36協定について
前回記事「働き方改革の行方」の中で「長時間労働是正の問題ですが、36協定を結べば時間外労働ができるようになり、法的には残業時間が青天井となっています。これまでも過労死を防ぐための月80時間という目安はありましたが、今後は労働基準法を見直し、明確な上限規制を設けるべきかどうかが働き方改革実現会議の中で議論されています」と記していました。
これまで当ブログで36協定について直接取り上げたことがありません。この機会に自分自身のおさらいのためにも新規記事の題材としてみます。36協定とはサブロク協定と読み、労働基準法第36条に基づく取り決めのことです。この規定によって、労働者を法定労働時間(1日8時間1週40時間)を超えて労働させる場合や休日労働させる場合には、労働組合(労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)と書面による協定をあらかじめ締結し、労働基準監督署に届出しなければならないと定められています。
単なる上限規制ではなく、この届出がなく、1時間でも時間外労働をさせた場合、労基法違反となります。就業規則は常時10人以上雇用する使用者に作成義務を求めていますが、36協定は労働者が1人だった場合でも締結と届出を必ず行なわなければなりません。ただ厚労省の調査によると中小企業の56.6%は36協定を締結していません。加えて、そのうちの半数以上が「時間外労働や休日出勤があるにも関わらず労使協定を締結していない」、つまり「違法残業を課している」ということが判明しています。
それでも労働基準監督署からの調査や是正勧告の段階で是正すれば、上記のようなケースに対しては労基法違反で即座に罰則の適用がない現状であるようです。しかしながら最近、電通社員が過労自殺した事件での対応をはじめ、長時間労働是正に向け、労基署側が強い姿勢で各企業に臨むようになっています。先週水曜日には下記報道のとおり三菱電機が労基法違反容疑で書類送検されています。
三菱電機が、社員に労使協定を超える違法な長時間労働をさせたとして、藤沢労働基準監督署は11日、労働基準法違反容疑で法人としての同社と、社員の労務管理をしていた当時の上司の男性1人を横浜地検に書類送検した。送検容疑は2014年1~2月、同社の情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)に勤務していた男性(31)に、同法36条に基づく労使協定の上限時間を超える残業をさせた疑い。同署は16年11月、男性が月100時間を超える残業をさせられ、精神障害を発症したとして労災認定し、同容疑で捜査を進めていた。
男性は13年4月に研究職で入社したが、14年1月から仕事量が増加。同4月にうつ病と診断され、16年6月に退職した。男性は、上司から残業時間を過少申告するよう指導されていたほか、パワハラも受けたと主張していた。男性は11日、「自分と似たような環境の人が他にもいると思う。今までろくな対応をしてもらえなかったが、今すぐにでも会社の労働環境を改善してほしい」と話した。三菱電機の話 真摯に受け止めており、関係者の皆様にご心配をおかけしたことをおわびします。改めて適切な労働時間管理を徹底します。【JIJI.COM2017年1月11日】
上記報道は上司が残業時間を過少申告させたという悪質なケースであり、少人数の事業所で36協定を締結していない問題との重大さは異なるのかも知れません。しかし、後者も違法は違法であり、指摘を受ける前に改めていく必要性があります。例えば労働組合業務のために書記や事務局員を採用し、時間外労働が少しでもあり得る場合、例え一人職場だったとしても36協定を締結し、労基署に届出しなければなりません。
また、労基法第33条に「公務員の場合は、官公庁の事業の関係において、公務のために臨時で出勤して作業をする必要が生じた場合には、時間外労働や休日出勤を指示することができる」と明記されています。公務員として就職した時点で時間外労働や休日出勤を課される可能性を受け入れているということになり、これまで36協定は一般的に適用外とされてきました。このような関係もあり、私自身の自省をこめ、公務員の組合役員は36協定に関して理解不足な点がありました。
「官公署の事業(別表第1に掲げる事業を除く。)に従事する公務員」については残業や休日出勤を義務付けていますが、この別表第1に記載されている公務員については36協定の締結が必要となります。つまり土木関係、学校や病院・保健所などの事業で働く公務員は36協定が欠かせず、公務職場の中でも改めて36協定を結ぶ動きが広まっているのではないでしょうか。ちなみに私どもの労使の間では保育園や下水処理場などの職場を対象に締結しています。
いずれにしても36協定は締結そのものが目的ではありません。重要な目的は労働者が健康を害さないよう長時間労働を規制するためのものであり、使用者側だけの都合による恣意的な時間外労働を防ぐための制度だろうと考えています。36協定を締結していても電通や三菱電機のような実情に至ってしまっては論外な話です。決められたルールを職場の中で守っていくという当たり前な意識を使用者側も労働者側も徹底していかなければなりません。
さらに36協定を実効あるものにしていくためには労働組合を有名無実化させず、その役割が重要であることは前回記事の中でも記したとおりです。最後に、ネット上で目にした36協定や長時間労働対策に絡むサイトとして『前厚労相も疑問視した「36協定」とは何か なぜ非人道的といわれるのか』『変わる電通、変わらない社会 22時消灯の実態を社員が証言「もう逃げられない」』『「公務員は労基法適用外だから働かせ放題」は正しいのか?』を参考までに紹介させていただきます。
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コメント
こんばんは。
朝日新聞の件には触れないのですか?
