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2018年3月 4日 (日)

時間外勤務縮減の取り組み

昨日の土曜、自治労東京都本部定期大会に出席しました。来賓の一人として立憲民主党東京都連の長妻昭会長が臨席されていました。このブログの前回記事「裁量労働制拡大の問題点」の中で取り上げた厚生労働省の不適切なデータを巡る話に触れられた際、長妻会長が次のように語られていました。

今回の問題も政策決定の歪みからきている。官邸主導の産業競争力会議で働き方の問題が決められている。その会議に労働側の代表は一人も入っていない。働き方を決める際、政府、経営側、労働側からの構成メンバーのバランスを取るというILOの三者構成原則がまったく無視されている。さらに閣議決定された後に厚労省の労働政策審議会に下りてくる。厚労省も官邸の意向に沿って重苦しい雰囲気の中で対応しなければならない。

一字一句、メモを残した訳ではありませんので言い回しが少し違っているかも知れませんが、趣旨が大きく変わることはありません。短い挨拶の中で様々な論点が含まれていることを感じ取っていました。官邸の力が強いため、仮に問題点が見受けられたとしても主管する省庁側から指摘しづらい関係性を長妻会長は伝えていました。

官僚に対する人事権が官邸側に強まっているため、反論どころか問題があろうとなかろうと、その法案の必要性をどのように脚色すれば良いのかという「忖度」も働きがちなのかも知れません。政府側の意思決定に多面的なチェック機能が働きづらくなっている現状であり、さらに裁量労働制の適用拡大に労働側の声が反映されていなかったことも明らかです。

労働力をコストと見がちな経営側の思惑をはじめ、経済成長戦略に重きを置いた働き方改革に絡む動きだったと言わざるを得ません。長妻会長の挨拶を伺い、このような問題点があることを頭の中で巡らしました。不適切なデータの問題が致命傷となり、今国会での裁量労働制の適用拡大は見送られることになりました。その際、財界側からは「残念だ」という失望した声が相次いでいました。

安倍晋三首相が、今国会に提出する働き方改革関連法案から裁量労働制の対象拡大に関わる部分を削除する方針を表明したことについて、実現を求めていた日本商工会議所、経団連、経済同友会の財界3団体トップからは1日、失望や遺憾の声が相次いだ。日商の三村明夫会頭は1日の記者会見で「非常に残念だ。政府は(裁量労働制について)実態調査をきちんとやったうえで再度法案を提出すると理解しているので、できるだけ早く実現してほしい」と、安倍政権に注文をつけた。

三村会頭は「働き方改革は日本の成長戦略の一丁目一番地。労働者が自分の生活パターンに合った働き方を求め、企業がいろんな働き方の選択肢を提供するものだ」とメリットを強調。労働側には「大企業が裁量労働制の拡大で賃金コストの圧縮を目指している」との批判もあるが、三村会頭は「企業が労働者をどんどん働かせるために導入することはないと思う。残業代をケチるために裁量労働制を考えている経営者はゼロとは言わないが、非常に少ないんじゃないか」と反論した。

経団連の榊原定征会長は1日、「柔軟で多様な働き方の選択肢を広げる改正として期待していただけに残念に思う。今後、新たな調査をしっかり行い、国民の信頼と理解が得られるよう全力を尽くしていただきたい」との談話を発表した。経済同友会の小林喜光代表幹事は「世界と比して低い生産性の向上が求められる中、今回の事態は極めて遺憾だ」などとするコメントを出した。【毎日新聞2018年3月1日

「企業が労働者をどんどん働かせるために導入することはないと思う」という釈明もあるようですが、「世界と比して低い生産性の向上が求められる中、今回の事態は極めて遺憾だ」という声のほうが本音ではないでしょうか。いみじくも労働力をコストでとらえているような意識が表に出た言葉だったように感じています。

過労死を撲滅させるためにも、使用者側にとって都合の良い「働かせ方」改革に絶対つなげてはならないものと考えています。様々な労働法制を整えていく重要な目的は労働者が健康を害さないよう長時間労働を規制するためのものでなければなりません。使用者側だけの都合による恣意的な時間外労働を防ぐため、決められたルールを職場の中で守っていくという当たり前な意識を使用者側も労働者側も徹底していくことが必要です。

