人事・給与制度見直しの労使協議
もうコートはいらないと考えていましたが、金曜の朝の風の冷たさはコートを置いてきたことを悔やむほどでした。その日の朝の市役所周辺の桜は満開でした。冷たく強い風でしたが、桜には受粉するまで散れないという生存本能があることを思い出していました。週末にお花見を予定された皆さんは満開の桜の下で楽しめたのではないでしょうか。
前回の記事は「政治と教育の関係」でしたが、今回はローカルな話題となります。私どもの組合の労使課題の論点や協議状況などは月2回以上発行する組合ニュースを通し、組合員の皆さんにお知らせしています。年に1回は『市職労報』という機関誌を発行し、組合ニュースを補う目的で諸課題を掘り下げた特集記事を掲げています。
それぞれ組合員一人ひとりに配られ、配布後の取扱いは自由です。このようなオープンな配布の仕方ですので、組合ニュースが市議会議員や住民の皆さんの目に留まることも想定しています。要するに誰に見られても困るような内容は掲げていません。
ただ交渉結果の内容や組合の考え方に対しては人によって評価が分かれ、批判の対象になる場合があるのかも知れません。それでもコソコソ隠すような労使交渉や主張は行なっていないため、「内部資料」「取扱注意」のような但し書きは一切ありません。
仮に圧倒多数の方々から問題視されるような交渉結果や組合の主張だった場合、何か改める要素があることを察知する機会にすべきだろうとも考えています。そのような意味合いからも当ブログの記事の中で、組合員の皆さんに伝えているニュースや機関誌の内容をそのまま掲げる時があります。
新規記事を投稿する際の労力を軽減する意味合い()もありますが、今回も最近発行した機関誌『市職労報』の記事内容をそのまま紹介させていただきます。この課題に関しては昨年11月に「査定昇給を巡る労使協議」という記事を投稿していました。その労使協議のまとめとして特集記事「春闘期、情勢や諸課題について」の中で「人事評価制度のあり方も労使協議の対象」という見出しを付け、次の内容を掲げています。
■慎重な労使協議を重ねた査定昇給の取扱い
労働組合は人事に関与できず、当局側の責任事項です。一方で、賃金水準に直結する人事や給与の制度面の問題は労使協議の対象としています。これまで組合は公務の中で個々人の業績評価は取り入れにくい点などを訴え、人事評価制度の導入に慎重な立場で労使協議に臨んできました。しかしながら2014年の地方公務員法の一部改正を受け、労使合意のもと昨年6月の一時金(勤勉手当)から個々人の業績評価結果を反映させる制度を開始しました。
一方で、能力評価を中心にした査定昇給は生涯賃金に大きく影響するため、より慎重な労使協議を重ねてきました。一人ひとりのやる気を損ねず、組織そのものを活性化させていくため、どのような制度が必要なのか、評価結果によって職員間に過剰な格差を生じさせる制度の是非などを問題提起してきました。さらに万が一、評価を気にし、上司に対して言うべきことを控えるような職場の雰囲気につながるようでは論外だと考えています。
このような問題意識のもと従前通り職員全員が年に1回4号給昇給するB評価(4号給昇給)を基本とすべきものと組合は考え、11月の定期大会の「当面する闘争方針案」を確認してきました。したがって、組合からはC評価(3号給のみ昇給)以下を極めて例外的なものとするよう訴え、その運用のあり方が最終盤の大きな論点となっていました。
■労使協議の最終盤、組合の主張を受け入れて合意
人事評価制度における査定昇給の取扱いを巡り、11月末、大詰めの労使協議を重ねました。その結果、11月29日に開いた団体交渉で来年度から査定昇給を本格実施することを基本合意しました。最終盤の労使協議の中で、人事評価表の「評価の着眼点(求められる行動)」がB評価を付けにくくしている点を指摘し、『人事評価の手引き』のB評価の基準を「職責をおおむね果たせている水準(標準)」等に改めました。
さらに能力総合評価に自己評価がなかったため、追加することも確認しました。また、評価者の恣意的な評価判断を抑制し、より納得性や透明性の高い制度とするため、評価結果に至った評価者のコメントを全職員に開示します。C評価以下を付けた場合、人材育成の観点から評価者が当該職員と面談し、より丁寧な説明責任を果たすように努めていくことも確認しています。
他にも組合からB評価以外を付ける場合、第1次評価者は第2次評価者に特段の説明を行ない、ダブルチェックをはかるよう求めています。苦情の申出が評価結果の通知後10日(休日を除く)以内と短いため、その期間の見直し等も含め、申出しやすい運用の改善を求めていました。その結果、評価を知り得た日から20日(休日を除くため実質1か月間)に改めます。休職していた場合、復帰してから起算します。
* *
たいへん大きな課題だった査定昇給の取扱いを労使合意した後、その他の人事・給与制度に絡む見直し協議を本格化させました。3月16日の団体交渉で各課題の大半は労使合意に至りました。組合の指摘を受け入れ、当初の見直し案を改めた課題も少なくありません。
