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2022年8月27日 (土)

平和への思い、2022年夏 Part3

ロシアがウクライナに軍事侵攻し、半年が過ぎてしまいました。この瞬間にも罪のないウクライナの人たちの命が脅かされています。たいへん悲しむべきことに戦火は未だ消える兆しさえ見られません。

2020年11月に投稿した記事「グローバルな話題に一言二言」の中で「地球温暖化や感染症対策など自国中心主義では解決できない地球規模の問題に直面している今、よりいっそう国際的な連帯が強く求められているはずです」という言葉を残していました。

しかし、残念ながらロシアのウクライナへの侵略は自国中心主義の極みであり、国際的な連帯の必要性に真っ向から相反するものです。8月に入り平和への思い、2022年夏」「平和への思い、2022年夏 Part2」という新規記事を投稿しています。

私どもの組合の動きを紹介しながらの内容でしたので、それぞれ「平和への思い」という記事タイトルとのミスマッチ感がありました。もう少し個人的な思いを書き足すことも考えていたため、久しぶりに「Part3」として書き進めています。

前回記事で触れたとおり8月15日のNHKスペシャル『ビルマ 絶望の戦場』などを見て大東亜共栄圏という言葉の空疎さや不条理さを改めて認識する機会となっていました。同時に現在のロシアのプロパガンダと荒唐無稽な「大義」について思いを巡らしています。

大東亜共栄圏とは、欧米列強による植民地支配からアジア諸国を解放し、大日本帝国、満州国、中華民国を中心とした国家連合の実現を企図した構想です。大東亜共同宣言には「相互協力・独立尊重」などが謳われていました。しかしながら実質的には日本による植民地支配をめざしたものに過ぎなかったと見られています。

このあたりの経緯を戦争の悲惨さとともに一連のNHKスペシャルが伝えていました。日本が掲げた「大義」に対し、当初、歓迎したアジアの民衆が失望し、日本軍と対峙する側に変容していくことを映し出していました。その一方で、日本国内の大半の人々は大東亜共栄圏の「大義」を一貫して信じ続けていました。

現在進行形の戦争におけるロシアの「大義」は、ウクライナ領域内におけるロシア「民族の保護」であり、ウクライナの「非ナチ化」だと言われています。 国際社会の中で到底理解を得られないロシア側の言い分ですが、ロシア国内のプロパガンダが功を奏しているのか、そのことを信じているロシア国民は多いようです。

最近、多用している言い回しですが、大地震や感染症など自然界の脅威は人間の「意思」で抑え込めません。しかし、戦争は権力者の「意思」や国民の熱狂によって引き起こされるため、人間の「意思」によって抑えることができるはずです。平和を願う際、このような思いを強めています。

ウクライナへの軍事侵攻を決めたのはプーチン大統領です。ただ国民の多数が支持しているため、後戻りする判断も容易ではありません。独裁国家だったとしても戦争に連なる道は国民の後押しや熱狂によっても左右されていきがちです。6月に投稿した記事「『同志少女よ、敵を撃て』を読み終えて」の中では次のように記していました。

国際連盟を脱退した時の総会に出席していたのは松岡洋右全権大使でした。このことは有名な史実ですが、『昭和天皇物語』の中では松岡全権が連盟に留まることに力を尽くしていた姿を描いています。

昭和天皇からの厳命だったのにも関わらず、不本意な結果に至り、松岡全権は失意のもとに帰国します。しかし、多くの日本国民は国際連盟脱退に歓喜し、松岡全権を英雄として出迎えます。君側の奸と見なされた犬養毅総理らの暗殺、軍による政治への干渉や軍事行動の拡大、それらを許していく国民の熱狂を描いた巻でした。

戦争は権力者の「意思」によって引き起こされます。一方で、権力者の「意思」だけで止められない場合があることも忘れてはなりません。国民一人一人の「意思」が集まった結果、大きな角を曲がってしまう場合があることを思い返す機会となっていました。

前回の記事に掲げた資料「平和や人権に関わる組合方針の確立に向けて」を通し、脅威とは「能力」と「意思」の掛け算で決まることを伝えていました。さらに安全保障は抑止と安心供与の両輪によって成立させることが重要であることも記していました。

自国を守るための手立てとともに国際社会における「法の支配」、つまり国連憲章を守るという大きな枠組みによって戦争を未然に防ぐ英知が整っているものと理解しています。しかし、たいへん残念ながらロシアのような身勝手で無法な国が出現していることも嘆かわしい現実です。

とは言え、そのロシアでさえウクライナへの侵攻は、あくまでも軍事作戦であり、前述したとおり「目的は市民を苦難と大量虐殺から救うことだ」という「大義」まで唱えています。国内向けのプロパガンダであるとともに国際社会から完全に孤立化することを避けたい意図も見て取れます。

このあたりの「大義」を逆手に取り、停戦交渉が進むことも期待しています。武力による現状変更は絶対認められないため、ロシアの狙ったとおりの決着点だけは何としても阻まなければなりません。ただ実利さえ与えなければ「作戦は達成した」というプロパガンダを認めるなど、プーチン大統領の国内向けの面子だけを糊塗した幕引きはあり得るように思っています。

最近の記事で40年近く前に私が脚本を担当したフォトストーリーについて紹介しています。当時は、いわゆる左と右の立ち位置からの二項対立的な図式のもとの表現が目立っていたように感じています。今は、誰もが戦争は避けたいと願っている中で、戦争を防ぐための考え方に相違が生じがちな現状であるという認識を強めています。

その上で、例えば集団的自衛権を行使できるようになることが日本にとって平和に寄与することなのかどうか、具体的な事例等を示しながら何が正しいのか、どの選択肢が正しいのか」という論点の提起を心がけるようになっています。現在に比べて当時は、そのような認識が薄かったことを思い出していました。