投稿: す33 | 2017年1月17日 (火) 00時19分
す33さん、コメントありがとうございました。
これまで当ブログのコメント欄で数多くの問いかけを頂戴してきました。したがって、今回のような短い言葉のコメントだったとしても、す33さんからの問いかけの論旨を理解できているつもりです。
この記事本文の中で触れていなくても、もちろん下記のような朝日新聞の違法行為も絶対容認できません。新規に投稿した記事本文の中で取り上げていないからと言って、あえて朝日新聞だから触れなかったというような意図はまったくなく、そのように見られてしまうことに正直なところ驚いています。
す33さんとして、いわゆる左か右かなどのモノの見方があるのかも知れませんが、もう少しフラットな立場で「公務員のためいき」に接していただければ非常に幸いなことだと考えています。よろしくお願いします。
朝日新聞が決して報じない「朝日新聞の長時間労働」問題
【週刊現代2016年12月28日】
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50562
投稿: OTSU | 2017年1月21日 (土) 06時57分
日本の過酷な労働実態は本当に解決しなければなりません。
よく、聞くのが体育会系の社風で、長時間勤務が良いと
賞賛される職場。本当に本当に許せない話ですよね。
私などは労務関係の仕事を担当してるので、若い社員には
特に長時間労働にならないように気にしています。
まあ私などは長時間だろうともどうでもよいw
少なくとも当たり前のことを言える聞ける職場になって
ほしいですね。
投稿: nagi | 2017年1月21日 (土) 15時48分
電通の36協定が、週60時間であったことなど、あんまり、現業の官公庁では聞いたことがない時間数に「?」です。
とはいえ、官公庁でも、企画部門の36協定超えは当たり前で、月80時間などはザラではないでしょうか。
窓口などの業務スタッフはあまり残業がない部署もあります。基本、残業ゼロの部門もあります。
今でも、厚生労働省はもちろん、霞が関の企画担当のめちゃくちゃな仕事ぶりは聞こえてきますし、残業代はいらないから、カネを使うヒマをくれ!と言われているのは、昔も今も変わってはいないようです。
厚生労働省全部局が、労基法(適用除外あり)を規範として守っているかといったら、おそらくそうではないでしょう。
国や自治体のスタッフが、しょっちゅう起きる「イレギュラーな処理」の対応のため、要員不足もあって対応できない。まして、その道のプロはひと握りであって、他の人間にはできないことはたくさんある。
勢い、その人に与えられた時間を仕事に当てれば、残業になってしまう。1日24時間なんて、あっという間ですからね。期限だけ決まっているものに対応できず、オーバーフローのまま、The end.
役所でさえこれなのですから、民間企業は推して知るべしで、監督官庁だって、むちゃくちゃな勤務形態ですからね。
36協定がいいのか、時間だけ削ればいいのか、労組さんもよく考えないといけない時期なのだと思います。
とくに、時間を削ると、フロシキザンギョーもでてきて、今度は、やれセキュリティだなんだと、余計なことも増えますからね。
投稿: でりしゃすぱんだ | 2017年2月 4日 (土) 15時43分
でりしゃすぱんださん、コメントありがとうございました。
どのような法改正があっても、ご指摘のような問題が残ることを懸念しています。私自身、この記事の最後に綴ったとおりの問題意識のもとに日々の職務や組合活動に関わっていくつもりです。
なお、これからも何か気になった点がありましたらお気軽にコメント投稿いただければ幸いです。よろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2017年2月 4日 (土) 20時21分