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2020年8月29日 (土)

憲法9条の論点について

金曜の夕方、安倍首相が記者会見し、持病の潰瘍性大腸炎の悪化を理由に辞任する意向を表明しました。2週続けて慶応大病院に通い、健康不安説が取り沙汰されていましたが、大半の方は続投されるものと見ていたはずです。周囲が思っていた以上に持病の悪化は深刻なものだったようです。

13年前は持病が悪化しながらも、ぎりぎりまで続ける意思を示した結果、内閣改造後の唐突な退陣となっていました。その時の手痛い失敗を教訓化し、今回、より望ましい辞意表明のタイミングを探られていたとのことです。自分自身への後々の評判を意識した配慮だったとしても、任期途中の辞め方として賢明な判断だったのではないでしょうか。

以前の記事「改めて言葉の重さ」の中で、人によってドレスの色が変わるという話題に接した時、安倍首相のことが頭に思い浮かんだ近況を綴っていました。見る人によって、ドレスの色が白と金に見えたり、黒と青に見えてしまうという話を紹介し、安倍首相に対する評価や見方も人によって本当に大きく変わりがちなことを書き残していました。

これまで安倍首相のことを取り上げた書籍を数多く読んできました。同じ出来事や言動に対する評価が著者によって180度違うため、ますます上記のドレスの色のことが頭に浮かび続けていました。そもそも基本的な立ち位置が安倍首相と同じであれば評価する、相反すれば評価できない、当たり前なことかも知れません。

ただ安倍首相の場合は、その評価の落差が人によって極端に枝分かれしていたように思っています。特に憲法や安全保障に対する価値観に対し、評価の枝分かれが顕著だったものと見ています。これまでの憲法9条を支持している方々にとって安倍首相は警戒すべき「敵」であり、改めるべきものと考えている方々にとって安倍首相は頼もしい「味方」となります。

今月「平和を考える夏、いろいろ思うこと」「平和を考える夏、いろいろ思うこと Part2」という記事を投稿していました。その後の前回記事「例年より遅い人事院勧告」の冒頭でもyamamotoさんからのコメントを受け、憲法9条の解釈を巡る記述を掲げました。その記述に対しては、たろうさんから問いかけがありました。

前回記事のコメント欄で私自身の考え方を補足した上で「周辺国との関係性も踏まえ、どのような憲法が国民にとって望ましいのか、戦争を防ぐため、平和を築くためにどのような憲法や安全保障のあり方が望ましいのか」と記し、論点を明確にする一助になれることを願いながら憲法9条について引き続き取り上げていくことを付け加えていました。

さっそく今回の記事で改めて憲法9条について掘り下げてみます。大前提として安倍首相も、安倍首相を支持されている方々も戦争を防ぐため、平和を築くための方策として改憲の必要性を認識されているものと考えています。護憲派は平和主義者で、改憲派は戦争を肯定しているというような短絡的な二項対立の構図を問題視しています。

以前の記事「改めて安保関連法に対する問題意識」「憲法9条についての補足」などを通して私自身の問題意識を詳述していますが、いつも「何が正しいのか、どの選択肢が正しいのか」という論点の提起に心がけています。仮に憲法9条を改め、いざという時に国際社会の中で認められた「普通に戦争ができる国」に近付けることで、より望ましい平和が築けるのであれば改憲の動きを積極的に支持したいものと考えています。

しかし、そのような軍事的な抑止力、いわわる「狭義の国防」やハードパワーを強める方向性よりも、外交関係や経済交流を活発化させるソフトパワーを強めて欲しいものと願っています。攻められたら反撃しても、攻められない限り戦争はしないという専守防衛の原則こそ「安心供与」という「広義の国防」につながっているものと理解しています。

かつて仮想敵国だったソ連、現在のロシアとは友好的な関係を築いています。北方領土の問題は無人島である尖閣諸島とは比べられないほどの主権や元島民の皆さんの強い思いがありながらも、対話を土台にした外交関係を築いています。その結果、ロシアの核ミサイルの射程範囲に日本も入っているはずですが、北朝鮮に対するような脅威が日本政府から煽られることはありません。

残念ながら北方領土の問題は膠着しています。とは言え、安倍首相がプーチン大統領と信頼関係を構築してきたこと自体は評価すべき点だろうと考えています。中国との関係では香港民主派への弾圧問題によって難しい局面を迎えていますが、国賓として招待することで安倍首相が習国家主席との信頼関係を高めようと努力していた姿勢も評価しています。

