« 市議選と参院選に向けて | トップページ | 『同志少女よ、敵を撃て』を読み終えて »

2022年5月28日 (土)

平和や人権問題の議論提起

ウクライナでの戦争が長期化する中、ロシア内部のロシアの駐スイス外交官が辞任 ウクライナ侵攻に抗議という情報も耳に入るようになっています。下記の報道を目にした時、その勇気に敬意を表しながら同じような危機意識を持つ外交官が揃って声を上げられる国であれば暴走を止められた可能性に思いを巡らしています。

国連欧州本部があるスイス西部ジュネーブ駐在のロシアの外交官が、自国によるウクライナ侵攻に抗議し辞任したことが23日、分かった。関係者によると、辞任したのは軍縮会議ロシア代表部で参事官を務めていたボリス・ボンダレフ氏で、外交官生活20年のベテラン。

ロシア外務省について「主戦論を唱え、うそと憎悪だけになっており、外交の役割を果たしていない」と指摘した。比較的高位の外交官の辞任に波紋が広がっている。

ボンダレフ氏は23日に出した英文の声明で「プーチン(大統領)が引き起こしたウクライナ、そして全ての西側諸国に対する侵略戦争は、ウクライナ人、そしてロシア国民に対する犯罪でもある」と痛烈に批判。自国の外交政策の変遷は見てきたが、今回の侵攻ほど「恥ずかしいと感じたことはない」と表明した。

ボンダレフ氏は「ロシアを孤立化させ、名誉を傷つけているだけだ」と非難。ラブロフ外相についても「矛盾する発言をし続け、核兵器で世界を脅す人物に成り下がった」と名指しで批判した。【日本経済新聞2022年5月24日】

前回記事「市議選と参院選に向けて」の冒頭で「より望ましい平和の築き方に向けて、個々人の考え方を選択する機会として選挙を通して託す一票があります」と記していました。ウクライナでの戦争をリアルタイムで目にし、7月10日に予定されている参院選において憲法9条の取扱いも争点の一つになるのだろうと見ています。

たいへん重要な問題であり、有権者の投票行動に向けた判断材料になることは望ましい話です。しかし、本質的な争点が曖昧なまま改憲は必要かどうかという問いかけにとどまり、国民の理解と覚悟が不足した中で国の行く末を決めていくような事態だけは避けたいものと考えています。

私自身の問題意識は「Part2」にわたった「憲法9条があるから平和を保てるのか?」という記事を通して詳述しています。専守防衛を厳格化した日本国憲法の平和主義を肯定的にとらえるのかどうか、その上で今後も維持すべきかどうかが明解な論点となることを望んでいます。

現行憲法のままで自衛隊は合憲という解釈が定着しているという認識であるため、単なる自衛隊明記論は非常に中途半端な印象を抱いています。それよりも集団的自衛権の行使をはじめ、国際社会の中で認められた戦争を普通にできる憲法に改めることが望ましいのかどうか、このような論点の明確化を望んでいます。

論点の曖昧さが取り除かれ、明解な争点のもとに圧倒多数の国民が「普通に戦争ができる国」を選ぶのであれば憲法の改正条項に則り従うことになります。明解な論点化につなげていく責務は憲法9条の効用を重視する側にも求められていきます。考え方が異なる人たちをはじめ、不特定多数の皆さんにも届く言葉を探していかなければなりません。

3か月前に投稿した記事「平和や人権問題の組合方針」で伝えているとおり私どもの組合員の皆さんの間でも平和の築き方に向けた考え方が枝分かれしています。昨年11月5日に開いた定期大会での質疑応答の際、しっかり組合員全体できめ細かい議論が交わせる場を設けていくことを約束していました。

火曜日に発行した職場回覧資料の中で、平和や人権に関わる組合方針を議論していくための「たたき台」を示しています。意見交換会の日程等は改めて案内していく予定ですが、「たたき台」に対するご意見等は広く募っています。議論の「たたき台」は私自身がまとめたものであり、文責を明記して回覧しています。

金曜夜には三多摩平和運動センターの定期総会に参加しています。地区連絡会代表という立場でありながら充分な職責を果たせず、たいへん申し訳なく思っている現況ですが、昨年11月17日の組織強化調整委員会の議論の場に参加した際、私どもの組合における動きをお伝えしていました。

「平和や人権に関わる組合方針は全面的に削除すべきではないか」という意見が組合員から示されているという今回の動きです。産別単組を問わず、組合員の政治意識の多様化は年々進んでいるものと認識しています。平和運動に取り組むことが不団結の要因になりかねない現状について問題提起し、議論の「たたき台」をまとめていくことも伝えていました。