どのような法律を作っても「抜け穴」を探されては論外ですが、そもそも企画業務型裁量労働制の適用拡大は長時間労働を助長、もしくは追認する恐れがあり、長時間労働規制と逆行した発想でのラインナップであったことも留意すべき点でした。いずれにしても実効ある働き方改革のためには使用者側の目線だけで進めず、労働者側の声を反映していくことが重要です。参考までに私どもの組合の時間外勤務縮減に向けた取り組みとして、先日入稿した機関誌の原稿内容をそのまま紹介させていただきます。

■20時完全退庁宣言

働き方改革の議論が進む中、東京都では一昨年10月から20時完全退庁を始めています。都庁職員からは「帰りやすい雰囲気ができた」という肯定的な声がある一方、「午後8時を過ぎたら15分おきに消灯されるので仕事が山のように増えても残業できなくて困る」「クオリティはある程度犠牲にせざるを得ない」「早朝出勤や休日出勤が増えないか懸念」という声が上がっています。

民間企業でも同様な動きがありますが、「残業禁止」という方針を打ち出せば現場の管理部門はそれを徹底させようとします。急ぎの仕事があって残業しようとすると上司から「帰れ、帰れ」と責め立てられ、責任感の強い真面目な人ほどプレッシャーを感じがちです。時短を強要する行為をジタハラ(時短ハラスメント)とも呼ばれるようになっています。

昨年5月31日に当市でも「20時完全退庁宣言」を行ない、6月から始めることになりました。長時間労働の是正は労使でめざすべき共通した課題ですが、前述したような悪影響が出るようでは問題です。そのため、組合は5月29日に緊急の申し入れを市当局に行ないました。組合からは本来、すべての職場で完全退庁できる職場体制を確立した後に宣言すべきものではないか、この宣言によって時間外勤務の未申請が増えないか、様々な懸念点を訴えました。

この申し入れを通し、宣言したから一律に現状を改めることを強要するものではない、都のような一斉消灯は行なわない、特別時間外勤務の申請の扱いも現行通りと確認していました。この宣言以降、6月22日に組合から「時間外勤務縮減に関する要求書」を提出し、労使協議の大きな課題としてきています。

■時間外勤務の縮減に向けて

7月26日には「時間外勤務」問題の組合意見交換会を開きました。当日は残業の多い職場の組合員参加のもと現状や今後に向けた課題について率直な意見を交わしました。残業を望んでしている訳ではなく、待ったなしの仕事に追われているため、仕方なく20時過ぎまで残る場合もある、このような声が示されました。仕事の進め方の工夫や絞り込みにも努力しているが、それ以上に制度改正等で仕事量が増加や複雑化している現状なども訴えられました。

時間外勤務の未申請はサービス残業に当たるため、仮に19時前に終わろうと申請しなければなりません。このような点を組合は継続的に啓発してきています。その結果、一人当たりの残業時間数が急増した職場もありますが、この時間数が適切な現状を反映したものです。今後もサービス残業解消を大前提とした上で、時間外勤務の多い職場の現状改善に努めていかなければなりません。

昨年度の時間外勤務状況が示され、年間1000時間超の勤務者も見受けられていました。このような状況は一刻も早く改善するよう別途個別の対応を求めています。360時間超の勤務者は144人に及び、縮減に向けた実効ある対策が急がれています。

組合は今回、市当局に提出している「人員確保及び職場改善要求書」の中で、各係の年間時間外勤務が平均360時間を超えている場合、所定の算出方法をもとに増員要求しています。各係・施設単位の職場アンケートとは別に算出したもので、時間外勤務縮減に向けた問題提起型の要求に位置付けています。

■指針や時差勤務制度に対し

11月16日に開いた団体交渉の中で、市側が策定作業を進めていた「職員の時間外勤務に関する指針(案)」に対し、組合側の問題意識を訴えました。部課長の責務として年間又は月間の組織目標を立てることなどが掲げられ、時間外勤務縮減の取組状況を人事評価への反映を検討するような記述がありました。

内部会議のあり方や調査依頼の簡略化など業務量自体を減らす具体案も掲げられていますが、全体を通して仕事のあり方や総量に大きな変化がないまま時間外勤務「縮減ありき」を強いられていくような危惧を組合から指摘しました。団体交渉で議論した結果、指針案の取扱いを次のとおり確認しました。