ただ現在も、日中戦争から太平洋戦争までの歴史観の問題は人によって大きく枝分かれしているように受けとめています。終戦記念日の全国戦没者追悼式の式辞で、岸田総理は安倍元総理と菅前総理と同様、周辺アジア諸国に対しての加害責任に触れず「積極的平和主義」という言葉を踏襲していました。

本来の岸田総理の思いを打ち出した言葉ではないように見られています。安倍元総理に近しい人たちに対して「聞く力」を発揮されてしまったのかも知れません。大東亜共栄圏という「大義」を信じていたとは思いたくありませんが、安倍元総理は「侵略」という言葉を一切使うことはありませんでした。

しかしながらNHKスペシャルが伝えていたとおり他国の領土を日本が侵攻していたことは紛れもない事実です。周辺アジア諸国との関係性で考えれば、やはり日本の加害責任について日本側から風化させていくような振る舞いは不誠実なことだろうと思っています。

少し前に自民党の衛藤征士郎議員は「かつて韓国を植民地にした時がある。韓国はある意味では兄弟国。はっきり言って日本は兄貴分だ」と持論を述べ、日韓関係が対等ではないと発言していました。この報道に接した時は本当に驚きました。

「韓国をしっかり見守り、指導するんだ」という上から目線の態度に対し、「立場は対等な隣国、として振る舞うことがなぜできないのか」「ウクライナを兄弟国と格下に見て侵攻を仕掛けたプーチンと同じ理屈」「もう恥ずかしいから政治家やめていただきたい」という批判の声が寄せられていました。

衛藤議員は日韓議員連盟に所属しています。植民地政策などは負の歴史として教訓化し、謙虚な姿勢で近隣外交に尽力すべき立場の政治家からは程遠い認識だったため、たいへん失望しています。衛藤議員も戦争は避けたいと願っているはずですが、過去の過ちを痛切に反省できないようであれば過ちを繰り返す恐れがあることを懸念しています。

「平和への思い」というタイトルのもとで様々なことが思い浮かんできます。まとまりのないまま長くなって恐縮ですが、最後に朝日新聞の記者だった鮫島浩さんの著書『朝日新聞政治部』を読んだ時、付箋を添えた箇所を紹介します。ここから派生した思いも添えるつもりでしたが、また別な機会に委ねさせていただきます。

ある外交官は「外交に『決着』はないんです。どんな合意をしても必ず課題は残る。外交は『決裂』か『継続』のどちらかなのです。『決裂』したら国交断絶か戦争になる。これは外交の失敗です。『継続』さえしていれば、国交断絶や戦争は避けられる。『継続』こそ外交の成功なんです」と言った。

こうした言葉の深みを当時の私は感じることさえできなかったが、昨今のロシアのウクライナ侵攻や日韓対立を見るにつけ、外交というものの本質を見事に言い当てていると思う。

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2022年8月20日 (土)

平和への思い、2022年夏 Part2

前回「平和への思い、2022年夏」は記事タイトルと内容とのミスマッチ感があったろうと思っています。そのため最後に次回「Part2」として、この続きを書き進めたいものと予告していました。その際「自分史」的な内容から入る長文となるのか、9月7日の意見交換会を意識した簡潔な内容になるのか分かりませんが…、とも書き添えていました。

昨年11月の定期大会での質疑応答を受け、このブログで「平和や人権問題の組合方針」「平和や人権問題の議論提起」という記事を投稿しています。5月に「議論のたたき台」を職場回覧し、9月7日には組合員全体に呼びかけた意見交換会を開きます。「議論のたたき台」に対し、定期大会で質問された方とやり取りを続けていました。

このやり取りを踏まえ、意見交換会前の8月下旬に論点等を整理した参考資料を職場回覧します。参考資料の取りまとめを私が引き受け、その内容の広げ方について少し迷っていました。結局のところ水曜の夜、執行委員会に示した参考資料に添える私自身の記名原稿は、どらかと言えば簡潔な内容にまとめていました。

職場回覧するタイミングより先になりますが、今回のブログ記事でその内容を掲げさせていただきます。投稿後、明らかな誤りが分かれば補正することも考えています。8月30日付で回覧する資料には「平和や人権に関わる組合方針の確立に向けて(参考資料)」というタイトルを付けています。結局【卒論】という言葉は添えませんでした。

関連資料として、三多摩平和運動センター総会時に提出した『議論の「たたき台」の情報提供について』、機関誌の特集記事『戦後七十年、平和憲法の曲がり角』、フォトストーリー3作、清水雅彦教授(日本体育大学/憲法学)のどう考える?「ウクライナ侵攻」「憲法改正」』を添えています。

意見交換会に向け、新たにまとめた資料には「平和や人権に関わる組合方針の確立に向けて ~参考資料の回覧にあたり~」という見出しを付け、私自身の記名原稿としています。今週末の新規記事はその内容の転載が中心となりますので、いろいろ悩んだ前回記事に比べてブログを更新するために費やす作業時間は格段に緩和されています。

加えて今回も「平和への思い、2022年夏 Part2」という記事タイトルとのミスマッチ感があるため、もう少し個人的な思いを書き足すことも考えました。8月15日のNHKスペシャル『ビルマ 絶望の戦場』などを見て「大東亜共栄圏」という言葉の空疎さや不条理さを改めて認識する機会となっています。

他にも平和の築き方に向け、いろいろな思いが頭の中に浮かんでいます。ただ当ブログは毎週1回、これからも週末に更新していきます。そのため、今回は転載資料から話を広げず、あまり労力もかけずに一区切り付けることとします。いろいろな思いについては機会を見て次回以降の新規記事に託せればと考えています。

