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2016年9月25日 (日)

民進党代表選と豊洲移転問題 Part2

前回記事「民進党代表選と豊洲移転問題」の冒頭、「特に関連性が見当たらない題材を単に時事の話題だからと言って並べた訳ではありません。私なりの見方や感想として語るべき同じような論点が頭に思い浮かび、そのようなタイトルに至っています」と記しながら、前回の記事では豊洲移転に関わる話までたどり着けませんでした。今回、改めて豊洲移転の問題を取り上げた上、「同じような論点」に繋げてみます。

さて、築地市場から豊洲への移転の問題では様々な疑問が浮上しています。徹底した調査のもと「なぜ、全面盛り土の計画の一部が地下空間に変わったのか」「どうして地下空間を設けたことが対外的に明らかにされなかったのか」「歴代の知事や市場長は本当に把握していなかったのか」「地下空間の水は地下水なのか、雨水なのか、安全性はどうなのか」などの謎が解明されることを期待しています。

この豊洲移転の問題は日を追うごとに新たな「事実」が報道されていました。あえて「事実」と括弧書きしましたが、真実や真相という言葉からは程遠い断片的な情報の一部にとどまる内容という印象を受けていたからでした。「事実」は一つなのでしょうが、それぞれ知り得た「事実」をもとに関係者や部外者がそれぞれの経験や見識から様々な見方を示していました。

豊洲市場(東京都江東区)の盛り土がない問題に関連し、石原慎太郎・元東京都知事は17日、在任中の2008年に定例会見で建物の地下利用案に言及したことについて、「(外部の)専門家からこういう話があるから考えた方がいいと(当時の都中央卸売市場長の)比留間英人氏に言った」と述べた。

「市場長から聞いた」としていた自身の説明を訂正した。石原慎太郎氏「職員の報告」、元市場長は「知事の指示」 石原氏は同日、「元秘書が詳細を覚えていた」として報道陣に説明し直した。石原氏の案は採用されておらず、建物の地下に空洞がある現在の設計になったことについては「一切報告をうけていない」とした。【朝日新聞2016年9月17日

当初、当事者としての責任を最も問われるべき立場だった石原元知事は「これは僕、騙されたんですね」「東京都は伏魔殿だ」などと言いたい放題で、すべて責任を部下に転嫁していました。その後、石原元知事が費用の膨らむことを懸念し、コンクリート箱を地下に埋める工法の検討を自ら部下に指示していたことなどが明らかになっています。

そのため、石原元知事としては珍しく謝罪文書を各メディアに送り、「間もなく84歳になる年齢の影響もあって、たとえ重大な事柄であっても記憶が薄れたり、勘違いをしたりすることも」と釈明していました。この謝罪文書が示されたのは当ブログの前回記事を投稿した後のことですが、先週末の時点で石原元知事の記憶違いだった話は把握していました。

この話を耳にしていたため、蓮舫新代表の二重国籍問題を巡る発言を取り上げた際に「ただ人間の記憶は当てになりません」という記述を付け加えていました。その後、前回記事では「わずか1%でも事実関係に自信を持てない場合、断定調に言い切らないほうが望ましい場面も数多くあります。後から事実関係の違いが判明し、その時の言葉は偽りだったと批判されるほうが遥かに大きな痛手となります」と続けていました。

今後、豊洲移転の問題で石原元知事がどれだけの痛手を受けるのか分かりませんが、蓮舫新代表の発言のブレも記憶違いが起因していたようであり、「同じような論点」が重なり合っていました。もちろん問題の大きさや当事者の数が異なるため、単純に同一視しながら語ろうとは考えていません。端的に表現した場合、次のような問題意識を「同じような論点」だととらえています。

「事実」は一つです。ただ当事者の記憶違いや勘違いによって「事実」の内容が変わる場合もあります。その場合、他者から受ける評価や批判は正当なものになりません。批判を避けるため、「事実」を偽ったり、隠したりする悪質な行為は論外です。リスクマネジメントの基本として、すみやかに正確な「事実」を示した上、正当な評価や批判を甘受することが結果的にダメージコントロールの近道に繋がるように考えています。

