平和や人権問題の組合方針
前々回「多面的な情報の大切さ」 前回「多面的な情報の大切さ Part2」という記事タイトルを付け、2回にわたって得られる情報の違いによってモノの見方や評価が変化することを綴ってきました。モノの見方や評価から導き出される考え方の違いは対立の火種となりがちです。
お互い自分自身の考えや主張の正しさを絶対視し、一歩も引かない姿勢に固執すれば深刻な事態を招きかねません。相手を力づくで従わせた場合、感情的なしこりは残り、ずっと対立の火種も残り続けるのだろうと思います。
緊迫化したウクライナの情勢を受け、このような思いを改めて強めています。大規模な軍事衝突、戦争の危機は絶対避けて欲しいものと願っています。力づくで攻め入ろうとしているロシアに対し、アメリカをはじめとした各国が協調して制止に動いています。今のところ様々なパイプの外交交渉は途絶えず、一触即発の事態にまで至っていません。
国際社会のルールから逸脱しがちなロシアが厳しく批判を受けることは必然です。ただNATOの東方拡大に対するロシアの懸念も多面的な見方の一つとして留意すべき点だろうと思っています。お互い譲歩する幅があってこそ交渉も成り立つのであり、ぜひとも最悪のシナリオを回避した決着点を見出す努力を尽くして欲しいものです。
いずれにしてもウクライナを巡る歴史的経緯や情勢を素人が生半可に語れるものではありません。参考になるサイト『緊迫のウクライナ情勢、いま何が起こっている?バイデン大統領「ロシアの侵攻、数日以内にも」(解説)』を紹介した後、今回は記事タイトルに掲げた「平和や人権問題の組合方針」というローカルな話をメインとして書き進めていきます。
昨年11月の記事「定期大会を終えて、2021年秋」の中で、組合員から平和や人権に関わる方針案について率直な意見が示されたことをお伝えしていました。このブログを通して培ってきた問題意識であり、質問者から提起された問題は今後、しっかり組合員全体できめ細かい議論が交わせる場を設けていくことを約束しています。
そのような議論の「たたき台」を私自身がまとめることになっています。「たたき台」の完成形に近い内容まで作り上げられないかも知れませんが、今回のブログ記事を通し、どのような論点を提起すべきなのかどうか自分自身の頭の中を整理する機会にしてみようと考えています。
7 平和や人権をまもるたたかい
(1) 武力によって平和は築けないことを普遍的な教訓とし、日本国憲法の平和主義を広める運動を進めます。その流れに逆行するような改憲発議に反対します。
(2) 戦争を前提とした「有事法制」や在日米軍の再編問題などに反対します。また、国民保護計画の策定に対しては慎重な対応をはかります。
(3) 軍事基地に反対し、騒音や墜落の危険がある横田基地や立川基地の撤去をめざします。また、横田基地に配備されているオスプレイの撤去を求めていきます。
(4) 核兵器の廃絶を願い、反核運動を推進し、原水禁大会などに参加します。また、核兵器禁止条約への日本政府の署名・批准を求めていきます。
(5) 沖縄平和行進など、平和フォーラムや自治労が呼びかける行動や集会に参加します。
(6) 砂川闘争の歴史を継承するため、平和資料館の建設などをめざします。当面は学習館内にある地域歴史と文化の資料コーナーの充実を求めます。
(7) 天皇制の政治利用に反対します。
(8) 国民の間で賛否が分かれている「日の丸」「君が代」の強制に反対します。
(9) 戦争を円滑に進める役割を負わされてきた靖国神社へ閣僚などが参拝することに反対します。
(10) 戦時性暴力や強制労働、地元立川などの空襲、沖縄戦における集団自決など、戦争がもたらす被害や悲劇を継承する取り組みを強めます。
(11)人権、思想、信教、言論の自由が尊重される社会の実現をめざします。また、性差別、部落差別、外国人差別など、あらゆる差別に反対します。
(12) 組合が平和運動などに取り組む意義を組合員へ丁寧に周知し、問題意識を共有化した活動に努めます。
上記が議論の対象となっている組合方針です。毎年開催する定期大会前、組合員の皆さん全員に「運動方針(案)」を配布しています。取扱い注意としている訳ではありませんので、部外者の方々がご覧になっても構わない資料だと言えます。したがって、今回SNS上でも内容全文を掲げています。
定期大会での発言者は意見表明として全文の削除を求めていました。理由の一つは、私どもの組合の平和や人権に関わる上記の方針案に拉致問題や新疆ウイグルについて触れていないことを問題視したからです。他にも憲法を守れば平和が維持できるのか、北朝鮮や中国に対する脅威論からの批判意見が加えられていました。
この意見に対し、私からは当ブログを通して培ってきた問題意識であり、そのような考えをお持ちの組合員の方が少数ではないことを認識している点についてお伝えしていました。しかしながら今回、方針案の個々の内容に対して組合の考え方を網羅的に説明した上での議論につなげられないため、この場で全面的に削除すべきどうかの採決はなじまないとお答えしていました。
私の答弁を支持する立場から他にお二人から発言があり、前述したとおり次回の定期大会までに組合員全体できめ細かい議論が交わせる場を設けていくことを約束していました。そのため、さっそく昨年11月には「新疆ウイグルの問題から思うこと」という記事を投稿し、次のような私自身の考え方を示しています。
