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2021年3月27日 (土)

言葉の使い方から思うこと

住民票の交付申請があった際、「照会住所に該当ありません」と回答する場合があります。いろいろな意味合いが考えられる答え方となっています。照会のあった対象者の住民票は一切ないという意味合いの他に次のようなケースも想定しています。

照会を受けた住所から探したけれども見つからず、他の住所であれば住民票があった可能性を残しています。生年月日も添えられて同一人である可能性が高くても債権者等の申請であれば個人情報保護の観点から必ず「照会住所に該当ありません」と答えることになります。

役所に限らず、預金調査に対する金融機関からの回答も「照会口座は該当ありません」という言葉の使い方が一般的です。「該当なし」と端的に答えるケースのほうが少ないようです。市民課の業務に携わった時、「照会○○」と頭に付けて答えることの意味合いを認識するようになっていました。

このような話を思い出した訳は最近、憂慮すべき言葉の使い方があまりにも目立っているからです。前回「コロナ禍の緊急事態から非常事態に」の記事タイトルは最初「言葉の使い方、緊急事態から非常事態に」だったことを伝えていました。前々回記事「東日本大震災から10年」の最後のほうでは次のように記していました。

もう少し映画『Fukushima 50』の話はコンパクトにまとめるつもりでした。最初に考えていたよりも内容が膨らみ、今回も長い記事になっています。そのため最後の話となりますが、事故当時、官房長官だった立憲民主党の枝野代表は放射線量について「ただちに人体や健康に影響を及ぼす数値ではない」と情報発信を繰り返していました。

「すぐにはなくても後にはあるということか」という批判も受けましたが、その時点で発信する言葉としてやむを得ない表現だったように思っています。一方で、最近の国会答弁や政治家の言葉の使い方、たいへん憂慮すべき傾向が広がっています。枝野代表の「ただちに」という言葉の使い方から話を広げるつもりでしたが、憂慮すべき言葉の使い方の問題は次回以降、機会を見て取り上げさせていただきます。

ようやく今回、憂慮すべき言葉の使い方の問題から個人的に思うことを書き進めてみるつもりです。「ただちに」と同じような使われ方として「今のところ」という言葉があります。先々の予定が曖昧な時に「その日は今のところ大丈夫です」と答える場合があります。

枝野代表がその時点で影響を及ぼす数値だったのにも関わらず、偽った情報を発信していた場合、重大な責任が問われることになります。しかし、そのようなことでなければ無用なパニックや風評被害を避けるために許容される範囲内での言葉の使い方だったのだろうと思っています。

緊急事態宣言を解除という言葉は文字通り受けとめれば「これまで我慢してきたけれど少しぐらい羽目を外してもいいかな」という理解に至ります。大学の卒業式が多かった金曜日の夜、大勢の若者が駅前に集い、缶ビールを片手に盛り上がっていた光景を報道番組では伝えていました。

リバウンド防止が強調されていますが、言葉の使い方として「緊急事態から非常事態に」が適切であるように感じています。法的な位置付けの「緊急事態」という期間が終わっても、引き続き平時ではない非日常が続くという意識を持ち続けるために「非常事態」であることを宣言し、様々な感染対策に留意しながら静かに経済を回していく局面ではないかと考えています。

言葉の使い方一つで伝わる印象は変わります。断言できないことに対して「照会○○」や「ただちに」という言葉などを付けることは後々のトラブルを防ぐため、ある程度必要な方便であるように受けとめています。むしろ「嘘はつきたくない」という表われであるように見ることもできます。

やはり「嘘はつきたくない」という表われなのかも知れませんが、「ご飯論法」という言葉の使い方があります。2018年に法政大学の上西充子教授がツイッターに投稿して話題になっていました。国会で議論する際、安倍前総理をはじめとする政府関係者が頻繁に使う言い逃れの一種として広まっていました。

「ご飯論法」とは「朝ご飯は食べましたか?」という質問に「食べていない」と答えます。実際はパンを食べていても米の「ご飯」を食べていないため、嘘とは言えず、議論における言い逃れや論点のすり替えを表わす言葉が「ご飯論法」です。質問の「ご飯」という意味を狭くとらえ、質問に答えているように装って答えを避ける手法だと言えます。

上西教授が典型的な「ご飯論法」として指摘したのは国会における立憲民主党の長妻議員と安倍前総理とのやり取りでした。「獣医学部新設をめざす加計理事長が首相や秘書官と食事をしたり、食事代を支払ってもらうことは問題ではないか」と長妻議員が質問しました。

