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2017年11月26日 (日)

査定昇給を巡る労使協議

個人の責任で運営している個人的なブログとは言え、組合の公式ホームページの立ち上げが難しく、その代替的な役割をめざしたスタートであることを「秋、あれから10年2か月」などの記事を通して説明しています。そのため、組合の活動を身近に感じてもらうことも当ブログを開設した目的の一つでした。

ただ最近は前回記事「ファクトチェックの大切さ」の冒頭にも記したとおりブログで取り上げる題材に対し、実際の組合活動の中で占める割合が正比例していません。このような現状の説明が充分伝え切れていない場合、職場課題よりも政治的な活動に力を注いでいる組合であるような印象を与えていることになります。

このような点を踏まえ、今回、直近の職場課題として大詰めの労使協議を重ねている人事評価制度について取り上げます。これまで「人事評価の話、インデックス」があるとおり人事評価制度の問題を扱った記事は少なくありません。今回の記事では改めて人事評価制度を巡る労使協議の経緯や組合の考え方などを伝えた上、直近の状況を報告させていただきます。

これまでの経緯について

まず基本的な話ですが、労働組合は人事に関与できず、人事そのものは当局側の責任事項です。一方で、賃金水準に直結する人事や給与の制度面の問題は労使協議の対象としています。これまで組合は公務の中で個々人の業績評価は取り入れにくい点などを訴え、人事評価制度の導入に慎重な立場で労使協議に臨んできました。

組合は制度協議を進める上で「公平・ 公正性、透明性、客観性、納得性」の4原則、「労働組合の関与、苦情解決制度の構築」という2要件の確保を方針化しています。このような方針を踏まえ、組合員から懸念される声を受けとめながら労使協議を精力的に重ねてきました。評価結果に基づく処遇への反映が大きければ大きいほど、よりいっそう働く意欲が高まるという考え方もあります。一方で、人事評価制度の導入によって、多くの職員の士気を低下させるようであれば本末転倒な話です。

万が一、評価を気にし、上司に対して言うべきことを控えるような職場の雰囲気につながることも論外です。一人ひとりのやる気を高め、組織そのものが活性化するような制度の構築をめざしていかなければなりません。人事評価制度はベストと言い切れるものを簡単に見出せません。いろいろ試行錯誤を繰り返しながらベターな選択を模索していくことになります。最も重要な点は、どのような役職や職種の職員も職務に対する誇りと責任を自覚でき、常にモチベーションを高めていけるような人事評価制度が欠かないものと考えています。

このような考え方のもとに試行を積み重ね、部長職から段階的に人事考課制度の本格実施の対象を広げてきました。そのような労使協議を重ねていた中、2014年の地方公務員法の一部改正に伴い、それまでの勤務評定に代わり、一般職員全員を対象に人事評価制度を実施することが義務付けられました。業績評価の結果を勤勉手当の成績率に反映し、能力評価の結果を査定昇給に反映させることが新たな人事評価制度の柱とされました。

労使協議の前提としてきた法的な位置付けが変わったため、2015年6月11日に団体交渉を開きました。その中で、人事評価制度の枠組み等については従来通り労使協議事項であることを改めて確認した上、2016年度からの実施に向けて労使協議に入ることを合意しました。合意した後、それまで試行してきた人事考課制度の検証や給与等への反映のあり方などを労使で協議を続けてきました。

労使協議を重ねた結果、2015年12月24日の団体交渉で、全職員を対象に2016年度から本格実施し、2016年度の結果を2017年度の勤勉手当に反映させることを合意しました。ちなみに現行制度では嘱託職員は特別職に位置付けられるため、人事評価制度の対象とされていません。なお、2018年度から査定昇給も実施したいという意向を人事当局側は強く示していました。それに対し、生涯賃金に直結する査定昇給は、より慎重に判断すべきという主張を組合側が強く訴え、査定昇給の実施時期は継続協議の扱いとしました。

