衆院選が終わり、今、思うこと
前回記事は「衆院選と組合役員選挙」でした。その記事の冒頭で「衆院選の最終盤の情勢も与党が堅調、希望の党が失速、立憲民主党が躍進するという見通しが伝えられています。アンダードック効果の気配はなく、このまま事前調査のとおりの選挙結果が示されるものと見ています」と記していました。やはり結果は事前調査のとおりの議席配分となっていました。
先週日曜の夜、開票が始まり、大勢が判明した後にnagiさんからのコメントに対して一言レスしていました。「個別の政治課題に対する民意と議席数との関係性などいろいろ思うところがあります」と記し、機会があれば記事本文で触れてみようと考えていました。この1週間、衆院選の結果を受けた様々な報道に接し、さっそく今回の記事で個人的な思いを書き進めてみることにしました。
今回の衆院選比例代表で自民、公明両党が獲得したのは計87議席と、定数176の半数に届かなかった。それでも自民党が大勝できたのは、得票率に比べて議席占有率が高くなる小選挙区制の恩恵が大きかったことを裏付けている。自民党の比例代表は66議席。比例定数が2014年の前回衆院選から4減されたこともあって、2議席減らした。ただ、得票率は前回(33.1%)と同水準の33.3%で、堅調な戦いぶりだった。【毎日新聞2017年10月24日】
毎日新聞の上記記事の見出しは「比例代表 自公87、半数届かず 小選挙区の恩恵」でした。同じように議席数と得票率の絡みを報道した朝日新聞は「自民の大勝、小選挙区制が後押し 得票率は48%」という見出しを掲げていました。それぞれの社の立ち位置がよく分かる見出しの付け方だろうと思っています。選挙制度が異なっていた場合、それほど自民党は勝っていないということを強調しています。
内閣支持率は依然不支持率を下回っている傾向が続いています。この点だけでも確かに与党が3分の2を占める議席数にアンマッチ感は拭えません。しかし、選挙制度自体は各政党に対し、公平・公正なものであり、今さら強く批判できるものではありません。そもそも小選挙区制導入の際、懸念された点だったはずです。それでも比例代表制を取り入れた結果、かろうじて3分の2程度にとどめられているという見方もできます。
小選挙区制の利点は民意が反映しやすいことです。二大政党制に向かい、政党本位での選挙戦となり、政権交代が起こりやすくなると言われています。国民からの信頼を損ね続けた場合、すぐ政権の座を追われるという与党側の緊張感が、より望ましい政治に高められていくことを理想視した選挙制度だと理解しています。ただ残念ながら現状は理想から程遠い姿になっているように思えてなりません。
あっしまった!さんから前回記事のコメント欄に多くのご意見をお寄せいただきました。「現政権の継続が bad だとすると、今の野党が政権に就くのは worst だったと思う」という言葉が最も印象深く、私自身の思いと交錯する点がありました。今すぐ政権を託せる野党が存在しているのかどうかという問題です。最近の記事「衆院選公示前、今、思うこと」の中で、民主党が政権交代を果たした後、いくつか混乱した事例が思い浮かんでいることを記していました。
その上で、鳩山政権の時に投稿した「約束を踏まえた先に広がる可能性」という記事中の一文を紹介しました。「基本的に約束は守ることが必要、しかし、守れなくなった場合、約束を踏まえた上で相手方と話し合っていくことが求められています。様々な約束を無視し、一方的な判断で物事を押し進めていった場合、根深い不信や軋轢が生じかねません。一時的なスピード感はあるのかも知れませんが、対立や混乱が続いた場合、結果として大きな遠回りになるのではないでしょうか」という問題意識です。
民主党の反省点は他にも多数あるものと思いますが、約束を踏まえるという問題意識に沿って論評しています。小池都知事の「しがらみのない政治の実現」という言葉には、それまでの約束や経緯を一方的に破棄していくような響きを感じ取りがちです。結果的に希望の党は政権与党を脅かすような対抗馬になれないまま衆院選に挑むことになっていました。前回記事の冒頭に記したとおり小池都知事の「排除いたします」という言葉が潮目を変えたと言われていますが、単なる言葉の問題ではなかったものと見ています。
希望の党の政策的な間口の狭さを明らかにし、安全保障面では基本的な立ち位置が自民党と変わらないことを表明した一連の顛末だったものと思っています。そもそも「衆院解散、対立軸の明確化を切望」の中で記していたとおり2年前に成立した安保関連法は違憲の疑いがあるため、見直しが必要という判断は民進党全体で決めていた方針です。このような経緯がある中、現行の安保関連法を認めるかどうかという「踏み絵」であれば民進党議員の合流を初めから拒んでいることと同然でした。
