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2020年2月 8日 (土)

定年延長の話

前回記事「雇用継続の課題」は非常勤職員の皆さんを巡る切実な実情を伝えたものです。次年度に向けては人事評価による再度の任用とし、継続的な雇用を不可とするC評価は極めて例外であることを労使確認しています。

この労使確認が疎かにされるような事態に直面した場合、組合は組合員の雇用を守る立場で全力を尽くさなければなりません。人事当局側の周知不足や一部の管理職の認識不足から不当な評価を受ける事態が生じることは到底看過できない話だと言えます。

水曜夜、新たに組合交渉の責任者となった副市長と団体交渉を開きました。会計年度任用職員の課題も議題として取り上げ、雇用継続のあり方について議論しています。引き続き協議を重ねていくことを確認していますが、私から改めて次のような問題意識を副市長らに訴えています。

当初、私どもの嘱託職員の雇用年限は5年間と定められていました。恒常的な仕事に就きながら雇止めのあることを問題視し、労使交渉の積み重ねによって65歳までの雇用保障を獲得してきました。

法改正時における国会の附帯決議が「公務における同一労働同一賃金に重点を置いた対応」を求めていながら、雇用が不安定化されるようでは大きな問題であると訴えています。そのためにも前回記事の中で綴ったような対応策を労使で確認する必要性を強く申し入れています。

ちなみに1年契約や6か月契約など契約期間の定めのある労働契約を有期労働契約とし、パートやアルバイトにかかわらず、フルタイムの嘱託、派遣、契約社員なども有期契約労働者となります。有期契約労働者が非正規と呼ばれ、雇用の不安定、更新拒否の不安、将来の生活への不安、低い労働条件(低処遇)という問題がつきまといがちです。

このような問題の解決をめざし、2012年に改正労働契約法が成立しています。厚生労働省のホームページの説明文には「有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、働く方が安心して働き続けることができるようにするため、労働契約法が改正され、有期労働契約の適正な利用のためのルールが整備されました」と記されています。

このブログでも以前「改正労働契約法の活用」という記事を投稿しています。その中で無期労働契約への転換「有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた時は、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる」というルールを紹介していました。

しかしながら地方公務員については労働契約法第22条1項で労働契約法の適用がない旨を明記しています。地方公務員の採用は相手方の同意を要する行政行為(任用)と解され、労働契約ではないと位置付けられているからです。

したがって、非常勤職員が5年以上雇用されても、労働契約法による任期の定めのない職員として任用する義務が発生しないという法的な位置付けにとどまっています。「法の谷間」に置かれた中、本人の意に反し、雇止めされていく事態が全国的に散見されていました。

今回の法改正を通し、そのあたりについて改善がはかられることを期待していました。しかし、たいへん残念ながら全国的な改善がはかられるどころか、私どもの組合にとっては真逆な動きを強いられそうな事態に直面しています。

ちなみに無期契約労働者が正社員と呼ばれます。正社員の定年は期間ではなく、期限であるという説明を受けます。非常勤職員の皆さんが不安定な雇用に置き去りにされたまま、 事実上の無期契約労働者である正規公務員側には下記の報道のとおり定年延長の動きが具体化しています。

国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる関連法改正案をめぐり、政府は18日、2022年度から引き上げを始める方向で検討に入った。18年の人事院による意見の申し出を受け、当初は21年度からの開始で調整していたが、先送りする。

国家公務員法などの改正案について、来年の通常国会への提出を目指す。改正案には、職員が60歳に達した後の給与を60歳前の7割程度に抑える方針などを盛り込む。関係者によると、定年の引き上げペースは2年に1歳ずつとする案と、3年に1歳ずつとする案があり、与党の意見などを踏まえ、最終的に判断する。

国家公務員の定年延長をめぐっては、人事院が18年8月、職員の給与勧告と併せて具体的な仕組みを示した。これを受け、政府は今年の通常国会への改正案提出を目指していた。しかし、統一地方選や参院選を控え、公務員の人件費が増えるとの反発を避けるため、提出を断念。今秋の臨時国会への提出も検討したが、天皇陛下の即位関連行事などで審議日程が窮屈なことから再び見送った。

