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2016年10月 1日 (土)

脱・雇用劣化社会

連合三多摩の「政策・制度討論集会」が火曜午後に催されました。政策・制度プロジェクトの一員であるため、一昨年と昨年は分科会の座長を務めました。その時の内容をもとに「子ども・子育て支援新制度について」「保育や介護現場の実情」というブログ記事を投稿しています。今回、分科会の開催中、特定の役割から外れていたため、関心の高いほうのテーマの分科会を選ぶことができ、さらに客席に座ってじっくり講師3人のお話を伺うことができました。

私が選んだ第1分科会のテーマは「良質な公共サービスを求めて~脱・雇用劣化社会~」でした。地方自治総合研究所研究員の上林陽治さんが「公共の現場・非正規雇用の現状」、多摩市の元契約課長が「多摩市の公契約条例~現状と課題~」、自治労東京都本部組織局オルグで八王子市の非正規職員だった方が「雇用労働政策における地方自治体の役割~労働者の視点から~」というタイトルでお話いただきました。

分科会の冒頭、今年2月に放映されたNHK『クローズアップ現代』の内容が紹介されました。「広がる“労働崩壊”~公共サービスの担い手に何が~」というタイトルが付けられ、今回の講師である上林さんのインタビューがあり、多摩市の公契約条例についても取り上げられていたとのことです。この分科会のために制作されたような内容であり、それぞれの生の声を直接伺える期待が高まる絶好なタイミングでの紹介でした。番組の概要はNHKのサイトに次のとおり掲げられています。

今、保育や介護、建設現場など、公共サービスや公共工事を担う現場で、低価格の受注競争に巻き込まれ、経済的に追い詰められる労働者が増えている。京都市内のある保育所では財政削減の一環での民間委託に伴い、契約保育士全員が職を失った。このままでは働く人が食べていけなくなり、保育の質や安全が低下するのではと保護者に不安が広がっている。

背景にあるのは、自治体が推し進めるコスト削減。公共工事を担う建設現場では若い後継者が育たず、労働者の技術の継承などが難しくなっている。国の調査によると、全国の自治体の半数近くが、違法に公共工事の予定価格を下げていることが明らかになり、そのしわ寄せが現場の労働者の雇用を劣化させ、さらなるワーキングプアを生み出している。どのように労働者の生活を守り、公共サービスの質を維持していくのか。新たな雇用政策を打ち出した自治体の模索も交えながら、対策を考える。

ちなみに当ブログで実名をお示しするかどうかはプロフィール欄に記載しているとおりです。今回、上林さんにブログのことを伝えられませんでしたが、NHKの番組にも登場されるような方ですので実名で紹介させていただいています。まず上林さんから正規公務員数2,738,337人に対し、非正規公務員数644,725人であり、自治体職員の5人に1人が非正規である現状が報告されました。

都道府県や政令市よりも住民に近い市町村職員のほうが非正規公務員の比率は高く、3人に1人が非正規公務員であり、中には過半数に届くような自治体があるという説明を受けました。非正規公務員は女性が多く、正規・非正規での賃金格差があるため、雇用形態を装った間接差別であると上林さんは述べられています。ワークルールの不充分さも目立ち、官製ワーキングプアの問題に繋がっています。

「働く貧困層」と言われるワーキングプアという言葉は、もともとアメリカで広がっていたものですが、2006年7月にNHKが「ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない」を放映してから日本でも広まっていきました。リンク先の「官製ワーキングプア研究会」のサイトで上林さんは「臨時・非常勤職員の場合は直接に、委託事業者の労働者に関しては間接的に、まさに公共サービスの実施者であり、発注者である国や自治体がワーキングプアを作っている」と問題提起されています。

分科会を通し、非正規公務員の急増の理由と結果を上林さんは次のとおり分析しています。①非正規公務員の定員削減、②地方財政の逼迫から安価な労働力への代替の誘引、③行政需要の増大(「家計」の縮小から生活保護世帯増大や保育需要の増大)を理由にあげられ、正規公務員に代替する非正規公務員の急増に繋がっていると説かれています。その結果、ベテランの臨時職員、クラス担任の非正規保育士、ワーキングプアの非正規ケースワーカーも多くなっている現状を上林さんは憂慮されていました。

