不戦を誓う三多摩集会
アフガニスタンで医療や灌漑事業などの人道支援に取り組むNGOペシャワール会の中村哲さんが現地で銃撃され、亡くなられました。医師という役割にとどめず、用水路建設のためには自ら重機を動かし、文字通り命を賭した活動を続けてきた中村さんの訃報はたいへん残念なことです。
10年前、ペシャワール会事務局長の福元満治さんの講演を伺う機会がありました。その中で中村さんが規格外の行動力でアフガニスタンの復興に力を尽くしている話を知りました。講演会後に投稿した記事「アフガンの大地から」で「若者がタリバン兵にならなくても豊かに暮らしていけるためにも、食糧自給率を高める必要があり、アフガンを緑の大地に再生することが求められている」という話を伝えています。
日本には国際社会の中で「特別さ」を誇るべき憲法9条があり、日本がアフガニスタンに対し、武力による脅威を一度も与えていない信頼感があるため、アフガニスタンの人たちが日本人を高く評価していると福元さんは話されていました。さらに中村さんは次のような言葉を残していたようです。
アフガニスタンにいると「軍事力があれば我が身を守れる」というのが迷信だと分かる。敵を作らず、平和な信頼関係を築くことが一番の安全保障だと肌身に感じる。単に日本人だから命拾いしたことが何度もあった。憲法9条は日本に暮らす人々が思っている以上に、リアルで大きな力で、僕たちを守ってくれているんです。
このような中村さんの言葉の重みを私たちはしっかり受けとめ、より望ましい平和のあり方や築き方を考えていかなければなりません。中村さんの訃報が知れ渡った翌日の木曜夜、不戦を誓う三多摩集会が催されていました。三多摩平和運動センターが主催し、太平洋戦争に突入した12月8日前後に毎年開いている集会であり、今年で39回目を迎えています。
組合員の皆さんには組合ニュースを通して参加を呼びかけましたが、いつもより多い参加人数を得られていました。東京新聞の記者である望月衣塑子さんの講演「破壊される民主主義~安倍政権とメディア」が注目されたからでした。当日の会場は満杯で300人ほど集まりました。催しをお知らせすることで組合員の皆さんが個々の判断で足を運び、このように盛況となる取り組みが望ましいことです。
私自身、望月さんの著書『新聞記者』を読み、機会があれば松坂桃李主演の同名の映画も見たいものと思っていました。そのため、毎年参加している集会ですが、例年とは違った楽しみが加わった組合役員としての予定だったと言えます。今年の不戦を誓う三多摩集会は主催者挨拶等があった以外、質疑応答を含め、2時間に及ぶ望月さんの講演が中心でした。
初めて望月さんを実際に拝見する機会を得られた訳ですが、思い描いていた雰囲気と大きく違っていました。語っている内容そのものは硬くても、語り口が軽快で頻繁に笑いを誘いながらお話いただきました。パワポのリモコンを片手にリズミカルなステップを踏んだステージに接した印象を得ています。暗いイメージを抱いていた訳ではありませんが、予想以上に明るく、好感度を高める意味でパワフルな方でした。
望月さんは東京新聞の社会部の記者です。森友学園への国有地売却や加計学園の獣医学部新設の問題に関心を高め、様々な疑問を安倍首相に直接聞きたいと考えたそうです。しかし、安倍首相の官邸での会見数は年に3回か4回ほどしかなく、番記者のぶら下がり質問も限られていました。そのため、定期的に数多く開かれる菅官房長官の会見に参加させてもらうようになったそうです。
そして、望月さんを有名にしたのは菅官房長官との会見での模様が伝えられるようになってからです。それまで予定調和された会見でしたが、望月さんは納得するまで質問を繰り返しました。発言している最中に「質問は簡潔に~!」という制止が入るようになり、2017年夏頃から質問制限や妨害が目立ち始めたそうです。
昨年末には官邸報道室長名の文書が東京新聞と内閣記者会に届けられていました。事実に基づかない質問を謹むように求めた文書でしたが、望月さんを標的にしながら他の記者に対しても精神的な圧力を強め、質問を委縮させる意図を感じさせる行為でした。望月さんは政府の言う「事実」を「事実」としたいのか、そのように憤られ、会見は政府のためでなく、メディアのためでなく、国民の知る権利のためにあることを強調されています。
「望月の質問だけは制限したい」と強大な権力を掌握している官邸から疎んじられながらも望月さんは特に左遷されるようなことがなく、現職の社会部記者として活動を続けられています。東京新聞の基本的な立ち位置も大きいようですが、「望月さんを外さないで」という激励の電話やメールが数多く届いていたおかげだったそうです。