◇労働条件に関わる事項は労使協議し、労使合意がなければ一方的に実施しない。
◇内容や表現についても組合からの意見を取り入れた上、必要に応じて修正をはかる。

その後、組合からの指摘をもとにいくつか必要な修正をはかりました。特に「考え方の補足」のQ&Aに関し、組合の意見が積極的に受け入れられました。今年1月、平日の特別時間外勤務が21時以降から20時に繰り上げられましたが、特別時間外勤務命令理由書を廃止し、申請方法を簡便化しています。

午後4時30分になると羅針盤(庁内イントラネット)にメッセージが表示されるなど戸惑われたかも知れませんが、必要な時間外勤務を必要以上に抑制するものではありません。場合によって事後申請もあり得るなど従来通りであることを確認しています。時短ハラスメントやサービス残業を強いられるような場合はただちに組合まで連絡してください。

指針の中に時差勤務制度のことが盛り込まれ、時間外勤務縮減策の一つとして検討されていました。導入する目的は「柔軟な勤務時間の設定を可能とすることにより時間外勤務の縮減を図り、職員の健康を保持してワーク・ライフ・バランスを推進する」としています。

所定の勤務時間外に会議、住民説明会、工事立ち合い、作業、啓発活動等の業務がある場合、所属長の許可を得た上で時差勤務できるような制度案が想定されています。恒常的な業務に対応したものではなく、あくまでも臨時的な業務に当たる際、時差勤務を利用できるような制度でした。

実施に移す際は団体交渉で確認したとおり労使協議した上、労使合意を前提としました。組合執行部内での議論として、業務の総量自体が多い職場では、なかなか時差勤務制度は利用できないのだろうと見ていました。それにも関わらず、時間外勤務「縮減ありき」で時差勤務しなければならないような雰囲気が強まってしまうと、ますます密度の濃い仕事に追われることになります。

時差勤務したため、職場で手が回らない仕事を自宅に持ち帰るようなサービス残業につながる恐れもあります。また、仕事量からすれば時差勤務制度を利用しやすい職場でも、時間外勤務手当を減らすことが主目的となり、強要されていくことも望ましい話ではありません。夜に会議を控え、午前中はゆっくり休みたい場合、有給休暇を取得すれば済む話です。

議論を重ねた結果、時差勤務制度は三月から導入することを合意しました。臨時的な業務に対応する際に必要に応じて利用でき、あくまでも利用するかどうかは本人の選択であることを確認し、労使合意しています。

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コメント

ほとんど同じ業務であっても、時間内に終わらせることが出来る人もいれば、何時間も残業しなくては終わらない人もいます。そのような面から見ても、一律な制度は時代にそぐわなくなってきています。

もちろん、そもそも論としてサービス残業や過剰な業務負担を強いることは防がなくてはなりません。
人事考課制度などを含めて、総合的な制度構築が必要なのではないでしょうか。

能力のある人は、時差出勤をしながらも時間内に業務をこなし、時間を有効に使えることが出来る。
同じ時間で処理する量が違うのに、同じ条件で働かせることの問題も解決すべきではないでしょうか。

同じ部署で、毎月100時間残業する人と、30時間しか残業しない人が、同じ制度で、同じ条件で働くこと自体、無理があると思います。そういった意味では、高プロ制度は求められるべくして生まれた制度と感じています。

通常の能力を遥かに超えてしまうような負担を強いることは、制度をしっかり整え、罰則も強化して対応すればいい。それこそ、そのようなことがあれば、組合の出番ですよね。
では、能力の差は、どうしていけばいいのでしょうかね。

仕事は結果を求められます。多少の優劣はあるにしても、多少を超える優劣を放置しては、不公平になるのではないでしょうか。

投稿: 下っ端 | 2018年3月 4日 (日) 19時03分

下っ端さん、コメントありがとうございました。

今回の記事本文の中でも綴っていますが、過労死を撲滅させる、長時間労働で心身を害する労働者を出さないことを第一義に考えています。その上で「多少を超える優劣」の判断基準をどうとらえるか、「不公平」感をどう解消していくのか、やはり労働組合の立場から訴えるべき点は訴え続けています。

そのような切り口の記事内容も機会を見て投稿できればと思っています。ぜひ、これからもご訪問いただければ幸いですので、よろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2018年3月 4日 (日) 22時02分

