働き方改革への労組の対応
前回記事「入管法改正案が衆院通過」の冒頭で触れたとおり先月末、連合地区協議会の労働学習会『働き方改革への労組の対応』が催されました。以前の記事「働き方改革の行方」の中で紹介した連合東京の労働政策局長に今回も講師を依頼していました。この学習会の内容もたいへん重要であり、さっそく今週末に投稿する記事本文を通して概要を報告させていただきます。
さて、10月2日に発足した「全員野球内閣」は第4次安倍改造内閣に位置付けられます。返り咲きを果たした時が第2次安倍内閣と数えられ、それ以降、安倍首相のもとに総選挙が2回執行されました。総選挙後の組閣ではない場合、改造内閣と呼ばれます。その都度、いろいろなキャッチフレーズが安倍首相から発せられています。
一昨年夏の参院選挙後に発足した第3次安倍改造内閣は「未来チャレンジ内閣」と称し、働き方改革を一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジと位置付けました。労使の代表も有識者として構成した働き方改革実現会議を発足させ、政府は「多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます」と広報していました。
- 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
- 賃金引き上げと労働生産性の向上
- 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
- 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
- テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
- 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
- 高齢者の就業促進
- 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
- 外国人材の受け入れの問題
検討事項として上記の9項目があげられていました。今回の労働学習会に参加する際、以前の記事「働き方改革の行方」に目を通し、政府の働き方改革実現会議における検討事項の9番目が「外国人材の受け入れの問題」だったことに目を留めていました。このような流れの中で入管法が見直された訳ですが、果たして政府広報の「働く人の立場・視点」で押し進めていたのかどうか疑問が残りがちです。
そもそも働き方改革実現会議のメンバーがILOの三者構成原則から外れ、有識者15名のうち労働側代表が連合の神津会長一人であるというバランスの問題も指摘されていました。2年前の労働学習会の中で、講師から構成メンバー全体の中で労働問題として働き方について語れる有識者自体が極めて少数であることの懸念も示されていました。そのため、使用者側の目線を優先した「働かせ方」改革にならないよう注意しなければならない点が前回の労働学習会の中で強調されていたことを思い出しています。
その後、働き方改革関連法は今年6月の通常国会で成立し、来年4月から順次施行されていきます。戦後、まもなく労働基準法等が施行された以降、70年ぶりの労働法の大改革だと言われています。法案審議を通して基礎データの不備などが発覚した結果、裁量労働制を拡大する法案は見送られました。一方で、様々な懸念点が指摘されている高度プロフェッショナル制度は成立しています。
労働学習会の講師は「連合として批判もたくさんあるが、働き方改革の方向性は一致している」という言葉を示されています。社会問題化している大きな課題として講師は「長時間労働を前提とする男性社会」「非正規労働者の低処遇な労働条件(正規・非正規格差)」をあげられていました。このような課題の解決に向け、働き方改革関連法が効果を上げていけば確かに何よりなことです。
働き方改革関連法で何が変わるのか、限られた時間の中で講師から分かりやすく説明していただきました。このブログでは主要な課題に絞って紹介させていただきます。全体的な内容が分かる資料として、厚生労働省等の発行した『「働き方」が変わります!!』というリーフレットも講師から配布されていました。リンク先のサイトにPDF形式で当該の資料が閲覧できますので興味を持たれ方はご参照ください。
大きな課題の一つは長時間労働の是正であり、労働時間規制等の見直しです。労働時間は原則1日8時間・週40時間ですが、労使協定、いわゆる36協定によって、定める範囲内で使用者は労働者に時間外労働をさせることができます。この36協定で定める時間外労働の上限を月45時間・年間360時間とすることが原則化されました。
臨時的な事情を具体的に明記した特別条項を設けることで原則以外の時間外労働が認められることになります。その際も、①年に1回を限度に単月100時間未満(休日労働を含む)、②2~6か月平均で月80時間以下(休日労働を含む)、③年720時間以下、④原則(月45時間)を超えるのは年6か月までという時間外労働を規制するルールが定められています。違反した場合、使用者側に罰則が科せられることになります。
続いて、「同一労働同一賃金」の課題です。労働学習会の冒頭、連合が制作した10分ほどのDVD『2018 どうやって取り組む?同一労働同一賃金』を視聴しました。非正規雇用で働く人の処遇改善の必要性や「同一労働同一賃金」について解説し、労働組合としての対応を伝える動画です。やはりリンク先のサイトでご覧になれますので、ぜひ、興味を持たれ方はご参照ください。