最近、桜を見る会に絡む疑問点について、いろいろなメディアの記者が率直な質問を菅長官に浴びせるようになっています。望月さんが会見に顔を出すようになった頃と比べると様変わりしている兆しが見え始めているそうです。それほど公文書廃棄時期の説明などに不明瞭さが付きまとう問題だからなのかも知れませんが、2年ほど前に比べると菅長官を苛立たせる質問が複数の記者から寄せられるようになっているとのことです。
政権にとって不都合な「事実」が隠されてしまっては政権に対する正当な評価を下せません。だからこそメディアには官邸から発表される「事実」を伝達するだけの役割にとどめず、より正確な「事実」関係を掘り下げていく努力が求められています。そのためにも官邸との間の緊張感をいとわずに奮闘する記者たちを見かけた際、自分自身が助けられたように励ましの声を届けて欲しいと望月さんは語っています。
不戦を誓う集会での講演でしたので、後半は「安倍政権下で進む米国製の兵器購入と武器輸出」というパワポの画面が映し出されていきました。アメリカとのTAG物品協定後の会見でトランプ大統領は「貿易格差は嫌だと言ったら日本はすごい量の防衛装備品を買うことになった」と話していました。その結果、F35戦闘機147機、1兆5000億円の購入につながっています。
2020年度の防衛概算要求は過去最高の5兆3200億円、前年度比700億円増となっています。イージス・アショア2基は6000億円、 オスプレイ17機は3600億円です。迎撃ミサイルの弾は1発33億円で、今のところ迎撃率は33%だそうです。その一方、1台しか備えられていなかった災害対応車レッドサラマンダーは1台1億円、ようやく来年度10台増やすことを予算化したという話を望月さんは例示しています。優先順位の問題として、どうなのかという問いかけです。
望月さんから「オフショア・コントロール」という言葉が紹介されました。中国との開戦を抑止するためのアメリカの軍事戦略の考え方で、石垣島や宮古島など南西諸島に陸自部隊を配備増強し、ミサイル基地として強化する計画につながっています。中国との全面戦争を回避するため、局地戦でとどめようとする意図を持った計画だそうです。
つまり「アメリカのため」に南西諸島の住民の皆さんが犠牲になることも想定した計画だと見ざるを得ないとのことです。このような望月さんの見方や説明に異論を持たれる方も多いはずです。他国と対峙する最前線に備えを固めることを当然視される方も多いのかも知れません。それこそ平和の築き方について、どのように考えることが望ましいのかという根本的な問いかけだろうと受けとめています。
中村さんを理不尽な凶弾から防げなかったことを悔やんでいますが、私自身の問題意識として身を守るための一定の抑止力の必要性も認めています。その上で「平和への思い、2017年冬」をはじめ、これまで投稿した多くの記事に様々な思いを託してきています。ここでは繰り返しませんが、きっと望月さんや逝去された中村さんらと基本的な思いは同じなのではないでしょうか。
望月さんは講演の最後のほうで幣原喜重郎元首相の「軍拡競争の蟻地獄から抜け出すため」にも憲法9条が貴重であるという言葉などを紹介していました。できれば中村さんの言葉も紹介したかったそうですが、準備が間に合わなかったとのことでした。最後に、その時に紹介された沖縄県の翁長前知事の言葉を掲げさせていただきます。
アジアの様々な国の人が行来できるような沖縄になれば良い。どこかの国が戦争をしようとしても、自国民がいるから戦争できない、平和の緩衝地帯、そんな場所にできたら
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コメント
望月記者の質問は、講演会の質疑応答で時間もないのにダラダラと自説を語る人のようにみえます。記者会見を公開討論会と勘違いしてはダメでしょう。日本の防衛に関して、外交・対話戦略を続けるしかないとの立ち位置だから、原理主義的護憲派でしょうね。
投稿: yamamoto | 2019年12月12日 (木) 08時37分
yamamoto殿
>日本の防衛に関して、外交・対話戦略を続けるしかないとの立ち位置だから、
現在の日本政府も、日本の防衛に関して、外交・対話戦略を続けるしかないという立ち位置だと思います。
投稿: Alberich | 2019年12月12日 (木) 21時22分
政府の立場は修正主義的護憲でしょうね。
投稿: yamamoto | 2019年12月13日 (金) 08時17分
yamamotoさん、Alberichさん、コメントありがとうございました。
新規記事は「Part2」を付けて書き進めてみるつもりです。ぜひ、これからもご注目いただければ幸いですのでよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2019年12月15日 (日) 06時38分