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2020年7月11日 (土)

『霞保育園で待っています』を読み終えて

先週日曜に投開票された都知事選は現職の小池知事が大差で再選を果たしています。新規感染者数が日々増加している新型コロナウイルス感染症の東京都における対策に際し、ぜひとも今後、前回記事「都政の現場、新知事へのお願い」に託したとおり内実を重視したリーダーシップの発揮を願っています。

さて、組合の福利厚生活動の一つとして舞茸やチョコレートなど良質で廉価な物資を適宜斡旋しています。団体を通して斡旋するため、それぞれお得な組合員特別価格で提供できるようになっています。時々、書籍の斡旋もあります。

先日、私どもの組合の元委員長から『霞保育園で待っています』という書籍の案内がありました。元委員長は東京自治研究センターに在籍しています。指定の注文書を利用し、東京自治研究センターあてに直接注文願えれば組合員特別価格で購入できます。2冊以上であれば送料も無料になります。

現場で日々苦労されている保育士の方、待機問題などで悩まれている保護者の方だけでなく、保育園の今に関心を持つすべての方に「保育園の今の姿」を伝えてくれる珠玉の一編。

この本を読んだらもう一度保育園に行きたくなる! 東京の下町にある霞保育園の保育士、冴木舞衣子が、子どもたちの冒険/商店街の祭/子どもだけの家/育児放棄/DVの追跡/ご近所からの苦情などに関わる中で成長していく1年間の記録。読むと元気になる現場レポートのような小説です。

上記はamazonのサイトに掲げられた宣伝文です。著者の紹介で麻海晶さんは「東京都出身。現在、都内研究機関で執筆活動中」とし、「自治体・公共サービスの現場お仕事シリーズ」第一弾として『霞保育園で待っています』を発表していることを伝えています。ちなみに都内研究機関とは東京自治研究センターのことです。

霞保育園の保育士、舞衣子が5歳児クラスの担任として卒園までの一年間を送る物語。霞保育園の子どもたちは、都心ながらも下町の風情を残す商店街や地域の人々と触れ合い、様々な経験を重ねながら成長していくが……。

白いポストを探す子どもたちの冒険。愛を知らない保育士は成長できるのか。保育園に現れた偽物が狙うのは。商店街祭りで消えた子どもは何処へ。迷い込んだ青年、惹かれ合うのは何故。

「子どもの声がうるさい」御近所の苦情に。子どもだけの家、育児放棄か。DVの追跡、恐怖の脱出。「子どもは街の宝だ!」霞保育園を狙う組織に、父母会、商店街が立ち上がる。喜びと夢と秘密が詰まった物語。ラスト、この物語のもう一つの意味が……。

上記は書籍のPRチラシに掲げられた文章です。麻海さんは東京都の職員だった方であり、児童相談所に勤務していました。さらに配偶者が区立保育園の園長経験者だったため、実際の出来事を下敷きにした物語が描かれています。

この書籍の刊行にあたり、麻海さんは「公共サービスの現場である保育園の仕事と役割、そこで働く職員の思いを、小説という形で世の中に伝えることができればと思っております」と語られています。

元委員長から案内を受けた後、さっそく『霞保育園で待っています』を1冊購入し、読み終えていました。当初、保育園職場を中心に斡旋することを考えていました。読み終えた後、職種を問わずに推奨できる書籍だと考え、組合員向けのPRチラシは全職場に回覧する運びとしています。そのPRチラシには私から次の一文を添えています。

涙腺のゆるむ場面が何回もありました。子どもたちの成長を見守る保育園の大切さが様々なエピソードから伝わってきました。物語としても意表をつく結末をはじめ、たいへん面白く読み終えています。

いろいろ感じたことをネタバレに注意しながら週1回更新しているブログ『公務員のためいき』の最新記事に綴っています。あわせてご覧いただければ幸いです。

と言う訳で、PRチラシを職場回覧するタイミングに合わせ、今週末に投稿する記事は「『霞保育園で待っています』を読み終えて」としています。ここまでで相応の長さとなっていますが、もう少し個人的な感想や印象に残った箇所を紹介させていただきます。

