳥慎一アナウンサーの「なんで用意してなかった?」には「想定していなかったって言うんですけど。質問通告がなかったせいもあるんですが、質問を想定しながら答弁をつくらなといけないんです、彼らは。だからそこの想像力の問題だと思いますね」と言い、羽鳥アナの「一昨日は岸田総理のその場の判断であの発言になったということ?」という問いには「そういうことです。そこで手元にあった文化庁のペーパーをそのまま読んでしまった。

その後に、この問題に詳しくて法曹資格、弁護士資格を持つ自民党議員少なくとも2人が、あの総理答弁まずいんじゃないのと。民事も含まれるはずだよということがあったんで、それから慌てて秘書官が法務省などと協議を始めたということですね」と話した。【Sponichi Annex 2022年10月20日

迷走ぶりが見受けられながらも支持率の急落を受け、岸田総理が旧統一教会の問題に真正面から取り組み出したことは歓迎すべき動きだと言えます。『旧統一教会の被害者救済、与野党が初会合 今国会での法案成立を確認』という報道のとおり前回記事を投稿した時には想像できなかったスピード感です。

このような政府の動きに対し、危機感を抱いた旧統一教会側は自らの立場や主張の正しさを広く発信する場を設けていました。『“統一教会”6回目の記者会見 怒りの声も… “家庭崩壊”訴える男性「ここまでやる?」』という見出しのとおり驚くべきパフォーマンスを繰り出してきました。

教会改革推進本部の勅使河原秀行本部長が紹介した後、教区長に昇格させたという2世信者である男性17名が黒系統のスーツに身を包み、ズラリと並んだ場面は異様でした。勅使河原本部長の高揚感とは裏腹にマスク越しでの印象となりますが、誰からも誇らしげな姿は読み取れませんでした。

世信者だった小川さゆりさんは「2世たちに寄り添うという形には、まったく見えなくて、2世たちを昇格させてあげたでしょうと、すごく上から目線にしか聞こえなくて、正直ちょっとあのシーンが一番信じられなかったです。過去一番、最低な会見だったなと私は思いました」と語っています。

それ以上に驚いたのは女性信者の映像が流れた場面です。家庭崩壊に追い込まれ「息子が自殺した」と訴えている橋田達夫さんの元妻が旧統一教会側の立場を優位にするため、橋田さんの主張が虚偽であると証言している映像でした。

元妻の言葉を完全に否定できる事実関係を把握している訳ではありませんが、極めて慎重さを要する映像を記者会見の場で流す教団側の感覚や姿勢に大きな疑問を抱かざるを得ません。橋田さんの「ここまでやる?家族を。勅使河原ここまでやる?」という言葉が耳に残ります。

前回記事を投稿した後、通勤帰りに立ち寄った書店で鈴木エイトさんの『自民党の統一教会汚染 追跡の3000日』を見かけ、すぐ手にしていました。数日のうちに読み終え、次に投稿するブログの内容も旧統一教会と自民党との関係を取り上げようと考えていました。そして今回、記事タイトルに「Part2」を付けて書き進めています。

第2次安倍政権発足後、9年間、3000日以上にわたって自民党と旧統一教会との関係性を追ってきた鈴木エイトさんだからこそ、ここまで濃密な内容の書籍を刊行できたものと思っています。安倍元総理が凶弾の犠牲となった事件以降、緊急刊行となったことについて編集担当は次のように紹介しています。

事件以降、次々と明るみになる自民党と旧統一教会の関係を、その何年も前から追い続けていたのが鈴木エイト氏です。鈴木氏は、刊行の当てもないままこの本の元となった原稿を以前から書きためていました。テレビ出演など大忙しのなかその原稿に大幅加筆し、この緊急刊行にこぎ着けることができました。圧力に屈せず真実をひたすらに追い続けたジャーナリストの、覚悟と執念の集大成です。

