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2016年10月30日 (日)

持続可能な組合組織に向け

このブログは週に1回、土曜か日曜に更新しています。2012年春頃からコメント欄への対応も週末に限らせていただいています。このペースが実生活に過度な負担をかけず、長く続けることができているブログとの距離感だと思っています。そのため、たいへん恐縮ながらコメント欄での問いかけに対し、難しい題材であればあるほど言葉が不足しがちなコメント欄ではなく、じっくり腰を落ち着けて臨める記事本文で対応するように心がけています。

その記事本文の内容も週に1回の更新のため、取り上げるべき題材が多くあり、必ずしも臨機応変、柔軟な対応をはかれていません。耳目を集めていた話題だったとしても触れることができない場合も多いため、その話題に対する私自身の関心の度合いが低いように見られてしまう時もあります。「意図的にスルーしている」と言われた時などは非常に戸惑っていました。

確かにブログに取り上げる題材の選択はその時々の個人的な判断ですが、「取り上げないから軽視している」「発言しづらいから沈黙している」という訳ではありません。さらに政治的な話題の投稿が多いため、職務や労働組合の本務を疎かにしているのではないか、そのように誤解されてしまう場合もあるようです。以前の記事「組合の政治活動について」の中で記したとおり「丁寧な情報発信」のツールの一つとして、意識的に政治に関わる内容を取り上げている傾向があります。

その一方で、日常の組合活動の中で政治的な課題が占める割合はごくわずかであり、賃金や人員確保、人事評価制度の労使協議などが重要な取り組みとなっています。これまで述べてきた話を長々と繰り返し、たいへん恐縮ながら要するに必ずしも「ブログの題材=日常活動の中での最重要課題」ではない傾向があることを改めて説明させていただきました。もちろん今月投稿した「脱・雇用劣化社会」「パワハラ防止に向けて」「電通社員が過労自殺」「心が折れる職場」を通して取り上げた題材は労働組合の本務として最重要課題であり、このように政治的な話題ばかり扱っている訳でもありません。

今回の記事も私どもの組合に関わる話であり、地味でローカルな題材だと言えます。不特定多数の方々にとって興味の沸かない題材だろうと思います。一方で、自治労に所属する組合で役員を担われている方々にとって同じような現状の中、同じような悩みを抱えられている方々も多いのではないでしょうか。どのような方向性で対応していけば良いのか、一緒に考える機会につながることも期待しながら新規記事の題材に選んでみました。

ちなみに私どもの組合の定期大会は11月11日夜に開かれます。定期大会に先がけ、現在、組合役員の信任投票が行なわれています。以前の記事「組合役員の改選期、インデックス」に託したような思いのもと引き続き執行委員長に立候補しています。立候補にあたり、組合員の皆さんに回覧し、お示ししている私自身の選挙広報に掲げた内容は次のとおりです。

組合役員を長く続ける中で「組合は必要」という思いを強め、そのバトンを引き継げるよう努力してきています。同じポストに同じ者が担い続けることの問題点も頭の中にあり、いつも悩んでいますが、今回も続けることで責任の重さを受けとめるという選択をさせていただきました。とりわけ来期に向け、たいへん残念ながら過去最少の執行委員の数で組合活動に向かわざるを得ません。さらに組合財政も非常に厳しく、幅広い組合活動のあり方を見直していくことになります。このような現状に至っていることの責任の重さも強く受けとめながら「ピンチをチャンス」に変えられるよう努力していくつもりです。

絶対引き継ぐべき組合の役割は職場課題を解決できる労使交渉能力です。このことを基軸に活動全般を見直し、持続可能な組合組織につなげていければと考えています。つまり組合役員、たいへんな負担というイメージを転換し、担い手が広がっていくことを願っています。ぜひ、組合員の皆さんのご理解ご協力をよろしくお願いします。

各職場からの輪番制ではなく、組合員個々人の判断のもとに立候補するかどうかであり、かなり前から組合役員の定数不足に陥っています。執行委員長、副執行委員長、書記長、書記次長、会計、会計監査は定数を満たすことができていますが、12名の定数である執行委員は慢性的な欠員状態となっています。組合員の皆さんにとって「組合役員はたいへん」という印象が強く、改選期に組合役員の担い手を広げていくことに苦心しています。

来期に向け、執行委員4名が退任し、新たに立候補を決意された方は1名にとどまっていました。今期に比べて執行委員は3名減り、信任投票の対象となる組合役員総数13名は過去最少の数となっています。各職場・職域代表の職場委員は1年ごとの輪番制が基本であり、おかげ様で80名ほどの定数は必ず充足しています。そのため、執行委員も職場・職域に選出割り当てを決め、輪番制で幅広い方々に出ていただこうという構想もあります。そのような仕組みが定着し、組合員の大半が役員を経験することで組合を身近に感じていただけているという好事例もよく耳にしています。

輪番制が長年定着してきた組合であればこその波及効果であり、新たに踏み出す組合は慎重に丁寧に検討していかなければならないはずです。それこそ「組合役員はたいへん」というイメージを持たれたまま、と言うよりも現実的な役割として「たいへん」だった場合、執行委員を担う順番を回避するために組合そのものの脱退を考えられる方が生じる可能性にも留意しなければなりません。考えすぎであり、弱気すぎるのかも知れませんが、このような危機意識を軽視した拙速な仕組み変更は避けるべきものと考えています。

組合役員の担い手不足の問題に加え、組合財政の厳しさも顕著になっています。地区図書館の指定管理や保育園の民営化などの行革提案を受け入れてきた結果、組合員数はピーク時の1,500名前後から徐々に減少し、現在1,170名ほどの数となっています。それに比例して組合費収入も漸減してきています。幸いにも組合の貯金と言える積立金会計に大きな額が残されているため、その特別会計から一般会計に繰り入れることで収支を賄えています。当然、一定の時期までに収支構造を抜本的に見直さない限り、蓄えは枯渇するため、恒久的な対応と考えてきた訳ではありません。