この物語は霞保育園の最年長児の5歳クラス、そら組を担任する女性保育士が主人公です。その主人公の目線で物語は進んでいきます。そら組には給食を調理室に取りに行く当番をはじめ、様々な当番があります。時には失敗し、泣きそうな子もいます。

そのような時、サークルタイムという子どもたちだけの話し合いの場を持ち、皆で反省し合って失敗を繰り返さないようにしています。当番が自分たちの必要や目的のためにあることを体験で実感し、年少のクラスの子どもたちに尊敬される晴れがましい役目であることが描かれています。

子どもが怪我をして、保育園側のミスを責める父親に対し、園長が土曜日の保育士体験を勧めます。その言葉にも憤慨していた父親でしたが、怪我をした娘から「パパ、きてよ」と頼まれ、戸惑いながら保育士体験を申し込みました。

保育士体験を終えた父親は「子どもたちを見ていると、こちらの手の届かない、子ども自身の力がある。子どもたちがこんなに考えたり、話し合ったり、しっかりしているとは全く知らなかったです。先生たちが手を抜いているんじゃないかと思ってましたけど、子どもの力を信じているんだと分かりました」と感謝の言葉を伝えていました。

これまで当ブログでは「保育園民営化の問題点」「保育園民営化に賠償命令」という記事を投稿しています。保育園に勤めている組合員の皆さんが多数いらっしゃる中、組合の委員長という立場から公立保育園の大切や役割を知っているつもりでした。

今回、この書籍から具体的な事例を疑似体験でき、よりいっそう公立保育園の必要性について認識を深める機会となっていました。誤解されないように強調しなければなりませんが、民間では保育園を運営できないと考えている訳ではありません。ただ現状として次のような問題が見受けられることを憂慮しています。

物語が佳境を迎えつつある中、大手の開発会社から霞保育園は立ち退きを迫られます。父母会が申し入れた開発計画の説明会に主人公や園長たちも参加します。開発会社の部長は次のように説明し、父母会からの理解を求めます。

「私共もね、決してこの区域内に保育園が無くていいと言っている訳ではないですよ。近隣住民の要望があるなら、保育園をテナントに入れる用意があります。必要ならすぐに保育園を作れる会社とも提携しておりましてね」と述べた後、次のような言葉が続きます。

「この会社は、どんどん新しい保育園を増やしていますから。現場を見ましたけどね、フレッシュな新人の保育士ばっかりで、子どもよりも大きな号令を掛けていましてね。いやぁ、何とも元気がありますよ。これからはね、保育園も市場で競争ですよ。区立の保育園では競争が無いから、ぬるま湯に浸かっていて進歩が無いでしょう」と持論を語ります。

それに対し、霞保育園の園長は「御冗談でしょう!」と立ち上がり、「すぐできる保育園で、新人ばかりが子どもより大きな声で号令ですか?それは元気だからではなく大変だからです!保育士は子どもの賑やかな声が大好きで、この仕事で働いているのです。それでも職員が足りなかったり、保育のノウハウの蓄積がなかったりするから、一生懸命に大きな声を上げているのです。

区立の保育園は競争が無いから、ぬるま湯に浸かっていて進歩が無いですか?それは事実と違います!私共、霞保育園の職員はベテランから新人まで全職員が日々研鑽し、子どもと共に、御家族と共に成長をしております。競争が無いですか?私たちは誰と競争している訳でもありません!