それでは、どうするのか、上林さんは「韓国・ソウル市に学べ」と訴えています。直接雇用と間接雇用を合わせた非正規職約7,300人の正規職化をソウル市は進めています。予算面では外注のコスト(利潤、一般管理費、付加税など)を削減できるため、短期的には追加予算なしに賃金引上げ、処遇改善が可能となりました。長期的には人件費や福利厚生の増加などコスト上昇の可能性も補足されていましたが、行政のアウトソーシングが必ずしもコスト純減とならない構図は日本も同様だと言えそうです。

2人目の講師の方からは公契約条例についてお話を伺いました。NHKの番組紹介の内容に記された「新たな雇用政策を打ち出した自治体」とは多摩市のことです。分科会では2011年12月に施行した多摩市公契約条例の現状と課題が報告されました。これまで当ブログでは「公契約制度の改革って?」「『鉄の骨』と公契約条例」という記事を投稿しています。公契約条例は千葉県野田市が先鞭をつけ、全国に広まったとは言え、今のところ16自治体にとどまっています。

その中で「多摩市の条例は質が高い」と上林さんは評価されていました。2010年4月、現職の市長が選挙公約の一つとして「公契約条例の制定」を掲げて初当選しました。市発注の工事・委託等に携わる労働者の賃金、労働条件の低下を防止することで、①労働者の生活安定、②事業者は適正な競争による経営の安定、③市民は安全かつ良質なサービスを享受でき、地域経済や地域社会を活性化することを目的としています。

この条例施行当時、担当部署の契約課長として尽力された方を分科会の講師としてお招きしていました。そのため、市内事業者アンケートや懇談会の実施など制定までの経緯等を詳しく説明していただきました。公契約条例は契約自由のもとにあり、地域社会全体を縛るものではないため、法的な問題をクリアしているとのことです。労務台帳の提出等も含め、事業者に負担をかける側面がありますが、昨年実施した事業者アンケートでは好意的な評価が増えているそうです。

「小さく生んで、大きく育てる」という考え方を示された上、今後の課題として60歳以上を対象外にしている点、複数年契約に関して最低賃金の上昇等への対応などがあげられていました。今後も改善に努め、市・労働者・事業者にとって、より良い条例に育てていき、公契約制度というツールを活用し、より良い地域社会を作り上げていきたいと話されていました。そのためにも制度の周知と理解に重点を置いた取り組みを進めていきたいとし、30分ほどのお話を結ばれていました。

3人目の講師は八王子市役所の臨時職員から嘱託員を経験され、現在は自治労都本部の組織局で働いている方です。八王子市臨時・非常勤職員組合の役員も務められ、まさしく非正規公務員当事者の視点から体験談等をお話いただきました。臨時・非常勤職員組合の取り組みには3つの柱があり、①雇用年限、雇用上限の撤廃⇒安心して働き続けたい、②賃金・報酬のアップ、一時金支給、前歴加算の実現⇒安定した暮らしを送りたい、③女性に関わる制度の改善⇒産休、育休、生理休暇などの整備に力を注がれているとのことです。

実際に改善できた運動の成果の報告がありましたが、まだまだ収入や雇用継続に対する不安の声は高いようです。保育園、学校給食、図書館などに非常勤職員が多く従事し、複雑化・多様化する住民ニーズに応えるために奮闘していることを語られていました。臨時・非常勤職員無くしては公共サービスが提供できない現状であり、より良い公共サービスの実現のためにも非正規公務員の働きやすい職場環境の確保や労働条件の改善が欠かせないと訴えられていました。

分科会の終了時刻が迫っていたためか会場からの発言は1人にとどまりましたが、NHKの『クローズアップ現代』の紹介から始まり、3人の講師の方のお話、その後のパネルディスカッションまで3時間に及んだ「良質な公共サービスを求めて~脱・雇用劣化社会~」という分科会はたいへん中味が濃く、貴重な時間だった言えます。「非正規雇用の話、インデックス」「春闘期、非正規雇用の課題」に記しているとおり私どもの組合は多くの非常勤職員の皆さんを組織化し、その待遇改善に向けて精力的に労使協議を重ねています。

