2017年末、気ままに雑談放談
今年も残りわずかです。このブログは毎週1回、週末に更新しています。そのようなペースの中で年末年始だけは少し変則となり、元旦に年賀状バージョンの記事を投稿してきました。そのため、今回が2017年最後の記事となります。その年の最後の記事は「年末の話、インデックスⅡ」があるとおり1年間を締め括るような内容を綴る時も少なくありません。
今回、そのような内容にあたっていくのかどうか分かりませんが、「2010年末、気ままに雑談放談」と同じようなタイトルを付け、雑多な話題を気の向くまま書き進めさせていただくつもりです。そもそも「雑談放談」はブログのサブタイトルに掲げています。「雑談」は様々なことを気楽に話し合うこと、「放談」は言いたいことを自由に語ること、このように電子辞書には記されています。
したがって、「雑談」の前に「気ままに」という言葉を置くのは余計なのかも知れませんが、語感や字句の並びから、あえて添えていました。このような調子で「気ままに」書き進めていきますので、お時間等が許される場合は「気ままに」お付き合いください。まず最近読み終えた『R帝国』という書籍について触れてみようと思います。
読売新聞の夕刊に連載されていた小説が書籍化されたものです。自宅に届けられる新聞は読売ですが、連載小説に目を通すことはないため、平積みされていた書店で見かけるまで『R帝国』のことは頭にありませんでした。書籍の帯に掲げられた「独裁政権の恐怖を描く驚愕の物語」という文章に興味が沸き、購入してから数日で読み終えていました。
トランプ政権の誕生あたりからアメリカでは、オーウェルの『一九八四年』が再評価され、その機運は日本にも飛び火した。不可視の絶対君主〈ビッグ・ブラザー〉による徹底された情報統制と史実の改竄は、今日の日本の言論空間をどこかほうふつさせる。フィクションの力でもって、読む者に危機感をもたらすのがディストピア小説だとすれば、『R帝国』もその流れを汲む近未来SFだ。
物語は島国の「R帝国」が開戦した日から始まる。絶対権力の「党」が支配するこの国では、国民は批判的な意見を表明するなり張り巡らされた集音装置により検挙され、しばしば謀反者は公開処刑される。人々は、高度な人工知能を搭載した「HP(エイチピー)」と呼ばれる端末から情報を得ており、その管理もまた「党」の得意とするところだ。
戦争には自衛という大義名分が必要だが、この戦争は何かがおかしい――。二人の男が、政府の欺瞞と真の目的に気づく。一人は会社員の矢崎。もう一人は形骸化した野党の幹部議員の秘書である栗原だ。それぞれ、女性兵士アルファ、秘密組織のサキと出会うことで、巨大な相手に無謀な戦いを挑むはめになる。
恐ろしいのは、二人の必死の奮闘をあざ笑うような「党」の余裕である。人々の行動原理や深層心理を知悉する彼らは、例えば人口の八割に及ぶ貧困層の不満が上でなく、最下層の移民に向くよう情報をコントロールする。団結ではなくあくまで分断へ。さらには薬物投与によってつらい過去の記憶を抹消した従順な市民としての第二の人生まで、提案してみせるのだ。矢崎は言う。「僕は自分のままで、……自分の信念のままで、大切な記憶を抱えながら生涯を終えます。それが僕の……プライドです」
果たして、不都合な過去や真実を隠蔽する見せかけ上の安寧は、国民をどこに先導するのか。大義よりも「半径5メートルの幸福」に固執し、「真実」から目をそらし続ける大衆、その集団的な認知バイアスこそが、悪夢的な全体主義をさらに後押しするのだと、読者は気づかされるだろう。最も手ごわい敵は、結局人間の本能に組み込まれた、恐怖心と暴力性なのだ。
本書はいわば、ヒーローなき戦争小説である。作中、『ルワンダ虐殺』や『沖縄戦』という架空の国の物語がネット上のバグとして現れるのだが、統治者の一人は「向こうの方が現実で、我々の方が現実じゃない可能性だってあるじゃないか」と言う。裏返せば、SFにみえる本書に現実が潜んでいるのかも。著者の警鐘にしばし耳を傾けられたし。【評者:江南亜美子(週刊文春 2017.10.05号掲載)】
ネタバレ等には注意しなければなりませんので、リンクしたamazonのサイトに掲げられていたレビューをそのまま紹介しました。私自身、読み進めている途中、朝日や毎日、東京新聞でもなく、この内容の連載が読売新聞だったという点に不思議な気持ちを抱いていました。登場人物が「いざという時、お前たちの国は、個人を見捨てる傾向がある」と主人公の一人に訴えかける場面があります。
別な場面では架空の物語として『沖縄戦』が語られる場面があり、「通常、人類が目指す平和とは、自国民の命が戦争で死なない状態を指す。だが日本は自国民の命などはっきり言って関係なかった。目的は“勝つ”。それだけだった」と説明していました。読み進めれば進めるほど作者の歴史認識や問題意識がヒシヒシと伝わってきました。小説という媒体を使いながら現政権の思考傾向や政治手法などを直情的に批判している様子が窺えました。
作者の中村文則さんは「作家として覚悟を持って書いた」と語り、「政治や戦争など、かなり深く社会的な問題に切り込んでいますよね。今回このような内容で書こうと思ったのはどうしてですか?」と問われた際、中村さんは「それはやっぱり、現在が右傾化しているという危機感があるからです。フェイクニュースであるとか、メディアの委縮、ネット上の差別などがものすごく広がっているなかで、作家として何ができるだろうと考えて、こういう小説になりました」と答えています。