来年の通常国会に提出する場合、年度内は予算案の審議などがあり、成立は20年度になる可能性が高い。当初は21年度からの引き上げを目指していたが、二度の見送りで成立から施行までの準備期間が短くなることから、22年度に先送りする方向だ。【日本経済新聞2019年12月18日

進展する少子高齢化による労働力不足を補うため、政府主導のもと70歳までの雇用延長も取り沙汰されています。これまでは使用者側に対して65歳までの安定的な雇用確保が求められていました。今後、高年齢者雇用安定法が改正された場合、70歳までの雇用確保が「努力義務」として求められるようになります。

このような動きの中、上記の報道のとおり国家公務員の定年延長が現実味を帯びてきました。公務労協や自治労本部から定年延長を巡る情報が徐々に入り始めています。今回、詳しい中味に触れませんが、非正規雇用との対比の中で忸怩たる思いを強めています。

多くの自治体が会計年度任用職員を広報等で募集した際、3年に1度公募することについて「機会の均等性・公平性を確保するため」と説明を加えています。しかしながら国会附帯決議改正労働契約法の趣旨に反し、将来生活に不安を与え、安定雇用から程遠い考え方だと言わざるを得ません。

最後に、論点は拡散してしまいますが、最近、定年延長の話として下記のような報道にも接しています。ここまで恣意的で極めて特例となる人事を発令したことに私自身は大きな違和感を覚えています。このような事例に対しても人によって受けとめ方が分かれるのかも知れませんが、幅広い情報を提供する機会として報道内容をそのまま紹介し、今回の記事を終わらせていただきます。

安倍政権が1月31日の閣議で、東京高検の黒川弘務検事長の勤務を半年延長し、8月7日までと決定したことが司法界に波紋を投げかけている。本来2月8日の誕生日をもって退任予定だった黒川氏。現在の稲田伸夫検事総長の後任にするためだとみられる。

黒川氏の先輩にあたる高検検事長経験者の弁護士は怒りをあらわにする。「定年を延長して、検事総長でしょう。こんなこと聞いたことがない、前例もない。そこまで、政治権力と黒川君は癒着しているのか。見苦しい」

そして、立憲民主党の党首で弁護士でもある枝野幸男氏もこう批判した。「検察官の定年は検察庁法で決められている。国家公務員法の規定を使うのは違法、脱法行為だ」

黒川氏は2月8日で63歳となり、検察庁法では定年だ。黒川氏の後任には、名古屋高検の林真琴検事長が就任し、ゆくゆくは稲田氏の後任の検事総長とみられていた。ある現役検事も驚きを隠せなかった。

「青天の霹靂ですよ。定年延長だなんてそんな手があったんですね。延長の理由は逃亡した日産自動車のカルロス・ゴーン被告の対応と説明しています。しかし、ゴーン被告は東京地検特捜部の担当で、東京高検は関係ない。レバノン政府など海外の交渉は、法務省が対応。東京高検が一体、これまで何をしてきたのかと非難轟々です」

黒川氏は官邸との距離が極めて近く、浮上する数々の疑惑を「穏便」に処理することで「官邸のお庭番」とも揶揄されていた。自民党ベテラン議員はこう話す。「官邸にとっては、甘利明氏とURの問題など、疑惑をうまく処理してくれていた黒川氏の存在は本当にありがたいもんだよ。それをうまく使った菅官房長官はさすがだ」

検事総長を任命するのは内閣だ。だが、検事総長自身が後任を決めるのが慣例。それは政治と法務・検察は近くなりすぎてはいけない、癒着がないように独立性を保つという意味合いがある。人事案は官邸に上申されるが、ほぼ異論なく承認される。

「これは安倍政権の指揮権発動と同等だよ。官邸が黒川氏を検事総長にしろと命令しているようなものだ。官邸、政治権力が検察の人事に口出しすることは本来ならあり得ない」(前出・高検検事長経験者の弁護士)