初めてコメントさせていただきます。
いつも楽しく拝読させていただいております。私は自分達の労働環境を守るための活動は結構だと考えておりますが、政治運動は別組織で行うべきだと考えています。なぜなら、自分の子供に「お父さん、どこの政党に入れているの?何故入れているの?」と聞かれた時に100%本心で希望の党、民進党、立憲民主党とは回答出来ないからです。たくさんの人が集まる組織ですので、賛否両論あって当然です。しかし、今の自治労は政治闘争が主になっているところもあるのではないでしょうか?また長年専従をしている役員が幅をきかせて、経験年数の浅い者の意見を聞きもせず叱りつけるところも見ています。応援する政党は幅広い意見を認めあうといいながら、応援する組織はそこしかないといったそこの政党に入れること当選させることが目的化しているようにも感じます。
しかし、このブログを見ていると、自己否定から始まり、組合活動が全て是というわけではないという意見で、納得出来ないことも、とりあえず理解させてもらっています。そして、私自身、後輩達にこうやって納得していけばいいのではないか?と提案しているところです。(本当は組合を抜けたいですが、抜けると非国民的な扱いをされるので、みかじめ料と考えて組合費を支払っています。)
さて、裁量労働制や時間外の問題など働き方について色々騒がれている昨今ですが、野党の論点は正しいのでしょうか?
例えば現在の長時間労働や過労死の問題は、労働基準法や現行制度の見直しや運用について検討すべきなのではないでしょうか?また、入社の際に会社と交わす契約書について確認したり修正を求めたり出来ないということが問題なのではないかなぁと思って見ています。
その一方で、裁量労働制や高プロについては、働き方が多様化した社会で必要な制度ではないかと思います。プロ野球選手を例に例えてみてはどうかと思います。もちろんプロ野球選手は個人事業主ですから、これらの制度に該当しませんが、裁量労働制や高プロの働き方に似ていると思いませんか?プロ野球選手が労働時間と言っても馴染みの無いものですし、残業手当というものも見合わないと思います。世の中の職業には、量を選ぶか、質を選ぶかがあってもいいのではないでしょうか?
量を選ぶ職業であればきちんと法整備をして枠内で運用して、質を選ぶのであれば一定以上の技術が有るもののみ高額な報酬を得る前提であればいいのではないでしょうか?
今の国会論争を聞いていて上記の例に当てはめると、「プロ野球選手も労働者だから長時間労働は良くない。勤務(練習)時間は決められた時間のみでいい。下手くそでもいい。」と言っているようにも聞こえます。
私は自治労が推す議員については、どのような職種が量の仕事で、どのような職種が質の仕事かをきちんと議論協議をしていく方がいいのではないでしょうか?
質の仕事に量の論点を当てはめて議論しても何も産み出さないのではないでしょうか。(これは安倍内閣も答弁が下手くそだと思いますが・・・)質の仕事にしても待遇を少しでも良くする、対象や待遇を規則で決めるのではなく法律に記載していくというのが野党議員の仕事ではないのかなぁと感じています。
いずれにしましても、量の仕事はこの国の職種のほとんどを占めていると思いますし、ブラック企業とまで言えなくても待遇が劣悪であったり、時間外が全て出ないところがほとんどだと思います。(役場もそうですが)そのような人達については、現行の労働法制を見直して(野党議員に見直させる力があるなら自治労の政治闘争も意味があるのでは?)、会社に入るとき、約束と違うとき、やめるとき(自己都合にならない)というポイントで組合が支えたり色々な考え方があると情報提供していってはどうでしょうか?

投稿: あきら | 2018年3月 5日 (月) 04時07分

あきらさん、コメントありがとうございました。

多岐にわたる貴重なご意見に感謝しています。本来、コメント欄を通して迅速な意見交換がはかれれば望ましいことです。ただプロフィール欄にも掲げているとおり実生活に負担をかけずに続けていくためにも、このブログとの関わりは土曜日曜に限るようにしています。

そのため、まずレスが遅れることをご容赦ください。さらに深く掘り下げるべき論点のある問いかけ等に対してはコメント欄ではなく、機会を見ながら記事本文を通してお答えするように努めています。たいへん恐縮ながら今回の内容も心に留めながら適宜対応していければと考えています。

そのような点についてご理解ご容赦くださるようよろしくお願いします。ちなみにコメント投稿があった場合はメールで通知されるため、閲覧自体は平日でもすぐに拝見させていただいています。ぜひ、これからも何か気になる点がありましたらお気軽に投稿いただければ幸いですので、よろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2018年3月10日 (土) 06時24分

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