今年度、積立金会計からの繰り入れを想定した額よりも大幅に上乗せする必要性に迫られました。この事態を踏まえ、来年度以降の予算から恒常的な収入に見合った支出額に近付けられないかどうかという抜本見直しの議論に着手しています。いわゆるプライマリーバランスの改善に向けた検討です。検討した内容をもとに来年1月から12月までの組合予算案をはじめ、組合財政の確立に向けた基本的な考え方を示した資料を定期大会前に組合員の皆さんに配布し、大会議論に付す運びとしています。

以上のような担い手不足や厳しい財政の問題を前にし、今回の選挙広報の内容を綴っていました。二つの問題のピンチですが、解決する方向に同じ道筋を見出そうと考えています。組合役員を長く続ける中で「組合は必要」という思いを強めている理由は、組合には職場課題を解決できる交渉能力があるからです。「昔に比べて弱くなった」と言われがちですが、曲がりなりにも労働条件の問題は労使交渉を通して決めるという原則を維持しています。この役割を維持できないのであれば「組合は不要」だと見られても仕方ありません。

今回の記事の冒頭に「実生活に過度な負担をかけず、長く続けることができているブログとの距離感」について記しました。記事本文を通した情報発信の大切さ、フルオープンのコメント欄で不特定多数の皆さんから率直な意見を伺えることの貴重さ、このような意義があるため、このブログは長く続けたいものと思っています。続けるだけが目的ではなく、大切さや貴重さがあるため、無理なく続けるための対応としてコメント欄との距離感を改めてきたと言えます。

組合も同様です。必要な役割や活動があるからこそ組合組織は維持しなければなりません。そのためには無理しない、背伸びしない、これまで以上にメリハリを付けた活動に重きを置き、結果的に組合役員に過度な負担をかけず、予算面の見直しにもつながるという発想を重視するようになっています。もちろん職場課題を解決できる労使交渉能力を基軸にした必要な役割や活動だけは必ず継承していかなければなりません。

幅広い組合活動の見直しにあたり、組合役員だけで一方的に決めるものではなく、組合員の皆さんと率直な議論を重ねていく必要性があります。そのため、この場で先走って具体例を示すことは控えなければなりません。いずれにしても組合役員の負担がゼロになることはあり得ませんが、このような試みによって少しでも負担が減ることで「組合役員はたいへん」という印象が緩和されることを願っています。

選挙広報には「ピンチをチャンス」に変えられるよう努力していく旨を記しました。持続可能な組合組織につなげていくためにも上記のような発想で組合活動全般を見直し、ハードとソフト両面から組合に対するイメージを転換させ、組合役員の担い手問題を解決していく好機にしたいものです。「組合は必要」という認識が全体で共有化され、この程度の負担であれば「良い経験にもなるし、執行委員を引き受けてみるか」という声が増えていくことを期待しています。加えて、このような雰囲気が高まった時には「〇〇部から一人、執行委員を出してください」と気軽に要請できるようになるのかも知れません。

最後に、執行委員の担い手不足の問題を書記長と話し合っていた時、「委員長がいるからダメなんですよ」と言われてしまいドキッとしました。私が委員長を務めている限り、組合はつぶれないだろうという安心感や信頼感があるため、なかなか担い手が広がらないという趣旨の言葉でした。選挙広報に記したとおり同じポストに同じ者が担い続けることの問題点も頭の中にあるため、一瞬、長く続けていることをストレートに批判されたような胸の痛さを感じました。とは言え、来期に向けては選挙広報に記したとおり続けることで責任の重さを受けとめていく選択をさせていただいています。

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2016年10月22日 (土)

心が折れる職場

前々回記事は「パワハラ防止に向けて」で、前回記事は「電通社員が過労自殺」でした。それぞれの記事に関連し、最近読み終えた『心が折れる職場』の内容に繋げようと考えていました。ようやく今回、その著書を中心にした新規記事を書き進めてみます。著者の見波利幸さんはエディフィストラーニングの主席研究員で、日本メンタルヘルス講師認定協会の代表理事を務めています。通勤帰りによく立ち寄る書店で、たまたま書籍のタイトルに目が行き、そのままレジに運んでいました。いつものとおり著作権はもちろん、ネタバレに注意した内容紹介を心がけるためにも書籍を宣伝する下記の言葉を最初に掲げさせていただきます。

飲み会なし、雑談なしは危険信号。なぜ、うちの職場には冷えきった空気が充満するのか。なぜ、あの部署では不調者が多発するのか。上司が「アドバイス上手」、「頭のいい人」が周囲にそろっている、「ホウ・レン・ソウ」や論理的思考が重視される、個人に大きな責任が与えられる、無駄口をきかず効率優先……こんな職場こそ、実は心が折れやすい?パワハラや長時間労働だけが原因ではない。社員の心を蝕み、不調者を多発させる職場の実態について、数々の事例を知るプロのカウンセラーがひもとき、本当に働きやすい職場とは何かを考える。

このブログで機会を見て取り上げようと考えながら手にした書籍だった場合、読み進めている最中、注目した箇所に付箋を貼るようにしています。『心が折れる職場』もその一つだったため、付箋をいくつか貼ったまま手元に置いてあります。そのうちの一つには次のような内容が記されています。部下を厳しく怒鳴りつけ、高圧的に見える上司のもとで部下が楽しく働いているケースもあります。一方で、常に穏やかな態度で部下に接している上司が職場での評判は最悪であるケースもあります。