1 はじめに、組合員の皆さんへ

いつも組合活動へのご理解ご協力ありがとうございます。「平和や人権に関わる組合方針の確立に向けて」という参考資料が職場回覧され、戸惑われたかも知れません。一方で、昨年11月の定期大会以降、この問題に関心を持たれている方も少数ではないものと思っています。

定期大会での質疑応答の際、出席者から平和や人権に関わる方針案について全面的な削除を求める質問が示されていました。その場での採決はなじまなかったため、質問者から提起された問題は今後、しっかり組合員全体できめ細かい議論を交わしていくことを約束していました。

平和に関わる取り組みは日常の組合活動の中に占める割合は多くありません。それでも組合方針として掲げるのであれば、組合員の皆さんから充分な理解や賛同を得られるものでなければなりません。

かえって、そのような方針を掲げていることで組合への結集力の妨げになるようであれば本末転倒な話だろうと思っています。したがって、定期大会での質問を契機に今回、このような議論を重ねられることを貴重な機会だととらえています。

2 フォトストーリーを紹介した理由について

今年3月に発行した機関誌には懐かしい写真で振り返った「フォトヒストリー『組合結成75年』」を掲載していました。よく知った顔ぶれの皆さんの若かりし頃の姿が拝見できる古い写真の数々は好評でした。今回の参考資料には青年婦人部の機関誌「いぶき」に掲載したフォトストーリー3作を添えています。

原爆について取り上げた1983年の『38年後の落とし物』、砂川闘争を背景にした1985年の『明日の風に…』、石坂啓さんの漫画『戦争ってそういうモンじゃない?』をヒントにした1986年の『白い夏が過ぎる頃』というタイトルの3作です。1988年に掲載した『フォトストーリー メモワール』の中では次のような解説を残していました。

反戦反核などの教宣活動に際し、様々な工夫を凝らし分かりやすくニュースを書いたとしても、興味のない人は目も通してくれない現実…。その現実を打ち破る一つの手段として、こちらの言いたいことをストーリーに盛り込み伝える。小説を読む感覚、気軽さで固い教宣課題に接してもらう。

さらに文字ばかりでは取っ付きにくいので、さし絵として写真を入れていく。その写真も幅広い人にキャストとして登場してもらって「あれ、あの人が出ているけど何かな?」と興味を持たせ文章を読んでもらう。そのような効果を狙い写真とストーリーを合体させたフォトストーリー『38年後の落とし物』が誕生したのであった。

幸いにも好意的な声で迎えられ、その後、年1回発行する「いぶき」の恒例企画として続きました。40年近く時が流れ「フォトヒストリー『組合結成75年』」と同様の懐かしさや興味深さとともに回覧する参考資料を手にしてもらえたら幸いだと考えています。やはり堅苦しさだけが前面に出た資料だった場合、まったく見向きもされない現実があることは40年近く前から大きく変わっていないように受けとめています。

なお、現在であればルッキズムと批判されそうな表現も見受けられます。職場での女性職員のお茶くみなど時代の移ろいを感じ取る箇所も散見しています。今回、そのまま転写していますが、当時はそのような時代だったことをご理解ご容赦ください。

ちなみに3作とも私が脚本を担当していました。読み返してみると当時と現在での変化に気付きます。当時は、いわゆる左と右の立ち位置からの二項対立的な図式のもとの表現が目立っていたように感じているところです。今は、誰もが戦争は避けたいと願っている中で、戦争を防ぐための考え方に相違が生じがちな現状であるという認識を強めています。

その上で関連資料の特集記事にあるとおり例えば集団的自衛権を行使できるようになることが日本にとって平和に寄与することなのかどうか、具体的な事例等を示しながら何が正しいのか、どの選択肢が正しいのか」という論点の提起に心がけています。現在に比べて当時は、そのような認識が薄かったことを思い出しています。

3 議論の「たたき台」の情報提供について

産別単組を問わず、組合員の政治意識の多様化は年々進んでいます。このような問題意識を踏まえ、5月27日の三多摩平和運動センター第24回定期総会の開催にあたり、参考までに私どもの組合員の皆さんに周知した議論の「たたき台」資料をそのまま情報提供していました。他の組合役員の皆さんに対し、これまで通りの方針や活動のあり方で良いのかどうか改めて考える機会にしてほしいものと願いながらの情報提供でした。

このような対応の報告とともに5月に回覧した「第4回職場委員会(延期)参考資料」の中に掲げた議論の「たたき台」は今回の参考資料に添付しています。なお、この「たたき台」をもとに定期大会で質問された方とやり取りを続けてきています。

すでに『組合ニュース』で案内しているとおり組合員の皆さん全体に呼びかけた「平和や人権に関わる組合方針」意見交換会を9月7日に開ききます。昨年の定期大会で示された質疑を踏まえた議論の場です。この意見交換会に向け、今回「平和や人権に関わる組合方針の確立に向けて」という参考資料を職場回覧しています。意見交換会に参加できない方もご意見等がありましたらお気軽に組合までお寄せください。

4 意見交換会に向けた論点の提起について

今回の参考資料には2015年8月に発行した機関誌の特集記事「戦後七十年、平和憲法の曲がり角」も添えています。最終頁にはウクライナ侵攻」と「憲法改正について憲法学を専門とされている日本体育大学の清水雅彦教授の考え方も掲げています。それぞれ関連資料の頁は縮小しているため読みづらくて恐縮ですが、お時間等が許される際は全体を通してご覧いただければ幸いです。