その中で長期主任職の選考方法の見直しだけは市当局側と見解が分かれ、継続協議の扱いとしています。市当局は試験会場での論文試験に変更したい意向ですが、組合は従来通り簡易なレポート提出が望ましいことを強く主張しています。
特に今回、昇格時号給対応表の導入を労使合意しました。法改正によって特別昇給制度を残せなくなることを前提に導入を決めました。主任や係長等に昇格した際、これまでのような直近上位ではなく一定水準の昇給幅を設ける制度です。先に昇格した人の額を追い抜くことは避けるため、他市の例にならい、段階的な表を作り、5年経過後に都の表に合わせることを確認しています。
特別昇給制度の廃止は賃金水準の低下を招きますが、昇格時号給対応表の導入によって水準引き上げの機会につなげることをめざし、組合は協議に臨んできました。そのため、今回のタイミングで長期主任職の選考方法を見直すことに抵抗感があります。市当局は、あくまでも実施方法の見直しであり、合格率を変える意図はないと説明しています。
主任職への昇格は、最短で28歳以降に受験資格を得られる短期選考、最短で35歳以降に受験資格が得られる長期選考の2線式となっています。短期選考には一般教養試験や論文試験があり、長期選考はレポート提出をもって合格者を決めます。短期は「狭き門」となっていますが、長期は著しい問題がなければ基本的に合格する制度設計としています。
組合の立場として「人事評価の話、インデックス」の中で記しているとおり「頑張っても頑張らなくても同じ給料」という不本意な見られ方は拭いたいものと考えていますが、どのような役職や職種の職員も職務に対する誇りと責任を自覚でき、常にモチベーションを高めていけるような人事制度をめざしています。その上で組合員全体の生活を守る立場から賃金水準の維持向上に努めています。
主任職は2004年4月から創設しています。私が書記長時代に担った大きな人事・給与制度の見直しでした。その当時の資料を確認してみると「主任職はライン職である係長までの職位と異なり、指揮命令系統に属さないスタッフ職」とし、「長期選考の主任職は、もともと市役所業務の経験が豊富で職場のとりまとめ役となるべきベテラン職員を処遇するポスト」と説明しています。
長期主任職の選考方法となるレポートは、提示された3つほどの課題の中から1つ選び、受験者の考え方を手書きにして提出することが求められています。受験者以外の代行やインターネット上のサイト等からコピーペーストができないように手書き提出を条件としています。それでも市当局は試験会場方式でなければ本当に受験者本人が一人で考えた内容なのかどうか分からないという説明を加えています。
このような説明に対し、私からは「職員を信頼することを前提に考えるべきである」と訴えた上、「不正をした場合、合格を取り消すという但し書きを付けることで対処できるのではないか」と反論しています。そもそも個々人の考え方が最初からオリジナルである訳ではなく、他者の考え方の影響を受けながら成り立っているはずです。書籍やネット上のサイトの内容の丸写しは論外ですが、参考にしながらレポートをまとめることは許容されるべき範囲だと考えています。
これから長期主任職の受験資格を得る複数の若手組合員に対し、選考方法の見直しの提案が示されていることを尋ねてみました。その中で、真っ先に尋ねてみた若手組合員の言葉が印象的でした。「試験会場で限られた時間の中で論文を書かせることは能力評価の選考ですよね。自宅でじっくり時間をかけることができるレポート提出は人物評価の選考ではないですか」という言葉でした。
人からアドバイスを得ようと、書籍やネットで調べようと、提示された題目に対する考え方を時間をかけて自分自身がまとめ、その内容の評価を受ける、意義深い選考方法であるという趣旨の説明を受けました。「短期の選考が能力評価を基本としているのであれば、長期は人物評価に重きを置くことも理にかなっているのではないですか」という注釈も加えられていました。
「なるほど」と思いながら、これまでの方式の維持を望む考え方を補強する貴重な意見を得られたものと受けとめていました。その後、引き続き若手組合員の皆さんからの聞き取りを進めてみました。当たり前な反応だろうと思いますが、選べるのであれば「レポート提出のままのほうが良いですね」という答えばかりでした。一方で、絶対反対かどうかで言えば試験会場方式への見直しも「仕方ないかな」という反応が多かったことも確かです。
執行委員会の中でも「見直しは仕方ないのではないか、それよりも合格率を維持させることが重要」という意見も目立ち始めています。しかし、私自身は容易に「仕方ないかな」という考え方に至っていません。長期選考の敷居が高くなり、受験者そのものが減っていくような懸念は杞憂なのか、時代情勢の変化の中でレポート提出という選考方法は見直しが不可欠なのか、もう少し時間をかけて労使協議していければと考えています。
| 固定リンク
| コメント (5)
| トラックバック (0)
最近のコメント