この違いの根元には、パワハラというのはセクハラと同じように、部下の側が上司の言動をどのように感じているのか、その違いによって決まってくる面があることを見波さんは説明しています。このあたりは比較的知られているハラスメントの特性だと思いますが、見波さんの著書の中では具体例が示されながら詳しく解説されています。周囲から高圧的に見える上司であっても、最終的に部下に手を差し伸べるタイプであれば、部下に対して心理的ストレスを与えないことがあると記しています。

日頃から「何やってんだ、バカヤロー」と怒鳴りっぱなしであっても、部下が仕事に困った状況に追い込まれた時に「しょうがねぇなあ、やってやるから、今度からちゃんとやるんだぞ」と救ってくれる、これは部下にとってありがたいものです。一方で、決して怒鳴りつける訳ではないものの、冷酷な口調で言いぱなし、仕事を放りぱなしの上司は、部下にメンタル面で負担をかける可能性が大きいと見波さんは述べられています。

課長、課長代理とメンタル不調が続いた某企業の事例です。課長が長期休職となり、不慣れな課長職の仕事を任された課長代理は部長に「この件は、どうすればいいのでしょう」と相談します。すると「それは、あなたが考えることでしょう」と部長から具体的な指示は得られません。部長の冷淡な態度に途方に暮れながらも、自分なりに考え抜いたプランを部長の承認を求めたところ「それはダメですね。考え直してください」と突き返されてしまいました。

困った課長代理は「それでは、どうすれば…」と再び尋ねると「それを考えるのが、あなたの仕事です」ととりつく島もなく、このようなやり取りが繰り返されました。課長代理の悩みは行き場がなくなり、1人で背負いこみ、課長に続き、後を任された課長代理もメンタル不調に至ってしまったそうです。課長と課長代理のメンタルが弱かったと断じてしまうのは簡単ですが、問題の根源を追究しなければ同じ仕事を引き継ぐ人の心が折れてしまうリスクは変わらないと見波さんは説かれています。

その部長なりの部下に対する指導方法だったのかも知れません。しかし、見波さんは部長の部下への接し方に問題があり、改善すべき点があることを指摘されていました。このように上司の言動は部下の健康を維持する上で、たいへん重要な意味を持ちます。上司が、ほんの軽口のつもり、あるいは少し奮起を促すつもりで発した、ささいな一言によって心理的にダウンし、ネガティブな感情が頭から離れないことがあります。

あるプロジェクトに失敗した社員二人の話です。それぞれ30代前半ぐらいの社員ですが、まったく別なプロジェクトで上司も別な事案となります。1人はメンタルが不調となり、もう一人は普段通りに仕事を続けられたばかりか、以前にもまして汚名を返上しようと努力を重ねるようになっていました。見波さんが様々な角度からカウンセリング、ヒアリングをしていくと、2人には置かれた状況にささいな違いがあったことを把握しました。

メンタル不調になったほうの上司は「なぜこうなるまで、失敗に気がつかなかったのか。今までかけた時間はどうする。どうやって責任をとるつもりなんだ?」と部下を叱責しました。もう一人のほうの上司は失敗を厳しく叱った後に「この仕事を成功させようと今まで頑張っている姿を私は見ていた。残業もしていたし、わからないところは先輩にも聞いていたよな」という言葉も添えていました。この言葉をかけてもらったことで「自分の努力を見てくれていた」と理解でき、自らの失敗に正面から向き合うことができたそうです。

続いて、『部下の心を痛める「言うだけ上司」「聞くだけ上司」』という見出しのある頁に付箋を残しています。前述したとおり上司の対応や言葉一つで部下の心は折れてしまいます。見波さんは部下のサポートには下記のような「4つ基本」が必要であると説いています。多くの上司は得意なサポート手法に偏りがちですが、見波さんは目の前にいる部下が、今どういう状況にあって、何を求めているのか、4つのサポートをバランスを考えて提供することが大切だと訴えています。

  • 情報面のサポート … 知識や情報収集をベースにコンサルテーション的に解決法を示すこと
  • 情緒面のサポート … 共感したり、努力に気づいてあげたり、見守ったりして、これを本人に伝えることで精神的な支えになる働き
  • 道具的なサポート … いよいよ部下がたいへんになった場面で必要になる上司自ら手を差し伸べる「直接的な手助け」
  • 評価面のサポート … 上司が部下に、業績の結果のみならず、しっかりプロセスを含めて、フィードバックを伝えていくこと

付箋の数は絞っていましたが、見波さんの著書には『“打ち合わせのような飲み会"に潜む罠』『ほとんどの人が「泣かない」のは、危険なシグナル』『異動や担当替えが多い会社は、心が折れやすい』『SEが心に問題を抱える意外な理由』『キレ者上司の「アドバイス」は何が問題か』『なぜスピード出世の上司のもとでは部下の心は折れるのか』『「仕事だけ人間」が抱えがちな心の弱さ』など興味深い見出しの付いた箇所が数多くあります。すべて紹介することは難しいため、最後に『労働時間と心の健康の関係は薄い』に触れてみます。

誤解されないよう強調しなければなりませんが、見波さんも「労働時間の長短と身体的な影響とは明らかに関係があります」と述べています。しかし、多くのメンタル不調者の方々と話してきた経験から、長時間労働自体はメンタル不調の「1つの要因」にすぎないと確信するようになったそうです。長時間労働イコール不調の原因ではなく、その根底にある「仕事との向き合い方」「仕事に対する意識のあり方」の重要さを見波さんは指摘されています。好きな仕事で「楽しい、完成度を上げたい」という意識が強かった場合、長時間労働も心理面ではさほど苦痛になりません。

