働き方改革関連法が成立
W杯ロシア大会の真っ最中、寝不足気味な方が多いのではないでしょうか。木曜の深夜、日本はポーランドに敗れながら辛くも決勝トーナメントへの進出を決めました。同時に行なわれていたセネガルがコロンビアに負けることを想定し、ポーランド戦の最終盤、日本は同点に追い付くことよりも「0対1」のまま敗れることを選択しました。
時間つぶしのボール回しに徹する日本選手に対し、観客席からは激しいブーイングが起こり、その判断や戦術に対する評価は分かれています。それでも日本チーム全体にその行為の目的や意味は浸透し、一致結束してピッチ上の選手は反則に注意しながら「0対1」のまま敗れることに徹しました。記事タイトルから離れた最近の話題が続きますが、男子ゴルフの片山プロの問題も気になっていました。
国内男子ツアーを主管する日本ゴルフツアー機構(JGTO)は27日、都内で定例理事会を開き、プロアマ大会で不適切な行動をとった国内男子ゴルフツアー通算31勝の永久シード保持者・片山晋呉(45)=イーグルポイントGC=にすでに課している30万円の制裁金に加え、厳重注意の処分を下した。
片山は理事会終了後、青木功会長(75)、石川遼副会長兼ジャパンゴルフツアー選手会長(26)らとともに騒動後初めて公の場で会見。黒のスーツにネクタイで厳しい表情を浮かべた。当日の片山の言動について、同席したJGTO理事の野村修也・中大法科大学院教授は「同伴アマチュアの方がまだパッティングをしている最中に、片山プロが了解を取らずにパッティング練習に終始したことが問題だった」と説明した。
また、同教授は「アマチュアの方はこれまでのプロアマ戦で同伴したプロとあまりに違う片山プロの態度にかなりの憤慨をしておられた。しかし、片山プロは侮辱的な発言や暴言、行為などは一切取っておらず、むしろ、すみませんという対応をしていた」と続けた。片山は5月30日に行われた日本ツアー選手権森ビル杯のプロアマで同組の招待客に不愉快な思いをさせ、プレーを断念させた。15日に文書で「当面の間、(ツアー)出場を自粛させていただく」と表明していた。【2018年6月27日スポーツ報知】
プロアマ大会での一件が報道された直後、片山プロは普段から招待客に対し、そのように接してきたのかも知れないと考えました。ネット上で調べてみると、やはり以前から招待客を無視した振る舞いが常態化していたようです。さらに27日に開かれた記者会見では片山プロと下記のような質疑応答があり、そのような実情だったことが確かめられました。
--プロアマ戦で、同組のアマチュアが途中で帰り、どう思ったか「どうして帰られるのか、理由が分からなかった。怒っているとは思わなかった。でも不快な思いをさせたのは確かだ。大変なことをしてしまったかなという思いで、大会後、ツアー出場自粛を決めた」
--プロアマ戦でのパット練習について「20年以上トーナメントに出ているが、これまでパッティングは許される範囲でやっていたと思う。でもアマチュアの方からクレームを受けたことは一度もなかった。先輩から、プロアマはこういうものだと教わることもなく、見よう見まねでここまで来てしまった」【2018年6月27日SANSPO.COM】
いろいろな意味で反面教師とすべき反省点を見出すことができます。プロアマ大会を開催している趣旨や目的を充分理解していなかったという片山プロ自身の思慮不足は深く反省しなければなりません。同時にプロアマ大会の趣旨や目的を選手全員に浸透させていなかった日本ゴルフツアー機構の組織としてのガバナンスの欠如も大きな問題だったと言えます。
もう一つ、これまで片山プロのプロアマ大会での振る舞いを誰も問題視していなかったのかどうか疑問に思っています。オープンな場での出来事ですので、きっと片山プロの不適切な振る舞いを見かけていた関係者も多かったはずです。ただ片山プロが突出した実績のある選手だったため、直接注意できるような関係者がいなかったのかも知れません。
このような経緯があった場合、「どうして帰られるのか、理由が分からなかった」という片山プロの言葉の本音も理解できます。これまで問題だったという認識がなかった振る舞いを突然非難され、一気にツアー出場の機会まで奪われるという重大事に至っている現状について片山プロは忸怩たる思いを強めているのではないでしょうか。
セクハラやパワハラの問題に重ねて教訓化できます。ハラスメントを加えている側が問題であることは言うまでもありません。ただ「このような事例はハラスメントに当たる」という啓発や研修を徹底し、未然防止に努めることが組織の役割として求められています。そして、認識不足の当事者を見かけた場合、相手が上司であろうと「それはハラメントに当たりますよ」と率直に指摘できる関係性が大切なことだろうと考えています。