そのような迅速さや情報公開が不充分だった場合、外部から様々な憶測や思い込みによる批判が飛び交い、さらに尾ヒレが付きがちとなります。中には擁護する声も示されるのかも知れませんが、正確な「事実」が判明した際、勇み足となる恐れも免れません。豊洲移転の問題では小池知事の判断を支持する声が多いようですが、ブロガーの山本一郎さんは「小池百合子女史は都職員の話を全く聞いておらず、理解もしてないんじゃないか?」と疑問を呈していました。

橋下徹前大阪市長は「築地問題がカラ騒ぎになる可能性をあえて指摘します!」と提起し、「地下ピットを作るのは当然」というような豊洲移転の問題に絡んだ発言を精力的にツイートしています。このような主張に接すると地下空間が広がった理由も一定理解できます。しかし、これまでの豊洲市場に対する情報公開の不適切さ、ハンコを押しながら「盛り土がされていないことは知らなかった」という元市場長が証言しているような組織としての意思決定の問題など解明すべき事項は山積しています。

もしかしたらテレビカメラの前で証言した元市場長も記憶違いしている可能性があります。いずれにしても正確な「事実」のもとに全容が解明され、責任の所在を明らかにした上、今後に向けた適切な対策が講じられていかなければなりません。全容が解明された結果、誰の主張や見方が正しかったのかどうかも分かることになります。そして、やはり安全性に疑念が残る場合、「移転ありき」ではない判断も欠かせないものと考えています。

最後に、豊洲移転の記事が気になり、『週刊文春』の最新号を購入しました。その記事内容も独自な取材によるスクープだと言えますが、もともと感じていた印象が大きく変わることはなく、ある意味で想定の範囲内での「事実」関係でした。それよりも不起訴となった若手俳優による「強姦」事件の記事内容のほうが目を引きました。この「事実」関係を把握することで事件に対する印象は随分変わってしまいます。記事内容を鵜呑みにしないよう注意しなければなりませんが、知り得た「事実」の違いによって評価が変動することの一つの事例として追記させていただきました。

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2016年9月17日 (土)

民進党代表選と豊洲移転問題

少し前の記事「参院選が終わり、次は都知事選」の冒頭で、新規記事のタイトルに悩む時が多いことをお伝えしていました。今回、新規記事の投稿画面に向かい、あまり迷わず「民進党代表選と豊洲移転問題」と付けてみました。特に関連性が見当たらない題材を単に時事の話題だからと言って並べた訳ではありません。私なりの見方や感想として語るべき同じような論点が頭に思い浮かび、そのようなタイトルに至っています。

前回記事「『総理』を読み終えて Part2」の最後に機会を見て民進党代表選について思うことを綴らせていただければと予告していました。木曜の臨時党大会で示された結果は蓮舫候補が1回目の投票で過半数を獲得し、前原誠司候補と玉木雄一郎候補を退け、民進党の新代表に選ばれました。まず誰が新しい代表になっても前回記事の最後に記した民進党の役割に対する思いは同様であることを強調させていただきます。

安倍首相の判断を全否定しようとは考えていません。しかし、すべて正しいのかどうか的確なチェック機能を果たせる野党の存在感が欠かせません。ミスジャッジが重なれば政権の座から下りなければならないという与党側の緊張感も必要です。そのような意味合いから理念や政策の対抗軸を明確にした野党第一党としての民進党の奮起を期待しています。このような思いについては昨年1月に投稿した「民主党の代表選」の中で詳しく綴っていました。

新党に移行してからは今年3月に「民進党、中味に期待」という記事があり、理念や目標は高く掲げ、具体的な政策の実現に向けては現状から地道に一歩一歩踏み出す手順や丁寧な手続きを重視する政党になって欲しい旨を記していました。今回、そのような記事内容の焼き直しは避け、蓮舫新代表の二重国籍問題に関わる話に絞って書き進めてみようと思っています。断定された訳ではありませんが、この問題に対する法務省の見解が次のとおり示されています。

法務省は15日、民進党の蓮舫新代表のいわゆる“二重国籍”問題に関連して、一般論として日本国籍取得後も台湾籍を残していた場合、二重国籍状態が生じ国籍法違反に当たる可能性があるとの見解を明らかにした。法務省は15日、「日本の国籍事務では台湾出身者に中国の法律は適用していない」との見解を公表した。これは中国の法律が「外国籍を取得した時点で自動的に中国籍を失う」と定めていることを念頭に、台湾出身の人が国籍を自動的に失うわけではないとの見解を示したもの。

