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2020年6月13日 (土)

スクープを追うマスコミの特性

前回記事は「『首都感染』を読み終えて」でした。相場英雄さんの『トップリーグ』や堂場瞬一さんの『警察回りの夏』に関してもそのうち当ブログで取り上げることを考えていました。それぞれ「2」や「秋」「冬」が付いたタイトルの続編も読み終えています。共通している主題はスクープを追うマスコミの特性です。

スクープ、特ダネのことですが、新聞や雑誌の記者であれば世間に知られていない貴重な情報を他社に先駆けて報道したいという願望を誰もが持っているようです。それぞれの著書を読み、スクープを追うことが記者の本能や習性とも言える行動目的であることを改めて認識できる機会となっていました。

スクープを飛ばすことで売上増につながり、記者本人の評価が上がる訳ですが、公益的な意味合いも決して小さくありません。権力側が自分たちにとって都合の悪い情報を隠してしまった場合、有権者らから正当な評価を受ける関係性を歪めていることになります。権力側の不適切な行為を制御し、監視機能の一つとしてもスクープの重要性を考えることができます。

トップリーグとは「総理大臣や官房長官、与党幹部に食い込んだごく一部の記者を指す」と説明されています。取材対象に近付き、信頼関係を築くことでスクープが得られやすくなります。東京高検の黒川前検事長と新聞記者のマージャンを通した交流もそのような関係性の延長線にあったのだろうと見受けられます。

しかしながら仮にスクープを連発していても権力側に取り込まれ、都合の良いリーク情報の報道にとどまるようであれば親密な関係そのものが批判されなければなりません。『警察回りの夏』は「特ダネを物にしたい思いは募り、警察関係者から特ダネをリークされて記事に。しかしそれは誤報であり、世論からのバッシングを受ける事態」となったことが描かれています。

このような書籍を当ブログで取り上げようと考えた切っかけは読売新聞の最近のスクープです。5月18日付の読売新聞は朝刊の一面トップに「検察庁法案見送り検討」と見出しを打ちました。「政府・与党近く最終判断」と続けていましたが、スクープされた時点で大半の政府・与党関係者は「寝耳に水」の話だったようです。

このスクープに接し、トップリーグのことを思い浮かべ、間違いなく官邸からのリーク情報だろうと推測していました。読売新聞は5月26日から『政治の現場 危機管理』という連載記事を始めています。第1回目の見出しは「首相の決断 菅氏不在」でした。

突出したスクープを放てる読売新聞の連載記事は様々な意味で興味深く、前述したとおり最近読んだ『トップリーグ』や『警察回りの夏』を紹介しながら機会を見てブログの題材にしてみようと考えていました。その際は『政治の現場 危機管理』に焦点を当てるつもりでした。

結局、先週日曜に配信された共同通信のスクープが注目を集めていたため、今回の記事は別な題材に差し替えています。『政治の現場 危機管理』のことは改めて次回以降の記事で取り上げる予定です。

さらに今回、紹介する他のサイトの記事内容だけで相当な分量となりますので、読み終えた書籍の中味を取り上げることも見送ります。あらすじなどはリンク先をご参照願えれば幸いです。最近、波紋を広げたスクープを紹介しながら、いろいろなことを考える機会につなげてみるつもりです。

香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していたことが6日分かった。複数の関係国当局者が明らかにした。中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随しないことで配慮を示したが、米国など関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている。

新型コロナの感染拡大などで当面見合わせとなった中国の習近平国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙いがあるとみられる。ただ香港を巡り欧米各国が中国との対立を深める中、日本の決断は欧米諸国との亀裂を生む恐れがある。【ワシントン共同2020年6月7日

共同通信社は国内、海外のニュースを取材、編集して全国の新聞社、NHK、民間放送局、海外メディアに配信しています。したがって、上記のスクープ記事は複数のメディアが一字一句同じ内容をそのまま伝えていました。しかし、下記のとおり自民党の国会議員を中心に「誤報ではないか」と批判する声が上がっていました。

共同通信は6月7日、中国による香港版国家安全法制の導入について「日本政府は欧米から打診された中国を批判する共同声明への参加を拒否した」と報じた。しかし、日本の国会議員らは報道内容は「事実と異なる」と指摘している。日本政府はすでに5月28日、安全法制導入をめぐり、駐日中国大使を呼び出し、深い懸念を伝えている。

共同通信ワシントン支局は7日、匿名の関係国当局者の話として、日本政府が参加を拒否した理由を挙げている。「中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随せず」「習近平国家主席の国賓訪日に向けて中国を刺激するのを回避する狙い」。これについて、「米国など関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている」と書いている。

香港版国家安全法制は5月、中国の全国人民代表大会(全人代)で可決した。香港当局が反体制派と見なした勢力の言論や行動を一層厳しく鎮圧する法律となる。菅義偉官房長官は28日の記者会見で、「国際社会や香港市民が強く懸念する中で(採択が)なされたことや、それに関連する香港情勢を深く憂慮する」と述べた。

