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2016年9月10日 (土)

『総理』を読み終えて Part2

前回記事「『総理』を読み終えて」の最後に「『総理』の書評にとどめず、安倍首相の具体的な政治的な判断について著書の内容に絡めながら繋げてみようと考えていました」と記していました。そのため、今回の記事タイトルは迷わず「Part2」を付けて書き進めてみます。また、その言葉の後に続けたとおり評価すべき点、注文を付けたい点を織り交ぜた「批判ありき」ではない自分なりの「答え」に沿った論評を加えてみるつもりです。

これまで当ブログでは安倍首相の具体的な言動や判断について批評してきました。「人質テロ事件から思うこと」「マイナーな情報を提供する場として」「イライラ答弁が目立つ安倍首相」「『安倍晋三「迷言」録』を読み終えて」「安倍首相の改憲発言」「核先制不使用、安倍首相が反対」など再び総理大臣に返り咲いた以降の記事だけでも相当な数に上ります。それらの記事内容は安倍首相を高く評価されている方々からすれば不愉快に思われる記述も多かったかも知れません。

山口敬之さんは著書『総理』の中で「立場の左右を超えて、これほど評価が分かれる首相はほかにはいないだろう」と述べられています。私も以前の記事「改めて言葉の重さ」の中で、人によってドレスの色が変わるという話題に接した時、安倍首相のことが頭に思い浮かんだ近況を綴っていました。見る人によって、ドレスの色が白と金に見えたり、黒と青に見えてしまうという話を紹介し、安倍首相に対する評価や見方も人によって本当に大きく変わりがちなことを書き残していました。

さらに山口さんは安倍首相への評価は「ポジテイブなものもネガティブなものも極めて感情的である」と記されていました。私自身は当ブログで安倍首相に関わる話を綴る際、そのような感情的な批判だと取られないように極力注意しています。誹謗中傷や「批判のための批判」は論外であり、ブログを投稿するにあたり、安倍首相を支持されている方々にも届くような言葉や記述内容に努めています。

このような点が問題ではないか、このような事態に繋がる恐れがあるのではないか、具体的な事例や論点に対し、私自身の「答え」に照らしながら意見や注文を加えてきているつもりです。安保関連法案の賛否を巡る対立の際は「安倍首相が戦争をしたがっている」というような決め付けた言葉は一度も発せず、この法案の問題点について自分なりの問題提起(参考記事「改めて安保関連法に対する問題意識」)を重ねていました。

ちなみに首相と総理、首席宰相と内閣総理大臣を略した呼び方ですが、日本の場合は同義語だと言え、特に違いはないようです。これまで当ブログでは首相という言葉を多用してきていますが、前回記事では『総理』という書籍を取り上げた関係上、安倍総理と記していました。今回、以前の記事を紹介したこともあり、改めて安倍首相という表記に戻しています。横道にそれた話で恐縮でしたが、自分自身、首相と総理という呼び方に何か違いがあるのかどうか疑問に思ったため、ネット上で少し調べてみました。

さて、『総理』を読みながら「なるほど」と合点のいった箇所がありました。3年前、あるメディアの報じたシリア情勢に関わる内容がたいへん印象深かったことを覚えています。今でも詳しく覚えている報道内容であり、その時に伝えられた顛末が詳しく『総理』の中に綴られていました。安倍首相の判断に賛意を示せることが少ない中、当時、報じられた内容の対応には文句なく賛同できたことを鮮明に覚えています。ほぼ毎晩見ていたTBS『NEWS23』の報道でした。

シリア情勢が緊迫している。軍事介入が秒読み段階にはいり、早ければきょう29日(2013年8月)にも空爆が始まるのではないかという米メディアの報道もある。シリア政府が内戦で化学兵器を使用したというのが理由だが、その証拠はまだ明確に示されていない。思い出すのは10年前のイラク戦争だ。大量破壊兵器の保有を大義名分としながら、結局、確認されなかった。その二の舞いの恐れはないのか。