一方で、日本の国籍法は二重国籍の人についてどちらかの国籍選択義務に加え、日本国籍を選んだ場合の外国籍離脱努力義務を定めていて、日本国籍を取得した後も台湾籍を残していた場合、二重国籍状態が生じ、国籍法違反に当たる可能性があるという。法務省は「国籍法違反に当たるかどうかは個別・具体的な事案ごとの判断になるので一概には言えない」と強調しているが、蓮舫新代表のケースも国籍法違反に当たる可能性が出てきたことになる。【日テレNEWS24 2016年9月15日

日本国籍を取得しても国籍離脱を認めない国もあり、その手続きも対象国によって様々な実情です。そもそも日本の国籍法では上記報道のとおり「外国国籍を喪失していない場合は、外国国籍の離脱の努力をすること」という努力義務にとどまっています。さらに当事者が外国国籍を持っているかどうかの調査等は行なわれていないため、二重国籍者は数万人単位の数に上るものと見込まれています。相手国との関係上やむを得ない場合をはじめ、事務手続きを失念したケースなどが多く、悪質で意図的な事例は少ないのかも知れません。

蓮舫新代表のケースも「日本国籍の選択と同時に離脱していた」と思っていたという勘違いや制度に対する理解不足だったようです。それでも法務省が指摘しているとおり法律違反に当たる可能性は免れないため、国会議員でもあり、野党第一党の党首をめざした蓮舫新代表の勘違いや理解不足は重大な過失だったと言わざるを得ません。取り上げようかどうか迷いましたが、論点を掘り下げるための前向きな意味合いで民進党参院議員の江崎孝さんのブログ記事「悪質な二重国籍疑惑報道。」を紹介します。

江崎孝さんを再び国会へ」という記事があるとおり江崎さんは自治労の組織内国会議員で、私も何回か直接お話したことがある方です。江崎さんのブログはブックマークし、定期的に訪問しています。紹介した記事の中では日本、台湾、中国との微妙な外交上の関係が影響し、「蓮舫さんが国籍取得した頃の日本は、日本国籍を取得した時点で中国国籍を離脱したものと判断していた」という説明が加えられていました。

ある面で「なるほど」と思える説明であり、蓮舫新代表の勘違いの出発点である「高校生の時、父親と一緒に」という頃の時代背景にも留意しなければならないことを理解しました。ただ現状の法解釈は前述したとおりであり、結局のところ蓮舫新代表は台湾国籍を残していた訳ですから「二重国籍疑惑など今になってとってつけたようなイヤガラセでしかない」という言葉は少し余計だったような気がしています。

江崎さんはブログの最後のほうで「お父さんが離脱手続きをしたと思い込んでいたので、その事実関係を確認し、もし残っていれば再度離脱の申請を行おうというのが蓮舫さんのこの間の対応なのです」と記されていました。まさしく今回の問題はそのような対応が求められていた訳ですが、初期対応の悪さや後手に回ったことで傷口を広げてしまったように感じています。

民進党衆院議員の篠原孝さんはブログで「二重国籍であることが判明した今は、潔く代表選は辞退すべし ‐説明が二転三転は代表候補者として失格」と記し、常任幹事会の中で代表選のやり直しを執行部に求めていました。代表選のやり直しを求めた篠原さんらの主張は蓮舫新代表の「二重国籍ではない」という言葉を信じ、すでに投票を終えた党員やサポーターの判断への影響を重視しているからでした。

つまり指摘を受けた初期の段階で二重国籍疑惑を頭から否定せず、「このような手続きを過去に行なっているが、事実関係を確かめます。万が一、残っているようであれば、すみやかに離脱の手続きに入ります」と答えておけば、代表選のやり直しという声まで高まらなかったのではないでしょうか。もちろん二重国籍の問題は国会議員にとって致命傷に繋がる恐れがあります。

代表選の行方を大きく左右する可能性もあったため、蓮舫新代表としてはキッパリと「私は日本人です」と即答せざるを得なかったのかも知れません。しかしながら過去、蓮舫新代表は雑誌のインタビュー記事の中で「自分の国籍は台湾」と発言していたようであり、断定した答えにためらいもあったはずです。ただ人間の記憶は当てになりません。雑誌での発言をはじめ、蓮舫新代表が過去のことをすべて詳細に覚えていなくても仕方ありません。

