何が正しいのか、どの選択肢が正しいのか
このブログの記事本文は週に1回、土曜か日曜に更新しています。お寄せいただいたコメントへの返信も土曜か日曜に限って対応しています。時々、週末を待たずにお答えしたほうが良いような気になるコメントが見受けられます。それでも実生活に過度な負担をかけないためのマイ・ルールとは言え、決めたことは守ろうという判断が勝ってしまい、コメント欄に即応できないことを改めてご理解ご容赦ください。
今回の記事も前回記事「改めて平和フォーラムについて」に寄せられたコメントを念頭に置き、時事の話題や具体的な選択肢となり得る事例を紹介しながら私自身の問題意識を補足させていただくつもりです。書き始める際、取り上げたい内容や取り上げなければならない話など、いろいろ頭の中で錯綜しています。論点が広がり過ぎて散漫な内容にしないため、まず記事タイトルを「何が正しいのか、どの選択肢が正しいのか」としてみました。
この言葉は前回記事の最後のほうに記した「平和を築くため、誰が正しいのかではなく、何が正しいのか、どの選択肢が正しいのかという判断を積み重ねていくことの大切さに思いをはせています」という問題意識を表わしたものです。「誰が」は安倍首相、民進党、平和フォーラムなど様々な人物や組織を当てはめることができます。私自身、このような問題意識を強く心がけるように努めています。
昨年9月に「『総理』を読み終えて」という記事を投稿していましたが、その中で次のような趣旨の言葉を残していました。このブログでも安倍首相に対する批判記事が結果的に多くなっていますが、「批判ありき」ではなく、具体的な言動に対して私自身の意見や感想を綴ってきているつもりです。安倍首相が「国民を豊かにするため」「平和を守るため」という信念のもとに様々な政策判断を重ねているものと信じています。
安倍首相を嫌っている方々からすれば「甘い見方だ」とお叱りを受けるのかも知れませんが、安倍首相の言動すべてを頭から否定していくようでは適切な評価を下しにくくなります。得てして個々人の基本的な考え方や立場性の違いから他者が発している言葉の背景を先入観で推測、もしくは邪推してしまいがちです。やはり適切な評価を下していくためには「誰が」に重きを置かず、その言動や判断は正しいのか、色眼鏡を外して物事を見ていくことが必要だろうと考えています。
最新の時事の話題で言えば安倍首相が訪米し、トランプ大統領と会談しました。テロ阻止を名目にイスラム圏7か国の国民の入国を制限する大統領令について、内外から批判の声が高まっています。内政干渉云々以前の問題として、アメリカの司法も差し止めを認めている通り7か国からの入国を一律に制限する大統領令は問題だと思っています。そのようなタイミングで、日米首脳会談を持ったこと自体に賛否が分かれています。
私自身、大きなリスクが伴う可能性を覚悟した上、日米首脳会談を急いだ安倍首相の判断を批判するつもりはありません。今後、会談したことによる成果や影響は日を追って明らかになっていくはずです。その結果責任は安倍首相が負うことになりますが、首脳同士が信頼関係を高めていくために直接相対する機会を持つこと自体、私自身は肯定的にとらえています。
その意味でG7を分断という見られ方に反しながら安倍首相がロシアのプーチン大統領と会談を重ねていることも評価しています。ただ安倍首相は昨年7月のアジア欧州会議(ASEM)首脳会議において自らの言葉で「法の支配を重視し、力による一方的な現状変更を認めない」と中国の動きを意識した演説を行なっています。それにも関わらず、ウクライナからクリミア半島を強制編入したロシアのプーチン大統領に対し、安倍首相が直接いさめたという話は聞こえてきません。
もちろん北方領土問題の解決に向け、緻密で大局的な思惑があっての対応なのかも知れません。それでは、なぜ、中国との関係では原則的な強硬姿勢のみが際立ってしまうのでしょうか。安倍首相が「地球儀を俯瞰する外交」と称し、世界各国を精力的に外遊し、経済的な支援を広げていく目的も中国を意識したものが目立っています。尖閣諸島の問題など喫緊の脅威があるため、当たり前なことであり、安倍首相の行動を支持される方も多いのだろうと受けとめています。
そのような中国包囲網を大きな目的として、安倍首相は今回の日米首脳会談に臨んでいたはずです。しかしながら安倍首相とトランプ大統領との間で中国に対する思惑は少し異なっていたようです。日米首脳会談の直前、トランプ大統領と習国家主席は電話会談し、米中対立の先鋭化を避けていました。安倍首相は日米が足並を揃えて強硬路線で中国と対峙したいという思惑だったのかも知れませんが、アメリカ側には過度に中国を刺激しないよう日中のバランスを取ろうとした姿勢がうかがえました。
