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2019年9月 1日 (日)

久しぶりの自治労大会

8月27日から29日にかけて自治労の第92回定期大会が福岡市で開かれました。日帰りで参加した千葉大会以来、実に11年ぶりの参加でした。連泊での参加は14年前の鹿児島大会以来となります。やはり実際に会場に足を運ぶことで自治労全体の現状や課題を体感できる機会につながっていました。

久しぶりの自治労大会、全体的な雰囲気や運営方法に大きな変化はなく、毎年参加してきたような感覚に陥るほどでした。その中で感じた変化として具体的な運動方針を巡り、今回の大会議論では大きく対立するような場面が見受けられなかったことです。

また、組織強化に向けた深刻な危機感が訴えられた大会でしたが、ここまで11年前には強調されていなかったように記憶しています。いずれにしても懐かしさや目新しさが交錯した意義深い3日間でした。後ほど個人的に感じたことを書き進めてみますが、その前に自治労のホームページ上に掲げられた大会の様子を伝える記事内容の一部を紹介します。

初日に執行部から提起のあった第1号議案「2020-2021年度運動方針(案)」、第2号議案「当面の闘争方針(案)」、第3号議案「『第4次組織強化・拡大のための推進計画』・新『組織拡大アクション21』の総括と『第5次組織強化・拡大のための推進計画(案)』」、第4号議案「2020年度一般会計・特別会計予算(案)」に対し、活発な議論が行われた。

代議員からは、2020年4月にスタートする会計年度任用職員制度の確立や脱原発社会の実現にむけた取り組みへの要望などが出され、中でも第1号から第3号議案で掲げる自治労運動の活性化と、そのために不可欠なさらなる組織強化に関する発言が多くみられた。

「一人では変えられないことも、みんなの力が集まれば変えられる」と労働組合の強みを思い起こさせる内容や、「若者の組合離れではなく、組合の若者離れがあるのではないか。若年層や女性が関心を持つことに組合が耳を傾けることで主体的な活動ができるのではないか」などの投げかけもあった。

最終日である3日目は、前日から続いて議案の質疑討論を実施。終了後、総括討論が行われ、長野県本部の小川代議員と島根県本部の須田代議員が発言した。小川代議員は2020年4月の会計年度任用職員制度の導入にあたり、同職員の常勤職員との賃金・労働条件の均衡・権衡の確保実現の取り組みなどを報告。

その上で単組のたたかいに際し、自治労産別としての明確な姿勢の必要性を訴えた。また、自治労21世紀宣言にある「市民と労使の協働で、有効で信頼される政府を確立し、市民の生活の質を保証する公共サービスを擁護・充実する」という理念をあらためて共有しながら、自治労としての運動の展開を要請した。

須田代議員は、島根県本部の取り組みの一端を紹介。「単組の強化」に焦点をあてて島根県本部が策定した具体的な行動計画を再度単組と共有し、「現状維持」ではなく「活動強化」のために県本部がその役割を果たしていく考えを表明した。県本部・単組・組合員がともに協力して諸課題の解決にむけて前進していく決意を述べた。

総括討論と今大会で出た多くの意見を踏まえ、川本自治労中央執行委員長が総括答弁を行った。川本委員長は、「総括討論の中では方針の補強を求める意見をしっかりと受け止め、今後の実際の運動の場、実践の場での豊富化と全国の仲間の皆さんからの取り組み報告をいただいて方針を補強していきたい。単組がすべての課題に向きあっていけるよう県本部、本部がある。

そして、全国に78万人の仲間が活動していることを今一度確認し、現状維持より半歩でも運動を前に進めていくことを皆さんと確認したい。メインスローガンの『原点、共感、躍動』を確認し、仲間として共感し合い、むこう2年間を躍動の年にするためにがんばろう」と訴えた。その後、定期大会で提起されたすべての議案の採決を行い、賛成多数で採択された。最後に川本委員長の団結がんばろうで閉会した。

自治労組織に対する危機感が全体を通し、大会議論の中で取り上げられていました。かつて100万人を超えていた自治労の組織人員は年々減少し、80万人を割り込みました。行政改革の推進による地方公務員総数そのものが減らされてきましたが、最近の傾向は新規採用者の加入率の落ち込みが主な要因となっているようです。