しかし、わずか1%でも事実関係に自信を持てない場合、断定調に言い切らないほうが望ましい場面も数多くあります。後から事実関係の違いが判明し、その時の言葉は偽りだったと批判されるほうが遥かに大きな痛手となります。今回、批判の急先鋒となった篠原さんも蓮舫新代表の二重国籍問題に対し、情状酌量の面があることをブログの中で明かしています。そもそも代表選の初期の段階で蓮舫新代表が二重国籍だったと明かされても選挙結果は変わらなかったものと想像しています。

決して二重国籍の問題を軽視する訳ではありませんが、それ以上に蓮舫新代表本人をはじめ、民進党という組織としてのリスクマネジメントやダメージコントロールの不充分さを残念に思っています。問題の重大さを矮小化することなく、迅速に対応するという姿勢が欠けていたように見ています。新たに幹事長に就任する野田前首相にも期待していますが、ご自身のかわら版の中では「法律違反をしたわけではありません。しかし、本人の記憶の不確かさから説明に一貫性を欠いたことが、混乱を助長してしまいました」と記されていました。

法務省の見解が示される前に投稿しているのかも知れませんが、当事者に目される側から「法律違反をしたわけではありません」と言い切ってしまうのも勇み足であるように危惧しています。ところで今回の記事タイトルは「民進党代表選と豊洲移転問題」としていますが、ここまで豊洲のことをまったく取り上げないまま相当な長さとなっています。記事タイトルを変えることも考えましたが、次回の記事に「Part2」と付けて続きを書かせていただくことにします。そのため、看板に偽りのある内容になってしまい、たいへん申し訳ありません。

最後に、民進党代表選に絡んだ新聞記事を紹介します。前原元外相の苦言のとおり手痛い教訓が今後に生かされ、リスクマネジメントやダメージコントロールが充分発揮できる政党に脱皮していくことを心から願っています。最後の最後に、私自身の職務に関わる大事な豆知識を蛇足として紹介します。国保(国民健康保険)加入者が勤務先の社会保険等に入っても別途国保の脱退手続きが必要です。勤務先のほうで行ないませんので、ご自身が手続きしない限り、国保と社保の保険料を二重に支払い続けることになりますのでご注意ください。

民進党内にも「国籍の問題ではなく、危機管理ができていない」(中堅)との声が根強い。対抗馬の前原誠司元外相は15日の最終演説で、2006年に偽メール問題で民主党代表を辞任した経緯にあえて触れ、台湾籍のような対応を繰り返させぬようクギをさした。前原氏は「私の失敗の経験を生かしてもらいたい。事件の教訓は、しっかり裏付けを取り、見通しを甘く持たないこと」と呼びかけた。蓮舫氏は代表選後の記者会見で「リスクマネジメントを含め、これからの質疑で慎重に発言したい」と語らざるを得なかった。【毎日新聞2016年9月16日一部抜粋

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2016年9月10日 (土)

『総理』を読み終えて Part2

前回記事「『総理』を読み終えて」の最後に「『総理』の書評にとどめず、安倍首相の具体的な政治的な判断について著書の内容に絡めながら繋げてみようと考えていました」と記していました。そのため、今回の記事タイトルは迷わず「Part2」を付けて書き進めてみます。また、その言葉の後に続けたとおり評価すべき点、注文を付けたい点を織り交ぜた「批判ありき」ではない自分なりの「答え」に沿った論評を加えてみるつもりです。

これまで当ブログでは安倍首相の具体的な言動や判断について批評してきました。「人質テロ事件から思うこと」「マイナーな情報を提供する場として」「イライラ答弁が目立つ安倍首相」「『安倍晋三「迷言」録』を読み終えて」「安倍首相の改憲発言」「核先制不使用、安倍首相が反対」など再び総理大臣に返り咲いた以降の記事だけでも相当な数に上ります。それらの記事内容は安倍首相を高く評価されている方々からすれば不愉快に思われる記述も多かったかも知れません。

山口敬之さんは著書『総理』の中で「立場の左右を超えて、これほど評価が分かれる首相はほかにはいないだろう」と述べられています。私も以前の記事「改めて言葉の重さ」の中で、人によってドレスの色が変わるという話題に接した時、安倍首相のことが頭に思い浮かんだ近況を綴っていました。見る人によって、ドレスの色が白と金に見えたり、黒と青に見えてしまうという話を紹介し、安倍首相に対する評価や見方も人によって本当に大きく変わりがちなことを書き残していました。