一方で、望まない嫌な仕事で「やらされ感」が強かった場合、とてつもなく時間が長く感じます。同じ長時間労働でも、どのような心の状態で向かっているかによって、メンタル面に与える影響は大きく違ってきます。もちろん極端な長時間労働をはじめ、過剰なノルマや限度を超えた仕事量がメンタル不調の大きな要因であり、すぐに是正しなければなりません。その上で仕事量だけを減らせばメンタル不調者が出なくなる訳ではなく、社員が仕事にやりがいを感じていないという状況を是正しない限り、メンタル面の不調者が出続けてしまうことを見波さんは指摘されていました。

前回記事「電通社員が過労自殺」の最後のほうで、過酷な時間外勤務が高橋さんを追いつめたことには変わりありませんが、せめて「心が折れる職場」でなければ最悪な事態は避けられたかも知れないと思うと残念でなりません、と記していました。パワハラやセクハラに類する言葉が投げかけられなければ、前述したような上司の適切なサポートがあれば、「やらされ感」の強い仕事でなければ、高橋さんは24歳の若さで社員寮の4階から身を投げることもなかったのではないか、今回の記事を書き進める中でそのような思いを強めていました。

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2016年10月16日 (日)

電通社員が過労自殺

前回記事「パワハラ防止に向けて」の最後のほうで『心が折れる職場』という著書の内容に繋げる予定だったことを書き残していました。今回の題材もその著書の内容に関わる側面があるため、最初、新規記事のタイトルは「心が折れる職場」でした。しかしながら電通の新入社員だった高橋まつりさんの過労自殺は数多くの論点や深刻に受けとめるべき警鐘が内在している問題であり、書き始めた直後に記事タイトルを「電通社員が過労自殺」に変え、この問題に絞って書き進めていくことにしました。

女手一つで2人の子どもを育てた母親に高橋さんは「一流企業に就職し、お母さんを楽にしてあげたい」と語り、東京大学文学部を卒業した後、昨年4月、電通に入社しました。半年間の試用期間を終えた高橋さんは10月からインターネットの広告部門に配属されました。業務増と人員不足による過酷な職場であり、心身ともに追い込まれた高橋さんは昨年末、クリスマスの夜、社員寮の4階から身を投げました。その高橋さんの自殺は今年9月末日、下記のとおり長時間労働による精神障害が原因と労災認定されました。

広告大手の電通に勤務していた女性新入社員(当時24)が昨年末に自殺したのは、長時間の過重労働が原因だったとして労災が認められた。遺族と代理人弁護士が7日、記者会見して明らかにした。電通では1991年にも入社2年目の男性社員が長時間労働が原因で自殺し、遺族が起こした裁判で最高裁が会社側の責任を認定。過労自殺で会社の責任を認める司法判断の流れをつくった。その電通で、若手社員の過労自殺が繰り返された。亡くなったのは、入社1年目だった高橋まつりさん。三田労働基準監督署(東京)が労災認定した。認定は9月30日付。

高橋さんは東大文学部を卒業後、昨年4月に電通に入社。インターネット広告を担当するデジタル・アカウント部に配属された。代理人弁護士によると、10月以降に業務が大幅に増え、労基署が認定した高橋さんの1カ月(10月9日~11月7日)の時間外労働は約105時間にのぼった。高橋さんは昨年12月25日、住んでいた都内の電通の女子寮で自殺。その前から、SNSで「死にたい」などのメッセージを同僚・友人らに送っていた。三田労基署は「仕事量が著しく増加し、時間外労働も大幅に増える状況になった」と認定し、心理的負荷による精神障害で過労自殺に至ったと結論づけた。

電通は先月、インターネット広告業務で不正な取引があり、広告主に代金の過大請求を繰り返していたと発表した。担当部署が恒常的な人手不足に陥っていたと説明し、「現場を理解して人員配置すべきだった」として経営に責任があるとしていた。高橋さんが所属していたのも、ネット広告業務を扱う部署だった。電通は00年の最高裁判決以降、社員の出退勤時間の管理を徹底するなどとしていたが、過労自殺の再発を防げなかった。代理人弁護士によると、電通は労基署に届け出た時間外労働の上限を超えないように、「勤務状況報告書」を作成するよう社員に指導していたという。電通は「社員の自殺については厳粛に受け止めている。労災認定については内容を把握していないので、コメントは差し控える」としている。【朝日新聞2016年10月8日

10月14日には東京労働局過重労働撲滅特別対策班と三田労働基準監督署が電通の本社を抜き打ちによる強制立ち入り調査に入りました。立ち入り調査は同日、関西支社など三つある支社すべてに対しても行なわれました。社会保険労務士の榊裕葵さんのサイト「電通への強制捜査、その真意を読み解く4つのポイントとは?」の中で、「一罰百戒」の意味を持つ国策捜査であったという一面も指摘しています。

「国策捜査が良いか悪いかの議論はここではしないが、国が過重労働の取り締まりにどれだけ本気であるかを国民に知らしめたという点においても、今回の立ち入り調査は重要な意義があったと考えられる」とし、長時間労働を美徳と考えたり、美徳とまでは言わずとも「必要悪」だと考える経営者や管理職はまだまだ少なくないので、そのような価値観を打ち壊すきっかけになってほしいものであると主張され、さらに次のような見解を示されています。

私の肌感覚ではあるが、広告代理店、テレビ局、総合商社のように、激務であるが給与水準が高い会社に関しては、これまで「十分な待遇が保証されているから、激務も容認される」というような暗黙のトレードオフが存在していたのではないかと感じる。だが、今回の電通への立ち入り調査をひとつのきっかけとして、そのようなトレードオフは正当化して良いものではなく、過重労働が発生していれば、どのような企業であっても取り締まられるべき、という社会的風潮の形成が進むのではないかと私は思う。