今回参加した分科会の内容を受けとめ、非正規雇用の課題を改めて組合運動の柱とし、当事者の声を反映した切実な組合要求を前進させなければならないという思いを強めています。最後に、土曜日には自治労都本部の組織集会があり、その中で自治労本部から「非正規労働者10万人組織化推進方針」の提起を受ける内容が組み込まれていました。いつものことながら、ここまでで相当長い記事になっています。そのため、今回の記事に関連した話題ですが、組織集会の話は機会を見て、次回以降の記事で取り上げられればと考えています。

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コメント

で、未だに非正規公務員の人数は増え続けてとどまるところを知らないのに、自治労が組合から排除したり見て見ぬふりして手をこまねいているのは何故でしょう?

投稿: れなぞ | 2016年10月 1日 (土) 10時25分

れなぞさん、コメントありがとうございました。

前回寄せられたコメントも自治労に対する不信や憤りを前面に出された短い文章でした。非正規公務員に関する私の認識は今回の記事や以前の記事に綴っている内容のとおりです。随分目にしている光景が違うようですので、ぜひ、もう少し参考になるような記述に努めていただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2016年10月 1日 (土) 22時09分

本記事とは関係ないのですが、

>http://www.peace-forum.com/houkoku/20160922.html

日本はいろんなことでガラパゴス化が進んでいると言われて
平和運動も同じですね。それにしてもこの記事にでてくる
学生は軍縮にもっとも反してるのはどの国か理解してるのか?
また、北東アジアに深い関心があるわりに、このアジア圏で
原発が増設されていくことには何も関心がないのか。

不可思議な団体のする活動は本当に不可思議なものです。

投稿: nagi | 2016年10月 4日 (火) 12時41分

何も不思議なことはないと思いますが。

投稿: ベンガル | 2016年10月 4日 (火) 15時16分

>何も不思議なことはないと思いますが。

不可思議に思う私がいる。

不思議に思わない人もいる。

何かに対してどのように考えるか捉えるかも個人の差異か
思想信条の違いか判りません。自分と考えを同じくする人が
多いと偉いわけでもなく、少ないと卑下することもない。
ただただ自分と他人の考え方の差異を計測したいと思う
今日このごろです。

投稿: nagi | 2016年10月 4日 (火) 18時48分

公務員の非正規雇用について
私も思うところはありますね。
結論から言いますと
私は国の雇用政策の失敗だと思っています。
ぶっちゃけて言います。
お茶くみだけの非正規雇用の人、いませんか?
高校生のバイトでもできるような
単純作業の毎日を送っている
非正規雇用の人、いませんか?
私の周りには少なくとも複数人いますね。
雇用目的ならば、予算計上しやすい自治体が
多いのではないかと思っています。

一方で、非正規なのに正規公務員よりも
数段レベルの高い臨時職員がいて
その現状に不満を抱いている人もいる。
さらに、正規公務員から
多くの仕事をブン投げられて
ブラック企業の社員状態で生活してる人もいる。

公務員ってのは
人の働きぶりを適正に判断する仕組みがない。
その結果
適材適所という意識が民間に比べて極端に低い。
生産性に対する人件費コストという感覚がないから。

そういうシステムの不備を語らずして
「非正規職員の雇用改善」を叫んでも
本質は何も変わらんな、と私は思いますね。
私は公務員じゃないので
ホント、好き勝手な空想論ですけど。

「現場の事も知らずに民間人が口出すな!」のご指摘
ごもっともです^^;スミマセン。


投稿: いまさらですが | 2016年10月 4日 (火) 21時57分

nagiさん、ベンガルさん、いまさらですがさん、コメントありがとうございました。

人それぞれ培ってきた経験や知識をもとに物事に対する見方や評価が下されていきます。当たり前な話だと言えますが、そのことによって個々人の「答え」が枝分かれしがちとなります。これまで当ブログの記事本文を通し、数多く綴ってきた論点であり、また機会があれば掘り下げてみようと考えています。

いつも皆さんからのコメントに即したレスにならず恐縮ですが、そのような問題意識だけ一言添えさせていただきました。ちなみに新規記事は明日投稿する予定ですので、これからもご注目いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2016年10月 8日 (土) 21時20分

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