憲法9条について掘り下げる記事が、時節柄、安倍首相に絡む内容が多くなっています。今回、制定過程や解釈の変遷について改めて整理してみるつもりでした。さらに敵基地攻撃能力に関しても触れられればと思っていました。いろいろ話を広げながら書き進めてきたため、ここまでで相当な長さとなっています。

初めに想定した内容と大きく異なりますが、もともと「雑談放談」をサブタイトルに掲げたブログですのでご容赦ください。ここからは最も提起したかった内容を中心に書き進めていきます。その上で、さらに安倍首相に関わる話が論点として続きます。

  1. 安倍首相らがすすめる憲法9条などの改憲発議に反対します。
  2. 憲法を生かし、平和・人権・民主主義、生活の向上が実現する社会を求めます。

上記は「安倍9条改憲NO!改憲発議に反対する全国緊急署名」の請願事項です。「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が呼びかけ、自治労も協力団体の一つです。請願事項の2番目は誰もが賛同できる内容ですが、1番目の文章は少し説明を要する気がしています。

改憲議論そのものは必要と考えている方々に対しても「安倍首相らの進める改憲発議は問題が多いため、ともに反対しよう」という意味合いがあるのかも知れません。思いがけない時期に安倍首相は退任してしまいますが、反対する目的や趣旨は変わらないため、すでに集まっている署名自体が無効にはならないはずです。

憲法9条には様々な論点があるため、結果的に1番目の請願事項はシンプルな文章になったのだろうと推察しています。「戦力は、これを保持してはならない」の解釈の妥当性の議論があります。憲法の文言に沿って現状を合わせるべき、もしくは解釈ではなく、現状に合わせて憲法の文言を改めるべき、つまり自衛隊の位置付けの議論です。

どのように憲法を解釈しても集団的自衛権は一切認められない、一方で時代情勢の変化のもと解釈を変えることができ、限定的であれば集団的自衛権も認められる、つまり安保関連法が違憲かどうかという議論もあります。安保関連法が成立する前、個別的自衛権や自衛隊の位置付けを明記するための改憲発議であれば反対する声も少なかったかも知れません。

このような論点もあるため、集団的自衛権を認めた解釈のもとの自衛隊明記案に反対する「安倍9条改憲NO!」という訴えにつながっているものと理解しています。したがって、安倍首相が退陣した後、安倍首相以外の総理大臣であれば改憲発議に反対しないのかという問いかけがあった場合、集団的自衛権を追認した改憲案には反対していくと答えることになります。

最後に、憲法を変えるべきかどうかという世論調査を行なった際、質問の仕方で結果は大きく変動するはずです。現状に合わせて憲法の文言を改めますかと問われれば「はい」という答えが多くなり、日本国憲法の三大原則の一つである平和主義を改めますかと問われれば「いいえ」が多くなるのではないでしょうか。

いずれにしても憲法9条に沿って日本の安全保障はどのようなあり方が望ましいのか明確な姿を提示した上で、憲法の文言を変える必要性があるのかどうか、まぎれのない選択肢の設定が重要です。改正条項の96条があるのですから、いつかは国民投票を実施する時が訪れるはずです。その際は、国民一人一人の共通理解と覚悟のもとに日本の進むべき道が決められる国民投票であることを願っています。

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コメント

9条は憲法前文で宣言された、平和主義を具現化するための規定です。
自衛戦争も含む戦争の放棄、戦力の不保持&交戦権の否認を規定して、世界でも類を見ない非武装国家になることを求めています。

投稿: yamamoto | 2020年8月30日 (日) 22時03分

yamamotoさん、コメントありがとうございました。

今回の記事で取り上げたとおり憲法9条の論点は多岐にわたり、改めるかどうか問いかける際、たいへん分かりづらいものとなっています。そのため、私自身は最後に記したとおりの思いを強めています。

投稿: OTSU | 2020年9月 5日 (土) 06時36分

素朴な疑問ですが、自治労が改憲発議に反対するのはなぜでしょうか、改憲が嫌なら国民投票で反対票を投じればいいと思うのですが。

個人的には内容はともかく、国民投票を行うことになれば国民の憲法に対する関心も高まるので良いことだと思います。

投稿: たろう | 2020年9月 5日 (土) 06時46分

たろうさん、コメントありがとうございました。

やはり今回記事の中で触れたとおり発議しようとしている中味自体が問題だととらえているからだろうと考えています。自治労全体に責任を持てる立場ではありませんが、そのように考えた上、今回の記事も綴っています。

投稿: OTSU | 2020年9月 5日 (土) 07時51分

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