国策捜査かどうかは分かりませんが、菅官房長官も「過重労働防止に厳しく対応する」とコメントしているとおり行政側に過重労働を許さないという意志が高まっていることは確かだろうと思っています。このような動きは歓迎すべきことであり、紹介した上記の榊さんの見方や主張の大半に強く共感しています。とりわけ電通の場合、1991年にも入社2年目の男性社員(当時24歳)が過労自殺していました。遺族が起こした損害賠償請求訴訟は最高裁まで争われました。

2000年に「会社は社員の心身の健康に注意義務を負う」と判断され、電通側が「事件を反省し、不幸な出来事が起こらないよう努力する」と謝罪し、遺族側と和解していました。それにもかかわらず、悲劇が繰り返される、たいへん残念で憤るべき企業体質だと言えます。和解後、電通は「ノー残業デー」を設定し、部署ごとに適正な勤務管理のための方針を定めるなど、長時間労働を抑制する取り組みを行なってきたと説明しています。しかし、下記新聞記事が伝えるとおり電通の体質は何も変わっていなかったようです。

電通に受け継がれる「鬼十則」 遺族の弁護士側が、高橋さんの入退館記録を元に集計した残業は、10月が130時間、11月が99時間となっていた。休日や深夜の勤務も連続していた。これに対し、武蔵野大学の教授が「残業100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない」などとインターネット上に投稿していたことが批判を呼ぶ。厚生労働省が過労死リスクが高まる「過労死ライン」として示している時間は、残業80時間だ。

電通では平成3年にも、社員が過労自殺している。損害賠償請求で最高裁までもつれ、12年に「会社は社員の心身の健康に注意義務を負う」と判断された。弁護士側は、電通の過労体質を指摘した上で、第4代吉田秀雄社長の遺訓とされる「鬼十則」を明らかにした。電通の社員手帳に掲げられているという十則の一部を紹介する。

  • 取り組んだら「放すな」、殺されても放すな、目的完遂までは。
  • 仕事とは、先手先手と「働き掛け」で行くことで、受け身でやるものではない。
  • 頭は常に「全回転」、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそういうものだ。

高橋さんのメッセージからは、上司から「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」と言われるなどのパワハラをうかがわせる内容もあった。東京労働局の過重労働撲滅特別対策班などは14日、労働時間管理の実態を調べるため、労働基準法に基づき、電通に立ち入り調査。まつりさんのほかにも問題ある働き方がなかったか、全社的な状況を調べている。【産経新聞一部抜粋2016年10月15日

半世紀前になる第4代社長だった吉田秀雄社長の遺訓「鬼十則」は男性社員の自殺後、新入社員らの研修の教本からは外されていました。しかし、社員手帳には掲載されたままだったそうです。さらに驚くべき事実が遺族側の弁護士によって明らかにされています。高橋さんは上司からの指示で「勤務時間報告書」に実際の時間外勤務よりも少ない69.5~69.9時間と入力していた疑いが持たれています。

電通は月の時間外勤務の上限を月70時間とする36協定(サブロク協定)を労使で結んでいます。そのため、「勤務時間報告書」には70時間にギリギリ及ばない69.5 ~ 69.9という数字の入力を強いられたものと見込まれています。このような違法な工作は論外であり、社員手帳に「鬼十則」を残していたことなどをはじめ、男性社員を過労自殺に追い込んだ教訓がまったく生かされていなかったと言わざるを得ません。和解が成立した際、再発防止を誓った時の言葉が空しく、お二人のご遺族の悲しみを倍加させているはずです。

労働基準法第36条に基づく36協定については機会を見て詳述したいものと考えていますが、労使で締結した36協定の労基署への届出がなく、時間外勤務をさせると違法となります。かつてワタミは過労死ラインの1.5倍にあたる月120時間を上限とする36協定を締結していたようですが、結びさえすれば合法という解釈も極端な話だろうと思っています。ちなみに安全衛生法では月100時間を超えた場合、産業医との面接を必要としています。

いずれにしても電通の事例を「他山の石」とし、すべての事業所が過労死を防ぐための対策に全力で取り組まなければなりません。特に36協定を結ぶ一方の当事者である労働組合が前面に出て、過労自殺や過労死を撲滅させる影響力を発揮していかなければならないはずです。言うまでもなく、私どもの組合、私自身への戒めの言葉としてかみしめています。その一助として前回記事でも紹介した「人員確保・職場改善要求アンケート」に毎年取り組み、各職場の時間外勤務の実態把握に努めながら必要な部署に必要な人員配置を市側に求めてきています。

最後に、電通の隠蔽工作などを疑うLITERAの記事や産経新聞の上記報道によると、高橋さんは上司から「君の残業時間は会社にとって無駄」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などとパワハラ、セクハラとも思える言葉を投げつけられていたようです。過酷な時間外勤務が高橋さんを追いつめたことには変わりありませんが、せめて「心が折れる職場」でなければ最悪な事態は避けられたかも知れないと思うと残念でなりません。

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2016年10月 9日 (日)

パワハラ防止に向けて

今年6月に投稿した記事「新しい判断で消費増税再延期」の冒頭に「パワハラ防止に向けた私どもの組合の取り組みに関しては機会を見て改めて取り上げさせていただくつもりです」と記していました。「機会を見て」が直後の記事の題材になる場合もありますが、かなり月日を経過させてしまう場合もあります。後者の場合、たいへん申し訳ないものと思いながらも「機会を見て」と記したことを決して忘れないようにしています。