最終的な政策協定書の文言は「現下の厳しい国際情勢に鑑み、現行の安全保障法制については、憲法に則り適切に運用する。その上で不断の見直しを行い、現実的な安全保障政策を支持する」というものでした。それまでの民進党の方針を踏まえ、ある程度幅のある内容に改められていました。最終決定前の段階で政策協定書の素案や排除リストが伝えられるなど情報は錯綜し、小池都知事の「排除いたします」という言葉と相まって希望の党の印象は低下していったように思っています。
もし希望の党が民進党との合流を大きなプラス面とし、小池都知事に対する期待感が失速していなかった場合、都議選の時と同様に「希望」という看板が付いているだけで当選者を上積みさせていたのかも知れません。それこそ自民党対希望の党という選択肢が各選挙区で主流を占めていたら一気に政権交代に至っていた可能性もあります。しかし、そのような結果が果たして望ましいものだったのかどうか分かりません。
政治家としての実績や資質が未知数の新人議員を数多く輩出することにつながり、明らかに準備不足の希望の党に政権を託すことになりました。民主党政権を経験した議員も多数であるため、前回の失敗を教訓化しながら大きな混乱を生じさせない政権運営に務められる可能性があることも否定しません。それでも希望の党の最高責任者である小池都知事のリーダーとしての資質を不安視していたため、希望の党が身の丈以上の支持を集めなかったことに安堵している思いもあります。
久しぶりに『週刊新潮』を購入しました。『これで「小池百合子」は終わったのか』という特集記事が気になったからです。「小池さんの指示に従ってマニフェストを書くと、矛盾点が出てきた。それを指摘すると“私の言うとおりやってればいいのよ!”と叱られた」という話が紹介され、「リーダーシップは必要だが、人の言うことを聞くのも必要である」という当たり前な指摘が添えられていました。このような小池都知事の独善ぶりを示す話が3頁にわたって掲げられていました。
希望の党の小池百合子代表(東京都知事)は23日、出張先のパリで国際会議のイベントに出席し、厳しい結果に終わった衆院選について「都知事に当選し都議選でパーフェクトな戦いをし(女性の進出を阻む)『ガラスの天井』を破ったかなと思ったが、『鉄の天井』があることを改めて知った」と話した。自身の責任に関しては記者団に「党を固めていく中で代表を退くのはかえって無責任だと思う」と述べ、代表職を続投する意向を改めて示した。【日本経済新聞2017年10月23日
上記の報道に接し、たいへん驚きました。希望の党の敗因は「女性の進出を阻む」という問題と無関係だったように思っています。今回、大敗した原因は男性、女性問わず、小池都知事自身の政治的な判断や戦略上のミスが重なった結果だろうと見ています。それにも関わらず「鉄の天井」という言葉を使ったことに違和感を抱いていました。ここまで小池都知事を批判するような内容が長くなりましたが、部外者として率直な思いを記しています。仮に同じ組織の一員だった場合、TPOをわきまえた発言に心がけなければならないことは自覚しているつもりです。
もしかすると今回の記事は政権交代しなくて良かった、そのように読み取れる内容になっているかも知れませんが、安倍政権に対する私自身の立ち位置は過去の記事に綴ってきたとおりです。したがって、明確な対立軸を打ち出しながらも幅広い支持を得られる可能性を秘めている立憲民主党、枝野代表の今後のよりいっそうの奮闘に期待しているところです。まだまだ書き足したい話が多くありますが、最後に、安倍首相らが「謙虚さ」を強調していながら、その言葉とは裏腹な自民党の動きを紹介させていただきます。
政府・自民党は27日、衆院での与野党の質問時間の配分を見直す方向で調整に入った。議席割合より多い野党の質問時間を減らすことを検討している。今後、与野党で協議して配分を決める。議院内閣制をとる日本では政府と与党は一体化しやすく、野党の質問時間が減れば国会の行政監視機能が弱まることが懸念される。衆院予算委員会は現在、与党2割、野党8割の割合で質問時間が配分されている。割合は変動するが、野党に多くの時間を配分することを慣例としてきた。
法案について与党は国会提出前に政府から説明を受け、了承しているためだ。しかし、衆院選で自民党が大勝したことを受け、自民党内で質問時間の配分を見直す案が浮上。萩生田光一・幹事長代行によると、安倍晋三首相(自民党総裁)は27日、首相官邸で萩生田氏に「これだけの民意を頂いた。我々(自民党)の発言内容にも国民が注目しているので、機会をきちんと確保していこう」と指示したという。菅義偉官房長官も同日の記者会見で「議席数に応じた質問時間の配分を行うべきだという主張は国民からすればもっともな意見だ」と述べた。【朝日新聞2017年10月28日】
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