緊急事態宣言、再び
新年早々の前回記事は「平穏な日常に戻れる2021年に」でした。昨年末には「迷走するGoTo」「コロナ禍の2020年末」という新型コロナウイルス感染症に関する記事を立て続けに投稿しています。
そろそろコロナ禍の話題から離れた内容の投稿も考えていましたが、今週末、やはり新型コロナウイルスに絡む時事の話題を取り上げることになりました。1月8日から2月7日までの1か月間、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象に緊急事態宣言が再び発令されました。
前回の宣言時と同様、行政の文書では「発出」とし、メディアは「発令」という表記が多いようです。国民に対する要請が中心であり、命令するという意味合いではないという理由をはじめ、宣言自体が国から下部行政組織への通達の範疇であり、正式な行政文書は「発出」とされています。
これまで当ブログでは表記を特に統一していませんでした。今回の記事タイトルは「再び」とし、本文中は「発令」と記していくつもりです。今回、法的な位置付けは昨年4月に発令された宣言と同じですが、要請内容と国民側の受けとめ方に大きな変化が見られています。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が再発令されて初の土曜日となった東京、埼玉、千葉、神奈川の9日正午時点の人出は、前回の緊急事態宣言直後の土曜日(昨年4月11日)より多かったことが、スマートフォンなどの位置情報から滞在人口を推計するNTTドコモの「モバイル空間統計」のデータでわかった。今回の宣言でも「不要不急の外出自粛」が呼びかけられているが、前回より効果は限定的となっている。
東京都内の新宿、銀座、渋谷センター街や、周辺3県の主要駅(横浜、千葉、大宮)周辺の正午時点の人出について、感染拡大前の土曜日(昨年1月11日)と比較した。銀座、渋谷、新宿では、前回宣言時はいずれも感染拡大前より人出が7割前後減少していたが、9日は3割台の減少にとどまった。横浜、千葉、大宮各駅でも、前回の減少幅は6~7割に上ったのに、9日は1~3割しか減らなかった。
一方、スマホの位置情報を利用するソフトバンク系のIT企業「アグープ」のデータを分析すると、宣言初日の8日、午後8時以降の人出は、前日の7日と比べて渋谷センター街で2~3割、新宿・歌舞伎町でも1~2割減っていた。ただ、昨年4月の宣言後の平日と比べれば、いずれの場所も人出は増えていた。【読売新聞2021年1月9日】
前回の宣言直後よりも人出が多く、感染拡大前の土曜日よりも減っている、このように報道されています。今回の要請内容に沿えば当然の結果だろうと思っています。「午後8時以降、不要不急の外出自粛」とされているため、土曜の昼間、必要な買い物等で外出する方々が多いことについて特段驚きません。
逆に昼間の営業を認めていながら繁華街から人出が消えてしまうような事態に至った場合、店を開けている事業者の売り上げは皆無となります。万が一、全面的な休業を求めない理由が財源的な問題だとしたら極めて中途半端で不誠実な政治判断だと言わざるを得ません。
『宿敵・菅首相が自滅…緊急事態宣言発出で“不戦勝”小池都知事は高笑い』という記事にあるとおり今回の宣言は小池知事に菅総理が押し切られて発令したように見られています。もともと菅総理は移動そのもので感染は拡大しないと考え、マスクを外さなければならない会食時が最も注意すべき場面だと訴えてきています。
とりわけ酔いすぎると注意を怠りがちとなるため、午後8時までという営業時間の短縮が効果的な対策の一つだと考えられていたようです。緊急事態宣言の再発令を求める国民からの声が高まる中、感染者数の急激な拡大を受け、菅総理は経済への影響を憂慮しながら宣言に踏み切ったものと見ています。
菅総理は「アクセルとブレーキを踏みながらやっている」という言葉を多用していました。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるように映っていることを懸念していましたが、菅総理自身、元旦に放送されたテレビ神奈川の番組で「アクセルとブレーキを同時に踏むこともある」と語っていました。
この話を知って「えっ!」と驚きました。ネット上の掲示板等でも「あり得ない例え」と指摘されているとおり言葉の使い方としても、総理大臣の国民に向けた発信の仕方としても非常に不可解なメッセージだと思っています。