さらに山口さんは安倍首相への評価は「ポジテイブなものもネガティブなものも極めて感情的である」と記されていました。私自身は当ブログで安倍首相に関わる話を綴る際、そのような感情的な批判だと取られないように極力注意しています。誹謗中傷や「批判のための批判」は論外であり、ブログを投稿するにあたり、安倍首相を支持されている方々にも届くような言葉や記述内容に努めています。

このような点が問題ではないか、このような事態に繋がる恐れがあるのではないか、具体的な事例や論点に対し、私自身の「答え」に照らしながら意見や注文を加えてきているつもりです。安保関連法案の賛否を巡る対立の際は「安倍首相が戦争をしたがっている」というような決め付けた言葉は一度も発せず、この法案の問題点について自分なりの問題提起(参考記事「改めて安保関連法に対する問題意識」)を重ねていました。

ちなみに首相と総理、首席宰相と内閣総理大臣を略した呼び方ですが、日本の場合は同義語だと言え、特に違いはないようです。これまで当ブログでは首相という言葉を多用してきていますが、前回記事では『総理』という書籍を取り上げた関係上、安倍総理と記していました。今回、以前の記事を紹介したこともあり、改めて安倍首相という表記に戻しています。横道にそれた話で恐縮でしたが、自分自身、首相と総理という呼び方に何か違いがあるのかどうか疑問に思ったため、ネット上で少し調べてみました。

さて、『総理』を読みながら「なるほど」と合点のいった箇所がありました。3年前、あるメディアの報じたシリア情勢に関わる内容がたいへん印象深かったことを覚えています。今でも詳しく覚えている報道内容であり、その時に伝えられた顛末が詳しく『総理』の中に綴られていました。安倍首相の判断に賛意を示せることが少ない中、当時、報じられた内容の対応には文句なく賛同できたことを鮮明に覚えています。ほぼ毎晩見ていたTBS『NEWS23』の報道でした。

シリア情勢が緊迫している。軍事介入が秒読み段階にはいり、早ければきょう29日(2013年8月)にも空爆が始まるのではないかという米メディアの報道もある。シリア政府が内戦で化学兵器を使用したというのが理由だが、その証拠はまだ明確に示されていない。思い出すのは10年前のイラク戦争だ。大量破壊兵器の保有を大義名分としながら、結局、確認されなかった。その二の舞いの恐れはないのか。

明確な証拠示せず…イラクの二の舞恐れる米国内 「8時またぎ」コーナーでワシントン支局の山口敬之記者が最新ニュースを伝える。「日本時間のけさ7時から(2013年8月29日)、オバマ大統領がテレビのインタビューに答え、アサド政権が自国民に化学兵器を使用したと結論付けたと初めて断言しました。あとは大統領の最終決断を待つばかりです」

司会のみのもんた「大統領が結論付けた根拠は、どんなことろから来ているのですか」

山口「その根拠は、いずれかのタイミングで示すものとみられています」

みの「アメリカ国内ではどんな反応なのですか」

山口「正直なところ、シリアの内戦に深入りすべきでないという意見が大勢を占めています。メディアの世論調査でも2割とか9%しか支持していないという結果も出ています。 しかし、先週水曜日(2013年8月21日)にダマスカス近郊で子どもや女性が化学兵器とみられる攻撃でもだえ苦しむ映像が全世界に配信され、何もしないわけにはいかなくなり、限定的かつ計画的な軍事行動に踏み切らざるを得なくなったというのが実情のようです」

化学兵器の使用をシリア政府は否定しており、国連の調査団が調査に乗り出しているが、銃撃を受けるなどアクシデントもあり、厳密な調査ができるかどうか難しいとみられている。また、武力行使に国際的なお墨付きを与えるのは国連安保理の決議だが、アサド政権を支持するロシアの反対で採択の見通しは立っていない。【あさチャン2013年8月29日

ネットを検索しましたが、さすがに『NEWS23』が報じた当時の内容そのものは見当たりません。ただ上記のとおり同じTBSで、朝の報道番組『あさチャン』の内容を伝えるサイトを見つけることができました。『総理』の著者である山口さんはワシントン支局長を務めていたため、アメリカ国内の様子を伝えていました。この緊迫化したシリア情勢の中、『NEWS23』と『総理』の中で明らかにされている内容は次のとおりでした。

