沖縄で起きていること
nagiさんから少しの前の記事「電通社員が過労自殺」のコメント欄で『沖縄自称「平和運動」の狂態を写真で見る』というサイトの紹介がありました。沖縄の辺野古新基地建設に反対している現地活動家の手法を痛烈に批判しているブログでした。他人の車のボンネットに乗り上がり、行く手を阻止しようとしている写真をはじめ、このような事実関係を知った方々にとって到底支持できない反対活動の光景だろうと思っています。
さらにnagiさんから私に対し、このような現状に関して「OTSU氏の立場から見ると、沈黙は賛成の証と見えます」という言葉が添えられていました。反対の意思表示として基地のフェンスに貼られたテープの中にガラス片やカッターの刃を入れ、はがそうとする人を傷つけるように企てているという話もそのブログに記されています。それらがすべて事実であるものと理解した場合、賛成できる訳がなく、反対運動のマイナスに働く行為だと言わざるを得ません。
前々回記事「心が折れる職場」のコメント欄では、やはりnagiさんから「現在、沖縄に動員されている公務員の方々はまさに心が折れそうになる職場ですよね。心から同情します」というコメントが寄せられていました。この場合の公務員は警察官を指していますが、私自身も職務上、差押を受けた滞納者から理不尽な罵詈雑言を浴びせられる時があります。人格攻撃のような罵声には内心ムッとしても、あくまでも職務に対して浴びせられている言葉だと思って耐えるようにしています。
沖縄現地の反対運動の緊迫した場面で怒号が飛び交い、矢面に立つ警察官が直接浴びせられた罵声に対し、言い返したくなる人も多いようです。しかし、「土人」や「シナ人」という言葉が警察官の口から発せられていた事実には驚き、たいへん残念なことだと思っています。ジャーナリストの吉富有治さんの『危険な「土人」発言の擁護論 通用しない警察官の“売り言葉に買い言葉”』の中で下記のような問題提起がされています。冒頭の箇所をそのまま紹介させていただきます。
この「土人」発言をめぐっては保守系のメディアや一部政治家などが、「現場で警察官を挑発し、過激な行動を繰り返す活動家がいるからこのような問題が起こったのだ」などという理屈によって問題を起こした警察官を擁護している。また、ネットでもこれらの意見に共感する人たちは少なくない。要は「売り言葉に買い言葉」だから、どっちもどっちだろうというのである。だが、チンピラ同士のケンカならいざしらず、当事者のひとりが警察官ならこの理屈は通用しない。
そもそも「売り言葉に買い言葉」が“成立”するのは立場が対等な場合に限られる。ただし、ここでいう「立場」とは職業や役職といった身分的なものではなく、プライドや自信といった、いわば心の余裕に基づくものだ。たとえば、小学校の教師が生徒から面と向かって暴言を吐かれても、普通なら諭すことはあっても言い返しはしない。教師と小学生とでは立場も心の余裕もまったく違うからである。それでも言い返す教師がいるとすれば、その人の頭の中身は小学生並みということだろう。
騒ぎになっている現場周辺に過激な反対派がいたとしても、人を物理的に拘束できる国家権力を持つ警察官とがそもそも対等なわけがない。また、現場の警察官はそのような強大な公権力を持ち、治安を守るプライドがあるからこそ、いき過ぎた言動が起こらないよう普段から自律心と自制心という高い精神性も求められているのだ。公権力を行使できる立場にいる警察官の行動は法律に従う必要がある。
一方、「土人」「シナ人」は差別語でありヘイトスピーチである。当然、これは法に則ったものではない。したがって、「土人」と言い放った警察官は法を破ったにも等しく、法を守る警察官の行動として不適切である。さらには、反対派の行動が過激で無法なものだとして、だから「売り言葉に買い言葉」で「土人」という言葉を投げつけたのだとしたら、この警察官の頭の中身は相手と同レベルである。
