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2022年5月 7日 (土)

日本国憲法施行から75年

5月3日の憲法記念日、今年は憲法施行から75年という節目を迎えていました。全国各地で憲法に絡む集会が催され、憲法改正「主役は国民」護憲派は「ほんとに戦争するんですか」』という記事で自民党の中曽根弘文参院議員が次のように語っていたことを伝えていました。

GHQ(連合国軍総司令部)が突貫工事で作った草案を受け入れ現憲法を作ってから75年、日本の無力化を狙ったと言わざるを得ない内容を、独立国家として日本人の手で作り直すことが当然だったにもかかわらず、いまだに修正できていない。

前回記事「憲法9条があるから平和を保てるのか? Part2」の中で、改憲を望む政党や政治家の多くはGHQから押し付けられた憲法だという認識を強く持ち、「普通に戦争ができる憲法」をめざしているように見受けられることを記していました。そのような認識が堂々と語られる中での改憲論議であることを改めて気付かさせる発言でした。

読売新聞の社説『憲法施行75年 激動期に対応する改正論議を』では「前文の理想さらに遠く」という小見出しを付け、前文で日本国民は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とうたっていることを伝えた後、次のように記しています。

だが、戦争放棄の前提となった前文の理想は実現せず、「諸国民」を信頼するだけでは平和を維持できないことは明白となった。日本周辺では、軍事大国化した中国が尖閣諸島の領海への侵入を常態化させ、北朝鮮はミサイル発射を繰り返している。その現実を直視し、国民を守り、国際社会の平和に貢献する方策を考えるべき時にある。

改憲論議に際した私自身の問題意識は以前の記事「憲法9条の論点について」「『ゴー・ホーム・クイックリー』を読み終えて」「憲法論議に願うこと」などを通して訴えてきています。制定過程の経緯を理解しながらもGHQに押し付けられたというネガティブな気持ちを抱くことなく、憲法9条の理念や効用などを率直に評価しています。

「戦勝国」それぞれの思惑が絡みながら誕生したのかも知れませんが、「国際社会は、こうありたい」という理想を託した憲法だったことも確かなはずです。そもそも多くの国民から75年も支持されてきた憲法であり、国民一人一人の共通理解と覚悟のもとに日本の進むべき道を決める改憲論議であることを願っています。

5月3日は現地に出向けませんでしたが、オンラインで改憲発議許さない!守ろう平和といのちとくらし 2022 憲法大集会」を視聴していました。登壇された方の中で上智大学教授の中野晃一さんの発言が最も私自身にとって共感する内容でした。発言された内容の要旨は次のとおりです。

各種世論調査の結果、改憲派が増えたように伝えています。毎日、戦争の報道があり、そのように思ってしまうのかも知れませんが、朝日新聞の世論調査を見て驚きました。「あなたにとって一番優先すべき政治課題は」という7つぐらいの選択肢の中で「憲法」を選んだ人は2%しかいません。

他の選択肢の中で景気、福祉、教育・子育てを合わせると68%です。改憲するのであれば支持する人も多いのかも知れませんが、決して多くの人が積極的に改憲を望んでいる訳ではないということです。

改憲よりも、暮らしを守るために優先すべきことがあるのではないか、このような点を私たちは訴えてきています。「憲法を守れ」と言う時、決して憲法を愛でいる訳ではなく、憲法に根ざした暮らしを皆に届けたいということをしっかり訴えていかなければなりません。

政府が旗を振り「抑止」一辺倒ですが、安全保障政策は武力だけだと誤解されています。安全保障政策は「安心供与」と「抑止」がセットでないと不充分です。戦争を未然に防ぐためには「先に攻めるつもりがない」というメッセージが重要です。

9条をなくせば無限の軍拡競争につながりかねず、「安心供与」を疎かにする政治こそ日本本土が標的にされてしまうリスクを高めかねません。9条を守って「安心供与」を維持することで、初めて安全保障政策として成立することも合わせて伝えていきたいと思っています。

防衛費を増やしていくということは、福祉や子育てなどの予算が削られ、増税が必要になるということを意味しています。このような点についても他の登壇者が訴えていました。全体を通してロシアの暴挙を非難する発言が相次いでいましたが、軽率な言葉の使い方が批判を受けた登壇者もいました。

立憲民主党の奥野総一郎衆院議員の「ロシアよりも許せないのが今の与党だ」という発言です。その後、奥野議員は言い過ぎたことを謝罪し、発言を撤回しています。「ちょっと場所が場所で、私もエキサイトして…」と釈明されていたようですが、「環境的バイアスがかかっていた」という指摘を受けていました。

ひろゆき氏「永遠に野党」 立民議員の与党「ロシアより許せない」発言に』という記事では、ひろゆきさんの「多数派には支持されない。永遠に野党で居続けるマイノリティの罠に嵌り続けます」というツイートを伝えていました。この記事に触れた時、3年前の憲法集会での発言者の言葉を思い出していました。

NHKの記者だった相澤冬樹さん の「主義主張が同じ人には届くが、そうじゃない人には届かない。異なる考えを持っている方々に届く言葉を探し続けなければなりません」という言葉です。この発言を受けて届く言葉、届かない言葉」というブログ記事を投稿し、私自身の問題意識をまとめていました。

