『官邸ポリス』を読み終えて
このブログでは時々、読み終えた書籍の感想を綴った記事を投稿しています。もともと幼い頃から読書好きでしたが、ブログを始めてからは新規記事の題材になるかも知れないという意識も働き、手に取る書籍の数は増えています。今回、紹介する『官邸ポリス』もその一つでした。
元警察キャリアが書いたリアル告発ノベル!! 文科省局長の収賄や事務次官のスキャンダル、近畿財務局による国有地の不当売却、財務省の公文書改竄とセクハラ地獄、野党幹事長候補のセックス・スキャンダル……こうした事件の裏に蠢いた「最強権力」が、日本の政官界には存在した!?
東日本大震災の原発事故の際に目撃した政治の機能不全――このとき「日本国にとって必要なのは、40年間ひたむきに国家のため奉職する官僚である」と確信した警察官僚のグループが存在する。そして、政権交代が起きても常に日本国を領導し続ける組織、すなわち「官邸ポリス」が組織されていったのだ! 現在の長期政権のあと、「官邸ポリス」が牛耳る日本は、一体どのような国になるのか!?
上記はリンク先のサイトに掲げられている書籍の紹介内容です。著者の幕連さんはプロフィールとして「東京大学法学部卒業。警察庁入庁。その後、退職」だけ明らかにしています。この書籍に興味を持った理由は「本書の92%は現実」という帯封に書かれた宣伝文句です。
書籍の紹介内容にあるとおり現実に起こった事件やスキャンダルが取り上げられています。登場人物は架空な名前ですが、容易に実名に置き換えられる設定でした。ノベル、つまり小説という形式を取っているため、名誉棄損や守秘義務違反から免れる逃げ道を作っているようです。しかし、宣伝文句からすればフィクションは8%にとどまり、書かれている内容は、ほぼ事実だと受けとめさせる体裁になっています。
もう少し書籍の内容を紹介できるようネット上を検索したところ「田中龍作ジャーナル」の記事「『官邸ポリス』 安倍政権を永続させる世界最強の機関」が目に留まりました。登場人物の実名を解説した記述もありましたので、参考までに内容の一部をそのままご紹介します。
『官邸ポリス』は内閣府本庁舎6階にアジトを構える。そう。実在するのだ。元警察庁警備局長の杉田和博(作品中は瀬戸弘和)官房副長官をトップに警察官僚で固める。詩織さん事件で名を馳せた中村格(作品中は野村覚)元警視庁刑事部長・現警察庁組織犯罪対策部長らがメンバーだ。
官邸ポリスの強さの秘訣は、卓抜した情報収集力と巧みな情報操作にある。尾行、盗聴、自白の強要と何でもありの警察組織から上がってくる情報はいうまでもない。驚くのは各省庁やその出先機関にまで張り巡らしたスパイ網から、もたらされる情報だ。
官邸ポリスは見事なダメージコントロールをする。それを思い知らされる出来事があった。森友学園事件で文書改ざんに手を染めさせられていた近畿財務局職員が自殺した事件だ。父親は息子の遺書を見ていない。警察が押収したからである。遺書は改ざんの最高責任者だった財務省の佐川理財局長(作品中は佐藤)の やり口を 糾弾していた。
国会答弁でシラを切り抜いた佐川理財局長は、安倍首相を守り抜いた格好で国税庁長官に栄転したが、世論は許さなかった。税金不払い運動が起きるほど怒りは沸騰した。政権崩壊にまでつながる恐れがあった。官房副長官は、遺書の写しを兵庫県警から直接入手していた。
佐川国税庁長官を官邸の自室に呼びつけ遺書の写しを見せたが、国税庁長官は開き直った。そこで官房副長官は言った。「これを公表しようか」と。この後、佐川氏は国税庁長官を辞任する。官邸への延焼が必至だった「佐川騒動」にピリオドが打たれたのである。
相当な冊数を売り上げているはずですが、マスメディアでの取り上げ方が少ないという印象を抱いています。いくら小説という形を取っているからとは言え、登場している政治家らが反発や反論しようと考えないことも不思議でした。ほぼ事実であるため、騒ぐことで注目を集めることを避けているのか、もしくは相手にする必要のないほど荒唐無稽な話ばかりなのかも知れません。
一方で、この小説のような「官邸ポリス」が実在するのであれば、きっと「暴露本」を出す意図があったはずであり、マスメディアとの距離感なども想定しているのだろうと思っています。いずれにしてもイメージを棄損される登場人物が多い中、「官邸ポリス」そのものと現在の官邸の力だけは誇示されていくストーリー仕立てとなっていました。