その質問に対し、安倍前総理は「別に食事を私がごちそうしてもらいたいから戦略特区で特別にやる、(中略)そんなことするって考えられないですよ」と反論していました。「利害関係者と食事をしたこと、食事代を払ってもらうことが問題ではないのか」という質問には答えないという「ご飯論法」そのものでした。

野党からの率直な質問に対し、真正面から答えない「ご飯論法」は残念ながら菅内閣にも引き継がれているようです。3月3日の参院予算委員会で谷脇総務審議官(当時)は「国家公務員倫理法に違反する会食はない」と答えていました。その後、NTTからの高額接待が明らかになり、虚偽答弁も問われ、谷脇審議官は総務省を去ることになりました。

辞職する前、谷脇審議官は「倫理法に違反する会食をしたことはないと認識していますけど、私自身、倫理法に違反したとして処分を受けておりまして、私自身、倫理法令に対する認識の甘さがあった」と釈明していました。

「倫理法に違反する会食はない」という言葉の使い方は二重の意味で「ご飯論法」が駆使されていたように見ています。一つは会食したが、倫理法に違反するような会食ではなかったという意味合いです。もう一つは国家公務員の倫理規程には抵触しているかも知れないが、倫理法には違反していないという使い分けです。

「法違反」と「規程違反」では伝わる重さや受けとめる印象が変わります。今回のケースでは総論的な法律があり、その法律に基づき具体的な事項が規程に明記されています。したがって、規程に盛り込まれた事例に違反していた場合は「法違反」だったと解釈しなければならないはずです。

意図的に倫理法と倫理規程を使い分けて答弁していた場合は不誠実で極めて重大な問題です。信じられないことですが、本当に法令に対する認識の甘さがあったとしたら審議官だった方の立場の不適格さが厳しく問われなければなりません。ただ違法な会食や不誠実な国会答弁は官僚の皆さんにだけ責任を負わせられません。

前政権から引き継がれている政権全体の体質的な問題を憂慮しています。3月10日の参院予算委員会で立憲民主党の白議員から「NTTの接待を受けたことがあるか」という質問に対し、武田総務相は「国民が疑念を抱くような会食会合に応じたことは一切ない」という答弁を繰り返しました。

結局のところ会食はあった訳ですが、「倫理法に違反するような会食はない」という言葉が「国民が疑念を抱くような会食はない」に変わっただけの「ご飯論法」を武田総務相は押し通していたことになります。国民が疑念を抱くかどうかは事実関係を詳らかにした上での関係性でなければなりません。

総務省の会食問題で読売新聞は「倫理規程違反」と記し、ほとんど「倫理法違反」という言葉は見かけませんでした。 意図的に使い分けているような気がしていましたが、 土曜の朝、読売新聞の紙面で「106兆円超の史上最大規模の予算に見合うだけの審議は、どれだけ行われたのだろうか」という記事を目にしました。

スキャンダルの追及に時間を費やした野党側を暗に批判した内容であるように感じました。このブログでは5年前に「予算委員会の現状」という記事を投稿しています。予算委員会では審議内容を制限していない現状を説明し、行政の監視機能を担う国会の役割としてスキャンダル追及は野党の立場からすれば避けて通れない役割であることも記していました。

自民党議員の失態を追及し、その能力や資質をあぶり出すことで野党側のポイントが高まるのか、予算案以外の質問に終始する野党側にマイナスポイントが付いていくのかどうか分かりません。今のところ潮目が大きく変わる気配を感じ取れていませんが、このような追及の仕方の評価も含め、今後の世論調査や国政選挙において結果が示されていくことになります。

上記は5年前の記事の最後のほうに書き残した内容です。高い支持率のもとに菅内閣は滑り出しましたが、その後、下降線をたどっていました。ただ支持率も下げ止まりの様相を示し、支持する理由は「他より良さそう」が常に最多となっています。このような消去法的な理由で支持されていく結果は野党側の責任も大きいものと思っています。

国民が疑念を抱く政権運営を続けていても「ご飯論法」でその場をしのぎ、総選挙では敗れず、政権の座を維持できるとしたら緊張感のある政治を到底期待できません。緊張感のある政治の実現のためには立憲民主党をはじめとした野党側が効果的な役割のアピールや内実ある政策提言に向けて奮起願いたいものと思っています。

最後に、言葉の使い方として批判を浴びている最近の事例は自民党の二階幹事長の「他山の石」発言です。議員辞職した河井衆院議員の買収事件は自民党時代の問題です。単なる言い間違いなのか、意味を勘違いしたのか、奥深い理由があるのかどうか分かりませんが、参考までに菅野完さんの記事『なぜ二階幹事長は、河井克行氏の議員辞職を「他山の石」と言ったのか?』を紹介します。

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