新規採用者の加入率100%を維持する単組(単位組合)がある一方、自治労全体の平均は2017年の調査で66.2%です。このままの傾向で推移すれば組織人員が70万人を下回ることも危惧され、自治労の財政面においても危機的な状況に至ります。

同時に次代の組合役員の担い手の問題が深刻化しています。こちらも単組によって事情が大きく違うようですが、経験の乏しい若年層のみで担う組合が増えているようです。さらに1年ごとに役員が交代するケースも見受けられ、定期的なニュース発行や執行委員会を行なえない組合があり、組織維持そのものが困難視されている単組も少なくありません。

議案書には「自治労は、単位組合の集合体であり、単組の活動量が自治労総体の力量に直結します」と記されています。そのため、今回の大会では「第5次組織強化・拡大のための推進計画」を確認しています。各単組を支えていくため、自治労本部や県本部の役割を見直していくことが盛り込まれた計画です。自治労本部として組織の危機的な現状を的確に把握し、深刻な問題意識を抱えていることが伝わってくる大会でした。

新規採用者組織化に向けたマニュアルの整備やポータルサイトの開設、自治労共済の優位さのアピール、労働組合への理解と共感を広げるために報道機関との定期的な会見やインターネットを活用した広報戦略の必要性など様々な対応策が方針化されています。それぞれ必要な対応策ですが、そこに効果が期待できる具体的な内容をどのように盛り込めるかどうかが肝心なことだと考えています。

議案書の中で「昔ながらの組合活動に違和感を持ち、そこに関わりたくないとする若手役員、若年層組合員が存在する」状況が報告され、単組三役と若手役員に認識ギャップが見られているという記述も目にしています。このようなギャップを解消するためには単組全体で若年層組合員と意見交換し、一緒に考える機会を確保することが必要と記されています。

残念ながら悩ましい現状を率直に把握しながらも明解な処方箋が示されていないように受けとめています。全体的な大会議論を通して気になったことですが、若年層は政治に対する関心や意識が低いため、ギャップが生じるというような認識の多さです。このような認識を前提とした場合、新規採用者の組織化や次代の担い手問題も容易に解決できないように思えています。

先ほど紹介した大会参加者の発言で「若者の組合離れではなく、組合の若者離れがあるのではないか」という言葉があります。この後に「若者の政治離れではなく、政治の若者離れがあるのではないか」という言葉が続いていたことを覚えています。印象に残った言葉でしたが、もしかしたら発言者の意図とは違う意味で解釈しているかも知れません。

前述したギャップが生じる問題として「組合の若者離れ」「政治の若者離れ」という言葉をとらえています。若年層の多くが自民党を支持しているという関係性につながる話です。政権与党側のメディア戦略やSNSを駆使した情報伝達の巧妙さを指摘するだけでは不充分です。やはり実際の政策や政権運営を評価した上で、多くの若者が自民党を支持しているという関係性を認めていかなければなりません。

このような事実関係の認識が不充分なまま「安倍改憲に反対」という立ち位置で若年層に接していけば、それこそギャップが生じ、組合との距離は広がるだけだろうと思っています。念のため、若年層の政治意識にすり寄り、自治労の方針を改めるべきという主張ではありません。もちろん問題があり、改めるべき点があれば前例にとらわれず、大胆な見直しも必要だろうと考えています。

政治課題をはじめ、現在の方針が望ましいものだと確信できるのであれば、立ち位置が異なる方々にも届く言葉を探し続けなければならないはずです。このような心構えの大切さは若年層に限った話ではありません。最近の記事「平和の築き方、それぞれの思い」に綴ったとおり異なる考え方を認め合った上、具体的な事例ごとに「何が問題なのか」「なぜ、反対なのか」という丁寧な説明が非常に重要だと考えています。

自民党に対峙する野党側にも言えることであり、なぜ、安倍首相が進める改憲に反対なのか、的確な説明や言葉が不足するようであれば支持の広がりは期待できません。自治労の方針を通読した際、自民党を支持している若年層の皆さんとの距離を縮めるための具体的な方策が不足しているように感じていました。