トランプ大統領は「今、中国と良い関係を築く過程にあり、それは日本の利益にもなるだろう」と発言しています。いずれにしても中国の脅威に対し、武力を整えて対抗すべきという考え方があります。しかし、中国を仮想敵国とし、際限のない防衛力強化に走ることの問題性や限界性も留意していかなければなりません。それこそトランプ大統領の発言の通り中国との関係性が融和されていけば安全保障面の脅威も、財政的な負担も、沖縄の基地問題も緩和されていくことになります。
中国との関係で、そのような話は絵空事だと一喝される方も多いのかも知れません。しかし、かつて仮想敵国としたソ連、現在のロシアとは友好的な関係を築きつつあります。将来、同じような関係性を中国と築ける可能性もゼロではないはずです。ロシアの場合、冷戦が終わったからという見方もありますが、北方領土の問題は無人島である尖閣諸島とは比べられないほどの主権や元島民の皆さんの強い思いがありながらも、対話を土台にした外交関係を築いています。
昨年6月に「『ロンドン狂瀾』を読み終えて」という記事を投稿していました。第1次世界大戦の惨禍を教訓化し、国際的な諸問題を武力によってではなく、話し合いで解決しようという機運が高まり、1930年にロンドン海軍軍縮会議が開かれた話を綴っていました。当時の日本の枢密院においては単に兵力による狭義の国防に対し、軍備だけではなく、国交の親善や民力の充実などを含む広義の国防の必要性を説く側との論戦があったことを紹介していました。
単行本で読み続けている『アルキメデスの大戦』第5巻の中で、満州を巡るいくつかのセリフが目に留まっていました。外務省の官僚が「権益を独占せずに他国にも開放し、米英との協調路線に切り替えるべきだ」と発言する場面があり、陸軍中枢部の軍人が関東軍の暴走を批判し、中国と戦争することを最悪の事態だと憂慮する場面が描かれていました。フィクションですが、これらの場面は史実をもとに描かれているものです。
1937年には通州事件があり、中国兵によって日本人居留民が虐殺されました。このような残虐な事件は「横暴で傲慢な支那人」をいっそう憎む国民感情の高まりに繋がっていきました。「満蒙は日本の生命線」という権益や熱狂した国民の声がある中、中国の抵抗や米英の挑発的な求めに対し、後戻りする判断を誰も下せなくなっていきました。その後の悲惨な結末は申し上げるまでもありません。さらに多くの苦難を乗り越え、生命線だった満蒙を失いながら戦後の日本が経済発展を遂げたことも周知の通りです。
中国、米英との先の戦争は「やむを得なかった」という声を耳にすることがありますが、「正しかった」とまで言い切る方は皆無に近いはずです。ロンドン海軍軍縮条約の時代、政治家も、軍人も、国民の多くも自らが正しいと信じている「答え」をもとに行動し、言葉を発しながら、あのように悲惨な戦争の結末を予想していた方は極めて少数だったのではないでしょうか。満蒙の権益の一部を手放すという考えは異端だったかも知れませんが、いくつかの局面で全面戦争を回避する選択肢があったことも確かだろうと思っています。
歴史は変えられませんが、歴史を教訓化し、未来は変えられます。いずれにしても安倍首相が戦争を望んでいるとは毛頭考えていません。軍備による狭義の国防とともに対話を重視した広義の国防も同列に意識しているのかも知れず、安倍首相の選択肢が正しい結果に繋がっていくことを願っています。それでもトランプ大統領やプーチン大統領と信頼関係を築けるのであれば、習国家主席との信頼関係の構築にも緻密な戦略を立てながら力を尽くして欲しいものと考えています。
前回記事のコメント欄に寄せられたような見方が多いことを念頭に置き、私なりの切り口や言葉で新規記事を書き進めてきたつもりですが、充分理解を得られる内容に至っているのかどうか分かりません。ますます「中国の回し者」のような見られ方をされてしまうのかも知れませんが、外交・安全保障のリアリズムを一切否定している立場ではないことも申し添えさせていただきます。最後に、何が正しいのか、どの選択肢が正しいのか、それぞれの「答え」の正しさを主張し合い、他者の心に響く言葉で競い合っていけることを切望しています。
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コメント