ここからは意見交換会に向け、さらに11月11日の第77回定期大会に向けた議案を意識し、「平和や人権に関わる組合方針」議論のための論点を提起します。本来、この提起を通しても、歴史的な背景をはじめ、より詳細な説明を尽くしたいところですが、なるべく簡潔な内容にとどめています。定期大会で質問された方とのやり取りを踏まえ、執行委員会でも確認した内容を中心にお示しします。

★昨年11月の定期大会で確認している現在の組合方針「平和や人権をまもるたたかい」

(1) 武力によって平和は築けないことを普遍的な教訓とし、日本国憲法の平和主義を広める運動を進めます。その流れに逆行するような改憲発議に反対します。
(2) 戦争を前提とした「有事法制」や在日米軍の再編問題などに反対します。また、国民保護計画の策定に対しては慎重な対応をはかります。
(3) 軍事基地に反対し、騒音や墜落の危険がある横田基地や立川基地の撤去をめざします。また、横田基地に配備されているオスプレイの撤去を求めていきます。
(4) 核兵器の廃絶を願い、反核運動を推進し、原水禁大会などに参加します。また、核兵器禁止条約への日本政府の署名・批准を求めていきます。
(5) 沖縄平和行進など、平和フォーラムや自治労が呼びかける行動や集会に参加します。
(6) 砂川闘争の歴史を継承するため、平和資料館の建設などをめざします。当面は学習館内にある地域歴史と文化の資料コーナーの充実を求めます。
(7) 天皇制の政治利用に反対します。
(8) 国民の間で賛否が分かれている「日の丸」「君が代」の強制に反対します。
(9) 戦争を円滑に進める役割を負わされてきた靖国神社へ閣僚などが参拝することに反対します。
(10) 戦時性暴力や強制労働、地元立川などの空襲、沖縄戦における集団自決など、戦争がもたらす被害や悲劇を継承する取り組みを強めます。
(11)人権、思想、信教、言論の自由が尊重される社会の実現をめざします。また、性差別、部落差別、外国人差別など、あらゆる差別に反対します。
(12) 組合が平和運動などに取り組む意義を組合員へ丁寧に周知し、問題意識を共有化した活動に努めます。

上記の組合方針「平和や人権をまもるたたかい」の箇条書きに沿った論点整理ではなく、具体的な事項に対し、組合執行部の考え方を総括的に提起していきます。すでに「たたき台」等で示している見解と重なっているかも知れませんが、重要な点については改めて説明を繰り返させていただいています。

①組合が平和や人権に関わる方針を掲げることについて

労働組合の本務が「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図る」ことであることは間違いありません。一方で、「たたき台」等にも掲げているとおり次のような立場で政治的な活動にも関わっています。

「組合員のため」を主目的とした組合活動も、職場内の閉じた活動だけでは結果としてその目的が達成できない恐れもあります。加えて、自分たちの職場だけ働きやすくても、社会全体が平和で豊かでなければ、暮らしやすい生活とは言えません。

そのため、企業内の交渉だけでは到底解決できない社会的・政治的な問題に対し、多くの組合が集まって政府などへ大きな声を上げていくことも昔から重要な組合運動の領域となっています。このような背景があり、自治労や平和フォーラムに結集し、組合は平和の課題や一定の政治的な活動にも取り組んでいます。

労働組合が政治課題に力点を置き過ぎて、職場課題をおろそかにするようであれば論外な話です。労働組合法等に位置付けられた労働組合の活動が主客逆転しているような現状であれば違法性について懸念しなければなりません。しかし、私どもの組合は職場課題を最優先に注力し、そのような懸念からは程遠いことを強調させていただきます。

②憲法9条を守れば平和が築けるのか?

憲法9条さえ守れば平和が続くという短絡的な考えではありません。守るべきものは日本国憲法の平和主義の効用です。組合は抑止力そのものを否定していません。しかしながら安全保障のジレンマという言葉があるとおり武力一辺倒によって平和は築けないことを普遍的な教訓とすべきものと考えています。厳しい情勢だからこそ国連憲章の前文に相通じる日本国憲法の平和主義を理想として掲げ続けることを重視しています。

日本国憲法の平和主義の大きな柱は専守防衛です。大地震や感染症など自然界の脅威は人間の「意思」で抑え込めません。しかし、戦争は権力者の「意思」や国民の熱狂によって引き起こされるため、人間の「意思」によって抑えることができるはずです。

さらに脅威とは「能力」と「意思」の掛け算で決まると言われています。したがって、安全保障は抑止と安心供与の両輪によって成立させることが重要です。戦争を未然に防ぐためには「攻めたら反撃される」という抑止効果とともに「先に攻めるつもりがない」という相手方を安心させるメッセージとのバランスが求められています。

日本国憲法の平和主義の考え方は、外交関係や経済交流を活発化させるソフトパワー、攻められない限り戦争はしないという専守防衛の原則のもと安心供与という広義の国防を重視すべきというものです。

なお、憲法96条に定められた改憲発議そのものを反対していません。その中味や国民への問いかけ方が重要であり、平和主義を逸脱するような改憲発議であれば反対していく立場です。

組合方針(1)は、このような平和主義を重視するものであり、文言を大きく見直す機会とは考えていません。その上で「国際協調と国や民族同士の相互理解を深め」という一文を「普遍的な教訓とし、」の後に挿入することを考えています。

③ウクライナのように攻め入られたらどうするのか?