2013年8月、シリア国内で化学兵器が使用され、子供を含む多数の一般市民が犠牲になった。同31日、オバマ大統領は記者会見を開いてシリアへの軍事攻撃を行うと発表し、国際社会に支持と協力を訴えた。日本に対しても様々な外交ルートを通じて「空爆に着手したら即座に支持を表明して欲しい」という要請が届いていた。だが、安倍総理はウンと言わなかった。大量破壊兵器を所有しているとしてサダム・フセイン政権を攻撃したが、結局、大量破壊兵器はなかったイラク戦争を即座に支持した小泉純一郎首相の轍を踏みたくなかったからだ。

オバマ大統領は、わざわざ安倍総理に電話をかけ、「アサド側が化学兵器を使った明確な証拠がある」と述べ、支持を求めたが、それでも安倍総理は首を縦に振らなかった。さらにオバマ大統領は、G20の場で安倍総理と会談し、「アサド側が化学兵器を使用した明確な証拠を持っている。空爆を支持して欲しい」と迫ったが、安倍総理は「明確な証拠の開示が必要」だとして、オバマ大統領直々の要求を突っぱねた。そこで仕方なく米国は、機密情報―ある瞬間を捉えた映像で、アサド政権が自国民に化学兵器を使ったことが一目でわかるもの―を開示した。それでようやく日本政府は空爆支持を表明した。

私がよく覚えていた上記のような『NEWS23』の報道内容が『総理』の中でも克明に記されていました。他のメディアはそれほど詳しく取り上げていなかった記憶もあったため、安倍首相と懇意な関係のある山口さんが情報発信者だと分かり、改めて合点がいったところです。結局、その年の9月14日、ロシアのプーチン大統領の斡旋によってシリアの化学兵器放棄案が合意されたことでアメリカの軍事攻撃は見送られていました。

イラク戦争を手痛い教訓とするのであればオバマ大統領の要請に対し、毅然とした対応をはかった安倍首相の判断は筋が通ったものであり、率直に評価すべきものと思っています。対米従属という批判を受けたくないため、このような対応を取ったのかも知れませんが、前述したとおり安倍首相の判断に私自身が賛意を示せる希少な事例だったと言えます。現在も混迷が続くシリアの内戦ですが、武力によって容易に平和が築けないこともイラク戦争の大きな教訓の一つだったものと考えています。

詳しい知識がある訳ではなく、専門家でもない私が安倍首相の外交を論評することに僭越さを感じていますが、もう少し続けさせていただきます。必ずしも良好ではない中国や韓国との首脳会談を実現させている安倍首相の外交姿勢や努力には素直に敬意を表しています。「地球儀を俯瞰する外交」と称し、世界各国を精力的に外遊する安倍首相の労苦にも頭が下がりますが、その労力に見合った成果に繋がるのかどうか懐疑的に見ています。

特に日本の財政状況の厳しさを勘案した際、訪問した国に対する支援策にかかる費用面の問題も気になっています。もちろん数多くの国に日本の首相が訪問し、対話を重ねていく方向性を否定するものではありません。あくまでも労力や費用対効果の面での問題提起であり、もう少しメディアもそのような論点での検証を加えて欲しいものと思っています。『総理』の内容から離れつつありますが、今年7月に安倍首相はアジア欧州会議(ASEM)首脳会議で「法の支配を重視し、力による一方的な現状変更を認めない」と中国の動きを意識した演説を行なっています。

その一方で、9月に安倍首相はウラジオストクでプーチン大統領と会談し、「新しいアプローチ」に基づき、北方領土問題を含む平和条約締結交渉を継続する方針を確認しています。繰り返しになりますが、このような首脳会談を実現している安倍首相の外交姿勢や努力を評価しています。ただウクライナからクリミア半島を強制編入したロシアは、欧米や日本から経済制裁を科せられています。ロシア側には「日ロ接近」でG7を分断する思惑があることも間違いないようです。交渉を急いで「力による現状変更を認めない」国際秩序を揺るがしてはならない、そのような国際社会の声は安倍首相の耳にも届いているはずです。