霞保育園の目標は『支え合い、分かち合い、喜びいっぱい夢いっぱい』です。その通りに子どもたちは支え合いながら、分かち合いながら、喜びと夢を共有して成長しています。地域の皆様に支えて頂いて、霞保育園とそのファミリーは日々成長しています!」と反論します。この言葉に賛同した声が続き、会場から割れんばかりに力いっぱいの拍手が湧き上がっていました。

元都職員で労働組合の役員も長く務められていた著者の麻海さんは、この書籍を通して上記の言葉を最も伝えたかったのではないかと推測しています。物語の中で、児童相談所の児童福祉司、民生委員児童委員、子ども家庭支援センター職員と事案を協議する場面も描かれています。やはり区立保育園だからこそ、迅速かつ綿密に対応できる現状があることも利点の一つだろうと思っています。

本筋から離れる話ですが、子どもたちが踊ったり、卒園式で披露する歌は実際にあるものが使われています。『エビカニクス』や『さよなら、ぼくたちの保育園』が出てくるたびにYouTubeを検索していました。池田理代子さん原作の『ベルサイユのばら』もいくつかの場面で取り上げられています。

PRチラシに寄せた一文に「意表をつく結末」と記しています。元委員長が麻海さんから聞いた話として、編集者と話し合う中で、そこまで広げた展開となったそうです。そこには『ベルばら』を伏線にしてみようという話があったように伺っています。ネタバレになりますので、これ以上語りませんが、公立保育園云々という話を横に置いても楽しめる書籍でしたので皆さんにお勧めしています。

最後に余談です。主人公の保育士は同僚から「ビジュアル担当は舞衣子」と言われています。物語の中での役回りや空気感を踏まえ、もしドラマ化した際、適役となるキャストを想像してみました。まったく個人的な印象ですが、3週にわたって5月の土曜夜に放映されたNHKのドラマ『路~台湾エクスプレス~』での波瑠さんを思い浮かべていました。

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コメント

「民間はダメで公立保育園がいい」であれば、一般のビジネスだと役所が正しく、企業は悪だという事になりますね。経営的に厳しい認可外保育園でも、福祉マインドの高い事業者はたくさんいますよ。専業主婦がこれから働きたいために、子どもを預けようと思ったら、認可保育園にほぼ入れないのが実情です。
社会福祉法人が経営する認可保育園は、公立or私立のどちらですかね?

投稿: yamamoto | 2020年7月12日 (日) 09時28分

yamamotoさん、コメントありがとうございました。

自治体直営の保育園を公立とし、社会福祉法人が経営する保育園は私立としています。今回の記事本文の中で記しているとおり民間では保育園を運営できないと考えている訳ではありません。さらに質の高い民間保育園が少ないと見ている訳でもありません。

ただ現状としてベテラン保育士の比率が少なくなっているようです。その理由や背景については以前の記事「保育園民営化の問題点」の中で綴っています。端的に言えば保育をコストでとらえることの問題性について提起しています。

投稿: OTSU | 2020年7月12日 (日) 21時38分

yamamoto殿

>経営的に厳しい認可外保育園でも、福祉マインドの高い事業者はたくさんいますよ。

仰るように、経営的に厳しい認可外保育園でも、福祉マインドの高い事業者はたくさんいらっしゃる(ほとんどの事業者は福祉マインドが高い)と思います。しかし、民間にはごく一部だと思いますが、そうでない事業者もいると思います。例えば年の途中で突然閉鎖になったり、幹部のパワハラで保育士の多くが退職した保育園がありました。
問題は民間には(ごく一部であっても)ひどい保育園があるという事だと思います(公立保育園でそのような事例は聞いた事がありません)
経営的に厳しくても福祉マインドの高い事業者のためにも、公的機関はひどい保育園が参入できないようにチェックして欲しいと思います。


>>専業主婦がこれから働きたいために、子どもを預けようと思ったら、認可保育園にほぼ入れないのが実情です。

そのような方のためには、認可保育園を増やすべきだと思います。

投稿: Alberich | 2020年7月15日 (水) 21時33分

Alberichさん、コメントありがとうございました。

幅広い立場や視点からのご意見が記事本文の内容を補っていただけるものと考えています。ぜひ、これからもお時間等が許される際、ご投稿いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2020年7月18日 (土) 06時40分

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