前記事のコメント欄で紹介した、のりこえねっとに関する
動画は現在削除されています。団体のほうから著作権侵害
で警告があったそうです。法律は守らないといけません。
まあネット上でまだあると思います。非常に衝撃的な内容
ですからみなさんご覧ください。堂々と嫌がらせをして
捕まれ、都合の悪いことは映像に映さず偏向すると話して
いますから。昔から有名なやり方ですが、意外と知らない
人も多いようなので念のため。
投稿: nagi | 2017年2月13日 (月) 09時31分
相手がある外交において目覚ましい成果をあげることの
ほうが難しいでしょう。それこそ大国が途上国に膨大な
援助をした上での見返りなら別ですが。
外交はやらないよりやるほうがまし。継続することに
よって得られることもあるでしょう。結果に関する責任は
当然負いますが。それでもたらないよりは良いと判断します。
日頃、話し合いや外交を求める方々がなぜ、安倍総理が
ロシアやトランプ政権との外交に批判的なのかが理解
できません。これが中国や北朝鮮となら賞賛するので
しょうか。
日本は海洋国家であり太平洋を挟んだ米国との関係が重要
なのは戦争前から変わりません。だからこそ現在は過去の
失敗の反省をいかし米国との関係を重視するのではないの
でしょうか。また、ユーラシアの大国、ロシアと中国の
双方と友好関係を結べればよいのですが、そう簡単なもの
でもありません。ならばどちらかと友好関係を進めるのも
選択肢でしょう。ロシアがクリミア併合したことを日本が
諌めるとのことですが、ならば中国に対して、チベット
侵略を諌めるのですか?
どちらも現実的ではないでしょう。侵略には反対で認める
ことはありませんが、自国の利益を優先するのが世界中で
普通にあることだと思われます。欧州では目先の危機でも
日本には遠いことです。かわりに尖閣諸島は日本の目先の
問題ですが、欧州では遠い他人事でしょう。
だからこそ日本がロシアと距離を狭めるのは当然と言えます。
投稿: nagi | 2017年2月13日 (月) 13時17分
第二次世界大戦がやむを得なかったなどと、一度も考えたことはありませんよ。
その一方で、どんなに負担がかかってしまったとしても、今の情勢を考えたら、沖縄に基地は必要とも考えてます。
どうしても必要なものは、どうやってその負担を少なくするか、もっと現実的かつ実効的な話をすべきと考えているだけです。
沖縄の負担を考えて基地を撤退させるなら、尖閣を占領されるリスクは負うのが道理ではないでしょうか。
そうしないために、基地はどうしても必要。
必要なら、様々な負担をどうやって減らすのか考えなければ、沖縄の負担は何も改善されません。
私は安倍首相が好きとかそうことではなく、今、日本に必要なことを、それなりにやって頂いていると評価しているだけです。
残念ながら、支持していた民主党はそれが出来なかったので。
投稿: 下っ端 | 2017年2月13日 (月) 20時30分
以前ここでも引用されたことがあるリテラというサイト
ですが、最近のこんな記事があります。
>http://lite-ra.com/2017/02/post-2921.html
この記事の見出しで 「国家主義教育に夢中の極右バカぶり」
と出てきます。これは批判ではなく誹謗ですよね。
このような記事を載せる以上、ネトウヨご用達のサイトと
同程度に偽ニュース扱いすべきでしょう。
投稿: nagi | 2017年2月16日 (木) 09時12分
nagiさん、下っ端さん、コメントありがとうございました。
それぞれの記事に寄せられた具体的なコメントを念頭に新規記事を綴っていますが、広く不特定多数の方々に発信した記述内容にも繋げています。したがって、もちろん下っ端さんが「第二次世界大戦がやむを得なかった」と認識している訳ではなく、そのあたりが紛らわしかったようで申し訳ありません。
いろいろな考え方があり、いろいろな主張の仕方があり、いろいろなサイトに触れることができます。中には見過ごせない問題発言もあろうかと思いますが、せめて当ブログにおいては、それぞれの「答え」の正しさを他者の心に響く言葉で競い合っていけることを切望しています。ぜひ、このような点について引き続き皆さんからご理解ご協力いただければ幸いですのでよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2017年2月18日 (土) 06時41分