最近の記事「言うべきことが言える組織の大切さ」の中で具体例をいくつか示していましたが、「ダメなものはダメ」と言える関係性が欠かせないはずです。絶対服従という上下関係から難しい局面だったことは確かですが、日大アメフト部の悪質タックルの指示は拒むべき事例でした。ルールから明らかに逸脱している行為だからです。一方で、冒頭に紹介したポーランド戦での指示はルールで認められた範囲内での戦術でした。
選手個々人の思いは複雑で「このような指示に従って良いのか」という葛藤もあったはずですが、あの場面では一致結束して対応することが求められていました。セネガルが同点に追い付いた場合は水泡に帰す結束力でしたが、幸いにも結果が伴ったことで肯定的な評価も得られる戦術に至っていました。指示の徹底化がはかれず、選手個々人の中途半端なプレイによって決勝トーナメント進出を逃すようであれば最悪なケースだったはずです。
今回のポーランド戦の最終盤のように個々人の意思や思いよりも、組織の指示に従うことを優先させなければならない場面があります。それでも後日、監督や選手の間で、そのような戦術が妥当だったのかどうか話し合う機会を持つことも考えられます。今後、同じような場面に直面した際、チーム一丸となって対処していくための必要な意見交換につながっていくのではないでしょうか。
プロアマ大会のあり方について、もしかしたら片山プロからすれば物申したいことがあるかも知れません。しかし、これまでの組織的な議論等を経て、プロアマ大会の目的や趣旨が定まっているのであれば片山プロは組織の一員として、そのルールに従っていかなければなりません。そのルールに対する片山プロの認識不足、機構側の選手に対する周知不足などが問われている不祥事だったものと見ています。
決められたルールは守らなければなりません。問題があるルールであれば、所定の手続きを提起し、改めていくための手順に力を注いでいくことになります。ルールの中でも格段に重いものとして法律が上げられます。「悪法も法なり」という言葉があるとおり法治国家の一員として個々人の思いや意思に反したことだったとしても、定められた法律は守っていかなければなりません。だからこそ国会での法案審議は、より丁寧に幅広い国民の声に耳を傾けながら慎重な判断を下して欲しいものと願っています。
金曜の参院本会議で働き方改革関連法が成立しました。以前「働き方改革の行方」という記事を投稿していましたが、深く掘り下げなければならない問題点が散見しています。特に「全国過労死を考える家族の会」の皆さんらが危惧している高度プロフェッショナル制度の創設です。略して高プロと呼ばれていますが、脱時間給、つまり残業代ゼロ法であり、過労死を促進させる恐れがあると批判されています。
当初、私自身の言葉で高プロの問題点をまとめる予定でした。いつものことですが、前置きとして書き進めた話が相当長くなりました。そのため、最後にBuzzapに掲げられた『安倍首相「高プロは労働者のニーズではなく経団連らの要望」と白状、立法事実が完全消滅』という記事をそのまま紹介することで、このブログを閲覧されている皆さんに高プロの問題点に関する情報の拡散に努めさせていただきます。
この高プロはやはり経営者側のための「働かせ方改革」でしかなかったことを安倍首相本人が白状しました。詳細は以下から。厚労省の調査がデタラメだったことが発覚し、裁量労働制の拡大が潰れた後も「働き方改革」の片翼としてしぶとく生き残っていましたが、その立法事実を安倍首相自らが嘘だったと正式に認めてしまいました。
◆「高プロ」がどれだけ危険な制度か おさらいしておくと、高度プロフェッショナル制度(以下、高プロ)とは(現状では)年収1075万円以上の高度な専門知識を扱う専門職を対象に、一定の要件の下で労働基準法の1日8時間、週40時間の労働時間規制を撤廃するという制度です。この制度の下では、該当者に労基法4章の労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用されなくなります。つまりは1日8時間、週40時間の労働時間規制が無くなりますから「残業」自体が存在しないことになってしまうのです。また、休日出勤や夜勤などでの割増料金の支払いもありません。
健康確保措置が設けられていますが、以下の3種類のうち1つだけを選べばいいという極めてずさんなもの。
- 四 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
- イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
- ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
- ハ 一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を確保すること。
これによって以下のような働かせ方すら「合法化」されることを当時の塩崎厚労相が国会で正式に認めています。