明確な証拠示せず…イラクの二の舞恐れる米国内 「8時またぎ」コーナーでワシントン支局の山口敬之記者が最新ニュースを伝える。「日本時間のけさ7時から(2013年8月29日)、オバマ大統領がテレビのインタビューに答え、アサド政権が自国民に化学兵器を使用したと結論付けたと初めて断言しました。あとは大統領の最終決断を待つばかりです」

司会のみのもんた「大統領が結論付けた根拠は、どんなことろから来ているのですか」

山口「その根拠は、いずれかのタイミングで示すものとみられています」

みの「アメリカ国内ではどんな反応なのですか」

山口「正直なところ、シリアの内戦に深入りすべきでないという意見が大勢を占めています。メディアの世論調査でも2割とか9%しか支持していないという結果も出ています。 しかし、先週水曜日(2013年8月21日)にダマスカス近郊で子どもや女性が化学兵器とみられる攻撃でもだえ苦しむ映像が全世界に配信され、何もしないわけにはいかなくなり、限定的かつ計画的な軍事行動に踏み切らざるを得なくなったというのが実情のようです」

化学兵器の使用をシリア政府は否定しており、国連の調査団が調査に乗り出しているが、銃撃を受けるなどアクシデントもあり、厳密な調査ができるかどうか難しいとみられている。また、武力行使に国際的なお墨付きを与えるのは国連安保理の決議だが、アサド政権を支持するロシアの反対で採択の見通しは立っていない。【あさチャン2013年8月29日

ネットを検索しましたが、さすがに『NEWS23』が報じた当時の内容そのものは見当たりません。ただ上記のとおり同じTBSで、朝の報道番組『あさチャン』の内容を伝えるサイトを見つけることができました。『総理』の著者である山口さんはワシントン支局長を務めていたため、アメリカ国内の様子を伝えていました。この緊迫化したシリア情勢の中、『NEWS23』と『総理』の中で明らかにされている内容は次のとおりでした。

2013年8月、シリア国内で化学兵器が使用され、子供を含む多数の一般市民が犠牲になった。同31日、オバマ大統領は記者会見を開いてシリアへの軍事攻撃を行うと発表し、国際社会に支持と協力を訴えた。日本に対しても様々な外交ルートを通じて「空爆に着手したら即座に支持を表明して欲しい」という要請が届いていた。だが、安倍総理はウンと言わなかった。大量破壊兵器を所有しているとしてサダム・フセイン政権を攻撃したが、結局、大量破壊兵器はなかったイラク戦争を即座に支持した小泉純一郎首相の轍を踏みたくなかったからだ。

オバマ大統領は、わざわざ安倍総理に電話をかけ、「アサド側が化学兵器を使った明確な証拠がある」と述べ、支持を求めたが、それでも安倍総理は首を縦に振らなかった。さらにオバマ大統領は、G20の場で安倍総理と会談し、「アサド側が化学兵器を使用した明確な証拠を持っている。空爆を支持して欲しい」と迫ったが、安倍総理は「明確な証拠の開示が必要」だとして、オバマ大統領直々の要求を突っぱねた。そこで仕方なく米国は、機密情報―ある瞬間を捉えた映像で、アサド政権が自国民に化学兵器を使ったことが一目でわかるもの―を開示した。それでようやく日本政府は空爆支持を表明した。

私がよく覚えていた上記のような『NEWS23』の報道内容が『総理』の中でも克明に記されていました。他のメディアはそれほど詳しく取り上げていなかった記憶もあったため、安倍首相と懇意な関係のある山口さんが情報発信者だと分かり、改めて合点がいったところです。結局、その年の9月14日、ロシアのプーチン大統領の斡旋によってシリアの化学兵器放棄案が合意されたことでアメリカの軍事攻撃は見送られていました。

イラク戦争を手痛い教訓とするのであればオバマ大統領の要請に対し、毅然とした対応をはかった安倍首相の判断は筋が通ったものであり、率直に評価すべきものと思っています。対米従属という批判を受けたくないため、このような対応を取ったのかも知れませんが、前述したとおり安倍首相の判断に私自身が賛意を示せる希少な事例だったと言えます。現在も混迷が続くシリアの内戦ですが、武力によって容易に平和が築けないこともイラク戦争の大きな教訓の一つだったものと考えています。

