カスハラに対する考え方
先週日曜、最近の記事「市議選と参院選に向けて」 「間近に迫った市議選と参院選」でお伝えしたとおり私の勤めている自治体の議員選挙が行なわれました。定数28に対して36名の立候補があり、自民党の現職が落選するという激しい選挙戦でした。そのような中、私どもの組合が推薦した候補者は1,429票を得て当選されています。
市議選が終わり、翌週水曜日には参議院議員選挙の公示日を迎えていました。前回記事は「今、政治に対して思うこと」でしたが、まだまだ書き足したいことが頭に浮かんでいます。できれば参院選の投票日までに改めて評論的な記事「政治に対して思うこと」を取り上げたいものと考えています。
今回の記事では最近、私どもの組合が喫緊の課題として認識しているカスタマーハラスメント、略してカスハラについて取り上げます。後ほど詳述しますが、カスハラについて組合側から安全衛生委員会の議題として提起しています。そのことを『組合ニュース』等で組合員の皆さんに周知していました。
ちょうど同じ時期、Yahoo!のトップ画面に下記のニュースが掲げられていました。私自身もすぐ注目していましたが、複数の組合員の方から「このようなニュース、知ってますか?」と声をかけられました。そのニュースは『「カスハラ」自治体でも… 居座り「税金下げろ」1年継続、「殺してやる」罵声に対応295時間』という内容のものです。
顧客からの暴言や不当要求といった迷惑行為「カスタマーハラスメント」(カスハラ)の被害が民間にとどまらず、自治体でも起きている。職員の約5割が被害を経験したとの調査結果があり、執拗に繰り返されるのが特徴だ。業務への支障が大きいとして、訴訟など法的対応に踏み切る動きも出ている。(久米浩之、増田尚浩)
休職・退職、追い込まれる職員
「税金を下げるよう求めて一日中居座られる状態が1年ほど続いた」「電話のクレームが1日10回以上ある」……。全日本自治団体労働組合(自治労)はこうした公務員への行為をカスハラとし、2020年に全国の自治体や病院の職員ら約1万4000人に実施した調査(設問によっては複数回答)では深刻な実態が明らかになった。
過去3年間にカスハラを受けたとの回答は「日常的に受けている」と「時々受けている」を合わせて46%に上り、「自分はないが、職場で受けた人がいる」も30%だった。「暴言や説教」が63%で最多。被害を受けた職員には「出勤が憂鬱になった」(57%)、「眠れなくなった」(21%)といった影響が出ていた。
同じ住民から繰り返し被害を受けていると答えたのは9割近くに上り、生活保護や保育所、幼稚園関係が目立った。対応について、「毅然と対応すべきだ」が54%で最も多いが、「業務なので我慢せざるを得ない」(44%)、「クレーム対応も業務の範囲」(36%)といった回答も多く、理不尽でも受け入れる公務員が少なくない現状が浮かぶ。
自治労の担当者は「休職や退職に追い込まれる職員もいる」と話す。関西のある自治体の担当者は「『税金で給料をもらっているんだから、これぐらい応じろ』と要求がエスカレートしやすい」と明かす。
人事院は公務員へのカスハラを問題視し、20年6月施行の人事院規則で、府省庁に「組織として対応し、迅速かつ適切に職員の救済を図ること」を求めた。総務省も同様の対応を、各自治体に求める通知を出している。職員を守るために、自治体は対策を迫られている。
大阪市は今年3月、長年暴言や苦情を繰り返したとして、市内の男性を相手取り、面談の強要禁止や約70万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。
市や訴状によると、男性は13~21年度、生活保護の受給を巡ってトラブルになり、担当の職員らに「死んでほしい」「お前を殺してやる」と罵声を浴びせ、謝罪などを要求。対応は370回に上り、計295時間に達するとし、市はこの対応にかかる人件費を損害額として請求した。5月27日の第1回口頭弁論で、男性側は争う姿勢を示した。
市によると、不当要求を巡って訴訟や仮処分を申し立てたケースは、今回を除いて、12年度以降で9件ある。いずれも市側の請求が認められるか、相手方との和解が成立したという。市総務局監察課は「話し合いで解決できるのが望ましいが、頻度や内容を考慮し、判断している」とする。
悪質なケースは氏名公表も… 難しい線引き
奈良市は07年に、悪質なケースでは対象者の氏名を市のホームページで公表する制度を設けた。市によると、これまでに1人を公表したという。警察OBを職員として雇用し、奈良県警との連携も強化する。
毅然とした対応は欠かせないが、住民サービスとの線引きが悩みだ。京都市は07年、「市職員の公正な職務の執行の確保に関する条例」を制定し、仕事の支障になる行為の概要を公表しているが、20年度の公表は1件のみ。担当者は「不当な要求と決めるのは慎重な判断がいる」と話す。
近年はSNSやネットで職員個人が批判されることもある。都市部の自治体担当者は「具体的な業務への支障が出ていなければ、組織としての対応はとりにくい。しかし、実名を出して批判された職員は精神的に追い詰められることが危惧され、新たな課題になっている」と話した。
専門家へ相談体制を
自治体や企業の危機管理を支援する「エス・ピー・ネットワーク」の西尾晋執行役員の話「カスハラ対応に時間が割かれることで、本当に必要な人への住民サービスの機会が奪われ、大きな損失を生んでいる実態を重く見ないといけない。現場任せではなく、複数人での対応や記録の保存といったルールを定めることに加え、弁護士ら専門家への相談体制の整備も欠かせない」【読売新聞2022年6月14日】