ようやく今回、パワーハラスメント、いわゆるパワハラを題材にした新規記事を書き進める機会とさせていただきます。自治体職員によるパワハラの問題がマスコミ報道されるケースも少なくありません。先月には自治労がパワハラ実態調査の結果を公表しました。今年5月に自治労組合員5万人を対象にした調査で、私どもの組合も協力していました。前回調査から6年が経過していますが、前回の調査結果と同様、5人に1人がパワハラの被害を受けていることが明らかになっています。

自治体関連の労働組合でつくる自治労(約83万人)が組合員ら約10万人を対象にしたパワーハラスメントに関する調査で、3人に1人が上司などからパワーハラスメントを受けた経験があると回答したことが8日、分かった。複数回答で、パワハラで「心療内科や精神科に通院した」が7.5%、「休みがちになった」も5.3%に上り、職場で追い込まれている状況が浮かんだ。自治労によると、パワハラに関する大規模な調査は初めて。自治労は「民間の職場でも同じような実態があるのではないか。早急に取り組まねばならない」としている。

自治労は5~9月に調査。組合員の地方公務員ら約10万3800人にアンケートを配布し、消防職員約2600人を含む約6万2200人(うち男性55.5%)から回答を得た。平均年齢は40.6歳。過去3年間でパワハラを受けた人は全体で21.9%に上った。男女別では男性は19.7%、女性は24.5%がパワハラがあったと答えた。さらに3年より前に受けた人は10.6%だった。

過去3年間で受けたパワハラは「大声など感情的にしかる」が16.4%で一番多かった。「ささいなミスをしつこくしかる」13.3%、「意向を無視した一方的な指示をする」12.8%、「性格や容貌をからかったり非難する」10.3%と続いた。パワハラに対して職場で取った行動では「何もしなかった」が42.4%。「先輩や同僚に相談した」33.0%を上回った。【日本経済新聞2010年12月8日

上記の報道は6年前のものですが、その深刻な結果を受けとめ、自治労はもちろん各自治体もパワハラをなくすため、様々な努力を重ねてきています。実態把握、マニュアル作成、職員研修、相談窓口の設置など前回調査に比べてパワハラ対策が急速に進んでいることを最新の調査から把握できています。組合員のパワハラに対する周知度も高まっていますが、残念ながら被害状況は前回と同様の結果を示しています。

ちなみに上記報道は「3人に1人」となっていますが、自治労としては前回も今回も「5人に1人」という結果を把握しています。いずれにしても高い比率で推移している状況には変わらず、対策が功を奏していないというよりも、それ以上に自治体職場の中でパワハラが横行する素地の広がりがあり得ることを危惧しています。そのため、仮にパワハラ対策が進んでいなかった場合、被害状況の数字はもっと高くなっていたのかも知れません。

横行する素地として以前の記事「脱成果主義の動き」「協力関係を築く評判情報」の中で提起した問題意識が思い浮かんでいます。さらに自治体行革の柱とされがちな職員数の削減が急激に進んだ結果、職員一人ひとりに余裕がなくなり、他者を思いやったり、積極的に手助けするという組織風土が後退しがちな傾向にも注意しなければなりません。能力や経験が不足した部下や後輩らに対し、苛立ちを前面に出した叱責が増えている可能性に思いを巡らしています。

以前の記事(「投資」となるパワハラ対策)の中で綴った要旨ですが、企業側にとってパワハラ対策はセクハラ対策と同様、労務管理の責任が厳しく問われるようになっています。これらの対策は「コスト」がかる厄介なものだと敬遠され、「あれはパワハラ、これはセクハラと言われたら、逆に職場がギスギスしてしまう」とネガティブにとらえられがちです。しかし、パワハラ対策は「コスト」ではなく、生産性向上のための「投資」であり、良好な人間関係を築いていくパワハラ防止対策は従業員のやる気や目的意識を高め、組織の生産性の向上に繋がると見られています。

今回の自治労のパワハラ調査で「言葉も内容も知っている」は87.9%に上っています。「言葉は知っているが内容はよく知らない」と答えた組合員は11.6%となっています。後者の数字を少ないと見るのか、多いと見るのか分かりませんが、内容は知っているつもりでも実際の場面で、パワハラの加害者となっていることに気付いていない人も多いのではないでしょうか。至らない点は手取り足取り指導することが「部下のため」であり、称賛されるべき行為だと考え、パワハラであることを自覚していない上司は多いようです。

パワハラを許さない職場づくりのためには、まず皆がパワハラについての知識を深めることが必要です。セクハラと同様に「それって、パワハラじゃないですか?」と気軽に指摘できるようになれば、自覚のなかった加害者に自制を促す機会となり得ます。このような問題意識のもと7年前の安全衛生委員会で、組合側から「パワハラ対策も安全衛生委員会の重要な課題とすべき」と要請し、即座に賛同を得られ、安全衛生委員会としてパワハラ対策についても力を注いでいくことを確認しました。

その頃からパワハラによる自殺が労災認定されるようになっています。パワハラは、職場から撲滅すべきものであることは言うまでもありません。労使双方でパワハラに対する定義を共通理解し、実態の点検を進めながらパワハラと認定すべき行為が発覚した際は適切な対応に努めています。また、セクハラ防止についても安全衛生委員会や労使での重要な課題としていますが、2年前に「職場におけるハラスメントに関する相談又は苦情の処理要綱」を定め、パワハラとセクハラの相談窓口等の一本化をはかっています。

相談窓口やハラスメント防止等対策委員会には組合役員も加わっています。自治労の調査で、重大なパワハラ被害を受けた場合、専門機関に委託した外部設置窓口に相談すると答えた方が54.3%と半数以上となっています。自治体内部の窓口では「プライバシーが守られないのではないか」という声が多いようです。確かに内部の窓口に相談することは敷居が高いのかも知れませんが、各自治体が責任持って正式な相談窓口等を整えることは重要な動きだと考えています。