軍事進攻された時は現行憲法で認められた個別的自衛権のもとに対処することを想定しています。現在の国際社会の中で武力による領土や主権の侵害は認められません。戦争が長引く場合などは現在のウクライナと同じように専守防衛に徹しながら国際社会と連携し、そのような無法な国と対処していくことになります。

国際社会は二度の世界大戦を経験し、そこから得た教訓をもとに現在の国際秩序やルールを定めています。国際社会における「法の支配」であり、国連憲章を守るという申し合わせです。その一つが前述したとおり武力によって他国の領土や主権を侵してはならないというものであり、自衛以外の戦争を禁止しています。

このような国際的な規範が蔑ろにされ、帝国主義の時代に後戻りしてしまうのかどうか、ウクライナでの戦争は国際社会に突き付けられている試金石だと言えます。戦争が一刻も早く終わることを願いながら多くの国々が結束し、ロシアに圧力を加え、ウクライナを支援している構図は非常に重要な関係性です。

国際社会の結束は、ロシアと同じように軍事力で「自国の正義」を押し通そうと考えていた権力者の「意思」に大きな牽制効果を与えるはずです。国際社会の定められたルールは絶対守らなければならない、守らなければ甚大な不利益を被る、このことをロシアのプーチン大統領に思い知らせるためにもウクライナでの戦争の帰趨が極めて重大です。

仮に日本がウクライナと同じように他国から侵略された時、まずは日米安全保障条約のもとに対処していくことになります。ただ軍事同盟のみに依存し、過度に強化した場合、他国に無用な脅威を与える可能性も否めません。そのような慎重姿勢からの組合方針につながっていますが、組合方針(2)は必要に応じて現状認識に沿った文言の整理を検討する機会とします。

④核兵器禁止条約の批准をめざす方針について

核兵器禁止条約は昨年2021年1月に発効しています。現段階では日本をはじめ、核保有国や核抑止力に依存する国々は署名・批准していません。しかしながら核兵器は違法だという流れが国際社会の中で定められたことは紛れもない事実です。国際社会が過去の教訓や未来への希望を託しながら定めているルールは最大限尊重していくべきものです。まして唯一の戦争被爆国である日本こそ、核兵器の非人道性や地球規模で及ぼす影響を広く国際社会に発信し、率先して禁止条約の実効性を高めることに全力を尽くさなければならないものと考えています。

⑤「日の丸」「君が代」などの方針は現状を踏まえた文言整理の検討も

1999年に「日の丸」「君が代」を国旗国歌とする法律が成立しました。その際、当時の野中広務官房長官は「国として強制や義務化するものでなく、国民生活に何ら変化や影響を与えるものではない」と国会で答弁しています。「日の丸」「君が代」を巡っては歴史的な経緯の中で、その評価に対して賛否が分かれているものと見ています。卒業式や入学式での「日の丸」「君が代」への対応をめぐり、いくつかの裁判も続いています。このように「日の丸」「君が代」に対する評価は人によって温度差があることを前提に組合方針(8)は、あくまでも強制には反対という方針です。

靖国神社は軍人の士気を高め、より円滑に戦争を進める役割を負わされていたという歴史的な経緯があります。戦没者を慰霊することは大切なことですが、軍人以外にも数多くの民間人が戦争で亡くなっていることも忘れてはなりません。さらに様々な見方や評価はありますが、歴代首相や日本政府の判断として「総理大臣は靖国参拝しない」と決めてきたことも確かです。国際問題になりかねない現状が続く限り、一定の制約があるべきだと考えています。

ただ一方で、天皇制のとらえ方をはじめ、組合方針(7) (8) (9)は現在の組合員大半の認識や具体的な取り組みの現状を踏まえ、文言の整理を検討する機会とします。

⑥ 人権や差別に関わる組合方針について

組合方針(11)の「外国人差別など、あらゆる差別に反対します」の文章の中で義務について追記することには違和感があります。基本的に現行のままとすることを考えていますが、新たな文言として「北朝鮮による拉致問題、新疆ウイグルでの人権抑圧、香港における民主派への弾圧、ロヒンギャの難民問題など、あらゆる場面で人権を阻害する行為や非人道的な問題を許さず、強く抗議していきます。」という内容を追加することを考えています。

5 おわりに、ともに考える組合方針へ

「たたき台」資料に掲げたとおり組合方針(12)「組合が平和運動などに取り組む意義を組合員へ丁寧に周知し、問題意識を共有化した活動に努めます」が最も重要な方針だと考えています。今回、そのような意味で意義深い機会であることを受けとめ、組合員全体で力強く確認できる方針が確立できるように努めています。

私どもの組合は一つの単位組合です。今後も自治労や平和フォーラムとの関係性は重視していきますが、現在の組合員の皆さんの意思を丁寧に受けとめながら平和や人権に関わる方針について、必要な見直しを進める機会にすべきものと考えています。このような考え方をもとに9月7日の意見交換会、11月11日の第77回定期大会に向け、組合員全体で意思一致できる方針案の確立をめざしていきます。

今年3月に発行した機関誌の特集記事の見出し「【Will】組合は必要、ともに考え、ともに力を出し合いましょう!」のような組合活動が進められていくことを心から願っています。

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2022年8月13日 (土)

平和への思い、2022年夏

8月8日、今年度の人事院勧告が示されました。国会と内閣に対して国家公務員の月例給引き上げと年間一時金0.1月分引き上げて年間4.4月分とする勧告です。3年ぶりの引き上げ勧告ですが、月例給は初任給と30歳半ばまでの若年層に限り、一時金は勤勉手当に限った配分を勧告しています。

勤勉手当が支給されない会計年度任用職員にとって、そのまま容認できない勧告であり、自治労全体で今後の取り組みを強めていく必要があります。前回記事「会計年度任用職員の雇用継続に向けて」でしたが、ますます会計年度任用職員制度の理不尽さが顕著になりかねない勧告の中味だと言えます。

さて、広島と長崎への原爆投下、敗戦が伝えられた8月15日、私たち日本人にとって様々な思いを巡らす季節を迎えています。戦争体験者が少なくなる中、この時期だけでもメディアが力を注ぐことを肯定的にとらえています。この季節、このブログでも平和への思いを託した記事を数多く投稿してきました。