nagiさんから寄せられたコメントの中で、たいへん重要な問いかけがありました。「自分たちの活動が正しい、だから法律違反しても関係ないと考え行動するならば、テロリズムとなにが異なるのか説明できるのでしょうか」というものです。大きな歴史の流れの中では前体制の築いた法律や秩序を否定し、新しい体制に変革した事例は数多くあります。その変革を歴史的に評価する見方もあるのかも知れませんが、問題ある体制を変えるために暴力や破壊活動を肯定する考え方はテロリズムと表裏一体となってしまう危うさがあります。
最低限、ここ日本においては法律や社会的な規範を強く意識した中で、それぞれの立場からの主張の「正しさ」を競い合っていくべきものと考えています。ヘイトスピーチの応酬は論外であり、反対運動を進める側にも公権力側にも自制心を持った振る舞いが求められているはずです。初めに紹介したブログの中で伝えられているような行為は反対運動側が省みなければなりませんが、高江のヘリパッド建設のための陸上自衛隊のヘリコプター投入は法律違反の疑いを取り沙汰されるなど強い権力を持っている国側にも反省すべき点が多々あります。
そもそも沖縄の基地負担軽減策とは、老朽化した米軍基地(施設)の代わりに沖縄県内の土地や海に新しい基地を建設し、住民に新たな被害と負担を強いるだけだという見方があります。一方で、高江住民の中には道を塞ぐような抗議活動に反発する人が多いことも確かです。それでも直近の参院選挙では辺野古の新基地建設と高江ヘリパッド建設に反対する候補者が勝利しています。それにも関わらず、国は選挙結果が出た数時間後、高江の工事を始めていました。地元の民意をまったく無視した不誠実な振る舞いだと言えます。
いずれにしても過去に「普天間基地の移設問題」という記事を綴っていましたが、沖縄の問題を語る際は歴史や安全保障のあり方など幅広い論点を押さえていかなければなりません。今回の記事を通し、もう少し高江の問題を掘り下げることも考えていました。結局、そこまで広げず、反対運動の現場において「沖縄で起きていること」に絞らせていただきました。最後に、芥川賞作家の目取真俊さんが現場で体験した事実として「沖縄タイムス」に寄稿した文章を紹介させていただきます。
10月18日の午前9時45分頃、ヘリパッド建設が進められている東村のN1地区ゲート付近で抗議行動を行っている際に、大阪府警の機動隊員から「どこつかんどるんじゃ、こら、土人が」という言葉を投げつけられた。現場では10人ほどの市民が、砂利を搬入するダンプカーに対し、金網のフェンス越しに抗議の声を上げていた。この機動隊員はその市民に「ボケ」「クソ」という言葉を連発し、言葉遣いがひどいのでカメラを向けているところだった。本人も撮影されているのは承知の上で「土人が」と言い放った。
それだけではない。その後、別の場所で砂利を積んだダンプカーに抗議していて、3人の機動隊員に抑え込まれた。「土人が」と発言した機動隊員は、離れた場所からわざわざやってきて、私の頭を叩いて帽子を落とすと、脇腹を殴ってきた。近くに新聞記者がいたので、写真を撮るように訴えた。機動隊員は記者から見えにくい位置に回り、抑え込んでいる仲間の後ろから、私の足を3回蹴った。ビデオ撮影されたときは、フェンスがあって手を出せなかったので、暴力をふるうチャンスと思ったのだろう。
その前には大阪府警の別の機動隊員が、ゲート前で抗議している市民に「黙れ、こら、シナ人」という暴言を吐いていた。この機動隊員もゲート前に並んだ時から態度が横柄で、自分の親や祖父母の世代の市民を見下し、排除の時も暴力的な言動が目立っていた。そのため、注意してカメラを向けている際に出た差別発言だった。 高江には現在、東京警視庁、千葉県警、神奈川県警、愛知県警、大阪府警、福岡県警から500人と言われる機動隊が派遣されている。沖縄県警の機動隊を含めて、沖縄島北部の限られた地域にこれだけの機動隊が集中し、長期にわたって市民弾圧に乗り出している。こういう事例が過去にあっただろうか。