改憲「必要」56%、9条「変えない」59%』という報道もあるとおり伝える言葉や問いかけ方によって、憲法9条の行方は大きく変わりそうな現状だと言えます。だからこそ憲法9条の効用を支持している側は不特定多数の皆さんに届く言葉や共感を得られる言葉を探し続けなければなりません。

このブログでは私自身の言葉で語ることと同時に幅広い情報を提供する場として、他のサイトで目にした様々な意見や考え方をリンクをはりながら紹介しています。基本的に私自身が共感した内容であり、『露ウクライナ侵攻から2か月「日本も人ごとではない。武力に頼らない外交力が問われる」』からはNHKの解説委員だった柳沢秀夫さんの次の言葉を紹介します。

日本は人ごとではない。いつ、アジアで類似した状況が起きても不思議ではないと考えなければなりません。日本は外交力が問われています。武力に頼らず、対話で危機的状況を生じさせないようにどうすればいいか真剣に考える時を迎えています。

土曜夕方に放映されたTBS『報道特集』の「反撃能力への改称と防衛費倍増…核基地あった沖縄は」という特集は、柳沢さんの端的な言葉の背景を補足する秀逸した内容でした。番組の中で青山学院大学名誉教授の羽場久美子さんがインタビューに答え、次のように解説していました。

軍事力の拡大ということ自体が戦争を招くと考えているので慎重であるべきです。今回の軍事侵攻の非はロシアにありますが、NATOの東方拡大やアメリカの軍事支援がロシアを追い詰めた側面もあり、国境線に緊張を生み、ロシアが挑発されて愚かな行動をとったと思うからです。

同様の流れが日本でも起きることを懸念しています。武器を大量に入れ、さらに攻撃できる能力を持つということは、あちらから見ても攻撃する能力を拡大していることになるため、東アジアでも緊張が高まる可能性があります。

羽場さんの前には自民党の幹事長だった古賀誠さんのインタビューが放映されています。古賀さんは「自民党の提言は戦争を実体験していない世代が頭の中だけで考えた議論だ」と批判し、「力で平和が実現するということは絶対あり得ない」と強調されていました。

古賀さんは「日本の国はものすごく大きな宝を持っている。それが9条なのです」と熱く語り、防衛予算を増やしても日本が世界の平和に貢献できる訳ではないと訴えています。最後に『元自民幹事長の古賀誠さん、憲法9条は「戦争の反省と非戦の決意」』という新聞記事に掲げられていた古賀さんの次の言葉も紹介します。

今こそ、憲法の平和主義を重んじてきた宏池会の出番だと感じる。池田勇人氏や宮沢喜一氏ら宏池会の歴代首相が掲げた「9条堅持」を継ぐことに岸田政権の価値があると思う。理想論だと言う人もいるが、何が悪い。理想を実現するのが政治の役割だ。

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コメント

>決して多くの人が積極的に改憲を望んでいない
あなたにとって、と聞かれれば身近な経済や生活が
選ばれるのは当然です。この結果から改憲発議すら
不要というのは恣意的な誘導と考えます。
ウクライナの状況を見ればわかりますが
侵攻を受けてしまえば暮らしも破壊されて
しまうので暮らしを守るためにも国防は
大事だと思います。

憲法の課題、論点を知らない人、関心を持って
いないのほうが大多数と思いますので
改憲発議を通して、日本の平和について国民
の関心を高めて議論することが建設的では
ないかと思います。

よい発議案でなければ否決されるでしょうが
よりよい案の発議につながると思います。

投稿: たろう | 2022年5月 8日 (日) 21時03分

たろうさん、コメントありがとうございます。

ご指摘のとおり調査結果の数字は伝える言葉や問いかけ方によって大きく変わりそうです。それでも多くの人が積極的に改憲を望んでいないという見方はそれほど的外れではないものと思っています。

その上で安全保障の望ましいあり方について、論点を分かりやすく、明確化した選択肢のもとに国民一人一人の共通理解と覚悟のもとに日本の進むべき道を決める改憲論議であって欲しいものと願っています。

投稿: OTSU | 2022年5月 8日 (日) 21時26分

「改憲発議許さない」というのが気になりました。
国民の権利を侵害する主張には賛同できません。

改憲は安全保障に限りませんが、発議がなければ国民
の論議が活発になることはないでしょう。

国民に論点を分かりやすく、明確化することは理想
ですが、完全な案はありえず、批判して改憲の入口
を閉ざすようでは、変化に対応できず最悪です。

投稿: たろう | 2022年5月 9日 (月) 00時36分

たろうさん、コメントありがとうございました。

確かに「改憲発議許さない」という端的な訴えは立場の異なる方々に届きづらい言葉だと思っています。私自身の問題意識は記事本文に託しているとおりですが、このブログの場や実際の場面で訴える際、不特定多数の皆さんに届く言葉や共感を得られる言葉を今後も探し続けていくつもりです。

ちなみに今週末に投稿する新規記事のタイトルは「駅頭で訴えた平和への思い」としています。ぜひ、引き続きご注目いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2022年5月14日 (土) 06時55分

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