2016年度から人事評価制度が本格的に実施され、今年6月の一時金(勤勉手当)の額に個々人の業績評価の結果が反映されました。現時点まで異議申し立てはありませんが、支給後に人事当局が実施したアンケートでは自分の評価結果に3割近くの職員が不満を持っていました。一方で、人事評価制度自体は容認する声が大半でした。しかし、あくまでも勤勉手当に反映させる制度に対するアンケート結果だと見込まれるため、今後の査定昇給の導入に関しては引き続き慎重な判断が求められていました。

労使協議における論点

以上のような経緯のもとに査定昇給の取扱いを判断していく局面を迎えていました。11月16日夜の団体交渉で査定昇給の取扱いに関し、労使それぞれの考え方をぶつけ合いました。その交渉の中で、すべてやり取りした訳ではありませんが、補足説明を加えながら労使協議における論点を整理してみます。

まず人事当局は「来年度から必ず査定昇給も実施しなければならない」と強く主張しています。地方公務員法第23条の3で「人事評価の結果に応じた措置を講じなければならない」と定められ、総務省の「地方公共団体における人事評価制度に関する研究会」の報告書で「人事評価制度を導入しながら昇給に反映せず、一律昇給を続けることは避けなければならない」と記されているからです。

それに対し、すでに業績評価を本格運用しているため、まったく人事評価制度を実施していない訳ではありません。さらに今後も査定昇給は不要だという立場であれば、法的な問題が問われる可能性もあります。急がなければならない理由として人事当局は、以前、住民が宝塚市を相手に「勤務評定を行なわず勤勉手当支給や普通昇給させたことは違法である」という訴訟を起こした事例をあげています。神戸地裁と大阪高裁で争われた結果、それぞれ住民側の訴えが棄却されています。

様々な判決の要点がありましたが、裁判所は「人事評価システムを段階的に導入しようとしており、将来、この人事評価の結果が勤勉手当や普通昇給に反映されることが期待できる状況であるといえること」という理由も示していました。急ぐべき理由としている裁判事例からも、このような見方ができることを組合は指摘し、より望ましい本格運用に向け、労使でしっかり協議していくことの必要性を訴えています。

組合は業績評価の目標に対する難易度の差などを疑問視していました。それでもアンケート結果等を踏まえ、業績評価を勤勉手当に反映させる制度の運用方法等の見直しは考えていません。査定昇給に関しては、本格運用が前提でなかった今年度の評価結果をもとに来年度から実施される場合の不合理さを懸念しています。しかしながら納得性の高い評価制度を労使合意できるのであれば来年度からの本格運用を受けて入れていく考えです。

査定昇給の本格運用にあたり、組合は人材育成面や組織として仕事を進めることを重視し、組合は職員間の過度な競争を助長しない仕組みが望ましいものと考えています。そのため、相対評価ではなく、絶対評価としていく点は合意しています。その上で、一人ひとりのやる気を損ねず、組織そのものを活性化させていくため、どのような制度が必要なのか、評価結果によって職員間に過剰な格差を生じさせる制度の是非などを問題提起しています。

現状は基本的に全員が年に1回4号給昇給しています。市職員として採用された時点で一定の能力評価は受けているという前提に今後もB評価(4号給昇給)を基本としていくことが望ましいものと考えています。そのため、組合からはC評価(3号給のみ昇給)以下を極めて例外的なものとするよう訴え、その運用のあり方を最終盤の大きな論点としています。

査定昇給の取扱いを巡って大詰めの局面を迎えている中、11月22日には労使協議会を開きました。昨年度実施している人事評価のうち特に能力評価の結果を分析した上、査定昇給の本格実施に向けた運用方法等について労使で意見を交わしています。週を越えて労使協議は継続し、11月末までの決着に向け、より望ましい実施のあり方を探っています。労使合意に至った場合、組合員の皆さんに対しては組合ニュースや職場委員会を通して詳細を報告していく予定です。

最後に、自治労の関係者以外、今回のような題材はあまり興味が沸かない内容だろうと思っています。それでも冒頭に記したとおり組合の活動を身近に感じてもらうことも目的にしているため、これからも職場課題に関する話も取り上げていくつもりです。1週間に1回のみ更新しているブログであるため、その割合が劇的に変化することはないものと考えていますが、ぜひ、引き続き多くの方々にご訪問いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

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