このような問題意識を踏まえ、 三多摩平和運動センターの定期総会の開催にあたり、参考までに私どもの組合員に周知した議論の「たたき台」資料をそのまま情報提供させていただきました。事前に事務局と調整した上での情報提供で、次のような点について補足しています。

私どもの組合として明確な「答え」を結論付けた訳ではありませんが、組合執行部の考えは従前の方針を基本的に継承していくというものです。その上で組合が「なぜ、平和運動に取り組むのか」という意義や目的を組合員へ丁寧に周知し、問題意識を共有化した活動に努めていくという立場を改めて重視している点についてお伝えしています。

このような経緯や位置付けについて定期総会の参加者の皆さんに情報提供し、さらに問題意識の共有化に努める機会として貴重な発言時間を工面していただきました。総会終了後「うちの組合も同じような意見が寄せられています」と声をかけてくださった方は一人だけではありませんでした。今回更新するブログ記事でも回覧した資料を参考までにそのまま掲げさせていただきます。

平和や人権に関わる組合方針について ※「職場委員会(延期)参考資料」から抜粋

① 昨年11月の第76定期大会での質疑の際、出席者から下記内容の「平和や人権」の方針案そのものを削除すべきではないかという意見が示されていました。他の出席者からは、この場で決めることの拙速さなどの意見もあり、提起された問題は今後、しっかり組合員全体できめ細かい議論が交わせる場を設けていくことを約束していました。今回、議論に向けた「たたき台」を下記のとおり示させていただきます。

【組合方針】平和や人権をまもるたたかい

(1) 武力によって平和は築けないことを普遍的な教訓とし、日本国憲法の平和主義を広める運動を進めます。その流れに逆行するような改憲発議に反対します。
(2) 戦争を前提とした「有事法制」や在日米軍の再編問題などに反対します。また、国民保護計画の策定に対しては慎重な対応をはかります。
(3) 軍事基地に反対し、騒音や墜落の危険がある横田基地や立川基地の撤去をめざします。また、横田基地に配備されているオスプレイの撤去を求めていきます。
(4) 核兵器の廃絶を願い、反核運動を推進し、原水禁大会などに参加します。また、核兵器禁止条約への日本政府の署名・批准を求めていきます。
(5) 沖縄平和行進など、平和フォーラムや自治労が呼びかける行動や集会に参加します。
(6) 砂川闘争の歴史を継承するため、平和資料館の建設などをめざします。当面は学習館内にある地域歴史と文化の資料コーナーの充実を求めます。
(7) 天皇制の政治利用に反対します。
(8) 国民の間で賛否が分かれている「日の丸」「君が代」の強制に反対します。
(9) 戦争を円滑に進める役割を負わされてきた靖国神社へ閣僚などが参拝することに反対します。
(10) 戦時性暴力や強制労働、地元立川などの空襲、沖縄戦における集団自決など、戦争がもたらす被害や悲劇を継承する取り組みを強めます。
(11)人権、思想、信教、言論の自由が尊重される社会の実現をめざします。また、性差別、部落差別、外国人差別など、あらゆる差別に反対します。
(12) 組合が平和運動などに取り組む意義を組合員へ丁寧に周知し、問題意識を共有化した活動に努めます。

② 上記方針の全文削除を求めた質問者は理由として、私どもの組合の平和や人権に関わる方針案に拉致問題や新疆ウイグルについて触れていないことを問題視していました。他にも憲法を守れば平和が維持できるのかという疑義を示され、北朝鮮や中国に対する脅威論から批判意見を加えられていました。

③ 組合執行部が次年度に向けた議案討議に入る前、組合員全員に呼びかけた意見交換会を開く運びとしています。その場で方向性が決まるものではありませんが、交わされた意見を参考にし、組合執行部が議案をまとめていきます。その議案は今年10月中旬、組合員全員に事前配布した上で11月11日の第77回定期大会で最終的な取扱いを決めることになります。

④ 意見交換会に出席できない組合員の皆さんに向けて、今回の回覧資料に掲げた議論の「たたき台」をお示しした上、広く意見を募らせていただきます。組合役員に直接お声かけいただくか、手紙やメールでも受け付けます。ぜひ、率直なご意見等をお寄せください。なお、意見交換会の日程等は定期大会で質問された組合員の方と調整した上、改めて『組合ニュース』で案内させていただく予定です。

★ 議論の「たたき台」として

定期大会当日、質問された方と同様な考えをお持ちの組合員が少数ではないことを認識している点についてお伝えしていました。しかしながら方針案の個々の内容に対して組合の考え方を網羅的に説明した上での議論につなげられていないため、この場で全面的に削除すべきかどうかの採決はなじまないとお答えしていました。

