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2018年9月15日 (土)

自民党総裁選と改憲の動き

沖縄県知事選が木曜日に告示され、9月30日に投開票されます。在日米軍基地の問題に深く関わる選挙戦だと言えます。このブログのコメント欄でのやり取りを踏まえれば、記事本文の題材として取り上げるべき話題なのかも知れません。それでも今回は改憲の動きに直結しそうな自民党総裁選について取り上げてみます。

もちろん私自身には無縁な選挙ですが、国民の実質的な代表である総理大臣を決める重要な選挙戦であることも間違いありません。安倍首相が圧勝するという大勢は揺るがないようですが、国民の一人として関心を抱きながら改憲の動きに絞った話を書き進めてみるつもりです。

前回記事「障害者雇用率の問題」のコメント欄に記した問題意識ですが、個々人が正しいと信じている「答え」は千差万別だろうと思っています。その上で、より望ましい「答え」に近付くためには多様な「答え」や情報に触れていくことが大切です。このような問題意識のもとに私自身、いわゆる左や右の立場に限らず、いろいろな視点で綴られている書籍やネット上のサイトを閲覧しています。

ブックマークしているサイトの中で、自民党総裁選を取り上げた興味深い記事をいくつか拝見しています。このブログ自体、ニッチな情報を提供する場であり続けたいものと考えているため、幅広い情報を拡散する機会として対象的な内容の記事を2点紹介させていただきます。まず産経新聞の論説委員兼政治部編集委員が綴っているサイト「阿比留瑠比の極言御免」の記事『国民から憲法改正の権利奪うな インタビューで強調した安倍晋三首相』です。

「国民には貴重な一票を行使していただきたい。国民が(憲法改正の是非を問う)国民投票をする権利を奪うことは、国会のサボタージュ(怠業)となる」 安倍晋三首相は、1日の産経新聞のインタビューでこう強調した。現行憲法が施行されて71年余がたつが、国会はいまだに一度も憲法改正の発議をしておらず、国民は固有の権利をいまだに行使できずにいる。首相はそうした不正常な現状に対し、改めて問題意識を表明したといえる。

憲法は改正条項(96条)を備えており、社会の必要や時代の要請に応じた改正を当然の前提としているにもかかわらず、国会審議は遅々として進んでいない。ここ数年にわたり、野党からは「安倍政権の間は憲法改正の議論はできない」との意味不明な主張が繰り返し聞こえる。だが、国の根幹をなす憲法の議論を、属人的な理由や単なる好悪の情で忌避してどうするのか。首相は、そうした無責任な態度をこう牽制した。

「安倍晋三が嫌だとかではなくて、議論すべきは、憲法のどの条文をどういう必要性があって変えるかということのみだ」 国民の権利や国の義務にもかかわる憲法の論議が、国会運営の駆け引きや政敵批判の材料に利用される現状にも警鐘を鳴らした。「それ(憲法の議論)が政局のために、この政権を倒すとか自分たちが政権を取るということで行われるのは避けるべきだ」

ただ、憲法9条の条文を残した上で、自衛隊の存在を明記するという首相の提案には当初、自民党内にも異論が少なくなかった。現に総裁選を争うことになる石破茂元幹事長は、戦力の不保持を定めた9条2項の削除を求めているほか、9条改正自体について「緊要性があるとは考えていない」とも主張している。この点に関して首相は、次のように説明した。「激動する安全保障環境の中にあるからこそ、憲法に自衛隊を明記することで、国民のために命をかける自衛隊の正当性を明確化し、誇りを持って任務に専念できる環境を整える」

8月には、埼玉県の共産党市議らが、子供用迷彩服の試着体験などの自衛隊イベントを中止させたり、自衛隊の航空ショーの中止を求めたりしたことが議論を呼んだ。首相は、憲法に自衛隊を位置づけることで「そういう議論に事実上、終止符を打つことにつながっていく」とも述べた。9条2項の削除は一つの道理ではあるが、連立を組む公明党が受け入れることは考えにくい。公明党抜きでは、衆参両院で国会発議に必要な3分の2の議席は確保できない。

昨年5月、石破氏が2項を残す首相案を批判した際、首相は周囲に「だったら石破さんは、公明党を説得してから言えばいい」と語っていた。1日のインタビューで首相は、改めて石破氏にこう反論した。「そもそも昨年10月の衆院選で自民党は、9条2項を削除する案ではなく、自衛隊の明記を公約に掲げて国民の審判を仰いだ」 首相は最後に「政治は現実であり、具体的な結果を出していくことが求められている」と決意を示した。

