時間外勤務縮減の課題
1+1=2、誰が考えても正解は2となります。しかし、このように正解を簡単に見出せない事象が世の中には数多くあります。個々人が正しいと考えている「答え」は持っていても、その「答え」が必ずしも正解とは限りません。さらに見る位置や触れる情報によって、個々人の導き出す「答え」が変動する場合も少なくありません。
だからこそ、より望ましく、正解に近い「答え」を得るためには日頃から幅広く、多面的な情報に触れていくことが重要です。まして誤った情報や思い違いで判断していった場合、ますます正解から遠ざかっていくことになります。同時に正しい事実関係の把握、ファクトチェックの大切さも言うまでもありません。
また、判断を誤らないようにするため、仕組みを整えていくことも求められています。以前の記事「ヒューマンエラーの防ぎ方」の中で日常業務におけるダブルチェックの話を綴っていました。視点を変えて確認する、複数の目で点検する、手間はかかりますが、エラーを未然に防ぐための仕事の進め方だろうと思っています。
政治の場面でも多面的なチェックが欠かせません。政府与党が正しいと考えた「答え」、つまり法案や政策が本当に望ましいものなのか、問題がないのか、視点や立場を変えた国会での議論が重視されなければなりません。しかしながら国会では与党の議席が圧倒多数を占め、大胆な修正や仕切り直しを拒んだまま重要法案を最後は多数決という現況が目立っています。
多面的なチェックの重要性で言えば、労使交渉も同様です。使用者側の「答え」と労働者側の「答え」が相反する場合も少なくありません。立場や視点が異なる者同士、対等な立場で率直な議論を重ね、協議事項を多面的に検証することで問題点を改める機会につなげられます。使用者側の目線だけでは見落としがちとなる点、もしくは働く側にとってアンフェアな提案に対し、労使交渉という手順を踏むことで、より望ましい修正や改善がはかれるようになります。
前回記事は「査定昇給を巡る労使協議」でした。こちらの案件は11月29日夜に団体交渉を開き、基本合意を果たすことができました。労使協議の最終盤、市当局側が組合の主張を受けとめ、評価規準の見直しをはかりました。それらの見直しに至った判断は、組合側の主張に一定の合理性や説得力があったからです。より望ましい人事評価制度を確立するため、前述したとおりの多面的なチェック機能が働いた成果だろうと思っています。
前々回記事の冒頭で紹介していましたが、査定昇給の取扱いとともに時間外勤務縮減の課題が労使協議における継続案件となっています。5月末の「20時完全退庁宣言」を受け、組合は6月に「時間外勤務縮減に関する要求書」を提出していました。ちなみに当ブログでは昨年10月の「電通社員が過労自殺」以降、「働き方改革の行方」や「36協定について」など長時間労働に関する記事を投稿しています。
職員の健康を害する恐れのある長時間労働は解消しなければならず、時間外勤務を縮減していくという基本的な考え方は労使で共通しています。その上で、組合としては時間外勤務「縮減ありき」が先走りしてしまうことを懸念しています。残業しなければ対応できないほどの業務量を抱えながら、管理職から時間外勤務を容認しない圧力が加われば責任感の強い職員ほど心を痛めてしまう恐れもあります。
時間外勤務縮減の課題に関し、11月16日に開いた団体交渉の中で組合側の問題意識を強く訴えていました。現在、市側が「職員の時間外勤務に関する指針(案)」の策定作業を進めています。指針案では部課長の責務として年間又は月間の組織目標を立てることなどが掲げられ、時間外勤務縮減の取組状況を人事評価への反映を検討するような記述もあります。
内部会議のあり方や調査依頼の簡略化など業務量自体を減らす具体案も掲げられています。それでも全体を通して仕事のあり方や総量に大きな変化がないまま時間外勤務「縮減ありき」を強いられていくような指針案であることを組合は危惧しています。このような危惧を率直に訴え、11月16日の団体交渉で議論した結果、指針案の取扱いを次のとおり確認していました。
- 労働条件に関わる事項は労使協議し、労使合意がなければ一方的に実施しない。
- 内容や表現についても組合からの意見を取り入れた上、必要に応じて修正をはかる。
今後、指針案の内容に関して協議していくとともに、誰もが「20時に完全退庁できる」職場体制の確立をめざし、必要な部署に必要な人員配置を求めた人員確保・職場改善要求の取り組みに組合は力を注いでいきます。その中で、早急に年間360時間超の時間外勤務を強いられている職員が一人もいなくなることをめざしています。総論的な流れは以上のとおりですが、各論となる時差出勤とフレックスタイム制について少し触れてみます。
東京都は11日、ラッシュ時間帯の混雑を緩和し満員電車を解消するため、計約260の企業や自治体などが時差出勤に集中的に取り組む「時差Biz(ビズ)」のキャンペーンを始めた。期間は25日まで。早朝に臨時電車が運行されるほか、時差出勤した人への特典もある。満員電車の解消は、小池百合子知事が昨年夏の知事選で掲げた公約の一つ。環境相時代に仕掛けた夏の軽装「クールビズ」にちなんで名付けた。
3年後に迫った東京五輪・パラリンピックの期間中、都心の混雑を緩和する狙いもあり、来年度以降も実施予定という。東急電鉄は田園都市線(渋谷―中央林間)で平日午前6時台に臨時特急「時差Bizライナー」を21日まで運転。東京メトロも午前6時台に増発する。都営地下鉄では平日、早朝やラッシュ後の時間帯に都庁前駅などで専用端末にIC定期券をかざすと、ポイントが付与され、抽選で景品が当たる。参加企業や自治体はフレックスタイム制や、出勤せずに自宅などで働くテレワークを推進する。【日本経済新聞2017年7月11日】