まず総論的な話です。私どもの組合方針を一個人の責任で白紙から書き直せば上記のような文章にならないのかも知れません。これまで組合が結成されてから75年間の歩みの中で、多くの組合役員や組合員の皆さんとの議論を経て上記の文章に至っています。

また、自治労や平和フォーラムとのつながりも重視しています。単位組合ですので独自な判断での方針を持つこともできますが、構成組織の一員として必要な対応がはかれるような明文化は欠かせないものと考えています。

労働組合は職場課題の解決に向けて全力を注ぐべきという意見があることもよく耳にしています。もちろん労働組合が政治課題に力点を置き過ぎて、職場課題がおろそかになるような主客逆転は絶対避けなければなりません。

しかし、「組合員のため」を主目的とした組合活動も、職場内の閉じた活動だけでは結果としてその目的が達成できない恐れもあります。加えて、自分たちの職場だけ働きやすくても、社会全体が平和で豊かでなければ、暮らしやすい生活とは言えません。

そのため、企業内の交渉だけでは到底解決できない社会的・政治的な問題に対し、多くの組合が集まって政府などへ大きな声を上げていくことも昔から重要な組合運動の領域となっています。このような背景があり、自治労や平和フォーラムに結集し、組合は平和の課題や一定の政治的な活動にも取り組んでいます。

総論的な話が長くなっていますが、続いて具体的な組合方針に沿った説明を加えていきます。質問された方が真っ先に指摘された(11)の「人権が尊重される社会の実現をめざす」という方針についてです。

確かに指摘されたような具体的な言葉は記載していませんが、だから軽視しているという見方は当てはまりません。あらゆる場面で人権を阻害する行為や非人道的な問題を許さず、強く抗議していく立場を包み込んだ方針だと言えます。

「親中派だから」という陰謀論のような見方を耳にしますが、どこの国の問題であろうとも「ダメなことはダメ」と指摘し、被害を受けている人たちを救うために力を出し合うことが必要です。その上で次年度に向けては拉致や新疆ウイグルなどの問題も加えることを考えています。

組合方針(1)の「武力によって平和は築けないことを普遍的な教訓とし、日本国憲法の平和主義を広める運動を進めます」に対し、他国の脅威論から批判を浴びることの多さを痛感しています。特にウクライナでの戦争を受け、「日本が平和であり続けられたのは憲法9条があったから」という言葉の不充分さを強く認識するようになっています。

「憲法9条があったから」ベトナムやイラクに派兵せず、直接的な戦争に関与しない国であり続けられたことは確かです。しかし、「憲法9条があったから」攻め入られることがなかったかどうかで言えば、そのような短絡的な話ではありません。憲法9条を守ること、イコール平和を守り続けられることではない点について認識していかなければなりません。

そもそも安全保障は抑止と安心供与の両輪によって成立させなければなりません。戦争を未然に防ぐためには「攻めたら反撃される」という抑止効果とともに「先に攻めるつもりがない」という相手方を安心させるメッセージとのバランスが重要です。 外交関係や経済交流を活発化させるソフトパワー、攻められない限り戦争はしないという専守防衛の原則のもと「安心供与」という「広義の国防」を重視すべきという考えです。

憲法9条の「特別さ」を持つ日本は外務省のホームページにも掲げている「人間の安全保障」という取り組みに集中すべきものと考えています。防衛審議官だった柳沢協二さんの「脅威とは能力と意思の掛け算で決まる」という言葉が印象深く、友好的で有益な関係を築いていれば攻撃されるリスクは最小化されるはずです。

⇒ 参考資料として、三多摩平和運動センターが呼びかけた5月9日の反核座り込み行動の際に訴えた内容も掲げています。

このような問題意識を組合方針(1)の 「日本国憲法の平和主義」という言葉に託し、(2)以降の方針内容につなげています。さらに(3)は「騒音や墜落の危険がある」という普遍的なリスクにも言及しています。(7)(8)(9)は個々人の価値判断が大きく分かれている問題だろうと受けとめています。そのような現状を踏まえ「政治利用」や「強制」、「閣僚などの参拝」に反対するという記述につなげています。

組合方針の最後の(12)「組合が平和運動などに取り組む意義を組合員へ丁寧に周知し、問題意識を共有化した活動に努めます」が最も重要な方針だと言えます。今回、そのような意味で意義深い機会であることを受けとめ、幅広いご意見を伺った上、組合員全体で力強く確認できる方針案が確立できるように努めていきます。

|

« 市議選と参院選に向けて | トップページ | 『同志少女よ、敵を撃て』を読み終えて »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 市議選と参院選に向けて | トップページ | 『同志少女よ、敵を撃て』を読み終えて »