国連の南スーダン制裁決議
12月のカレンダーを見返してみると、早いもので来週の日曜日には新年を迎えます。週に1回、土曜か日曜に更新している当ブログにとって今回が2016年最後の記事となります。そのため、できれば「年末の話、インデックスⅡ」があるとおり1年間を締め括る内容の投稿に繋げてみます。当初、12月20日に示された「働き方改革実現会議」の同一労働同一賃金に関するガイドライン案を切り口として『働き方改革を考える』という労働学習会の内容を取り上げるつもりでした。
しかし、あるニュースに接した時、たいへんな憤りを感じました。事故を起こした6日後に沖縄でオスプレイが飛行再開されたことにも驚き、地元知事らの声を無視した政府の対応に憤りを覚えていますが、それ以上に「嘘でしょう」という思いを強めていました。国連安全保障理事会での南スーダンに対する制裁決議案に日本が反対する意向だという下記のニュースです。「働き方改革」の話は当分鮮度が落ちないため、今年最後の記事は「国連の南スーダン制裁決議」というタイトルを付けて書き進めることにしました。
政府は、国連安全保障理事会で南スーダンへの制裁決議案に反対する検討に入った。制裁が実行された場合、同国が反発して治安が悪化し、現地で国連平和維持活動(PKO)に従事している自衛隊の危険が高まることを懸念している。近く態度決定する。制裁決議案は、南スーダンの政府軍と反政府勢力に対する武器禁輸や、指導的な紛争当事者らの資産凍結が主な内容。
早期採択を目指す米国のパワー国連大使は、消極的な日本を「武器禁輸は南スーダンの人々とPKO隊員を守る道具だ」と批判。菅義偉官房長官は21日の記者会見で「南スーダンの平和と安定に何が必要かという観点から検討する。同国政府の取り組みを後押しすることが重要だ」と慎重姿勢を示した。米国や国際NGO(非政府組織)は「自衛隊の安全を優先して平和構築のための制裁に反対するのは本末転倒」と指摘しており、政府は難しい判断を迫られている。【毎日新聞2016年12月21日】
共同通信によると『南スーダンは20年以上の内戦を経て2011年7月、スーダンから分離独立。13年12月以降、政府軍と反政府勢力との内戦状態になり、昨年8月、双方が和平協定に署名、今年4月に双方が参加する移行政権が発足した。しかし7月に首都ジュバで戦闘が再燃。反政府勢力トップのマシャール前第1副大統領は「和平合意は崩壊した」とし、政府側との対話の行方次第では内戦を継続する意思を示している』という情勢を伝えています。
いろいろな論点を提起できる深刻な問題ですが、マスメディアではそれほど大きく取り上げられていません。このブログを長く続けている目的の一つとして、ニッチな情報を不特定多数の方々に発信するというものがあります。より望ましい「答え」を出すためには多面的な情報をもとに評価していくことが欠かせないため、SNS全体の中で無数にあるサイトの一つとして多様な情報や主張の一角を発信しています。
そのような情報や主張をどのように受けとめていくのかは読み手の皆さん一人ひとりに委ねられる関係性に過ぎませんが、私自身の問題意識を補うような他のサイトの内容も必要に応じて掲げてきています。今回、朝日新聞アフリカ特派員の三浦英之さんのツイッターに注目しています。つい最近、12月14日には21回に及ぶツイートが三浦さんから発信されていました。リンク先をご参照される方は少ないはずですので長くなりますが、生々しい現地からの声をそのまま紹介させていただきます。
①南スーダン西部から先日戻った。現地の状況は凄惨だ。人々は政府軍兵士により虐殺され、家族の前でレイプされ、家を燃やされている。国連が表現した「民族浄化」といった言葉が決して大げさじゃなく響く。同国西部の状況を伝える
②自衛隊のいる首都ジュバから国連機で1時間半。西部ワウ。砂嵐が吹き荒れる街を政府軍兵士を満載したトラックや国連装甲車が行き交う。同行した国連職員は「ジュバとは状況が違う。非常に危険なので国連施設外では兵士を刺激しないよう絶対にカメラを出さないでくれ」