働き方改革関連法の成立によって、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で職務内容が同一だった場合、同じ賃金を支給し、差別的な取扱いが禁止されます。この制度の施行は2020年4月1日ですが、中小企業は1年遅れの2021年4月1日とされています。パートタイム労働者と有期雇用労働者を一括規制し、派遣労働者も含め、不合理な待遇の相違を禁止します。
①個々の待遇ごとに当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して不合理性を判断、②「同一労働同一賃金ガイドライン案」を厚生労働大臣告示、「指針」化、③基本給、賞与、諸手当、福利厚生などすべての待遇について均等・均衡の実現、このような点の必要性の説明が講師から加えられています。
その際、今年6月1日に示されたハマキョウレックス事件と長澤運輸事件の最高裁判決についての説明も受けました。ハマキョウレックス事件は正社員と有期雇用労働者の待遇の格差について、長澤運輸事件は正社員と定年後再雇用された嘱託社員(有期雇用)の待遇の格差について争われた事件でした。
ハマキョウレックス事件は労働者側が勝ち、長澤運輸事件は会社側が勝つという結果に分かれていました。ハマキョウレックス事件では有期雇用労働者と正社員との間に職務内容に差がないのにも関わらず、待遇に差があったことは労働契約法20条に違反すると判断されました。一方で、長澤運輸事件の有期雇用労働者は定年後に再雇用された高齢の労働者だったため、待遇差が不合理ではないと判断されたようです。
今回の労働学習会の直前、厚労相の諮問機関である労働政策審議会の部会が「同一労働同一賃金」の具体的なルールを示す指針(ガイドライン)をまとめたことも講師から報告を受けました。日本経済新聞の下記の記事『正社員の待遇下げ「望ましくない」、同一賃金実現へ厚労省が指針に明記』が紹介されましたが、労働者側にとって歓迎すべき動きでした。
厚生労働省は27日の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の部会で、「同一労働同一賃金」の具体的なルールを示す指針(ガイドライン)をまとめた。基本給や賞与、福利厚生などについて不合理とされる待遇差の事例を示したうえで、正社員の待遇を引き下げて格差を解消することは「望ましくない」と明記した。
同一賃金は正社員と、パートや派遣社員など非正社員の不合理な待遇差の解消をめざす取り組み。6月に成立した働き方改革関連法に盛られ、2020年4月から順次適用される。厚労省は16年12月に指針の原案をまとめたが、今回は国会での法案審議や審議会の議論での指摘を反映した。
指針では正社員と非正社員の能力や経験、貢献度などが同じなら、基本給や賞与についてそれぞれに同じ額を支給するよう求めた。仕事の能力や経験などに差がある場合は、金額に一定の差が生じることも認めている。
一方、通勤手当や出張旅費は正社員と同一額を支給しなければならないと明記。更衣室や休憩室、転勤者用の社宅など福利厚生は原則として、正社員と差を設けてはならないとした。退職金や家族手当などは「不合理な待遇の相違の解消が求められる」としたが、企業によって支給目的が異なることが多く、具体例は示さなかった。
同一賃金を巡っては、正社員の手当などをなくして待遇を下げることで実現をめざす企業が増えるとの懸念も根強い。指針では「労使で合意することなく正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえない」との考えを新たに加えた。
日本では非正社員の賃金水準は正社員の約6割にとどまり、欧州と比べて格差が大きい。非正社員として働く人は2千万人を超え、労働者全体の約4割を占める。働き手の意欲を高めるには、不合理な待遇をなくすことが欠かせない。賃金体系全体の見直しを迫られる企業も多くなりそうだ。【日本経済新聞2018年11月28日】
二つの大きな課題に絞って書き進めてきました。それでも書き漏らしている話は数多く残っていますが、そろそろ今回の記事はまとめさせていただきます。以前の記事で紹介した「会計年度任用職員」の制度化は公務職場における「同一労働同一賃金」に向けた大きな流れの中で位置付いているものと受けとめています。上記のような動きを「追い風」とし、市当局との労使交渉につなげていく決意を新たにしています。
いろいろ不満な点が残っていたとしても働き方改革関連法は成立しています。私たち労働組合の役員は法改正の内容を的確に把握し、労使対等原則のもとに働き方改革の流れを受けとめながら組合員の皆さんの待遇改善につなげていかなければなりません。議長代行として閉会の挨拶を行なった際、このような思いを添えさせていただきました。最後に、講師を務めていただいた労働政策局長、参加された皆さん、ありがとうございました。
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コメント
プログ都議で有名な音喜多駿都議のプログで知ったの
ですが、今年の東京都人事委員会の勧告で約1万円の
マイナス改定勧告があったが、23区長会がそれにしたが
わないことを表明したそうですが、これは事実なんで
しょうか。まあ誰でも給与が下がるのを肯定できるわけ
ないのですが、今まで給与をあげる根拠に人事委員会の
勧告を理由にしていたならば、マイナスの時に従わない
のはダブスタ批判を受けるのは間違いない。
まあこの辺りは詳しくないので、そのうちOTSU氏が記事
に取り上げるかもしれません。それを期待しています。
投稿: nagi | 2018年12月13日 (木) 10時07分
nagiさん、コメントありがとうございました。
特別区人事委員会の話について、できれば新規記事を通して取り上げてみるつもりです。ぜひ、ご覧いただければ幸いですのでよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2018年12月15日 (土) 08時25分