« 年金積立金は誰のもの? | トップページ | 保育や介護現場の実情 »

2015年12月13日 (日)

人事評価と複線型人事制度

全職員対象の人事評価制度を来年度から本格実施するため、労使協議が大詰めの局面を迎えています。これまでの経緯や労使協議のポイントなどを少し前の記事「人事評価の話、インデックス」の中で綴っていました。その時の記事内容と重複する記述が多くなるかも知れませんが、公務員に対する人事評価制度の変遷から現状の課題まで改めて整理してみます。

「職員の給与は、その官職の職務と責任に応じてこれをなす」とし、長年、公務員給与は職務給の原則を根本基準としていました。成績主義の原則もありましたが、競争試験によって選抜されたことをもって能力は一律とみなされました。年齢や学歴区分等に応じた初任給格付けがあり、それ以降、長期間病気などで休まない限り、1年ごとに定期昇給できることが基本でした。

給料表は、部長、課長、係長などの職層に応じた等級に分かれ、昇任することで給与の額が枝分かれしていく仕組みでした。採用された後の個々人の能力の差はあまり問われず、係長としての職務はこの水準、課長はこの水準と定めた給料が支給されました。このような仕組みは「頑張っても頑張らなくても同じ給料」という不本意な見られ方に繋がりがちで、公務員制度改革の論議の中で「能力及び実績に基づく人事管理」の考え方が強く打ち出されていきました。

2007年に国家公務員法の一部が改正され、能力及び実績に基づく人事管理が徹底化されました。2014年には地方公務員法の一部が改正され、2016年度から地方自治体においても人事評価制度の施行(本格実施)が迫られています。私どもの市では賃金水準に直結する人事や給与の制度面の問題は労使協議の対象としています。その労使協議の中で、これまで公務の中で個々人の業績評価は取り入れにくい点などを訴え、組合は人事評価制度の導入に慎重な立場を示してきました。

2001年に課長職から人事評価制度の試行を始め、目標管理を中心とする人事考課を係長、主任、主事と段階的に広げてきました。2014年の法改正に伴い、2016年度から全職員を対象にした本格実施に対応しなければならず、正式に提案を受けた今年6月以降、労使協議を精力的に重ねています。提案内容は2016年度の結果を2017年度の勤勉手当に反映させ、2018年度から査定昇給も実施するという計画です。

地方公務員法の改正内容に合わせ、職務遂行にあたって発揮した能力を評価する「能力評価」、あげた業績を評価する「業績評価」で構成し、「業績評価」結果は勤勉手当の成績率に反映し、「能力評価」結果は査定昇給に反映させます。これまでの試行の方式と同様、相対評価ではなく、絶対評価を基本とします。ちなみに課長級の本格実施や係長以下の試行における結果は上位又は中位の評価を受けた職員が大半を占めていました。

人事評価制度の労使協議を進めるにあたり、職場委員会や定期大会の議案を通し、次のような組合としての考え方を明らかにしています。前述したとおり組合は公務において評価制度を取り入れることの難しさを受けとめています。このような見方について「人事評価の話、インデックス」の中で紹介した人事教育研究所という会社のサイトでも、公務員と民間企業を峻別した人事評価制度の必要性を説いています。

人事評価制度の本格的な導入によって、多くの職員の士気を低下させるようであれば本末転倒な話です。組合は一人ひとりのやる気を高め、組織そのものが活性化するような制度の構築をめざしています。そのためにも自治労が掲げる「公平・公正、透明性、客観性、納得性」の4原則、「労働組合の関与、苦情解決制度の構築」という2要件の確保を基本とし、懸念する組合員からの声を受けとめながら労使協議を進めてきました。

評価結果に基づく処遇への反映が大きければ大きいほど、よりいっそう働く意欲が高まるという考え方もあります。一方で、本格実施後に不合理な点が生じた場合、見直しを容易にするため、著しい差が出ない制度設計で始めるという考え方も重要であり、組合は後者の立場で労使協議に臨んでいます。その上で、これまで試行してきた人事考課制度のあり方や運用について問題点の有無等を検証し、より望ましい評価制度のあり方を協議してきました。

勤勉手当への処遇反映の率等の妥当性や苦情処理委員会のあり方についても協議してきました。細部にわたる事項も含め、労使協議会の中で労使それぞれの意見や考え方を突き合わせていました。市当局側も人材育成を目的にした評価制度であることを強調しています。それでも本格実施後の懸念に対する温度差があることも確かです。いずれにしても組合は本格実施後に様々な問題点が浮き彫りになるという見方を強めています。