詳しい知識がある訳ではなく、専門家でもない私が安倍首相の外交を論評することに僭越さを感じていますが、もう少し続けさせていただきます。必ずしも良好ではない中国や韓国との首脳会談を実現させている安倍首相の外交姿勢や努力には素直に敬意を表しています。「地球儀を俯瞰する外交」と称し、世界各国を精力的に外遊する安倍首相の労苦にも頭が下がりますが、その労力に見合った成果に繋がるのかどうか懐疑的に見ています。

特に日本の財政状況の厳しさを勘案した際、訪問した国に対する支援策にかかる費用面の問題も気になっています。もちろん数多くの国に日本の首相が訪問し、対話を重ねていく方向性を否定するものではありません。あくまでも労力や費用対効果の面での問題提起であり、もう少しメディアもそのような論点での検証を加えて欲しいものと思っています。『総理』の内容から離れつつありますが、今年7月に安倍首相はアジア欧州会議(ASEM)首脳会議で「法の支配を重視し、力による一方的な現状変更を認めない」と中国の動きを意識した演説を行なっています。

その一方で、9月に安倍首相はウラジオストクでプーチン大統領と会談し、「新しいアプローチ」に基づき、北方領土問題を含む平和条約締結交渉を継続する方針を確認しています。繰り返しになりますが、このような首脳会談を実現している安倍首相の外交姿勢や努力を評価しています。ただウクライナからクリミア半島を強制編入したロシアは、欧米や日本から経済制裁を科せられています。ロシア側には「日ロ接近」でG7を分断する思惑があることも間違いないようです。交渉を急いで「力による現状変更を認めない」国際秩序を揺るがしてはならない、そのような国際社会の声は安倍首相の耳にも届いているはずです。

しかしながら安倍首相がプーチン大統領に直接「力による一方的な現状変更を認めない」と訴えたという話は聞こえてきません。安倍首相には緻密な戦略や深い意図があるのかも知れませんが、今のところダブルスタンダードだと見られても否定できないような気がしています。とは言え、中国とも対話し、ロシアとも対話する、このような外交姿勢は本当に重要なことです。だとすれば、あえて安倍首相の口から「力による一方的な現状変更を認めない」と大見得を切らなくても良いのではないかと個人的には思っています。

最後に、民進党代表選には蓮舫代表代行、前原元外務大臣、玉木国会対策副委員長が立候補しています。9月15日の臨時党大会で新しい代表が決まります。今回の記事に取り上げたとおり安倍首相の判断を全否定しようとは考えていませんが、すべて正しいのかどうか的確なチェック機能を果たせる野党の存在感が欠かせないはずです。ミスジャッジが重なれば政権の座から下りなければならないという与党側の緊張感も必要です。そのような意味合いから野党第一党の民進党代表選を注目しています。これまでも当ブログで民主党代表選について取り上げてきましたので、新代表が決まった後、機会を見て思うことを綴らせていただければと考えています。

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コメント

実はワタクシ、前回のエントリで管理人様が「総理」という用語を採用されていたことに、「ん、いつもの流儀と違う?どうしたんだろう??」と思っていました。

ワタクシは現行憲法下の法制においては「首相」という文言は登場しないことに鑑み、可能な限り「(内閣)総理(大臣)」という言い回しを原則とすることを基本にしてきました。
そうしたワタクシからみて、管理人様が「首相」という言い回しを原則として用いる流儀(文体?)なのだということも気づいていましたので。

誤解をして欲しくないのですが、ここで用法の是非を論じるつもりはないのですよ。
日本の今の行政組織では、「一般名としての”首相”という役割」に相当する役割を担う官職は「内閣総理大臣」ですから、事実上同義だろうと思っていますので。
乱暴な例えですけど、「電子オルガン」と「エレクトーン」という文言の相違みたいな感じで、「首相」と「内閣総理大臣」という言葉を理解していますから。