リンクをはった先のサイトに掲げられているインタビューの中で、中村さんは「実際、作家として小説に政治的なことを書いても何もメリットはない。もっとパーソナルなことの方が安全だし荒波も立たない」と述べながらも、「作家という職業をやっている以上、何も感じないのであればもちろんそのままでいいのですが、もし社会に危機を感じてしまったなら、それを書かなければ読者に対して誠実ではないのではないかと考えています」と答えられています。
さらに「歴史には、後戻りの効かなくなるノーリターンポイントがあり、そのポイントを過ぎると、もう何を言っても流れるように歴史が動き止められなくなる。言葉も、人の内面に届かなくなっていく。全体主義の空気はその性質上、後にあらゆる文化も抑圧するようになることは歴史が証明している。作家としては、そうなる前に抵抗することがむしろ自然だと思っています」と中村さんは語られていました。
このような危機意識自体を思い込みや妄想だと批判される方も多いはずです。実際、政権批判を暗喩した『R帝国』が平積みされ、『週刊金曜日』や『LITERA』など立場を鮮明にした言論空間があります。とは言え、マスメディアは政権の意向を忖度しがちな傾向があり、直接的な政権批判の言葉を発する出演者は敬遠されていきがちです。政治的な言葉を発しないほうが「荒波も立たない」という意味で、先週日曜夜に放送された『THE MANZAI 2017』に登場したウーマンラッシュアワーの漫才が強烈なインパクトを与えていました。
「漫才」にはったリンク先で実際の動画を視聴できますが、原発や沖縄の基地問題を漫才のネタにしたスピード感あふれる掛け合いは圧巻でした。アメリカと日本の関係では「現在アメリカといちばん仲がいい国は?」「日本」、「その仲がいい国は何をしてくれる?」「たくさんミサイルを買ってくれる」、「あとは?」「たくさん戦闘機を買ってくれる」、「あとは?」「たくさん軍艦を買ってくれる」、「それはもう仲がいい国ではなくて──」「都合のいい国!!!」というようなネタが展開されていきます。
最後は「現在日本が抱えている問題は?」「被災地の復興問題」、「あとは?」「原発問題」、「あとは?」「沖縄の基地問題」、「あとは?」「北朝鮮のミサイル問題」、「でも結局ニュースになっているのは?」「議員の暴言」、「あとは?」「議員の不倫」、「あとは?」「芸能人の不倫」、「それはほんとうに大事なニュースか?」「いや表面的な問題」、「でもなぜそれがニュースになる?」「数字が取れるから」、「なぜ数字が取れる?」「それを見たい人がたくさんいるから」、「だからほんとうに危機を感じないといけないのは?」「被災地の問題よりも」「原発問題よりも」「基地の問題よりも」「北朝鮮問題よりも」「国民の意識の低さ!!!」と結んでいます。
先ほど紹介した『LITERA』では「ウーマンラッシュアワーが『THE MANZAI』で怒涛の政治批判連発」という記事を投稿し、共産党の志位委員長も「凄い才能だ。笑いこそ、政治風刺の最大の武器だ」と絶賛していました。このような反応に対し、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんは冷静に自分自身の立ち位置を表明しています。「やっとこういう芸人が出てきた」「爆笑しながら泣きそうになった」「漫才じゃない」「漫才に政治観を出すな」など賛否両論が飛び交う中、取材を受けた村本さんは「ネタへの思い」を次のように語っています。
僕は沖縄の基地について、賛成も反対も言っていない。考えようと言っている。右も左もなく、自分のスタンスを持って、相手を尊重しつつ発言していけばいい。論破なんていう言葉は、議論が未成熟なこの国ならではの言葉。ビルって1人じゃつくれないじゃないですか。色んな人の力が合わさってビルができる。議論もそう。論破ってそれを壊すじゃないですか。ずっとビル建たないままですよ。正解だとか間違っているとか、ど~でもいいんです。僕はいつも自由に発言する。テレビがなくなっても、ラジオもネットもなくなっても、口と頭はあるわけですよ。誰にも制限されることはないですからね。言いたいことを言うだけですよ。それを伝えるのにエンターテインメントですよね。
大切なことは相手を尊重しつつ語り合うこと、本当にその通りだと思っています。唯一無二の正解は容易に見出せません。だからこそ偏らず、幅広い情報に接しながら皆で考えていくことが重要であるはずです。マイナーな場ですが、このブログもニッチな情報を提供する役割を引き続き負っていければと考えています。その上で私自身の主張も、あくまでも「答え」の一つに過ぎないことを自覚しながら当ブロクに向き合っていくつもりです。
最後に、この一年間、多くの皆さんに当ブログを訪れていただきました。本当にありがとうございました。どうぞ来年もよろしくお願いします。なお、冒頭にも記しましたが、次回の更新は例年通り元旦を予定しています。ぜひ、お時間等が許されるようであれば、早々にご覧いただければ誠に幸いです。それでは少し早いようですが、良いお年をお迎えください。
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コメント
脱原発運動に肩入れする一方で、連合の一員として電力総連や東京電力労組と関わり続ける二枚舌姿勢は誰からも信用されませんよ
立川市議会に民主党所属の現職東電社員の市議がいたことをどう考えるんですか?