◆成果主義でもなく、一部の高所得者向けでもなく、「過労死」認定すらされなくなる また、高プロに付いては与党や一部メディアなどが意図的と思わざるを得ない誤解を振りまいています。それが「時間に縛られない働き方」「成果主義になる」というもの。残念ながらこの法案のどこにも成果主義になるという記述は一切なく、どのような成果主義による賃金支払いを義務づける制度の導入も記されていません。
また「年収1075万円以上」が対象とされているため、自分には関係ないと考えている人も多いかもしれませんが、これは単に政府案で示されている数字に過ぎません。法案には「基準年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」とありますが、法案成立時に年収1075万円だったとしても、それ以降は国会で法改正をすることなく、厚生労働省の省令によって対象となる額が変更してしまえるつくりになっています。
最後に労働時間規制がなくなり、「残業」という概念が適用されなくなることから、長時間労働への歯止めが効かなくなる可能性が強く指摘されています。高プロは「裁量労働制」ではないため、雇用側がノルマや働き方への指示を与えることも可能。つまり「この仕事をやれとは言ったが、本人の能力が足りないから長時間労働になっただけで過労死は自己責任」という言い逃れを可能としてしまいます。この事実は実際の労災認定にも大きな影響を与える恐れがあると考えられており、総じて雇用者側を免責する働きをします。
◆安倍首相自らが立法事実を否定 さて、こうした状況下で安倍政権は粛々と高プロを含む「働き方改革」の今国会成立を目指していますが、6月25日の参院予算委員会で安倍首相自らがこの法案の立法事実を堂々と否定してしまいました。既に高プロ創設に対して労働者にニーズを聞き取ったとされるヒアリング結果はたった12人に対して行なったものに過ぎず、しかも法案要綱が示された2015年3月2日の前には誰にもヒアリングしていないという後付けの大嘘だったことが判明しています。
その12人に関しても全て匿名とされていることからヤラセとの指摘も相次いでおり、加藤厚労相の虚偽答弁も発覚するなど、法案としては既に空中分解状態となっています。それでもなお安倍政権が議席数だけを頼みにこの高プロをどうにかして成立させたい理由とは何なのでしょうか?国民民主党の伊藤孝恵議員が高プロ旗振り役として知られる竹中平蔵パソナ会長の言葉を並べた後、「この期に及んでなお、労働者のニーズがあると答弁するのか?」との質問に対して安倍首相は以下のように語っています。
「高度プロフェッショナル制度はですね、産業競争力会議で、経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において、とりまとめられたもの。その後、労使が参加した労働政策審議会で審議を行い、とりまとめた建議に基づき法制化を行なったものであろうと思います。本制度は望まない方に適用されることはないため、このような方への影響はありません。このため、適用を望む企業や従業員が多いから導入するというものではなくて、多様で柔軟な働き方の選択肢として整備するものであります。利用するか分からないという企業が多いと言われていますが、経団連会長等の経営団体の代表からは高度プロフェッショナル制度の導入をすべきとのご意見を頂いておりまして、傘下の企業の要望がある事を前提にご意見を頂いたものと理解をしているところであります。(参議院インターネット審議中継 2018年6月25日 予算委員会より)」
つまり、安倍首相は質問に対して労働者のニーズに対して一言も触れず、経団連会長を含む経営側からの要望があった事から高プロを導入するのだと説明しているのです。ですがこれは法案を提出する理由たる立法事実の「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を推進するため」に完全に反しています。つまり高プロは、労働者から一切ヒアリングすることなく法案要綱を作り、担当する厚労相が虚偽答弁を行ってまでニーズを捏造した挙句、安倍首相本人が労働者ではなく経団連会長ら経営団体からのニーズであった事を白状してしまったのです。
実に最初から全てが嘘で塗り固められた法案でしかなく、その嘘も全てバレた上に安倍首相本人が嘘だったことを認めた時点で立法事実が完全消滅したわけですから、立法府としてはこの法案は廃案にする以外ありません。このまま与党が高プロを成立させるのであれば、立法府がでっち上げられた(そしてそれが完全にバレた)嘘のニーズに基づいて法律を作るという、法治国家として致命的な自爆を行う事になります。与党議員らは自らの1票が日本という法治国家を跡形もなく踏み潰す可能性をよく考えるべきではないでしょうか。
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