当初、緊急事態宣言が再発令される動きを耳にした時、飲食店に午後8時までの時短営業を要請するための法的根拠として発令するのだろうと推測していました。加えて、感染拡大する中、改めて個々人の対策に向けたマインドを高める機会につなげることも意識した判断なのだろうと考えていました。
つまり小池知事らの要請を受けた判断だったとしても、菅総理自身の「経済を急激に止めない」という軸足は大きくずらさない宣言内容が中心になるものと見ていました。そのような意味合いで見た時、1都3県の知事の「全日、最大限外出は控えて」という言葉と「午後8時以降、不要不急の外出自粛」という要請内容とのギャップに戸惑いを覚えています。
さらに「出勤者7割減をめざし、テレワークを推進」という要請内容も非常に悩ましい思いを強めています。人と接触しないことが最も効果的な感染対策であることは間違いありません。しかし、業態としてテレワークになじまない、もしくは対応できない事業所等がどれだけあるのか把握した上での要請なのか疑問です。
特に私ども自治体の業務は個人情報の問題、エッセンシャルワーカー的な立場などがあり、7割減は到底難しい数値目標です。官公庁は直接的な対象となっていませんが、今後「率先垂範」という考え方のもとに交代制勤務等を取り入れる可能性もあり得ます。
ぱわさんから前回記事「平穏な日常に戻れる2021年に」に切実な訴えのコメントが寄せられていました。昨日の朝、そのような訴えに直接応える判断を下していない組合執行部としての悩ましさをお答えさせていただいています。
話が広がりがちで恐縮です。もう少し続けますが『「国や医師会に憤りを感じる。このままでは医療崩壊だけでなく“居酒屋崩壊”だ」緊急事態宣言の再発出を前に、厚労省の元医系技官が訴え』『元厚労省医系技官 コロナ対策で経済止めれば医療ではなく社会が崩壊』という専門家らの声もあります。
新型コロナウイルス感染症の向き合い方として絶対的な正解を絞りきれない現況です。政治家が戸惑い、迷いがちな局面が続くことも仕方ないのかも知れません。それでも政治家のリーダーシップで望ましい結果を出している国もあります。昨日『報道特集』でも新型コロナ対策の成功国としての台湾を取り上げていました。
再び、発令された緊急事態宣言によって感染拡大が減少傾向に向かうことを誰もが願っています。宣言の延長の可能性を問われた際、菅総理は「仮定のことについて私からは答えは控えたい。とにかく1か月で何としても感染拡大防止をしたいという思いで取り組んでいきたい」と述べていました。
菅総理には結果を出さなければならない重い責任が課せられているため、このような言葉の不充分さを感じています。思いや決意表明だけでは国民に安心感を与えることはできず、1か月で効果が上がらなかった場合の答え方にも頼りなさを感じさせています。
確かに発信力では菅総理よりも小池知事のほうが上かも知れません。その小池知事も「都政の現場、新知事へのお願い」に記したとおり残念な点が多々見受けられ『小池知事の指示に振り回され… 東京都「コロナ対応部局」で大量退職』という現状です。最後に、コロナ禍の中で奮闘しているリーダーや自治体の事例があることも紹介させていただきます。
「歌舞伎町のホストクラブが危ない」と極めて局所的な話をしていた頃が遠い昔のようだ──。いまや全国津々浦々、あらゆる場所が新型コロナウイルスの「感染拡大地域」となっている。
しかし、地域によって、死亡者数や重症者数に大きな差があるのも事実。その背景には、自治体ごとの「対策」に差があるとも言われている。血液内科医の中村幸嗣さんはいう。
「日本は感染症の流行が少なく、感染症対応の経験がある医療従事者も少ないため、病院単独での準備は難しい面もある。それでもこの冬までに地域としてどういう対策をしてきたかが“結果”に表れています」
鳥取は平井伸治知事のリーダーシップのもとで「疑わしきは検査する」との方針を貫き、PCR検査が可能な数を人口当たり全国最多水準の1日約4800検体まで増やし、感染者全員がすぐ入院できるようにした。その対策により、中国5県で最も医療態勢が脆弱とされて高齢者も多い県ながら、死者ゼロを維持している(1月2日現在)。
鳥取と同じく死者ゼロの島根の取り組みも功を奏した。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんはいう。「島根では高齢者施設でクラスターが発生しておらず、在宅療養者を出さない早めの対策が奏功していると考えられます。今後に向けての対策も進めており、今年7月には無症状者や軽症者を受け入れる宿泊療養のプレハブ施設を松江市内に建設する予定です」