地区協で自治労がNGしてれば、彼は公認得られなかったはずですよ
こう書くと多様な意見を尊重しているとか逃げを打つんでしょうが、あなたはどちらにもいい顔したいただの蝙蝠で嘘吐きです
投稿: いったいどの口で | 2017年12月25日 (月) 07時34分
>あなたはどちらにもいい顔したいただの蝙蝠で嘘吐きです
冷戦時代ならともかく、現代は完全に〇か×であったり
絶対賛成や絶対反対のように綺麗に二分することばかり
ではないのでしょう。
ただ単に悪口を言いたいだけなら、ここではなくいくらでも
ふさわしい掲示板があるからそちらでどうぞ。
投稿: nagi | 2017年12月25日 (月) 09時11分
今回の記事はなかなか感じ入る部分が多いですね。
特に村本さんの漫才に乗っかる方々がまとめて彼に斬り
捨てられたのは面白かったですね。彼は無関心な国民や
マスコミに対して風刺したにすぎません。それを理解でき
ずに乗った共産党やリテラは恥ずかしい。
記事で紹介のある「R帝国」ですが、これのプレビューを
見て、どの国のことを想像するかは人によりことなるで
しょう。平和主義者の方は、これを今の日本や安倍政権の
ことに繋げたいのでしょうし、作者もそうかもしれません。
しかし、近隣に一党独裁で政府を非難する書き込みは即座
に削除され、身柄を拘束され、厳重な監視社会が構築され
つつある。それらの国比べて、テレビも新聞も週刊誌も問題
なく政権や政府の批判をできる。「R帝国」の内容を読んで
想像するのは日本の未来か近隣国の現在かどちらなので
しょうか。
今年一年で、いろいろなシーンを見ました。平和活動されて
る方が主張するいろんな内容が、私にはどうも日本にピント
があわない、不幸にして近隣国の現状にあってしまうことが
多く、それが現実感の喪失につながってると思いますね。
とても日本が戦争の危機を煽ってるように見えませんし、
原発もアジア圏だけでも新設が続いている。
平和活動家にとって重要な論点は、日本の現状にフィット
させるかどうかでしょう。北朝鮮がミサイルを発射し、挑発
発言を繰り返している以上、日本が危機を煽ってると主張
しても、ほとんでの人には理解できません。そのあたりを
理解してギャップを埋めることができなければますます
内向きの運動となるでしょうね。
投稿: nagi | 2017年12月25日 (月) 09時33分
いったいどの口でさん、nagiさん、コメントありがとうございました。
いったいどの口でさんのような立場から同様な論調の批判を受ける時があります。そのような批判が示されてしまうこと自体、今回の記事本文に綴ったとおり私自身の主張も、あくまでも「答え」の一つに過ぎないことを自覚しながら当ブロクに向き合っていくつもりです。
ただ「大切なことは相手を尊重しつつ語り合うこと」という訴えを添えた今回の記事に対し、そのような批判コメントが寄せられてしまうことに残念な気持ちも強めています。さらに連合や産別単組の推薦のあり方について正確に理解していない中での批判意見にも違和感を持たざるを得ません。
付け加えれば「二枚舌姿勢は誰からも信用されませんよ」「あなたはどちらにもいい顔したいただの蝙蝠で嘘吐きです」という批判の仕方はnagiさんが指摘されているとおりであり、立場や考え方が異なる方々に届きづらくなる言葉だと思っています。
いったいどの口でさんの主張を広く賛同や理解を得ていたくためには老婆心ながら今回のような批判の仕方は有益だとは思えません。この点は前述したとおり私自身が正しいと考えている「答え」の一つに過ぎず、決して押し付ける意図はありませんが、今後の参考にしていただければ幸いです。
投稿: OTSU | 2017年12月31日 (日) 06時59分