「誰が」ではなく、「何を」訴えているかという関係性を重視しています。そのため、発信者の名前や立場を伏せて紹介するほうが望ましいのかどうか少し迷いました。とは言え、そのような紹介の仕方はネット上のマナーを失することになり、あらかじめ「誰が」訴えているのか明らかにさせていただいています。続いて、「澤藤統一郎の憲法日記」の記事『「安倍9条改憲」を阻止するために』からの抜粋です。

昨年・2017年の5月3日憲法記念日が「安倍9条改憲」策動の始まりでした。彼は、志を同じくする右翼団体の改憲促進集会と、これも志を同じくする読売新聞の紙面とで、2020年までに、憲法を改正したいと期限を切って具体的な改憲案を提案しました。

「安倍9条改憲」の内容は、憲法9条の1項と2項は今のままに手を付けることなく残して、新たな9条3項、あるいは9条の2を起こして、自衛隊を憲法上の存在として明記する、というものです。安倍首相は、「全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えるということになるだけで、この改正で実際は何も変わらない」と繰り返しています。

もし、本当に何も変わらないのなら、憲法改正という面倒で巨費を要する手続などする必要はありません。「自衛隊員が誇りを持って任務を全うできる」か否かは、国民が判断することで首相がしゃしゃり出ることではありません。

実は、「安倍9条改憲」で、憲法の平和主義の内容は明らかに変わるのです。現行憲法9条の1項と2項は、戦争放棄・戦力不保持を明記しています。これをそのままにして、戦争法(安保法制)が成立しました。このことによって、法律のレベルでは、自衛隊は集団的自衛権行使の名目で、海外で戦争のできる実力部隊と位置づけられたのです。しかし、憲法はこれを許していない、今ならそう言えます。

安倍9条改憲を許せばどうなるでしょうか。戦争放棄・戦力不保持の1・2項と、新たに自衛隊を書き込んだ憲法の新条文とが矛盾することになります。その矛盾は、新たな条文に軍配を上げるかたちで収められる危険が高いのです。「後法は新法を破る」(※)という法格言があります。集団的自衛権行使可能な自衛隊の明記が、9条1項・2項を死文化させかねないのです。 ※「後法は前法を破る」の誤りだと思われます。

弁護士である澤藤さんのブログ記事は長文であり、全文を読まれたい方はリンク先をご参照ください。上記の記事に続く澤藤さんの言葉として、石破茂候補が、「理解ないまま国民投票にかけちゃいけません。誠実な努力を着実にやっていく上で、初めてそれが俎上に上るもの」と、クギを刺しています。軍事オタクで、タカ派イメージの強い石破さんをハトに見せる安倍首相の前のめりの姿勢です、とも記されています。

澤藤さんのブログは以前からブックマークし、時々、参考になる記事内容を当ブログの中で紹介してきました。今年5月に投稿した記事「日本国憲法が大きな岐路に」の中では、澤藤さんの講演に直接足を運んだことも報告していました。だからと言う訳ではありませんが、どうしても澤藤さんの訴える内容のほうに「なるほど」と思える箇所が多くなりがちです。

私自身の考えは「改憲の動きに思うこと」「改憲の動きに思うこと Part2」などを通して訴えきています。いつ憲法9条の行方が問われたとしても、幅広く正しい情報のもとに判断できる環境を整えていくことが重要です。その結果、自衛隊を正式な軍隊に改め、戦争ができる「普通の国」に戻ることを国民が選択するケースもあり得るはずです。そのような選択に至った場合、それはそれで厳粛な国民投票の結果として受けとめていかなければなりません。

絶対避けるべきことは不誠実で不正確な選択肢のもと憲法の平和主義が変質していくような事態です。集団的自衛権の行使は認められない、後方支援も含め海外での戦争参加はできない、専守防衛までを認めていた現憲法9条の解釈を有効とし、それに見合った平和活動や国際貢献に徹するべきという「答え」を当ブログを通して訴えてきています。仮に国民投票で憲法9条の文言を見直す場合、名称はともかく自衛隊を軍隊と認めた上、役割や任務を明示すべきものと考えています。

安倍首相が提起した1項と2項はそのまま、つまり軍隊ではない自衛隊を憲法に明記する、安保法制の施行前であれば一定評価できる発想だったものと思います。しかし、戦場に出向きながら後方支援しか担わないという限定的な集団的自衛権の範囲は必ず見直しを迫られるはずです。さらに軍隊ではないまま自衛隊が海外で武力を伴う活動に従事することの矛盾や危うさも数多く指摘されています。