中村さんは島根の“隔離政策”に着目する。「島根大学の職員が仕事で東京に行って戻ってきたら、大学から14日間の隔離を命じられたそうです。過剰な反応ではありますが、ウイルスを持ち込ませない、感染させないために最も強力な対策は隔離なので、感染拡大地域を往来した人を隔離することは理にかなっています」
死者4人(1月2日現在)と健闘する長崎はどうか。「感染初期に長崎大学熱帯医学研究所がクルーズ船『コスタ・アトランチカ』に対応し、その後も大学と自治体が同じ方向を向くことで感染拡大を抑え込んでいます。地方のため人口過密地域が小さいなど有利な面もありますが、大学と自治体がうまく連携すれば感染を抑えられるという好例です」(中村さん)
一石さんが注目するのは、栃木県の那須塩原市だ。「近いうちに、希望する市民がPCR検査を1000円で受けられる事業を実施すると報じられました。原資となるのは、昨年12月に引き上げた入湯税の一部というユニークな取り組みです」
住民の命を守るリーダーが何をしているかに目を凝らす必要がありそうだ。【女性セブン2021年1月21日号】
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コメント
緊急事態宣言が出されましたが感染者数は高止まりしています。通勤の電車を見ても人の数はかわっていないと感じます。昨年の緊急事態宣言と比べテレワーク等を活用している企業数が減っている、コロナウイルスに対して慣れてしまった感があります。当方自治体は交代制勤務を再度可能とする通知がありましたが、判断は所属長に任され所属長は周囲の出方を見ながらといった感じなので交代制勤務が全くとられていません。民間も自治体もコロナ陽性者数を減らす、感染しないようにするといった動きが見られないので2月どころか3月になっても今の状況がかわると思いません。悲しい限りです。組合としての考えは変わらないのでしょうか?
投稿: ぱわ | 2021年1月15日 (金) 21時10分
ぱわさん、コメントありがとうございました。
労使で考え方が異なり、真っ正面から論戦する課題も多くあります。その中で緊急事態宣言の再発令に伴い、交代制勤務を必須としない判断は対立案件となっていません。
ぱわさんの訴えに対応できず申し訳ありません。今回の記事本文に記したとおり人と接触しないことが最も効果的な感染対策であることは間違いありません。したがって、自宅から一歩も外に出ず、誰とも接触しなければ移すことも移されることもありません。
しかし、行政の仕事の大半はテレワークになじまず、エッセンシャルワーカー的な立場などがあります。完全な在宅勤務が難しい中、交代制勤務は感染確率を下げる次善の策だと理解しています。
4月に発令された頃は、感染者が一人でも出た場合、周囲の職員の大半が濃厚接触者となって自宅待機に至る事態を危惧していました。そのため、交代制勤務は感染者が出た場合の業務継続のための対策にも位置付けていました。
その後、感染した職員が出た後の保健所の指示は次のとおりでした。マスクを付けている時間のみの接触であれば感染者と席を隣接していた職員も濃厚接触者に当たらないというものでした。
したがって、感染確率を下げる対策を軽視している訳ではありませんが、それ以上にマスク着用や消毒等による対策を徹底化することに重きを置いています。
業務が多忙な時期だから交代制勤務は行なわないという発想だった場合、職員の安全や健康を二の次にした考え方だと見られかねません。職員の安全と住民サービスの維持は優劣を付けられるものではなく、感染症対策においては表裏一体のものだと考えています。
『都政新報』にH市の労務課職員の「4月の時はコロナの全貌が全く分からない状況で感染抑止する必要があったため、全庁的な在宅勤務体制をとったが、この1年間で職場での感染防止のノウハウがある程度ついてきた」という見解が掲げられていました。
このような経緯や考え方を踏まえ、組合としても交代制勤務を必須としない判断を受け入れています。私自身の思いは年末から年始にかけて投稿しているブログ記事に託しているとおりです。一日も早く平穏な日常が戻ることを願っていますが、一方で長丁場の闘いになることも覚悟しています。だからこそ持続可能な対策の必要性を認識しています。
今後、ロックダウンに近い緊急事態宣言に切り替わる場合などもあるのかも知れませんが、現時点での考え方を改めて説明させていただきました。なお、今週末の新規記事も緊急事態宣言に絡む内容を考えています。ぜひ、引き続きご覧いただければ幸いですのでよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2021年1月16日 (土) 08時13分