③私がワウに飛んだのは、7月の戦闘で反政府勢力が駆逐されたジュバでは、南スーダンで今起きていることが見えないから。国内を視察した国連調査団は1日、「集団レイプや村の焼きうちといった民族浄化が進行している」と警告した。その現実をこの目で確かめる必要があった
④ワウでは6月、最大民族ディンカによる少数民族への虐殺が起きた。死者数十~数百人と言われ、7万人が住む場所を追われた。避難民保護区では今も、戦闘を逃れてきた約4万人が砂まみれのテントで避難生活を強いられている
⑤「夫を多数派民族ディンカに殺された。私もディンカを殺したい」。少数派民族の女性(29)は泣き叫んだ。夫はディンカの政府軍兵士に足を撃たれ、拘束。軍施設に監禁されて餓死させられた
⑥少数派民族の女性(20)もディンカの政府軍兵士に自宅を襲われ兄を銃殺された。ここでは憎悪が渦巻いている。ホテル従業員は「いつ虐殺が起きても不思議ではない状況。私はディンカだが、人が次々と殺されていくのを見たくはない」
⑦南スーダンは今、深刻な食糧危機にさらされている。保健施設の前では子どもの栄養状態を心配する母親が列を作っていた。上腕にバンドを巻き栄養状態を測定。ラップの芯ほどの太さしかない子どもが次々と「重度の急性栄養不良」と判定され、治療施設へと運ばれていく
⑧母親(27)は「1歳の娘がぐったりとしたので連れてきた。もう3日間も何も食べていない」。看護師は「現在、253人が重度、1023人が中度の急性栄養不良。どんどん増えてる。少しでも回復させないと取り返しのつかない状況になる」
⑨南スーダンでは今、人口の3割の360万人が深刻な食糧不足に。戦闘拡大で収穫時期に農作業ができなかったことが原因。来年初頭には460万人に膨れあがる。ユニセフによると、推定36万人の5歳未満児が「重度の急性栄養不良」に。人々は戦闘におびえ、食べることさえできないでいる
⑩子どもたちの受難は食糧だけじゃない。ジュバではユニセフ現地事務所代表にインタビュー。「ここでは内戦状態に陥った13年末以降、推定約1万6千人の子どもが武装勢力に徴用された」「16年だけでも推定800人以上が徴用された」。戦闘員にさせられたり、森で荷物運びをさせられたりしている
⑪今回の取材で私が伝えたかったこと。それは南スーダンの状況が極度に悪化しているという事実。そしてもう一つ、私たちには武力を使って行う「支援」以外にも、実は南スーダンを支える手段が十分に残されているということだ。食糧機関への送金でも、児童機関への貢献でもいい。道は無数に開かれている
⑫でも日本からのニュースを見る限り、国会で議論されるのは「駆け付け警護」のことばかり。政府は駆け付け警護さえ付与すれば、南スーダンの平和に寄与できるかのように錯覚させている。でもそれは噓。正直に記せば、この状況で駆け付け警護が付与されても自衛隊にできることはほとんどない
⑬次の証言動画を見て欲しい。ジュバの惨劇。AP通信は伝える。「政府軍兵士は外国人女性に銃を向け、俺とセックスするか、ここにいるすべての男にお前をレイプさせてから頭を撃ち抜く。女性は15人にレイプされた」 https://youtu.be/tYoIRwm8iX8 @YouTubeさんから
⑭ジュバで7月に大規模戦闘が起きたときに、国連施設近くのホテルを襲ったのは80人以上の政府軍兵士。ジュバでもワウでも民間人を襲っているのは政府軍兵士なのだ。憲法で国の交戦権が禁じられている自衛隊では手も足も出せない
⑮現政権がやりたいことは、日本から遠く離れたアフリカの国家を救うことではなく、自衛隊の海外における武器使用基準を拡大させたい、その一点ではないのか。それはまさしく、私たちが長年守り抜いてきた憲法9条が厳格に禁じていること
⑯現場を取材する者としてあえて強く書く。現政権は南スーダンの現状を利用して、それを事実上達成したい、つまり前例を作り上げてしまいたいだけではないのか。もしそうであるならば、私はあまりに貧しいこの国にいて、我を失う。南スーダンをそのきっかけ作りに使わせてはならない