警察官は市民が持たない権力を持っている。本来はヘイトスピーチを取り締まる立場にある彼らが、ネット右翼レベルの知識、認識しか持たず、沖縄県民に差別発言を行っているのは恐ろしいことだ。このことが徹底して批判され、是正されなければ、沖縄差別はさらに広がっていく。ヤマトゥに住むウチナンチューに実害が及びかねない。そういう危機感を持つ。かつて就職・進学で沖縄からヤマトゥにわたった若者たちが、沖縄に対する差別と偏見に悩み、苦しんだという話が数多くあった。1980年代後半から沖縄の音楽、芸能がもてはやされ、観光業が伸びていくのと合わせて「沖縄ブーム」が生まれた。沖縄への理解が進み、差別・偏見も改善されたように見えた。
しかし、「明るく、楽しく、優しい沖縄」イメージがもてはやされる一方で「基地の島・沖縄」という実態は負のイメージとして隠蔽され、米軍基地の負担は変わらないばかりか、自衛隊の強化が進められた。しょせん「沖縄ブーム」はヤマトゥに都合のいいものでしかなかった。そういう二重構造は差別意識にも反映している。ウチナンチューがヤマトゥの望むように行動すれば評価されるが、意に反して自己主張すればはねつけられ、言うことを聞かなければ力ずくで抑え込まれる。高江や辺野古はそれが露骨に現れる場所だ。だから隠れていた差別意識も噴き出す。そもそもヘリパッド建設強行自体が差別そのものなのだ。【沖縄タイムス2016年11月4日】
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コメント
OTSU氏の主張は相変わらずよくわかります。そして抑制的で健全な主張と提案をしています。
以前、私はよく襟を正すと言いました。反対運動にシンパシーを感じるならば、余計にその暴走ぶりを正さないと、その点を攻撃されるのは自明と思います。
>高江のヘリパッド建設のための陸上自衛隊のヘリコプター投入は法律違反の疑いを取り沙汰されるなど強い権力を持っている国側にも反省すべき点が多々あります。
法律違反を指摘した福島議員は夏の参議院選挙で電車内で選挙活動してると有権者に指摘されたら、逃げた方ですよね。w
それはさておき、ヘリを使う事態になったのはダンプカーの搬入を反対運動の方々が妨害するからだと思うのですがね。まあそれも横に置いといて、反対運動に参加されてる方々は労働組合の方も結構いると思うのですが、ダンプカーのドライバーも一人の労働者だと思うのですが。運転手にとっては引き受けた仕事をいわれなき妨害を受けている。この運転手に何か罪はあるのでしょうか?
労働組合が労働者に嫌がらせをする行為になってることを組合の方は何とも思わないのでしょうか?
現地からダンプカーにはねられそうになったと抗議の声があがったとニュースを見ましたが、ダンプカーの運転手にすれば、抗議は政府して、自分たちの労働を邪魔するなと思ってること間違いなしですよ。
投稿: nagi | 2016年11月 7日 (月) 11時36分
まだ最終確定してませんが、トランプ氏が勝利しそうですね。やはり本音を口にしない隠れ支持者が結構な数存在したのと、ヒラリーの嫌われかたですかね。ヒラリーはやはり8年前に負けたのが全てだと思います。
まあ全てはこれからですが、中国とロシアは喜ぶでしょうね。恐らくトランプは第二次世界大戦前のアメリカに戻すつもりでしょう。日本にとっては本当に困った事態かもしれませんね。
これで安倍さんの長期政権も難しくなるでしょう。平和フォーラムも狂喜乱舞ですねw
投稿: nagi | 2016年11月 9日 (水) 13時53分
nagiさん、コメントありがとうございました。
アメリカ大統領選のトランプ候補の勝利は、確かに日本にも一定の影響を及ぼしていくものと思います。ただ今後、どのような展開が待っているのか容易に見通せないことも正直な感想です。
投稿: OTSU | 2016年11月12日 (土) 20時23分