菅官房長官が師匠と仰ぐのが、橋本龍太郎内閣で官房長官だった梶山静六氏。その時、黒川氏と似たポジションにいたのが、元東京高検検事長、根来泰周氏だった。自民党のベテラン議員はこういう。

「梶山氏と根来氏はNKラインと呼ばれた。当時、政界では佐川急便事件などで、竹下派に逆風が吹いていた。その時、根来氏が黒川氏のような存在で、大ごとにならぬようにまとめていた。根来氏は絶対に検事総長だと、太鼓判を押されていた。

しかし、あまりにも官邸に近いと、検察内部で問題になり、定年で去っていった。その時も官邸は、法務・検察の人事には口出ししなかったんだ。梶山氏は根来氏を公正取引委員会の委員長とすることで処遇した。なぜ、菅氏は梶山氏を見習わなかったのか」

前出の高検検事長経験者の弁護士はこういう。「閣議決定された以上、黒川氏の定年延長は官邸の関与がはっきりとしている。稲田氏には昨年11月頃に、官邸サイドからそろそろやめろという話があったと聞いている。検察官が辞めるのは、定年か懲戒免職か検察官適格審査会に引っかかるしかない。

稲田氏はやめないと返事をし、黒川氏の後任は名古屋の林君という腹積もりをしていたようだ。それなのに黒川氏の定年延長を官邸が勝手に決めた。検察と一戦をまじえると、宣戦布告だ。検察と官邸、過去の歴史にないほどの暗闘がはじまったよ」(前出・高検検事長経験者の弁護士)

そもそも検事総長には定年は65歳。稲田氏は今年8月14日が誕生日で64歳となるので、続けられる。一方、黒川氏の延長は8月7日まで。稲田氏が誕生日まで辞めないと黒川氏は再延長するしかない。黒川氏の「延長」は最大1年未満までしか認められないので、来年2月7日まで。つまり、稲田氏が来年の黒川氏の誕生日まで、検事総長の座を譲らなければ、官邸が敗れ去る。

「検察内では、官邸のあまりにひどいやり口に、稲田検事総長に頑張れという声が高まっている。官邸に逆襲するためにバンバン、事件をやって検察の威信を見せつけるべきだという人も多い」(前出・現職検事)

前出の自民党ベテラン議員もこう話す。「検察とガチンコで構えるのは、避けるべき。官邸もやりすぎという声があちこちから聞こえる。背後に数々の疑惑あるのだから…」

昨年12月にIR疑惑で、衆院議員の秋元司被告が収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕、起訴された。そして前法務相の河井克行衆院議員と妻の案里参院議員の公職選挙法違反事件も、検察が捜査中だ。

「黒川氏もこれだけ知られると動けない。検察の判断一つで、安倍政権は揺らぎかねないよ」(前出・自民党のベテラン議員)官邸と法務・検察の暗闘。どう決着するのだろうか?【週刊朝日2020年2月4日

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コメント

論点がわかりづらいですが、非正規職員が恒常的業務に就いているなら、正規職員なみの雇用保障をもとめて当然でしょう。この制度で権力的業務以外は、非正規職員へのシフトが可能となりますね。正規/非正規のラインの引き方により、今が8:2なら5:5も想定されます。

そうなれば人件費の削減にともない、その分を市民サービスに充てることができ、市民はウエルカムでしょうね。

投稿: yamamoto | 2020年2月11日 (火) 09時48分

yamamotoさん、コメントありがとうございました。

確かに総人件費を削減するため、非正規雇用が拡大してきた経緯があります。今回のyamamotoさんの論点を掘り下げていくと、なかなか奥深い問題に突き当たるのだろうと思っています。

機会を見て改めて記事本文で取り上げさせていただくかも知れませんが、新規記事のタイトルは「会社の妖精さん」とするつもりです。ぜひ、引き続きご注目いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2020年2月15日 (土) 06時39分

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