このような考え方に照らした時、安倍首相の提起している発想には疑念を抱いています。新たな矛盾や憲法論争の火種を残したままの改憲への道筋であり、現状が何も変わらないのであれば不必要な発議だと言えます。「政治は現実であり、具体的な結果を出していくことが求められている」という安倍首相の決意が紹介されていますが、状況によってはまったくその通りだと思っています。

しかし、本当は自衛隊を国際標準の軍隊にしたいけれど、そこまでは一気に変えられないから「憲法に明記するだけ」という発想だった場合、いかがなものかと危惧しています。それも国柄を象徴する憲法をどのように改めるのかどうかという極めて重大な選択肢を国民に示す際、この程度のハードルであればクリアできるという「現実的な判断」が誠実な姿勢なのかどうか私自身は疑問に思っています。

将来的に自衛隊を軍隊に位置付けたいとする石破候補の考えは支持していません。しかしながら「9条は国民の理解なくして、改正することがあってはいかん」という言葉には強く共感しています。ただ真っ先に改憲すべき事項は参院選の合区解消という石破候補の訴えには違和感があります。総裁選の応援を得るために必須な公約なのかも知れませんが、優先順位の例示としては説得力を欠くように感じています。

自民党総裁選の討論会で、安倍首相は、ロシアのプーチン大統領が「前提条件なしの平和条約締結」を提案したことについて、従来の政府の方針を維持する考えを示した。安倍首相は、「日本の立場は、領土問題を解決して平和条約を締結する立場。(プーチン大統領が)平和条約の意欲を示したのは間違いない」と述べた。これに関連し、立憲民主党は「反論せずに黙ったままでいる総理の姿勢は、看過できない」として、予算委員会を開催するよう自民党に求めた。【FNN PRIME 2018年9月14日

長い記事になっていますが、上記の話題についても触れてみます。東方経済フォーラムの壇上で、安倍首相が反論しなかったことについて私自身は問題視していません。沈黙が同意だという誤解を与えるような場だった訳ではなく、即座に反論したとしても領土問題の解決に向けて物事が劇的に動き出すものでもありません。ただ安倍首相としては、その場の雰囲気を壊さない程度に一言添えるべきだったと悔やまれているのかも知れません。

ロシアは東方経済フォーラムと同じタイミングで、中国軍とモンゴル軍も初参加した冷戦後最大規模となる軍事演習を極東やシベリアの地で実施しています。アメリカとの対立が続く中、ロシアと中国が政治経済や軍事の面でも緊密な連携をアピールするための一連の動きだと見られています。この軍事演習について安倍首相が話題にすることはなく、約束の時間に2時間以上待たされても苦言を呈することもなく、忍耐強くプーチン大統領との良好な関係を築いています。

言うべき時に言うべきことは毅然と言わなければなりません。それ以外の場面で安倍首相がプーチン大統領の性格を気遣いながら低姿勢で接していることを責める気持ちは一切ありません。首脳同士の良好な関係が私たち国民にとって最良の結果を引き出していただけることを期待しながら、私自身は安倍首相の今回の沈黙も含めてロシアとの関係性を評価しています。

領土問題の解決は悲願ですが、容易でないことも確かです。仮に安倍首相の手腕で解決できなかったとしても、掌を返して「良好な関係は何だったのか」と批判するつもりはありません。核兵器を保有する軍事大国であるロシアから攻撃されるという脅威や危機感だけは取り除いた関係性を築いているからです。脅威とは「能力」と「意思」の掛け算で決まり、このように「意思」は外交交渉によって取り除くことができます。

領土問題を解決した後に平和条約を結ぶことがセオリーです。「戦争の火種を残す平和条約」というのは原理的矛盾だとも説かれがちです。9月20日、安倍首相が自民党総裁に選ばれることは確実視されていますが、今後、このような外交問題をはじめ、たいへんな難問が山積しています。安倍首相に望むことは改憲に向けた明確な選択肢の提示であり、相手を選ばずにロシアとの関係性と同じような寛容さを重視し、近隣諸国と良好な外交関係を築いていって欲しいものと願っています。

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コメント

管理人さんの今回の意思表示は、とてもよく理解できました。

もちろん、過去の流れでお分かりだと思われますが、私の考えとは違う面もあります。
でも、理解できますし、尊重いたします。

文面を工夫して頂いたことに感謝します。

投稿: 下っ端 | 2018年9月15日 (土) 18時55分

下っ端さん、コメントありがとうございました。

少し前の記事から評価すべき点は率直に評価した記述を残すように努めています。そのような点で印象が変わり、理解が進むようになったのであれば何よりです。ぜひ、これからもご注目いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2018年9月15日 (土) 21時23分

こんにちは。
今回のコピペ部分にある「後法は新法を破る」というのは全く意味不明なので誤植では?