上記(11)で「人権が尊重される社会の実現をめざす」という方針を掲げていますが、確かに指摘されたような具体的な言葉は記載していません。しかし、だから軽視しているという見方は当てはまりません。あらゆる場面で人権を阻害する行為や非人道的な問題を許さず、強く抗議していく立場を包み込んだ方針だと言えます。
特に「親中派だから」というような見方で切り分けられてしまった場合、ますます本質的な論点から遠ざかってしまうように思っています。どこの国の問題であろうとも「ダメなことはダメ」と指摘し、被害を受けている人たちを救うために力を出し合うことが必要です。
参考までに当ブログでは「避けて通れない拉致問題」「拉致問題を考える」「ルワンダの悲しみ」「チベット問題とオリンピック」など人権に関わる問題を取り上げてきています。発言者が最も強調された問題提起を先に取り上げましたが、ここからは改めて順序を追って整理してみます。
まず総論的な「縦と横」の話です。私どもの組合方針を一個人の責任で白紙から書き直せば上記のような文章にならないものと考えています。「縦」の話は歴史です。これまで組合が結成されてから75年間の歩みの中で、多くの組合役員や組合員の皆さんとの議論を経て上記の文章に至っています。
「横」の話は現在の自治労や平和フォーラムとのつながりです。単位組合ですので独自な判断での方針を持つこともできますが、構成組織の一員として必要な対応がはかれるような明文化は欠かせないものと考えています。
労働組合は職場課題の解決に向けて全力を注ぐべきという意見があることもよく耳にしています。もちろん労働組合が政治課題に力点を置き過ぎて、職場課題がおろそかになるような主客逆転は絶対避けなければなりません。
しかし、「組合員のため」を主目的とした組合活動も、職場内の閉じた活動だけでは結果としてその目的が達成できない恐れもあります。加えて、自分たちの職場だけ働きやすくても、社会全体が平和で豊かでなければ、暮らしやすい生活とは言えません。
そのため、企業内の交渉だけでは到底解決できない社会的・政治的な問題に対し、多くの組合が集まって政府などへ大きな声を上げていくことも昔から重要な組合運動の領域となっています。
このような背景があり、自治労や平和フォーラムに結集し、組合は平和の課題や一定の政治的な活動にも取り組んでいます。総論的な話が長くなっていますが、続いて上記の方針に沿った説明を加えていきます。
上記(1)の「武力によって平和は築けないことを普遍的な教訓とし、日本国憲法の平和主義を広める運動を進めます」に対し、他国の脅威論から批判を浴びることの多さを痛感しています。このブログを始めたことで「日本が平和であり続けられたのは憲法9条があったから」という言葉の不充分さを強く認識するようになっています。
「憲法9条があったから」ベトナムやイラクに派兵せず、直接的な戦争に関与しない国であり続けられたことは確かです。しかし、「憲法9条があったから」攻め入られることがなかったかどうかで言えば、そのような短絡的な話ではありません。憲法9条を守ること、イコール平和を守り続けられることではない点について認識していかなければなりません。
このあたりは「憲法9条の論点について」「平和を考える夏、いろいろ思うこと」「平和を考える夏、いろいろ思うこと Part2」など数多くのブログ記事を通して私なりの考え方を示してきています。 外交関係や経済交流を活発化させるソフトパワー、攻められない限り戦争はしないという専守防衛の原則のもと「安心供与」という「広義の国防」を重視すべきという考えです。
憲法9条の「特別さ」を持つ日本は外務省のホームページにも掲げている「人間の安全保障」という取り組みに全集中すべきものと考えています。防衛審議官だった柳沢協二さんの「脅威とは能力と意思の掛け算で決まる」という言葉が印象深く、友好的で有益な関係を築いていれば攻撃されるリスクは最小化されるはずです。
このような問題意識を上記(1)の 「日本国憲法の平和主義」という言葉に託し、上記(2)以降の方針内容につなげているつもりです。さらに上記(3)は「騒音や墜落の危険がある」という普遍的なリスクにも言及しています。
上記(7)(8)(9)は個々人の価値判断が大きく分かれている問題だろうと受けとめています。そのような現状を踏まえ「政治利用」や「強制」、「閣僚などの参拝」に反対するという記述につなげています。
以上のような説明で概ね了解を得られるようであれば全文削除や白紙から書き直すような手順は避けたいと考えています。もちろん結論の押し付けは望ましいことではありませんので、幅広いご意見を伺った結果、大幅な見直しを判断することも想定しています。
「たたき台」のための「たたき台」のような内容にとどまって恐縮でしたが、 最後に、上記(12)の「組合が平和運動などに取り組む意義を組合員へ丁寧に周知し、問題意識を共有化した活動に努めます」が最も重要な方針であることを強調させていただきます。
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