同日、外務省・秋葉剛男外務事務次官は、孔鉉佑駐日中国大使を呼び、香港情勢への懸念と、香港は「我が国にとって緊密な経済関係および人的交流を有する極めて重要なパートナー」であり、一国二制度の維持を支持するなどの申し入れを行った。

同通信6月7日付の記事のなかにある「共同声明」が、どの声明を指すかは報道にない。5月28日、英語圏多国間情報協定ファイブ・アイズに加盟する5カ国のうちニュージーランドを除くアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダの4カ国の外相が、香港版国家安全法制について批判声明を発表しており、これを指すと見られる。

菅官房長官は8日の定例記者会見で、「共同声明の拒否」に関する一部報道についての質問に答えた。菅長官は「ほかの関係国に先駆けて、直ちに『深い憂慮』を表明し、強い立場をハイレベルで中国側に伝達した。国際社会にも明確に発信している」と述べた。また、米英をはじめとする関係国は、香港情勢をめぐる日本の対応を評価しており、「失望の声が伝えられているという事実は全くない」とした。

日本の国会議員は相次ぎ誤報であるとの指摘を行った。長尾敬衆議院議員は7日、「日本政府が米国や英国などの共同声明に参加を打診された、という事実はないようだ」とツイートした。

片山さつき参議院議員も同日、外務次官との話として「G7で香港問題につき中国大使を呼んで抗議したのは日本だけ」とし、日本は香港版安全法制について否定的な態度をすでに表明していることを強調した。「声明には独仏も参加しておらず、突然言われても、というだけの話だそう」と、共同声明への参加の呼びかけも確認できていないとした。

山田宏参議院議員は同日、「酷い印象操作記事。当初、各国足並みの揃わない時期未定の共同声明ではなく、速やかに明確な形でわが国が独自の声明を出した。後追いでEUが同様の『深い懸念』声明となったというのが事実」と書いた。

また、海外メディアも共同通信の記事内容を引用していることを受けて、「外務省に速やかに正確な情報発信をするよう要請した。不審火は即座に消さないと大変なことになる」と書いた。共同通信の記事は英語版「Kyodo News」でも配信され、これまでに通信社のブルームバーグ、ロイターがそれを引用して報道している。

元共同通信記者である青山繫晴参議院議員は、7日からのブログ記事で、共同通信の記事には「いつ、どこで、どの国の誰から、どのように打診されたかが、全くない」と報道記事の要素が抜けていると指摘。「共同通信の信頼性にとって、あり得ないほどの致命的な不祥事」と厳しく批判した。

香港の自由と民主主義の危機を憂慮する、25カ国の230人以上の国会議員らは、中国政府に対して香港版国家安全法制の撤回を求める声明に署名している。自民党の有志議員らも参加を呼び掛けている。声明は、香港の高度な自治を2047年まで保障した中英共同宣言に対する「明白な違反」と指摘している。【EPOCHEPOCH TIMES2020年6月8日

事実関係として米英などの共同声明に日本が加わらなかったことは明らかです。「日本の対応に失望」という声がどのようなレベルのものであったのかどうかは不明確です。「日本の決断が欧米諸国との亀裂を生む恐れがある」は配信した共同通信の記者の予測であり、事実だと断定できない内容です。

このような点を押さえながら下記の記事にも目を通した時、また異なる見方に至ります。そもそも自民党の国会議員も「日本はこうあるべきだ」という考え方をもとに「共同通信のスクープは誤りだ」という前提で批判しているようにも思えます。

「日本、中国批判声明に参加拒否 香港安全法巡り、欧米は失望も」 いま、6月7日に共同通信が配信したこんなニュースが波紋を呼んでいる。香港での反政府活動をより強く取り締まれるようにする「国家安全法制」の導入を巡り、中国を厳しく批判する共同声明を米国、英国、オーストラリア、カナダの4カ国が5月28日に発表した。共同通信の報道によると、じつは日本政府もこの共同声明への参加を打診されていたにも関わらず、参加を拒否したという。

同ニュースは、米国など関係国から日本に「失望の声が出ている」ことを伝えたほか、参加を拒否した理由を「習近平国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙いがあるとみられる」と分析している。この報道に、ツイッター上では有名人を含む多くの人が反応した。

サッカー元日本代表の本田圭佑選手(33)はこう怒りを表明。《中国批判声明に日本は参加拒否って何してるん!香港の民主化を犠牲にしてまで拒否する理由を聞くまで納得できひん。》 格闘家の高田延彦氏(58)はこう反応した。《驚いたね!中国の香港への仕打ちに日本は「いいね」するのか!賛成票と同じだぜ!》

一方、火消しに走ったのは自由民主党の議員たちだ。自民党の長尾たかし衆議院議員(57)はツイッターで《誤報の可能性が非常に高い》としたうえで、《「米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診された」という事実はない、ようです》と参加への打診があったこと自体を否定。