投稿: おこ | 2018年9月16日 (日) 07時41分

おこさん、コメントありがとうございました。

同一の法形式の間では後法が前法に優先して適用される原則という意味をご理解の上での疑問なのかも知れませんが、私自身は「誤植」ではないものと考えています。澤藤さんがどのような点を問題視しているのか、当該の文章から意味は充分理解できます。このあたりも人によって受けとめ方が枝分かれしがちな点は興味深いところです。

投稿: OTSU | 2018年9月16日 (日) 22時11分

こんばんわ。
今回のコピペの「後法は新法を破る」についてですが、コピペ元の弁護士氏の他のエントリーでは「後法は前法を破る」という言葉が使われていて、また法格言として「新法は旧法を破る」という言い方も存在するようなので、わたしは弁護士氏がうっかり間違えて両者を混合して「後法は新法を破る」と書いてしまったのを、ためいき様がそのままコピペして世に広めてしまっているのではないかと危惧してお知らせしたのですが、ためいき様はコピペの「後法は新法を破る」が間違いではないとの意見をいただきました。
わたしは法律についてはさっぱり分からないので出過ぎたことをしてしまい失礼しました。

投稿: おこ | 2018年9月17日 (月) 01時16分

おこさん、コメントありがとうございました。

たいへん失礼致しました。ご指摘の通りです。「後法は新法を破る」は間違いで「後法は前法を破る」と記すべき言葉だったようです。

他のサイトからの転載だったため、言葉のチェックが不充分でした。加えて、おこさんが後法優先原則を承知した上での問いかけだと勘違いして、ピントの外れたお答えをしてしまいました。不愉快な思いをさせてしまい、重ねて申し訳ありませんでした。

記事本文にも注釈を添えて対応させていただきます。いろいろな意味で、私自身、反省しなければならない軽率な対応でした。今後、このような対応を繰り返さないよう注意していきます。ご指摘本当にありがとうございました。

投稿: OTSU | 2018年9月17日 (月) 07時17分

私はOTSU氏とは違って、「誰か」より「何か」ではなく
「何か」より「誰か」を重視しています。よってご紹介
のあった澤藤統一郎さんのプログも読んだのですが、まあ
正直に言うと頭が痛くなりました。その昔、活動家は
企業が採用してくれないので弁護士になるしかないとの
話を聞いたことがあります。(嘘と思いますが)
それぐらい、電波が強い内容でひどく疲れました。
自分の主張が絶対正しいと言う人々によって歴史上どれ
ほどの血が流れたかと思うと陰鬱な思いです。

まあこのような電波記事は放置して、実際に国民に憲法
を考えてもらうためにも憲法審査会が重要なのに、一部の
野党の妨害により進行しません。これこそ国民の権利を
侵害する行為でしょう。日本にはびこる憲法教の勢力を
駆逐することが一番最初に手をつけることだと思います。

投稿: nagi | 2018年9月18日 (火) 13時39分

自民党の総裁選挙は安倍さんの勝利で終わりましたね。
オールドメディアは相変わらずモリカケばかりで、いい
加減にうんざりしている人々が多いのか、支持率も回復
してますね。まあこれからも頑張ってモリカケして下さ
い(笑)

一方で、関〇生〇ンの件は、ほとんど報道されませんよね
トップだけでなく、関係先でも16名逮捕されるなど、かな
りの事件なんですが。一部の野党議員がどっぷりなんで
報道しないのか。籠池夫妻の発言の中で安倍さんに関する
ことはすぐに取り上げるが(真偽確認せず)、野党議員
に関することはスルーする。
そりゃ新聞を読まない世代は自民党を支持するのも当然
の結果ですよね。
せめてモリカケの10%で良いので、文科省の裏口入学に
関与した疑惑議員、関〇生〇ンの件、ワイセツ議員の件、
などなどの疑惑追及してほしいですね。
こんなダブスタばかりだから野党もオールドメディアも
野党をやたら応援する自称リベラル知識人も信用されな
い。そりゃ政権の支持率が回復するのも当然すぎますね。
自分に甘く、他人にだけ厳しい人の言い分など誰が聞くのだろう。どれほど安倍さんがひどいとしても、批判する
人の足元が見透かされてる現状では、無理ゲーとしか
おもえません。

投稿: nagi | 2018年9月20日 (木) 17時54分

nagiさん、コメントありがとうございました。

いつもnagiさんからのコメントを通し、人によって様々な受けとめ方や見方があることを知り得る機会となっています。ぜひ、これからもお時間等が許される際、この場をご利用いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2018年9月22日 (土) 06時59分

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