自治労方針の正しさを前提とし、様々な対応策のもとに働きかけを強めても充分な結果を見出せない恐れがあります。「憲法を守り平和を確立する運動の推進」という項目で言えば、なぜ、憲法を守ることが平和につながるのか、そのような説明が欠けています。組織強化の課題は政治方針のあり方に絞って語れるものではありませんが、大きな要素が内在しているように認識しています。

かつて55年体制の時代、国民から一定の支持を得ていた社会党と労働組合が支持協力関係を結んでも、組合方針と組合員の政治意識とのネジレは今よりも少なかったはずです。自民党が30%以上の支持率を保つ一方、野党が細分化し、個々人の政治意識の多様化が進んでいる中、政治方針と組織強化の課題は綿密に絡み合っているものと思っています。

このような情勢の中、次代を担う青年部からの大会発言は生活実態の点検活動や中央大交流集会の重要性を強調するものでした。私が青年婦人部の役員として自治労大会に参加していた30年前と変わらない発言内容に驚きました。そのような取り組みの意義や役割を肯定的にとらえたとしても、交流集会が自治労運動に距離を置きたいと考えている若年層自ら手を挙げて参加したくなるようなコンテンツなのかどうかは疑問です。

組織強化の課題だけで長い記事になっていますが、他にも気になった点がいくつかありました。「脱原発社会の実現」の方針では引き続き連合の中で意見反映するという記述があります。脱原発に疑義を持たれる産別の考え方も認め合いながら率直に議論を進め、より望ましい「答え」を見出す努力こそ脱原発社会の実現が可能なのかどうか判断できる道筋だと思っています。この試みは衆院選での野党候補一本化議論にも直結するものだと理解しています。

最後にもう一つ、会計年度任用職員制度の課題です。前回の記事「合理的な説明を巡り、労使で対立」で伝えていましたが、多くの自治体で労使協議が難航していることを改めて認識する機会になっていました。大会での発言者の多くの方が取り上げた課題でした。全国的には見通しの立っていない財源の問題が大きなネックになっているようです。

そして、このような問題こそ自治労は本部機能を最大限発揮し、総務省や財務省との交渉に当たって欲しいという要望が示されていました。まったくそのとおりであり、総務省の事務処理マニュアルが最低基準を示すものであることの各自治体への周知の問題も含め、単組の労使交渉だけでは解決できない役割の発揮を強く期待しています。

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コメント

組合費が高いのも組織離れの一因でしょう。
イザ自分の身を守るときに、サポートしてもらえるのが組合です。いわゆる保険の一種ですが、22歳で3000万の生命保険は月々2300円、たぶん組合費のほうが高いでしょう。保険料を払ってるから動員や集会などのお付き合いは、またかよ、もういいだろうとの職員も多いと思います。適正価格がわからない以上、難しい問題です。組織離れは、情報労連リポート2018.12月号、山崎憲さんの記事がおもしろい。

やっぱり自治労本部は社民党系支持なんですね。生活実態の点検活動なんて古い皮膚感覚で、非正規がみたら笑っちゃうとこ。いつも経済的側面で政党を評価するが、立憲・国民はだいたいケインズ、社民党がマルクス、そして自治労本部はマルクスのにおいがプンプンします。若い人はノンポリ、現実主義なのでいやでしょうね。わたし的にはケインズが好きです。民主党政権は悪夢だったとの意見が多いですが、貴重な経験だったと思います。歴史の中で3年なんか短いもんで、連合は立・国の合体を進めて強い野党をつくることでしょう。

投稿: yamamoto | 2019年9月 2日 (月) 08時17分

yamamotoさん、コメントありがとうございました。

ご指摘のとおり組合費の問題等、組織強化の課題は政治方針のあり方に絞って語れるものではないことも理解しています。機会を見て間口を広げた論点の記事も投稿できればと考えています。

なお、新規記事は最近の話題に絡めた労働組合のことを取り上げる予定です、ぜひ、これからも当ブログをご注目いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2019年9月 7日 (土) 08時47分

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