5年前の夏には「平和への思い、自分史」「平和への思い、自分史 Part2」という切り口で、4年前は「平和の話、インデックスⅢ」「平和の話、サマリー」「平和の話、サマリー Part2」という総まとめ的な記事を連続して投稿していました。

3年前は「平和の築き方、それぞれの思い」「平和の築き方、それぞれの思い Part2」、2年前は「平和を考える夏、いろいろ思うこと」「平和を考える夏、Part2」というタイトルの記事を重ねています。昨年は東京五輪の開催中であり、平和というキーワードを直接的な題材にした記事の投稿はありませんでした。

それぞれの記事を通し、私自身の問題意識を訴え続けています。強調してきた点の一つとして、誰もが戦争は避けたいと願っているはずです。しかしながら戦争を防ぐため、平和を築くための考え方に相違が生じがちな現状について訴えてきました。

そして今年、誰もが願う平和への思いを踏みにじる事態が勃発していました。2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻し、戦争のもたらす非道さや悲惨さを目の当たりにしています。たいへん悲しむべきことに戦火は未だ消える兆しさえ見られません。

ウクライナでの戦争は現実的な脅威として、どうすれば戦争を防ぐことができるのか、改めて考えを深める機会に至っています。このような問題意識のもとに3月以降「問われている平和の築き方」「ウクライナでの戦争から思うこと」「憲法9条があるから平和を保てるのか?」という記事などを通し、私自身の思いをまとめていました。

また「平和や人権問題の組合方針」「平和や人権問題の議論提起」という記事で伝えているとおり昨年11月の定期大会での質疑応答を受け、平和や人権に関わる私どもの組合方針について議論を重ねています。5月に「議論のたたき台」を職場回覧し、9月7日には組合員全体に呼びかけた意見交換会を開きます。

「議論のたたき台」に対し、定期大会で質問された方とやり取りを続けていました。質問者に回答する内容は執行委員会で確認しています。このやり取りも含め、意見交換会前の8月下旬に論点等を整理した参考資料を職場回覧することを予定しています。参考資料の取りまとめは私が引き受けています。

今週末に投稿するブログの新規記事は、その参考資料の内容を意識しながら向き合っていました。すると考えが広がり始め、いつもより数段進み具合が遅くなっています。参考資料に転載できるような文章を意識したことで、パソコンのキーボード上で手が止まりがちとなっていました。

3月に発行した機関誌の特集記事の見出しに【Will】という言葉を付けていました。【Will】という言葉には「遺言」という意味もありますが、そのことの説明は適切でないものと考え、機関誌には「未来形としての願いであり、バトンを託す皆さんに向けた言葉」という説明を加えていました。

ストレートな表現を控えたため、この言葉からは今年11月の定期大会で執行委員長を退くという表明であることを充分伝えられなかったようです。昨年11月の記事定期大会を終えて、2021年秋」の中でも伝えているとおり今年度はバトンを着実に渡すための一年であるという意識を強めながら臨んでいます。

たいへん長く担ってきていますので定期大会を間近にしての退任の判断では迷惑をかけるものと思い、一年前に予告した上で引き継ぎのための一年という猶予期間に位置付けていました。このことは組合役員をはじめ、周囲の皆さんにはお伝えしている話であり、3月に発行した機関誌の中で婉曲な言い方で触れていました。

今回の参考資料のタイトルには【卒論】という言葉を添えてみることを考えていました。【卒業論文】という文字通りの言葉であり、ストレートな退任予告のメッセージとなります。この言葉を付けると仰々しく、かつ重々しくなってしまうため、新たに添えるべき文章の内容に迷いが生じていました。

どこまで広げて書くべきか、身構えてしまったようです。結局、このブログでは普段通りに冒頭で公務員にとって重要な時事の話題である人事院勧告の内容から入り、職場回覧する参考資料の文章とは切り離しています。その結果「雑談放談」的な内容だけで長くなってしまい、たいへん恐縮しています。

3月に発行した機関誌には懐かしい写真で振り返った「フォトヒストリー『組合結成75年』」を掲載していました。よく知った顔ぶれの皆さんの若かりし頃の姿が拝見できる古い写真の数々は好評でした。8月下旬に回覧を予定している参考資料には青年婦人部の機関誌に掲載したフォトストーリー3作を添えようと考えています。

原爆について取り上げた1983年の『38年後の落とし物』、砂川闘争を背景にした1985年の『明日の風に…』、石坂啓さんの漫画『戦争ってそういうモンじゃない?』をヒントにした1986年の『白い夏が過ぎる頃』というタイトルの3作です。1988年の『フォトストーリー  メモワール』には次のような解説を残していました。

反戦反核などの教宣活動に際し、様々な工夫を凝らし分かりやすくニュースを書いたとしても、興味のない人は目も通してくれない現実…。その現実を打ち破る一つの手段として、こちらの言いたいことをストーリーに盛り込み伝える。小説を読む感覚、気軽さで固い教宣課題に接してもらう。

さらに文字ばかりでは取っ付きにくいので、さし絵として写真を入れていく。その写真も幅広い人にキャストとして登場してもらって「あれ、あの人が出ているけど何かな?」と興味を持たせ文章を読んでもらう。そのような効果を狙い写真とストーリーを合体させたフォトストーリー『38年後の落とし物』が誕生したのであった。

幸いにも好意的な声で迎えられ、その後、年1回発行する機関誌の恒例企画として続きました。40年近く時が流れ「フォトヒストリー『組合結成75年』」と同様の懐かしさや興味深さとともに回覧する参考資料を手にしてもらえたら幸いだと考えています。