読み終えたのは随分前で、このブログに取り上げるタイミングを見計らっていました。今回、そのタイミングだと判断した理由として、レイプ疑惑事件で係争中のジャーナリストの山口敬之さんが「1億3千万円の損害賠償」を求めて伊藤詩織さんを反訴したという報道に触れたからです。この問題については以前「2冊の『ブラックボックス』」という記事を投稿していました。
どのような案件に対しても事実関係の全容が明らかになっていない中、決め付けた言い方は慎まなければなりません。伊藤さんの事件の事実関係で明らかな点は「準強姦罪で検察が逮捕状の請求を認め、裁判所が許可していたのにも関わらず、逮捕予定の前日に警視庁トップからストップがかかった」という点です。このようなケースは本当に稀であり、逮捕を見送った直後、担当していた捜査員まで変えられてしまったそうです。
その時の警視庁トップは中村格警視庁刑事部長で、かつて菅官房長官の秘書官を務めていました。ここまでは紛れもない事実関係です。ここから先は疑惑の域に入る話ですので決め付けた言い方は慎まなければなりませんが、山口さんが安倍首相と近しいジャーナリストであるため、何らかの稀な判断が働いたのではないかと見られがちです。もし逮捕に値する被疑者を不当な圧力で見逃していたとしたら、たいへん憂慮すべき事態だと言えます。
これも安倍首相の「お友達」事件であるというような揶揄は不適切です。今回のブログ記事を通して強調したい点は、安倍首相を支持している、支持していない、そのようなことは関係ありません。冷静に、客観的に、物事を多面的に見ながら「おかしいものはおかしい」と言える感覚を磨くべきものと考えています。
上記は以前の記事「2冊の『ブラックボックス』」 の最後のほうに残した言葉です。ちなみにブックマークしている元アナウンサーの長谷川豊さんのブログ「本気論 本音論」では『ジャーナリスト山口敬之氏が正しい「女性がこう言ったら全部真実」と考えなしに信じ込む風潮は完全に間違いだ』という記事があります。このような主張は主張として分かりますが、事実関係をどれほど理解された上での発信なのかどうかは疑問です。
「本書の92%は現実」という宣伝文句のもと、すべてを鵜呑みにできませんが、この事件も『官邸ポリス』に取り上げられていました。そこに記された内容は、ほぼ事実に近いのだろうという印象を抱いています。最後に『官邸ポリス』の第4章「御用記者の逮捕状」の中から興味を引いた箇所を参考までに紹介させていただきます。
そのときスマホが鳴った。液晶画面には「山本記者」と表示されている。それを確認して、通話ボタンを押した。「山本さん、こんな時間に珍しいですね。どうかなされましたか?」 工藤が聞くと、その声にかぶせるように、切羽詰まった山本の声が聞こえた。「工藤さん、助けてください!実は厄介なことに巻き込まれていまして・・・・・・恥ずかしくて、いまのいままで相談できなかったのですが、私は逮捕されるかもしれません・・・・・・」
声の主は、多部総理や須田官房長官にも近い、東日本テレビ元ニューヨーク支局長の山本巧記者である。内閣情報調査室のトップとして情報を収集することを任務とする工藤にとって、米国や北朝鮮の情勢について情報をもたらしてくれる山本は、大事な存在であった。「ある女性と合意のうえに関係を持ったのですが、最近、関係がこじれてしまいまして、彼女が私に強姦されたとして警視庁に告訴したらしいのです」
倫理意識の強い工藤は、内心、そんな痴話喧嘩くらいで電話するな、と思った。もし事実なら、そんな輩は罰せられればいい。しかし、総理の盟友を無碍にするわけにもいかない。「状況がよく分かりませんので、現時点では何とも申し上げられません。もちろん、いわゆる事件のもみ消しなど、当然できませんが、少々お時間をください」 そう答えて、電話を切った。
* *
瀬戸は、そうそう、と言って続けた。「山本は、言ってみれば総理を宣伝する本の出版も計画しているらしい。その山本を助けられれば、ことによると官僚嫌いの多部総理も、内務官僚だけは評価してくれるかもしれない。山本みたいな人間でも、政権の広報マンとして使えるなら助けてやれ。しかし、言わずもがなだが、くれぐれも違法なことはするな。黒を白にするような無茶もダメだ」
* *
「逮捕状は、絶対に執行しないでください」「どういう意味ですか?」と、署長が抵抗する。野村は既に冷静な声に戻っている。「意味も何も、文字通り、逮捕状を使わないでください、ということです。釈迦に説法ですが、捜査は、任意が原則です。山本は有名人であり、逃走の恐れはありません。そして、いまさら証拠隠滅の恐れもなさそうです。逮捕しなくとも、任意で話を聞けばいいでしょう」