⑰一つ、現場で感じたことを書く。国連職員は今、南スーダン政府や政府軍に非常に気を遣っている。本当のことが言いにくい状況。国連機関がこの地で活動を行うためには、南スーダン政府の同意が必要。大声で事実を伝えれば、組織上の問題になりかねない。ここにはそんな難しさがある
⑱もう一つ、これは国連職員の言葉。今ジェノサイドが起きたとしても、多分PKOは防げない。ルワンダのように撤退はしないかもしれないが、ジェノサイドは防ぐことができない。彼は正直だったと思う。PKOは抑止力にはなっても、一度起きてしまったら、それ自体を食い止めることは難しい
⑲自衛隊派遣の根拠となっているPKO5原則は完全に崩壊している。駆け付け警護は誰が見たって憲法違反だ。もしそれを本当にやりたいのであれば、国民に正式に問うた上で、正式にPKO5原則や憲法を変更した上で実施するのが筋ではないのか
⑳それを南スーダンの救済という「偽り」の理由を楯に取り、都合の良い「解釈」で己の目的のために強引に押し通そうとすれば、どこかで無理が生じて必ず「事故」が起こる。その時、私たちは自衛隊員の尊い命と同時に、戦後ずっと守り抜いていた「大切なもの」を失う
㉑私たちは今、どこにいるのだろう。南スーダンも、そして私の祖国日本も。ワウでは町にヘイトスピーチがあふれていた。国連は「ジェノサイドが起こってしまう」と警告している。私は歴史の目撃者になんてなりたくはない(終)
三浦さんのツイッターには写真もアップされ、新しいツイートも加わっていますので、ぜひ、お時間等が許される方はリンク先もご参照ください。さらにネット上には「男たちに2人の女性が捕まり、レイプされた。男たちは1歳と1歳半くらいの赤ちゃん2人を奪い取ると、赤ちゃんを棒のように使ってその女性たちをたたいた」という凄惨な被害状況を伝えるサイトも見つけることができます。
国連の潘基文事務総長は「速やかに行動を起こさなければ(集団虐殺が)今にも起こると恐れている。安保理は南スーダンの武器の流れを止めなければならない」という危機感を表明していました。三浦さんが報告しているとおり「今ジェノサイドが起きたとしても、多分PKOは防げない。ルワンダのように撤退はしないかもしれないが、ジェノサイドは防ぐことができない」という危機意識を表わした言葉でした。しかし、残念ながら土曜の朝、耳にしたニュースは下記のとおりのものでした。
国連安全保障理事会は23日午前、南スーダンへの武器禁輸決議案を否決した。米欧は民族間の対立が虐殺や戦闘激化につながる可能性があるとして、武器の流入を食い止める武器禁輸を実施したい構えだったが、日本など8カ国が棄権に回り、必要な得票数に届かなかった。日本は国連平和維持活動(PKO)で現地に展開する自衛隊への影響回避を優先した。
安保理では全15カ国のうち9カ国以上が賛成し、中ロを含む常任理事国5カ国が拒否権を行使しなかった場合に決議が採択される。今回は反対票はなかったものの、中ロのほか、非常任理事国でも日本やマレーシア、セネガルなどが棄権した。米国のサマンサ・パワー国連大使は採決後、棄権した理事国を「歴史が厳しい判断を下すだろう」と非難した。
米国や国連は南スーダンへの武器流入がジェノサイド(大虐殺)を助長する危険性を懸念しており、武器禁輸の制裁を科すことが治安の改善につながるとみていた。一方、PKOに携わる陸上自衛隊を現地に派遣する日本は、制裁が南スーダン政府を刺激し現地情勢を不安定にするとの立場だ。菅義偉官房長官は23日、採決に先立つBS朝日番組収録で、日本の姿勢に関し「全くおかしくない」と述べた。
現地では陸自が今月半ばから安全保障関連法に基づく「駆けつけ警護」の運用を始めたばかり。PKOを円滑に進めるためにも制裁で南スーダン政府を追い詰めたくないのが本音だ。これまで日本は安保理で北朝鮮やシリア問題などを巡り米国の方針に歩調を合わせてきた。米国案に賛成しなかったのは極めて異例。今回、採決を棄権したのは米国との決定的な対立を避けつつ、賛成しない他の理事国とも足並みをそろえる狙いがあったとみられる。【日本経済新聞2016年12月24日】