3作とも私が脚本を担当していました。読み返してみると当時と現在で、ある変化に気付きます。現在、誰もが戦争は避けたいと願っている中で、戦争を防ぐための考え方に相違が生じがちな現状であるという認識を強めています。

その上で、具体的な事例等を示しながら「何が正しいのか、どの選択肢が正しいのか」という論点の提起に心がけています。現在に比べて当時は、そのような認識が薄かったことを思い出しています。

参考資料には2015年8月に発行した機関誌の特集記事「戦後七十年、平和憲法の曲がり角」も添えるつもりです。そのため、ますます参考資料に追加する内容の線引きに迷い、資料全体を通した重複は避けるべきかどうか、いろいろ苦慮していました。

加えて、ほぼ全頁、私が寄稿した文章で構成する参考資料になるため、前述したような【卒論】という言葉を思い浮かべていました。ただ現時点で【卒論】という言葉を付けるかどうかは白紙に戻しています。添付する過去の記事は予定通りとしても、新たに追加する文章は簡潔な内容にとどめることも考え始めています。

過去の機関誌からの転載はコピーに頼り、参考資料自体も組合事務所の自前での印刷とし、外注等の経費は一切かけません。それでも【卒論】という位置付けは私的な面が強すぎるという批判を受けるかも知れず、改めて慎重に判断していくつもりです。

記事タイトル「平和への思い、2022年夏」から離れた内容が多くなってしまいましたがご容赦ください。できれば次回「Part2」として、この続きを書き進めたいものと考えています。その際「自分史」的な内容から入る長文となるのか、9月7日の意見交換会を意識した簡潔な内容になるのか分かりませんが、引き続きご注目いただければ幸いです。

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2022年8月 6日 (土)

会計年度任用職員の雇用継続に向けて

前回記事は「多面的な情報を拡散する場として」というタイトルを付け、主に旧統一教会の問題を取り上げていました。今回は私どもの組合が現在、最も力を注いでいる会計年度任用職員の雇用継続の課題を取り上げます。少し前に「不安定雇用の会計年度任用職員」という記事を投稿していました。

その中では『「国によるパワハラ」3年に1度失職するハローワーク職員の憂うつ』というFRIDAYデジタルに掲げられていた記事を紹介しています。前回記事に示したとおり自分自身が目に留めた興味深い情報の拡散です。ハローワークの非常勤職員は「契約の更新は毎年あるが、3年が上限と決められているため、それ以降は公募に挑戦しなければならない」という不安定雇用にさらされています。

私どもの自治体の非常勤職員に位置付けられる会計年度任用職員も同様な不安を抱えています。さらに会計年度任用職員制度が施行される前と後に比べて、明らかに雇用継続の面では後退しているという非常に悩ましく、理不尽な事態を強いられています。

労使交渉の経緯等は後述のとおりですが、何としても組合要求を実現させなければならない局面だと考えています。8月中旬には定年延長に伴う議題での団体交渉が予定されています。その場でも会計年度任用職員の雇用継続に向けて組合の問題意識を改めて訴えたいと考えています。

事務レベルの労使協議課題の枠にとどめず、市長や副市長らにも問題意識の共有化を働きかけ、私どもの市としての自主的な判断に向けた道筋を見出せるよう力を尽くさなければなりません。その際の参考資料として活用するため、下記の内容の「会計年度任用職員の雇用継続に向けた組合の考え方」という文書を執行委員会で確認しています。

          *         

1 これまでの労使交渉の経緯 

2020年4月から会計年度任用職員制度がスタートしました。その前年、12月議会に向けた条例案送付直前まで労使交渉を重ね、1024日に労使合意に至っています。その時点での情勢を鑑み、雇用継続の問題に関しては「公募によらない再度の任用は原則として連続4回」という東京都の示している基準を受け入れています。ただ組合からは「これまでの労使確認事項も尊重していく」という一文を付け加えることを求め、このことについても労使で確認しています。

②恒常的な業務に携わる当市の嘱託職員の場合、労使交渉の積み重ねによって実質的に雇用年限による雇い止めを見送らせることができていました。高年齢者雇用安定法が改正され、使用者側に対して65歳までの安定的な雇用確保が求められています。このような法改正を追い風とし、嘱託職員の雇用継続も65歳まで担保する労使協議結果を得てきました。

③しかしながら他団体の多くは雇用年限を定めていたため、201910月の時点で当市が突出した内容で決着することは困難だと考えました。せめて「これまでの労使確認事項も尊重していく」という一文を入れることで、会計年度任用職員の65歳までの雇用継続が引き続き課題として残っているという問題意識を託していました。

④このような問題意識は残念ながら労使で隔たりがあります。市当局は5年に1回、現職者と新規採用希望者が競合する公募による採用試験を予定し、このことについて組合も合意しているという認識です。確かに改めて労使協議を提起しなければ、その内容で公募試験に進んでいくことを組合も合意しています。しかし、組合は上記のような問題意識を持ちながら合意したという認識であり、5年先の公募試験実施までに「これまでの労使確認事項も尊重した」雇用継続のあり方を改めて協議すべきものと考えています。

⑤そもそも選考において公募を行なうことが法律上必須とされていません。会計年度任用職員制度に移行してから3年度目の中盤を迎えています。数は多くありませんが、狛江市や板橋区など自主的な判断のもと公募によらない再度の任用の上限回数を定めない団体も見受けられています。6月19日の杉並区長選で当選した新区長の公約には「会計年度任用職員の待遇改善」が掲げられ、公募によらない再度の任用の上限回数を見直す動きも新たに見込まれています。