上記報道のとおり小池都知事が推奨する「時差Biz」、つまり時差出勤は主に満員電車解消のために打ち出されています。私どもの市では紹介した「職員の時間外勤務に関する指針(案)」の中に時差勤務制度のことが盛り込まれ、時間外勤務縮減策の一つとして検討しています。導入する目的は「柔軟な勤務時間の設定を可能とすることにより時間外勤務の縮減を図り、職員の健康を保持してワーク・ライフ・バランスを推進する」としています。
所定の勤務時間外に会議、住民説明会、工事立ち合い、作業、啓発活動等の業務がある場合、所属長の許可を得た上で時差勤務できるような制度案が想定されています。恒常的な業務に対応したものではなく、あくまでも臨時的な業務に当たる際、時差勤務を利用できるような制度を検討しています。実施に移す際は上記の確認のとおり労使協議した上、労使合意を前提としているため、組合執行部内での議論を始めています。
やはり業務の総量自体が多い職場では、なかなか時差勤務制度は利用できないのだろうと見ています。それにも関わらず、時間外勤務「縮減ありき」で時差勤務しなければならないような雰囲気が強まってしまうと、ますます密度の濃い仕事に追われることになります。時差勤務したため、職場で手が回らない仕事を自宅に持ち帰るようなサービス残業につながる恐れもあります。
また、仕事量からすれば時差勤務制度を利用しやすい職場でも、時間外勤務手当を減らすことが主目的となり、強要されていくことも望ましい話ではありません。夜に会議を控え、午前中はゆっくり休みたい場合、有給休暇を取得すれば済む話です。このような点を危惧する意見が執行委員会の中では示されていますが、市当局側の案は「本人の申出によって利用できる」という選択制を基本に考えているようです。
あくまでも利用するかどうかは本人の選択とし、時差勤務を一律に強要されないのであれば特に問題ないという見方ができます。有給休暇の残日数の少ない職員にとっては選択の幅が広がったと肯定的にとらえることもできます。ただ執行委員会の中では「建前はそうでも…」という慎重な意見も示されています。いずれにしても今後、職場委員会を通して組合員の皆さんに時差勤務制度実施の是非を諮っていくことになります。
続いて、フレックスタイム制についてです。駅前にある窓口サービスセンターをはじめ、図書館や保育園では早番や遅番などのローテーションによる変則的な勤務時間の職場となっています。職員それぞれの出勤時間や退勤時間が異なるという点ではフレックスタイム制に近いものがあります。しかし、フレックスタイム制はコアタイム(必ず勤務しなければいけない時間帯)以外、出勤時間や退勤時間を本人の自由意思で決めることができるため、あらかじめ出退勤の時間が定められている当番職場とは大きく異なります。
なお、私どもの市でフレックスタイム制の導入が検討されている訳ではありません。時差勤務制度の話が取り上げられた際、子育て世代を中心にフレックスタイム制の導入が切望されているという声を耳にしたため、フレックスタイム制のメリット・デメリットを調べてみました。リンク先の内容を紹介しますが、フレックスタイム制は従業員個々の自主性に委ねる部分が大きく、以下のようなメリット・デメリットが考えられます。
《メリット》
・勤務時間をずらすことで、通勤ラッシュを避けることができる。
・個人が効率的に時間配分を行なうことで、残業の軽減につながる。
・働き方に自由性があるため、優秀な人材の採用や定着の向上につながる。
・節電対策の一つとして利用できる。
《デメリット》
・取引会社や他部門との連携を行なうときに、時間の設定が難しくなるため、現実には導入できる職種が限られやすい。
・自己管理ができない従業員が多い場合は、フレックスタイム制は時間に対してルーズさが許されるものと勘違いされやすい。
勤務時間帯そのものが窓口や電話を受け付ける時間帯という職場が大半であり、市役所の業務の中でフレックスタイム制を取り入れられる職場は極めて限られるものと見ています。上記のデメリット以外に導入した職場とそれ以外の職場間での不公平感も指摘されています。「フレックスタイム制が好評なのに廃止へ向かう理由」というサイトでは、メンバーの出社時間がまちまちであるため、「チーム全体の会議の設定さえ調整が困難。チームをまとめることが簡単ではない」という難点が掲げられています。
さらに「近年では様々なコミュニケーションツールが普及して便利になっているとはいえ、やはり顔を見ながら業務を行ったり、意見交換することが重要なのは変わりありません。顔を見合わせチームワークで動くことによって新たなアイデアが生まれたり、お互いへの信頼感が芽生えるからです。もしチームワークが必要な業務を個別で行っていたら、効率が落ちる可能性もあります」という声が紹介されていますが、私自身もフレックスタイム制の導入は組織としての一体感を損ねる懸念を抱いています。
子育て世代に対するフォローとして考えるのであれば、育児時間や子どもの看護休暇の拡充の検討などを先行させるべきなのではないでしょうか。もしくは子育て世代を対象としたフレックスタイム制の導入という方向性もあり得るのかも知れません。いずれにしても長時間労働を強いられる職場だった場合、フレックスタイム制や時差勤務制度があったとしても絵に描いた餅になるだけだろうと思っています。
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