個人的な感性としては、現憲法下での話では「総理」という言い回しを好む一方で、帝國憲法下での話では「首相」という言い回しを好んでいます。もちろん、法令用語を厳密に使う場面・両者の用法が混ざる場面では、原則「(内閣)総理(大臣)」です。
日本国憲法では、内閣総理大臣が国務大臣の任免権を有している関係上、制度上は「内閣を -総理する- 大臣」と解しても問題はないように思う一方、かつての大日本帝國憲法では、各国務大臣が単独輔弼するという関係上、「内閣総理大臣は、文字通り、 -首席(主席)の国務大臣- 」であって「内閣を -総理する- 大臣」と解するにはどうか?と思う面があったので。

とはいえ、結局はその場の雰囲気や気分で「首相」だったっり「総理」だったり、適当に使っているので、余り大きいことは言えません。もちろん、法令用語を厳密に使う場面では「(内閣)総理(大臣)」です。
※なら、最初からアレコレ細かいことを言うな、ポカッ☆ という説はありますが。。。(-_-;;)

駄文&長文、失礼致しました。(汗;;

投稿: あっしまった! | 2016年9月11日 (日) 23時30分

民進党の代表選はどうなるのでしょうか。蓮舫氏の二重国籍疑惑が騒がしいですがね。

民進党の代表しだいで、今後の政権交代可能な緊張感を取り戻せるか、あるいは政権を虐めるだけの安定野党になるのか。だれもが思うように日本は着実に衰退していきます。その責任は明確に自民党にある。しかし自民党は選挙の為に、投票してくれる人が望む現状の既得権を維持する政策に注力する。まあ変化を嫌う国民性といいますか。

だから変わらず自民党が政権にいます。

日本を変えるのは現状を壊すほどの改革以外ないのですが、大阪の都構想を見てわかるように、都構想の是非は別にして現状を守る為に自民から共産はまで手をくむ。そしてそれを支持する団体、宗教、組合などなど

いろんな意味で外圧がないと変わらない国民性なんでしょうかねえw

投稿: nagi | 2016年9月13日 (火) 11時36分

蓮舫氏が二重国籍を認めましたね。変なとぼけかたをするから次から次へと過去のことをほじくり返されて整合性を問われることになる。

最初の段階で離脱日時の証明を出すか、あるいは無いならそれを認めて調査すると明言したほうが良かったですね。

変に論点をすり替えて、日本人アピールしたのが余計にネットの火をつけたように思えました。

代表になるかどうか未定ですが、最初からミソがついた気がしますね。

投稿: nagi | 2016年9月13日 (火) 15時47分

あっしまった!さん、 nagiさん、コメントありがとうございました。

あっしまった!さん、前回記事の「安倍総理」という普段の表記との違いにお気付きだったとのことで、それほど拙ブログの内容をしっかりお読みいただいていることに深く感謝申し上げます。そのような有難い閲覧者がいらっしゃることを改めて受けとめながら今後も一字一句、より丁寧に綴っていければと考えています。

nagiさん、蓮舫候補が民進党の新代表に選ばれました。今回の記事の最後に予告したとおり新規記事は民進党の代表選に絡んだ内容を取り上げる予定です。ぜひ、引き続きご注目いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2016年9月17日 (土) 07時52分

> 管理人様あて。

「首相」と「総理」の件、細かいことをアレコレと申し訳ないです。m(__)m

当該のエントリをいつものように一読して、「なんか読後感が違う。雰囲気が違う。いつもより厚みのある文調?」っていうような、何気ない”感覚”でしかなかったのです。

改めて拝読し直して「首相」と「総理」の件に気付いたのですが、「う~ん。ずいぶん違う雰囲気を受けたのは、これかぁ。自分のことながら、これだけの違いでここまでの印象の違いを感じるか~」なんて、思ったりしました。

多分、ワタクシが「首相」と「総理」の使い分けを普段から必要以上に気にしてるからだろうなぁなんて、思ったりしました。(‥ゞ

投稿: あっしまった! | 2016年9月17日 (土) 23時00分

あっしまった!さん、コメントありがとうございました。

昨日のレスのとおり有難いことだと思っています。その上で総理と首相、読み手の印象が変わることを知り得る機会となりました。これからも気になられたことをお気軽に投稿いただければ幸いですのでよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2016年9月18日 (日) 05時49分

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