⑥内閣人事局は7月27日に期間業務職員の適切な採用についての考え方を各府省に通知しています。原則上の上限とされる2回、公募によらない採用をされている期間業務職員でも「能力の実証を面接及び期間業務職員としての従前の勤務実績に基づき行なうことができる場合」には公募によらない再度任用が可能であると規定していることを周知しています。

10月からは地方公務員共済組合法の改正により、大半の会計年度任用職員が共済組合の組合員として短期給付・福祉事業を受けられるようになります。正規雇用以外の多様な働き方の拡大に伴い、短時間労働者に対する処遇改善が社会的な流れとなっています。その流れのもとの改正であり、ますます会計年度任用職員の雇用の安定化が欠かせない課題とされています。

⑧以上のような経緯や問題意識を踏まえ、恒常的な業務を担う会計年度任用職員の雇用継続のあり方について組合としての対応案を市当局に提起しています。その対応案の必要性等に関しては次項のとおりです。

2 組合としての対応案

【組合の対応案】

人事評価による再度の任用は原則として連続4回とする。現職者の培ってきた業務に対する知識や経験を重視し、5回目に際しては引き続き任用を希望する現職者を対象とした選考試験を実施する。選考方法は面接試験とする。欠員が生じる場合などは新規採用希望者を別途募る。その際は広報等を通じて募集する。

①言うまでもありませんが、法的に問題があるようであれば要求すること自体控えなければなりません。法的に問題がなかったとしても住民の皆さんから理解を得られず、社会通念上、問題があるような要求も自制していかなければなりません。しかし、他団体の事例や国の通知等が示しているとおり一切問題のない組合要求だと言えます。

②法改正時の国会の附帯決議が公務における同一労働同一賃金に重点を置いた対応を求めています。この趣旨を尊重するのであれば、新規採用された常勤職員は65歳までの雇用が保障されているのにも関わらず、会計年度任用職員は5年に1回、公募試験を強いられる不合理さは解消すべきものと考えています。

③国会の附帯決議では「会計年度任用職員への移行に当たっては、不利益が生じることなく適正な勤務条件の確保」も求めています。この趣旨に照らした時も、著しく不安定な雇用に移行した問題は附帯決議から大きく逸脱した現状だと言わざるを得ません。

④市当局側も培ってきた知識と経験を重視しているため現職者には「アドバンテージがある」という見方を示しています。いずれにしても業務に熟知した職員が継続的安定的に携わっていくことは住民サービスの維持向上に直結していきます。さらに新規採用者に仕事を教えていく負担が軽減されていく利点もあります。

⑤このような経緯や利点を踏まえた際、5年に1回、現職者と新規採用希望者を競合させることが適切なのかどうか組合は疑問視しています。新規採用希望者と現職者が同じスタートラインに着いていないという見られ方もされかねません。

⑥大規模な競争試験を実施するコストや職員の負担等も考慮すべき点だろうと考えています。二度手間になるという見方もあるのかも知れませんが、所属長を中心にした面接を中心に実施するのであればそのような懸念は拭えるものと考えています。

⑦このまま不安定な雇用だった場合、有為な人材の流失を懸念しなければなりません。万が一、当該職場の職員全員が入れ替わるという事態に至るようであれば、その混乱の大きさははかり知れません。その一方で、65歳までの安定した雇用のあり方が確立できれば人材確保の面で他団体に比べて優位に立てることになります。当事者である会計年度任用職員の皆さんからは市政に対する信頼感が高まり、一人一人の士気も高まる英断となるはずです。

⑧仮に業務遂行上、指摘すべき点があった場合は常勤職員との向き合い方と同様、人材育成の面から補うことが雇用主の責務であるはずです。ぜひ、行政が率先して雇用の重さや大切さをアピールする機会にすべきものと考えています。

⑨このようにメリットしか考えられない運用の見直しに対し、住民の皆さんから批判を受けるとは考えられません。かえって当市の雇用に対する誠実な姿勢や合理的な判断は高く評価されるのではないでしょうか。

          *         

少し前の記事「市議選と参院選に向けて 「間近に迫った市議選と参院選」でお伝えしたとおり6月に市議会議員選挙が行なわれました。私どもの組合の元委員長が市議を7期務めた後、4年前に勇退されています。 今回、新たに推薦関係を結ばせていただいた候補者が当選されたことで、4年ぶりに市議の方と緊密な連携をはかれるようになっています。

組合員の皆さんに対し、このような推薦関係が日常の組合活動に寄与していくことを『組合ニュース』等を通して機会あるごとに伝えていかなければなりません。先日発行した『組合ニュース』で会計年度任用職員の雇用継続の課題解決に向け、組合執行部が推薦市議の方と情報交換していることを報告しています。

5年ごとに競争試験を強いられる不合理さなどを共通認識し、積み重ねてきた労使交渉の成果である65歳までの安定した雇用の確保を実現できるよう市議会の場での奮闘に期待していることを『組合ニュース』に掲げています。今回のブログ記事で取り上げている組合の動きも推薦市議の方に伝えた上、よりいっそう連携を強めています。

紹介した参考資料の最後に「メリットしか考えられない運用の見直しに対し、住民の皆さんから批判を受けるとは考えられません。かえって当市の雇用に対する誠実な姿勢や合理的な判断は高く評価されるのではないでしょうか」と記しています。だからこそ推薦市議の方には声を大にして会計年度任用職員の雇用継続の問題を訴えていただければと願っています。

最後に、3年前に労使合意した内容を全面的に破棄するような要求は自制しているため、5年に1回の選考試験を受け入れた対応案としています。しかしながら常勤職員との均等待遇を重視し、よりいっそう安定した雇用継続を実現するためには5年に1回の選考試験という枠組みも取り外すほうが望ましいものと考えていることを付け加えさせていただきます。

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