このブログでは4月に「ハラスメントのない職場の確立に向けて」という記事を投稿していました。その記事に対し、ぱわさんからカスハラに関わるコメントが寄せられていたため、5月30日の安全衛生委員会に向け、事前に組合から下記内容の議題メモを市側に提出しています。
■ 市民からの頻回な要求や意見への対策について、これまでも安全衛生委員会等で議論してきています。昨今の社会全体の問題として、顧客らによるカスタマーハラスメントで精神障害になったとする労災認定が見受けられます。民間に限らず、自治体職員の被害も深刻であり、カスハラとしての対策を再構築するための議論を提起させていただきます。
言うまでもありませんが、自治体職員の責務として住民の皆さん一人一人と懇切丁寧な対応をはかるように努めています。このような立場を重視しているため、上記報道の中にあるとおり「毅然とした対応は欠かせないが、住民サービスとの線引きが悩みだ」という現状が目立っているようです。
安全衛生委員会に向けた議題メモを4月末に提出した後、組合から「カスタマーハラスメントに対する考え方について」というカスハラに特化した補足資料も委員会の開催直前、追加で市側に提出していました。
自治労統一の「人員確保に関する要求書」に対し、5月23日付の文書回答書の中で「市民等からの頻回な要求や意見への対策については、現在、不当要求行為等対応マニュアルを作成中であり、組織的対応を図っていく」という市側の考え方が示されていたからです。
頻回な要求や意見はカスハラにつながり、不当な要求になり得るという認識は労使で共有できているものと理解しています。その上で、これまで以上に踏み込んだ対応が必要であるため、上記の回答に至っているものと受けとめています。
新たなマニュアルの作成に向け、次のような視点や対応の必要性について追加で提出した補足資料の中に掲げています。市側としても折り込み済みな考え方だったかも知れませんが、理不尽なクレーム対応に精通されている弁護士らの意見を参考にまとめた内容を安全衛生委員会に向けた資料として示していました。
① 間違ったクレーマー対応の典型例は、クレーマーが不合理な要求をしている場面でも、謝罪し、なだめ、譲歩して、何とか穏便に収めようとするケースです。このような対応は、クレーマーの「納得・了解」を得ることをめざすものです。しかし、一般の顧客や住民の苦情への対応であればともかく、理不尽なクレーマーの「納得・了解」を得ようとすればクレーマーの言いなりになるしかありません。理不尽なクレーマーへの対応では「納得・了解」をめざすのではなく、「要求を断り、あきらめさせる」ことがゴールになることが最も重要なポイントです。
② 要求を断るのを難しくしている大きな原因は、相手は顧客や住民だからという関係性があるからです。しかし、不合理な要求を繰り返している人は顧客や住民という意識を捨てて、「対等・公平」の関係で話をすることが必要です。対応を変えることで激昂するケースもあるかも知れませんが、理不尽なクレーマーに対し、要求が通らないことを理解させ、あきらめさせるための重要な第一歩になります。
③ 上記のような峻別について組織的に合意形成をはかることが重要です。電話も含め、直接話した相手の対応ぶりが批判されたとしても、理不尽なクレーマー側の言い分を真に受けないという組織的な意思統一が欠かせません。
④ 一般の顧客や住民とは異なる理不尽なクレーマーであると認定するにあたり、組織的な手順を整理し、認定した場合の必要な周知をあらかじめまとめておく必要があります。
⑤ 上記のような総論的な位置付けを確認した上、個別のケースに対応する手順等を検討していくべきものと考えています。
組合側から示した上記の考え方や対応について、当日の安全衛生委員会の場で基本的な方向性を一致させています。民間の顧客対応との違いが市側から言及された際、組合からは理不尽なクレーマーと認定していた場合も、まず話は伺わなければならないという民間とは異なる意味合いでの難しさがあることを指摘しています。
個別ケースに対応する手順等は職場ごとにまとめる必要があります。私自身が所属する部署に関しては、組合役員の立場からも職員全体の「安心」につながるような方策を検討していました。繰り返し強調しなければならない点として、あくまでも問題視しているのは理不尽な要求や暴言などその行為自体です。
これまで私自身の職務に対する心構えについて、このブログを通してお伝えしています。その中では圧倒多数である納税者の皆さんとの公平性を保つため、職務の執行に当たっては恣意的な運用を絶対避け、公平さを重視した原則を常に意識していることなどを記していました。その上で、次のような心構えを重視しています。
徴税吏員の職務を執行していく中でも、市職員の立場を必ず念頭に置いています。何らかの事情があり、滞納している方々に対して「過去の納税者、未来の納税者」という敬意を払いながら「丁寧な対応」に努めています。
カスハラについての新規記事としていますが、上記のような心構えも改めて強調する機会としています。カスハラに当たる行為そのものは許されるものではありませんが、住民の皆さんからの正当な要求や切実な相談に際しては、これからも懇切丁寧な対応に力を注いでいくことに変わりありません。
| 固定リンク
コメント