南スーダンへの制裁決議の是非で考えれば、日本も率先して賛成側に回るべきだったのではないでしょうか。南スーダンの国民にとって望ましい選択肢は、まずジェノサイドを防ぐ手立てであり、「自衛隊の安全を優先して平和構築のための制裁に反対するのは本末転倒」という言葉はまったくその通りだと思っています。最近の記事「自衛隊の新たな任務、駆けつけ警護」の中で記したことですが、そもそもPKO参加5原則が現状から乖離し、南スーダンに自衛隊を派遣すること自体に強い疑義が生じています。
それにも関わらず、「PKOを円滑に進めるためにも制裁で南スーダン政府を追い詰めたくない」という理由で制裁決議案に賛成しなかったとすれば本当に理不尽な話です。以前「ルワンダの悲しみ」という記事を投稿していましたが、国民同士が殺し合う、ましてジェノサイドなどもってのほかであり、そのような悲劇が繰り返されないことを強く願っています。日本が取り返しの付かない事態を後押ししたような見られ方を回避するためにも、今後、南スーダンでジェノサイドが起きないことを祈らざるを得ません。
たいへん長い記事になっていますが、今年最後の記事でもあり、今回のニュースを切り口に総論的な話に広げてみます。強調しなければならない点として、安倍政権だから批判している訳ではありません。少し前に投稿した記事「『総理』を読み終えて Part2」の中で、アメリカがシリアへ軍事攻撃するかどうかという局面での安倍首相の対応について「イラク戦争を手痛い教訓とするのであればオバマ大統領の要請に対し、毅然とした対応をはかった安倍首相の判断は筋が通ったものであり、率直に評価すべきものと思っています」と記していました。
南スーダンの件も含め、すべてアメリカに追随するのではなく、独自な判断を下す場合があることを総論的な意味で評価すべき点なのかも知れません。核先制不使用の問題でも安倍首相は真っ向からオバマ大統領の意向に反対していました。しかし、核兵器の先制不使用は中国も宣言しているように基本的な立場の表明として、本来、核保有国すべてが速やかに行なうべきものだろうと考えています。それにも関わらず、専守防衛を厳格化した平和憲法を抱き、被爆国である日本の首相が「核兵器のない世界」をめざすオバマ大統領の判断に水を差す、たいへん残念で悲しいことでした。
一方で、「米国案に賛成しなかったのは極めて異例」と指摘されるようにオスプレイ飛行再開の問題や「核兵器禁止条約」制定交渉の国連決議に反対するなどアメリカに対して及び腰になるケースも目立っています。ケースによっては独自な判断を主張するという気構えがあり、沖縄県民の気持ちに寄り添うのであれば、オスプレイの飛行再開に関してはもう少し丁寧な対応が必要だったのではないでしょうか。
最近、『月刊Hanada』を購入しました。「希代の戦略家 安倍晋三」という見出しに目がとまったからでした。機会があれば詳しく報告しますが、安倍首相の優秀さや素晴らしさが満載された内容です。このような情報だけで安倍首相を評価した場合、ずっと首相を続けて欲しい、安倍政権で本当に良かったという思いが強まるはずです。ここで「『総理』を読み終えて」の最後のほうに記したことを思い出す訳ですが、内閣支持率が半数を超えているため、実際、そのように評価している国民が多い現状なのだろうと思っています。
しかし、安倍首相の判断に危うさを感じている国民も決して少数ではなく、今回の南スーダンの問題など多面的な情報を加味した上で評価していくことも欠かせないはずです。いずれにしても物事の是非を判断するためには幅広く、より正確な情報を把握していくことが重要です。そのような意味合いで、これからも当ブログとお付き合いいただければ何よりです。
最後に、この一年間、多くの皆さんに当ブログを訪れていただき、たくさんのコメントも頂戴しました。本当にありがとうございました。どうぞ来年もよろしくお願いします。なお、次回の更新は例年通り元旦を予定しています。ぜひ、お時間が許されるようであれば、早々にご覧いただければ誠に幸いです。それでは少し早いようですが、良いお年をお迎えください。
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