10月末に開いた団体交渉の中では、組合から「本格実施後に不合理な点が生じた場合、見直しを容易にできる制度設計で始めることの必要性」を申し入れ、生涯賃金に影響する査定昇給の実施時期は慎重に判断していく必要性を訴えていました。このような労使協議を重ねた結果、来年度からの本格実施を合意するにあたり、組合は主に次の2点を市当局と確認する運びとしています。

  1. 本格実施後も労使協議を継続し、目標管理のあり方や苦情処理の対応など必要に応じて見直しをはかる。
  2. 業績評価による勤勉手当への反映について来年度から実施することを合意し、能力評価による査定昇給に関しては引き続き協議を重ねていく。

続いて、複線型人事制度の問題について触れていきます。「節目の第70回定期大会」の中で、大会質疑で組合員から発言された問題であり、機会を見て当ブログの題材として掘り下げることを記していました。図書館を巡る労使交渉を通し、専門職である司書職確保の重要性を組合は訴えていました。この時の交渉を契機に毎年、当局に提出している次年度に向けた「人員確保及び職場改善要求書」の一項目として「業務の専門性の確保に向け、複線型人事制度の具体的導入をはかること」を掲げていました。

それに対し、当局からの直近の回答は「複線型人事制度については、検討の結果、本市の規模では導入メリットが低いと判断し、来年度から実施する人材育成基本方針から削除した。専門性の確保については、人事異動によって確保していきたい」という組合要求の趣旨を真っ向から否定するものでした。議案書の中に当局の回答内容を掲載していたため、組合員から「この回答で組合も納得しているのか」という問いかけがありました。

団体交渉の中で即座に組合として反論していること、今後も複線型人事制度の必要性について要求していくことなどを説明し、質問された方に理解を求めていました。複線型人事制度とは、事務系の職員の人事異動がゼネラリストの養成に重きを置きがちな現状に対し、本人の意向や適材適所を勘案したスペシャリストの道も選択できるような制度設計を想定しています。確かに制度をスタートさせ、うまく運用できていないという自治体の話も耳にしています。

一方で、昨年4月から武蔵野市では「エキスパート職員配置制度」とし、複線型人事制度を本格的に始めています。定期大会の質疑の中で、このことを東京自治研究センターの事務局長を務めている特別執行委員から紹介いただいていました。その後、『地方自治職員研修』に寄稿された武蔵野市総務部人事課の「創造型行革のすすめ 職員の高い専門性と意欲を配置に活かす ~エキスパート職員配置制度~」についても情報提供いただきました。

福祉、税務、債権管理を専任分野とし、係長職を対象に申込を受け、選考に基づきエキスパート職員として認定された場合、同一部署に7年間配置されます。7年間を超えて配置を希望する場合、所定の選考を改めて経ることで同一部署での長期配置を可能にしています。人事課の寄稿文には実際にエキスパート職員となった二人の方の声が紹介されていました。二人ともご自身の強みを市政の課題解決のために役立てたいという意欲を示され、プレッシャーを感じつつも前向きな感想を寄せられています。

武蔵野市では今後、各部におけるエキスパート職員配置の需要を把握し、必要に応じて専任分野の拡大等をはかっていくそうです。寄稿文の最後は「将来的には専門管理職制度などの議論につながっていけば、本当の意味での複線型人事制度が実現できるのではないかと期待しています」という言葉で結ばれています。導入メリットが低いと判断した私どもの市と同じような規模ですので、たいへん参考になる事例だと思っています。

人事評価の話、インデックス」に掲げた以前の記事のとおり人事制度に対し、なかなかベストは見出せないものと認識しています。ベターをめざす中で組合員の声を的確に集約し、組合として指摘すべき点は率直に指摘し、より望ましい制度が築けるよう今後も力を注いでいくつもりです。そして、最も重要な点は、どのような役職や職種の職員も職務に対する誇りと責任を自覚でき、常にモチベーションを高めていけるような人事制度が欠かせないものと考えています。

|

« 年金積立金は誰のもの? | トップページ | 保育や介護現場の実情 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/130697/62752393

この記事へのトラックバック一覧です: 人事評価と複線型人事制度:

« 年金積立金は誰のもの? | トップページ | 保育や介護現場の実情 »