しかしながら安倍首相がプーチン大統領に直接「力による一方的な現状変更を認めない」と訴えたという話は聞こえてきません。安倍首相には緻密な戦略や深い意図があるのかも知れませんが、今のところダブルスタンダードだと見られても否定できないような気がしています。とは言え、中国とも対話し、ロシアとも対話する、このような外交姿勢は本当に重要なことです。だとすれば、あえて安倍首相の口から「力による一方的な現状変更を認めない」と大見得を切らなくても良いのではないかと個人的には思っています。

最後に、民進党代表選には蓮舫代表代行、前原元外務大臣、玉木国会対策副委員長が立候補しています。9月15日の臨時党大会で新しい代表が決まります。今回の記事に取り上げたとおり安倍首相の判断を全否定しようとは考えていませんが、すべて正しいのかどうか的確なチェック機能を果たせる野党の存在感が欠かせないはずです。ミスジャッジが重なれば政権の座から下りなければならないという与党側の緊張感も必要です。そのような意味合いから野党第一党の民進党代表選を注目しています。これまでも当ブログで民主党代表選について取り上げてきましたので、新代表が決まった後、機会を見て思うことを綴らせていただければと考えています。

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2016年9月 3日 (土)

『総理』を読み終えて

全国各地で台風の猛威による被害が続いています。これまでの常識が通用しない台風の進路や暴風雨に襲われ、尊い人命が奪われる事態に至っています。私どもの自治体では市内各地域の避難所の開設をはじめ、日常の職務や職域を越えた要請のもとに多くの職員が昼夜を問わず対応にあたっていました。私自身も被害状況の調査のため、浸水した住民の自宅を訪ねる役割を担いました。

以前の記事「激減する自治体職員と災害対応」に綴ったとおり自治体職員の責任や役割として、ひとたび大きな災害が発生した際、24時間態勢で自治体の仕事に従事していくことが求められています。そのような自覚は職員全体で共有化しているため、業務命令に近い緊急な要請に対して整然と対応しています。ただ通常の職務以外での業務負担に際し、従事した職員への負荷はもちろん、本来業務の職員態勢が手薄になることなどの問題点は組合としても目配りしていかなければなりません。

さて、興味を持った書籍でも千円を超えるハードカバーの本は買うのを少しためらっています。通勤の帰りに時々立ち寄るBOOK・OFFで、そのような優先順位の書籍だった『総理』を見つけました。著者はTBSの報道局に長年在籍し、現在フリージャーナリストの山口敬之さんです。6月に発売されたばかりですので、あまりオフされた値段ではありませんでしたが、装丁もきれいだったため、すぐレジに運んでいました。

そのとき安倍は、麻生は、菅は――綿密な取材で生々しく再現されるそれぞれの決断。迫真のリアリティで描く、政権中枢の人間ドラマ。「本当の敵は身内にいる」――第一次安倍内閣から安倍を支え続ける麻生太郎。「絶対に安倍を復活させる」――重要局面で目の前で票読みをし安倍の背中を押した菅義偉。「世にいうところの緊急事態かもしらん」――誰よりも早く安倍の異変を察知した与謝野馨。「麻生さんが決めたなら、私も」――谷垣支持から安倍支持に転じた高村正彦。「そういう事実は一切ありません」――宏池会会長として野田聖子支持を完全に否定した岸田文雄。

いつものとおり著作権はもちろん、ネタバレに注意した内容紹介を心がけるためにも書籍を宣伝する上記の言葉を最初に掲げさせていただきました。Amazonカスタマーレビューでは星5つが星4つ以下を圧倒しています。「臨場感たっぷりに描かれる物語は、ノンフィクションであり、本来こういう記事を書くべきマスコミがすっかり忘れてしまった矜持を思い出させてくれました」「ここまで書いて大丈夫かと思うほど安倍総理の決断の裏側をつぶさに書いてあり、下手な小説より数段面白い」と絶賛する声が並んでいます。

確かに読み物として面白く、政権中枢の生々しい「事実」を知り得る意味合いでの面白さがあり、手にしてから数日で読み終えていました。一方で「政治家の懐深くまで踏み込んだ方が、その政治家のことを、果たして、どこまで中立性を保って書けているのか疑問は残ります。また、各章で出てくる関係者について、都合の悪いことはあえて触れずに、良いことだけ書かれているとの印象を受けました」というレビューの声もあります。

「これ、あさって議院を解散する時の会見原稿なんだけどさ、ちょっと聞いてみてよ」 安倍は本番さながらに、私に向かって語りかけた――。目の前で、現職の総理が解散を宣言している。私はまるで自分が、官邸1階の記者会見室にいるような錯覚にとらわれた。