組合の大切な役割の一つとして、組合員が何か困った時に相談を受けています。労働条件の問題であれば労使間の窓口となって解決をはかり、生活支援であれば労働金庫全労済と連携しながら対応し、法律相談であれば顧問契約している法律事務所を紹介しています。いわゆる「駆け込み寺」の役割があり、そのような役割が果たせないようであれば組合の存続意義を問われかねません。

長く組合役員を務めているとパワハラに関する相談も数多く受けてきました。その際、加害者にあたる管理職の方に直接事情を伺うと、まず間違いなく「パワハラという自覚はない」という答えが返ってきます。前述したとおり上司として当然行なうべき指導や業務命令であるという認識が大半でした。被害を受けている組合員の救済が最優先であることは言うまでもありませんが、無自覚のままパワハラを繰り返す上司の言動が改まることを強く願っています。

このような言動はNGであることをしっかり自覚することによって、第二、第三のパワハラ被害者を生じさせないようになるはずです。パワハラかどうかの線引きを明確化でき、再発させないことは、部下にとっても組織にとっても、さらに上司本人にとってもプラスに繋がる話だと考えています。職員が健康でいきいきと働き続けられ、組織の士気や業務効率を高めるためにも、パワハラを許さない職場づくりが今後も重要な課題だと言えます。

その一環として毎年、組合が職場ごとに実施する「人員確保・職場改善要求アンケート」の中に「管理職によるパワーハラスメントについて、受けた、見聞きした例などありましたらお書きください」という一項目を加えています。実態を把握し、早急に必要な手立てを講じることを目的としています。加えて、加害者と見込まれる管理職を特定できる調査を毎年行なうことで、管理職の方々にパワハラに至っていないかどうか意識啓発に努めていただき、抑止効果が生み出せることも期待しています。

実は最近、エディフィストラーニングの主席研究員で、日本メンタルヘルス講師認定協会の代表理事である見波利幸さんの著書『心が折れる職場』を読み終えていました。今回、パワハラの問題から『心が折れる職場』の話に繋げてみるつもりでした。いつものことですが、ここまでで相当長い記事となっています。そのため、これも常套句になりつつありますが、『心が折れる職場』の話は機会を見て(coldsweats01)改めて取り上げさせていただくつもりです。

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2016年10月 1日 (土)

脱・雇用劣化社会

連合三多摩の「政策・制度討論集会」が火曜午後に催されました。政策・制度プロジェクトの一員であるため、一昨年と昨年は分科会の座長を務めました。その時の内容をもとに「子ども・子育て支援新制度について」「保育や介護現場の実情」というブログ記事を投稿しています。今回、分科会の開催中、特定の役割から外れていたため、関心の高いほうのテーマの分科会を選ぶことができ、さらに客席に座ってじっくり講師3人のお話を伺うことができました。

私が選んだ第1分科会のテーマは「良質な公共サービスを求めて~脱・雇用劣化社会~」でした。地方自治総合研究所研究員の上林陽治さんが「公共の現場・非正規雇用の現状」、多摩市の元契約課長が「多摩市の公契約条例~現状と課題~」、自治労東京都本部組織局オルグで八王子市の非正規職員だった方が「雇用労働政策における地方自治体の役割~労働者の視点から~」というタイトルでお話いただきました。

分科会の冒頭、今年2月に放映されたNHK『クローズアップ現代』の内容が紹介されました。「広がる“労働崩壊”~公共サービスの担い手に何が~」というタイトルが付けられ、今回の講師である上林さんのインタビューがあり、多摩市の公契約条例についても取り上げられていたとのことです。この分科会のために制作されたような内容であり、それぞれの生の声を直接伺える期待が高まる絶好なタイミングでの紹介でした。番組の概要はNHKのサイトに次のとおり掲げられています。

今、保育や介護、建設現場など、公共サービスや公共工事を担う現場で、低価格の受注競争に巻き込まれ、経済的に追い詰められる労働者が増えている。京都市内のある保育所では財政削減の一環での民間委託に伴い、契約保育士全員が職を失った。このままでは働く人が食べていけなくなり、保育の質や安全が低下するのではと保護者に不安が広がっている。

背景にあるのは、自治体が推し進めるコスト削減。公共工事を担う建設現場では若い後継者が育たず、労働者の技術の継承などが難しくなっている。国の調査によると、全国の自治体の半数近くが、違法に公共工事の予定価格を下げていることが明らかになり、そのしわ寄せが現場の労働者の雇用を劣化させ、さらなるワーキングプアを生み出している。どのように労働者の生活を守り、公共サービスの質を維持していくのか。新たな雇用政策を打ち出した自治体の模索も交えながら、対策を考える。

ちなみに当ブログで実名をお示しするかどうかはプロフィール欄に記載しているとおりです。今回、上林さんにブログのことを伝えられませんでしたが、NHKの番組にも登場されるような方ですので実名で紹介させていただいています。まず上林さんから正規公務員数2,738,337人に対し、非正規公務員数644,725人であり、自治体職員の5人に1人が非正規である現状が報告されました。

都道府県や政令市よりも住民に近い市町村職員のほうが非正規公務員の比率は高く、3人に1人が非正規公務員であり、中には過半数に届くような自治体があるという説明を受けました。非正規公務員は女性が多く、正規・非正規での賃金格差があるため、雇用形態を装った間接差別であると上林さんは述べられています。ワークルールの不充分さも目立ち、官製ワーキングプアの問題に繋がっています。