片山さつき参議院議員(61)はこうツイートした。《たった今外務次官と話しましたが、G7で香港問題につき中国大使を呼んで抗議したのは日本だけ!外相も官房長官も明確に発言!その声明には独仏も参加しておらず、突然言われても、というだけの話だそう》 外務次官に直接確認したという片山氏は、長尾氏とは違って、《突然言われ》と参加の打診があった旨は認めているようにみえる。

ちなみに、欧州連合(EU)は5月29日に香港問題について中国政府を非難する声明を出しており、独仏はEUの一員としてこちらの声明に参加している。《共同通信のフェイクで確定》《誤報というより、虚偽記事です。》 自民党議員などの一連のツイートを受け、政権支持層からは共同通信の報道を“誤報”と決めつけるような声が挙がったのだが……。

6月8日の定例記者会見で、菅義偉官房長官(71)は、「共同声明への参加の打診があったのか、拒否をしたのか」と事実関係を問われ、こう答えた。「我が国は関係国にさきがけて、直ちに私および外務大臣から『深い憂慮』を表明するとともに、秋葉外務次官が孔鉉佑駐日中国大使を招致し、こうした我が国の立場を直接明確に申し入れを行っています」

さらに、国際社会に日本の立場は明確に発信しているとしたうえで、「米国や英国をはじめとする関係国は我が国のこのような対応を評価しており、失望の声が伝えられるという事実はまったくありません」と主張した。だが、「打診の有無」「拒否したか否か」については、「外交上のやりとりについてひとつひとつお答えすることは差し控えます」とまったく答えなかった。

菅官房長官の会見を受けて、政権支持層を中心としたアカウントが《共同のフェイク確定》《共同は謝罪と訂正をするべき》とツイッター上で盛り上がり始めたが、《論点をずらして誤魔化してたけど、「英米加豪の声明に日本も打診されたが断った」という共同の記事を否定したわけじゃない》《これなにがフェイクなの?参加拒否してなかったなんて菅さん一言も言ってないよね》と冷静な指摘も多かった。

確かにこのような打診が一切ない場合、これまでの会見の例から見ても菅官房長官は「ご指摘のような事実はない」などと否定する可能性が高い。ちなみに、日本が香港問題について示したのは「深い憂慮」という立場。「憂慮」とは「深く心配すること」といったような意味だ。

日本政府は香港の“一国二制度”の重要性については言及しているものの、米英などの共同声明のように「香港の人たちの自由」が奪われることに懸念を示したり、今回の法律が「一国二制度を定めた英中共同宣言に違反する」ことについての言及などはしてこなかった。

一部の自民党の関係者からは、「日本はすでに“独自の声明”を出しているので共同声明への参加は不要」といった意見も散見されるが、“深い憂慮”と米英などの共同声明を同一視したら、それこそ各国の失望を買うことになるだろう。

共同声明への参加の打診について否定しなかった菅官房長官。共同通信の報道で唯一否定をしたのが、関係国から「日本の対応に失望の声が出ている」という部分だけだが、「失望の声」がまだ届いていない可能性もあり、共同通信の報道を“フェイク”と断ずるには相当の飛躍が必要になりそうだ。【@niftyニュース2020年6月9日

その後、安倍首相は「日本がG7で“香港保安法”の反対声明を主導したい」と述べています。安倍首相がそのように考え、衆院予算委員会で発言したことは事実です。しかし、この発言によって共同通信のスクープを誤報だったと結び付けることはできません。

身内からも強い批判の声が上がり「深い憂慮」だけでは不充分だと判断し、軌道修正をはかった可能性が考えられます。もしくは米英などの共同声明に日本が加わらないと決めた際に安倍首相は関与していなかった、あり得ない話ですが可能性はゼロではありません。

もちろん共同声明のスクープそのものが事実無根という可能性も否めません。もし誤報だったとすれば、すみやかに訂正して謝罪しなければならないほどの大失態だと言えます。しかし、現時点までにそのような動きはなく、一度掲載した共同通信の配信記事を取り下げたのは産経新聞一社にとどまっているようです。

元大阪市長の橋下徹さんの「日本は英米加豪の中国非難声明に参加するべきだったのか」という論評をPRESIDENT Onlineで目を通すことができます。すでに相当な長さの新規記事となっていますので全文を掲げることは控えますが、香港の「一国二制度」の問題をフェアの思考で考えた時、また違った見方があり得ることを提起されています。

個々の出来事に対し、立場や視点を変え、多面的に見ていくと評価が変わる事例の一つとして橋下さんの論評にうなづけるものがあります。興味を持たれた方はリンク先のサイトをご参照ください。

たいへん長い記事となりましたが、マスコミのスクープをキーワードとし、多面的な情報を提供する機会とさせていただきました。いずれにしても「答え」を押し付ける場ではないため、読み手の皆さんがどのように受けとめられるのか、本当に様々なのだろうと考えています。

最後に、特別定額給付金事務の応援のため、久しぶりの休日出勤、それどころか外出すること自体が本当に久しぶりの週末となりました。だからと言う訳ではありませんが、他のサイトの紹介を中心とした新規記事となっていることをご容赦ください。

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