2014年末、衆院解散を決意した安倍総理が、書き上げたばかりの演説草稿を読み聞かせるほど著者の山口さんに信頼を寄せていました。2012年に安倍総理が自民党総裁に返り咲いた際は菅義偉官房長官から「山口君の電話がなければ、今日という日はなかった」と言わしめていました。第1次政権の内閣改造時には麻生外務相(当時)直筆の「人事案」を山口さんが安倍総理のもとに届けることもあった、と著書『総理』の中で明かされています。

安倍総理や麻生財務相といった政権幹部の生の声を引き出そうと努力するほど、社内外から「山口は安倍政権の太鼓持ちだ」という批判の声が高まっていきます。そのこと自体、気に留めなかったようですが、政治記者が取材対象に深く迫る過程で「外部からの観察者」という立場を越え、自らの動きが政局に影響を及ぼしてしまう、という点について山口さんは「自分は記者の範疇を越えてしまっているのではないか」と思い悩んだそうです。

そのように悩んだ山口さんも永田町では取材対象である政治家に近づくうち、いやでも一定の役回りを担わざるを得なくなることを達観するようになっていきました。「その代わり、自分が永田町で見聞きしたことは、必ずオープンにしなければならない。すぐに公表することができない話であっても、いつか必ず書く。それが記者だと思っています。それが、本書を記した最も大きな理由のひとつです」と話されているインタビュー記事が「だから私はTBSを退社し、この一冊を著した」というサイトに掲げられています。

山口さんは「取材対象に近すぎる」という批判の声があることを自覚しながらも、政治のど真ん中に突っ込まなければ、権力の中枢で何が起きているか見えないのも事実である、そのように著書の「あとがきにかえて」の中で記しています。「私は親しい政治家を称揚するために事実を曲げたり捏造したりしたことは一度もない」と記し、「事実に殉じる」という内なる覚悟を示された上、独善的な視点に陥らないよう自ら戒めながら取材を続けていくつもりである、という言葉で著書『総理』を結んでいます。

その言葉に偽りはないのだろうと思っています。ただ取材対象に近付きすぎた結果、安倍総理や麻生財務相らとの一体感が生じ、客観的な視点が欠けてしまっているように見受けられます。LITERAの記事「幻冬舎が安倍首相と結託してまた政権PR本を出版!」の中では「一応、ドキュメンタリータッチで描かれているんですが、最初から最後まで、批判的な視点は一切なし。安倍首相がいかに素晴らしいか、国家のことを考えているか、ということしか書いていない。右派思想への賞賛や歯の浮くような美辞麗句が散りばめられていて、ただのPR本ですよ」という声が紹介されています。

ただLITERAの記事も全体を通した論調は「批判ありき」という姿勢が目立ちます。「立場の左右を超えて、これほど評価が分かれる首相はほかにはいないだろう。そして、安倍への評価は、ポジテイブなものもネガティブなものも極めて感情的である」という言葉も『総理』の中に記されていますが、このような見方は本当にその通りだと感じています。このブログでも安倍総理に対する批判記事が結果的に多くなっていますが、「批判ありき」ではなく、具体的な言動に対して私自身の意見や感想を綴ってきているつもりです。

安倍総理や麻生財務相らが「国民を豊かにするため」「平和を守るため」という信念のもとに様々な政策判断を重ねているものと信じています。その意味で『総理』の中に描かれている話は「事実」だろうと思っています。この書籍だけで判断すれば素晴らしい総理大臣や政権に恵まれていることになります。多くの国民が安倍政権を支持しているため、実際、その通りなのかも知れません。しかし、安倍総理の判断に危うさを感じている国民も決して少数ではなく、著書『総理』の中では語られていない情報を加味した評価も求められているはずです。

今回、『総理』の書評にとどめず、安倍総理の具体的な政治的な判断について著書の内容に絡めながら繋げてみようと考えていました。もちろん評価すべき点、注文を付けたい点を織り交ぜた「批判ありき」ではない自分なりの「答え」に沿った論評を加えてみるつもりでした。いつものことながら書き進めているうちに思った以上に長くなってしまい、今回の記事では欲張らないようにしました。主に外交面での話ですが、機会があれば次回以降の記事で綴らせていただければと考えています。

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