「働く貧困層」と言われるワーキングプアという言葉は、もともとアメリカで広がっていたものですが、2006年7月にNHKが「ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない」を放映してから日本でも広まっていきました。リンク先の「官製ワーキングプア研究会」のサイトで上林さんは「臨時・非常勤職員の場合は直接に、委託事業者の労働者に関しては間接的に、まさに公共サービスの実施者であり、発注者である国や自治体がワーキングプアを作っている」と問題提起されています。

分科会を通し、非正規公務員の急増の理由と結果を上林さんは次のとおり分析しています。①非正規公務員の定員削減、②地方財政の逼迫から安価な労働力への代替の誘引、③行政需要の増大(「家計」の縮小から生活保護世帯増大や保育需要の増大)を理由にあげられ、正規公務員に代替する非正規公務員の急増に繋がっていると説かれています。その結果、ベテランの臨時職員、クラス担任の非正規保育士、ワーキングプアの非正規ケースワーカーも多くなっている現状を上林さんは憂慮されていました。

それでは、どうするのか、上林さんは「韓国・ソウル市に学べ」と訴えています。直接雇用と間接雇用を合わせた非正規職約7,300人の正規職化をソウル市は進めています。予算面では外注のコスト(利潤、一般管理費、付加税など)を削減できるため、短期的には追加予算なしに賃金引上げ、処遇改善が可能となりました。長期的には人件費や福利厚生の増加などコスト上昇の可能性も補足されていましたが、行政のアウトソーシングが必ずしもコスト純減とならない構図は日本も同様だと言えそうです。

2人目の講師の方からは公契約条例についてお話を伺いました。NHKの番組紹介の内容に記された「新たな雇用政策を打ち出した自治体」とは多摩市のことです。分科会では2011年12月に施行した多摩市公契約条例の現状と課題が報告されました。これまで当ブログでは「公契約制度の改革って?」「『鉄の骨』と公契約条例」という記事を投稿しています。公契約条例は千葉県野田市が先鞭をつけ、全国に広まったとは言え、今のところ16自治体にとどまっています。

その中で「多摩市の条例は質が高い」と上林さんは評価されていました。2010年4月、現職の市長が選挙公約の一つとして「公契約条例の制定」を掲げて初当選しました。市発注の工事・委託等に携わる労働者の賃金、労働条件の低下を防止することで、①労働者の生活安定、②事業者は適正な競争による経営の安定、③市民は安全かつ良質なサービスを享受でき、地域経済や地域社会を活性化することを目的としています。

この条例施行当時、担当部署の契約課長として尽力された方を分科会の講師としてお招きしていました。そのため、市内事業者アンケートや懇談会の実施など制定までの経緯等を詳しく説明していただきました。公契約条例は契約自由のもとにあり、地域社会全体を縛るものではないため、法的な問題をクリアしているとのことです。労務台帳の提出等も含め、事業者に負担をかける側面がありますが、昨年実施した事業者アンケートでは好意的な評価が増えているそうです。

「小さく生んで、大きく育てる」という考え方を示された上、今後の課題として60歳以上を対象外にしている点、複数年契約に関して最低賃金の上昇等への対応などがあげられていました。今後も改善に努め、市・労働者・事業者にとって、より良い条例に育てていき、公契約制度というツールを活用し、より良い地域社会を作り上げていきたいと話されていました。そのためにも制度の周知と理解に重点を置いた取り組みを進めていきたいとし、30分ほどのお話を結ばれていました。

3人目の講師は八王子市役所の臨時職員から嘱託員を経験され、現在は自治労都本部の組織局で働いている方です。八王子市臨時・非常勤職員組合の役員も務められ、まさしく非正規公務員当事者の視点から体験談等をお話いただきました。臨時・非常勤職員組合の取り組みには3つの柱があり、①雇用年限、雇用上限の撤廃⇒安心して働き続けたい、②賃金・報酬のアップ、一時金支給、前歴加算の実現⇒安定した暮らしを送りたい、③女性に関わる制度の改善⇒産休、育休、生理休暇などの整備に力を注がれているとのことです。

実際に改善できた運動の成果の報告がありましたが、まだまだ収入や雇用継続に対する不安の声は高いようです。保育園、学校給食、図書館などに非常勤職員が多く従事し、複雑化・多様化する住民ニーズに応えるために奮闘していることを語られていました。臨時・非常勤職員無くしては公共サービスが提供できない現状であり、より良い公共サービスの実現のためにも非正規公務員の働きやすい職場環境の確保や労働条件の改善が欠かせないと訴えられていました。

分科会の終了時刻が迫っていたためか会場からの発言は1人にとどまりましたが、NHKの『クローズアップ現代』の紹介から始まり、3人の講師の方のお話、その後のパネルディスカッションまで3時間に及んだ「良質な公共サービスを求めて~脱・雇用劣化社会~」という分科会はたいへん中味が濃く、貴重な時間だった言えます。「非正規雇用の話、インデックス」「春闘期、非正規雇用の課題」に記しているとおり私どもの組合は多くの非常勤職員の皆さんを組織化し、その待遇改善に向けて精力的に労使協議を重ねています。

今回参加した分科会の内容を受けとめ、非正規雇用の課題を改めて組合運動の柱とし、当事者の声を反映した切実な組合要求を前進させなければならないという思いを強めています。最後に、土曜日には自治労都本部の組織集会があり、その中で自治労本部から「非正規労働者10万人組織化推進方針」の提起を受ける内容が組み込まれていました。いつものことながら、ここまでで相当長い記事になっています。そのため、今回の記事に関連した話題ですが、組織集会の話は機会を見て、次回以降の記事で取り上げられればと考えています。

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