署長はまだ諦めない。「ただ、マメは逮捕するのが通常じゃないですか。それに山本は、被害者の女性に、介抱しただけで合意のうえだ、という趣旨のメールを送っています。これは口封じ、つまり証拠隠滅に当たるでしょう。そもそも捜査員が捜査を積み重ねて取った逮捕状を執行しないなんて、少なくとも私は経験したことがない。これは命令ですか?」
しかし、野村は冷徹に言い放つ。「そう理解していただいても結構です。何も、彼の事件をもみ消せと言っているわけではありません。有名人物である山本については、マスコミからの反響も大きい。その捜査については特に慎重に進めるべきであり、原則に従って任意にすべきだ、と申し上げているだけです。その辺を誤解しないでください。ちなみに、政府レベルでの重要人物であることも申し添えておきます。ご斟酌ください」 野村は署長の返事も聞かずに、ここで受話器を置いた。
* *
すぐに瀬戸に電話して、事の次第を報告する。瀬戸も安心したようだ。「とりあえず良かった。検察庁には、もうすぐ官邸に近い大物記者が送検されるけど、被害者の言い分と食い違いが多いので、証拠をきっちり吟味してほしいと伝えておいたよ・・・・・・もっとも我々ができるのはここまでだ。総理には、俺から耳打ちしておく。まあ、総理に恩を売るには十分なケースだったろう」 こうして品川中央署で取り調べを受け、後に書類送検された山本は、東京地検でも取り調べを受けたが、結局、嫌疑不十分で不起訴処分となった。
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コメント
ITサービスでは、完全性・可用性・機密性が必要となり
ます。完全性とは情報が改竄改変されておらず、入手元
も本物であることです。0.1%でも異なると完全性はそこ
なわれます。よって92%は現実とありますが、8%も
フィクションであり、そこにどのような誘因や意図がある
のか判別が尽きません。所詮は小説でしかないということ
です。
この記者に関することで、わざわざ取り上げる価値がある
とも思いませんね。それより旧民主党の石井こうき事件
でも掘り起こして追及するほうが価値があると思います
ね。個人的な意見です。
投稿: nagi | 2019年4月20日 (土) 11時42分
nagiさん、コメントありがとうございました。
それぞれの事象に対し、それぞれの受けとめ方があって当然だと思っています。取り上げた事件に対し、私自身の思いは以前の記事に残した赤字の言葉のとおりです。
その上で『官邸ポリス』の内容の紹介と重ね合わせてみました。このようなブログ記事に関しても個々人での受けとめ方は枝分かれしていくのかも知れませんが、それはそれで当り前なことだろうと思っています。
投稿: OTSU | 2019年4月20日 (土) 21時43分
あまり統一されていない、統一地方選挙が終わりましたが
なんとなく今後の流れが見える選挙結果だと思っています
都市部において、維新や都民ファーストがそれなりに堅調
であったこと。特に維新はブームを終えて一定の認知を
得ていることを証明した。
そして、自民批判の票が流れる先として、維新や都民ファ
ーストが受け皿となり、他の共産党、立憲民主党はなりえ
なかった。
結局のところ、立民党をはじめとする野党連合は国民が
信をおくに足らないと明確になった。自民批判の票の
受け皿になりえない以上、参議院選挙もサプライズがない
結果に終わると思う。
安倍政権の支持率から見て、今の野党のやり方はほとんど
評価されない。自分達に甘い、政権批判を見透かされてい
るなど、上昇する余地がない。このままいくと自民党対
自民党系政党の二大政党に落ち着くのでないのかと期待
しています。もっとも野党にも岩盤支持層はいるので少
しは議席を取り続けるが、社民党のような道を辿ること
間違いないでしょう。
投稿: nagi | 2019年4月23日 (火) 10時05分
nagiさん、コメントありがとうございました。
機会を見ながら政治に関する話は今後も取り上げていくつもりです。今週末に更新する記事は労使協議の話題を予定しています。ぜひ、これからもお時間等が許される際、コメント投稿いただければ幸いですのでよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2019年4月27日 (土) 06時41分