前回記事で「旧統一教会と自民党政治家が歪な関係性を築き、政治的な意思決定が歪められてきたのかどうか決め付けることはできません。隠し続けなければならない実態が白日のもとにさらされることを警戒し、解散命令に及び腰なのではないかという見方も憶測でしかありません」と記していました。

しかし、9年間取材してきた鈴木エイトさんの見方に対して「憶測でしかありません」と記したことをお詫びしなければなりません。鈴木エイトさんが断定調に語っていることは、しっかりとした裏付けの取れた事実関係の数々であることに間違いないようです。そのような点について前置きした上、書籍を読み終えて特に印象深かった箇所を紹介していきます。

前回記事の中で、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が政治家に対し、反社会的団体である旧統一教会にエールを送るような行為は止めるよう繰り返し要請してきたことを伝えていました。書籍を通し、2018年6月に全国弁連が衆参の国会議員全員に声明文を送っていたことを知りました。

このような「忠告」にも関わらず、直後の教団イベントに来賓出席する議員が続出していたことを書籍の中で伝えています。いずれにしても萩生田政調会長らの「この20年間、霊感商法について被害がないと認識していた」などという釈明は真っ赤な嘘だったのか、全国弁連からの要請に対する不誠実ぶりを明らかにしています。

書籍の中で「政教分離については国会議員が統一教会と付き合いがあるというだけで即アウトとも言い切れない」という記述があり、宗教団体が政治活動を行なうこと自体も否定していません。「霊感商法などで社会的に問題視されている宗教団体に政治家が関わること自体に問題がある」と鈴木エイトさんは訴えています。

書籍の前半にはユナイトについて触れられています。安倍政権が推進した安保法制に反対する学生組織シールズが脚光を浴びていました。その流れに対抗し、2016年1月に「国際勝共連合大学生遊説隊ユナイト」が結成されました。メンバー全員が旧統一教会の2世信者でした。

ユナイトに対する取材を通し、鈴木エイトさんはユナイトの「誕生」は安倍政権の意向を反映したものだったとの推論が必然的に導かれるという見解を示しています。仮に政権側が2世信者たちを使って印象操作し、世論を誘導しようとしていたとすると、道義的な側面だけでなく、政教分離の観点からも問題であることを訴えています。

安倍政権の約8年。目先の国政選挙や憲法改正に向けた世論誘導のため、この歴代最長政権は最も手を組んではいけない相手とギブアンドテイクの関係を続けた。国のトップが自らの政治的野心のために「反社会的」団体と取引したことは「桜を見る会」問題をも凌駕する深刻な事態だ。

第2次安倍政権発足以降の約8年間、政権首脳が率先して問題教団との関係を構築した。その姿勢を見た国会議員・地方議員は、罪悪感を抱くことなく教団や関連組織と“付き合い”を続けた。

これらの政治家は表向きには教団の問題性を認めておきながら、裏では関係を持ってきた。これは国民への裏切り行為に他ならず、清廉さが求められる政治の世界にこのような政治家が跋扈する素地を作ったことは安倍政権の弊害の一つだ。

上記は書籍の中に掲げられた文章をそのまま転載しています。山上徹也容疑者の起こした事件が決して正当化されることでないことを鈴木エイトさんは強調しています。そのことを前提としながらも政治家がカルト被害者の家族、特に子どもの被害実態を軽視し、放置してきたことの責任を問いかけています。

今回も長いブログ記事となっています。あまり個人的な思いを添えず、後段は鈴木エイトさんの書籍の内容の紹介を中心に書き進めてきました。まだまだ紹介したい興味深い情報が詰まった重い内容の書籍です。最後に、鈴木エイトさんの自戒を込めた言葉を紹介し、今回の記事を終わらせていただきます。

自戒を込めて書くが、本来であればこのような事件が起こる前に、「統一教会の悪質さ」「被害の深刻さ」「家庭崩壊や2次被害者の存在、2世問題」「政治家との関係」等を可視化し提示しなければならなかった責任は、メディアを含む我々社会の側にもある。

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