主催者と警察発表の落差
シルバーウイークの最終日、代々木公園で開かれた「さようなら原発 さようなら戦争 全国集会」に参加しました。午後1時30分から始まった2時間近くの集会の後、明治公園まで3キロほどのデモ行進もありました。4年前の5万人集会に参加した時のような密集感はありませんでしたが、自治労の隊列はデモ行進の出発順が後のほうだったため、今回も会場の外に出るまで1時間ぐらい待たされました。
主催者発表で参加者は約2万5千人でした。最近、その落差が取り沙汰されがちな警察発表の数字は目にしていません。そもそも「警視庁ではイベント・デモ・集会などの形態にかかわらず、参加者数については一切発表していない」とのことです。よく報道で見かける警察発表又は警視庁発表は、あくまでも警察担当の記者が警備や広報の担当官から個別に取材して聞き出している数字だそうです。
そのため、「警察関係者によると」という前置きが正確な伝え方だと言えます。このように警察からは参加者数が公表されていないため、最近のメディアの傾向は主催者から正式に発表された数字だけを記事に掲載しているようです。それにもかかわらず、安保関連法案に反対した8月30日の国会包囲行動に関しては参加者数を約3万3千人と警察発表していました。
一方で、主催者側は参加者数を約12万人と発表していました。この4倍ほどの開きに対し、ネット上で様々な意見を目にしていました。特徴的な点として、安保関連法案に賛成する側は警察発表をそのまま信じ、12万人は主催者側の極端な水増しによる数字だと批判していました。そのことから主催者や参加者自体の「胡散臭さ」を強調し、反対運動そのものをネガティブに論じる声を数多く見かけていました。
この件では青山繁晴さんが古巣の共同通信の報道の仕方に激怒されていました。YouTubeの動画「卑怯でおそろしい世論工作が行われている!反安保集会の参加者数の嘘を青山繁晴さんが激怒!」のとおりですが、ここでも12万人のほうを嘘と決め付けた主張が展開されていました。もちろんメディアが世論工作の片棒を担ぐようでは確かに大きな問題です。ただ今さらのような話ですが、以前の記事「二極化する報道」のとおり主要なメディアの立ち位置はそれぞれ明らかになっています。
8月31日の朝刊の紙面で、朝日と毎日は一面に国会包囲行動のことを載せていましたが、読売は社会面でのベタ記事扱いでした。反原発集会の翌朝、その集会のことを朝日と毎日は一面に載せていました。それに対し、私の見落としではないはずですが、読売はまったく取り上げていませんでした。各社の編集権の範囲内の話だろうと理解していますが、それぞれの購読者の得られる情報には大きな差が生じていくことになります。
したがって、このような傾向があることを前提にマスメディアと接していかなければ、より望ましい判断や評価は下しづらくなるものと考えています。論点が少し広がってしまったかも知れませんが、共同通信は12万人のほうが正しいという結論に繋げるような配信記事をまとめていました。青山さんからすれば12万人が嘘だと思っているため、その取材方法なども含めて共同通信に噛み付いていました。
前述したとおり報道の仕方に濃淡があっても仕方ありません。ただ当たり前なことですが、嘘を事実のように決め付けた報道の仕方は絶対認められません。12万人という数字が極端な誇張や偽りであれば、青山さんが憤られるように主催者の嘘を擁護するような記事は論外だと言えます。しかし、今回の件では青山さんのほうが大きなミスを犯していました。緻密で精力的な取材ぶりに定評のある青山さんも安保関連法案の成立に肩入れ過ぎたためか、次のような事実関係を見落とされていたようです。
8月30日に国会周辺で行われた安全保障関連法案に反対するデモの参加者をめぐり、主催者発表では12万人、警察関係者の話では3万3000人という人数が報じられた。この両者の人数がかけ離れていたことから、ネットでは議論を呼んでいたが、9月10日、警察庁・斉藤実審議官が国会で警察庁による人数把握についての説明を行った。
このデモ参加者をめぐっては、デモを支持する人たちからは警察が少なく見積もっているとし、警察による情報操作を疑う声があがっていた。反対に、支持しない人たちからは「参加者の水増しだ」とする意見があり議論を呼んでいた。こうした事態から、ネットでは国会前でのデモの様子を写した空撮写真や、国会前の道路幅からデモ参加者数を試算する人や、国会前の面積から試算する人も現れ、産経新聞も人数を予想するなどした。
議員からもこのデモ参加者数を疑問に思う声があがり、民主党の藤田幸久参議院議員は9月10日の参院外交防衛委員会で「その3万3000人の根拠。どういう方法で3万3000人と判断したのか」と質疑。これに対し斉藤審議官は「警察としては全体の参加者の数を発表する立場にはございません」とし、「あくまでも警察活動に必要な範囲で特定のエリアの一時点における人数の把握に努めている」と回答した。
この答弁を受け民主党の徳永エリ参議院議員はFacebookで「メディアを使った国家権力による情報操作。この国はどうなっているのだ!」と異議。元外交官の孫崎享氏も「過小報道したNHK等報道関係の罪大」「特定地域、特定時間だけの警察発表をあたかも全体如く報道し、かつその意義について社説も書けない大手マスコミが言論・報道のリーダーの様な顔をしてる」と批判している。【アメーバニュース2015年9月11日】
実際、その日に国会周辺を訪れた一人として補足します。国会正門前の人数は空撮写真のとおり3万人ほどだったはずです。もともと国会包囲行動であり、私たち組合関係者は議員会館前に集まるように指示されていました。地下鉄の駅を出るところから行列となり、国会周辺の歩道は人で埋め尽くされていました。集会開催中は身動きするのにも気を使う満員電車内と同じような状態でした。そのため、主催者発表約12万人は実数に近いものと判断していました。
それにもかかわらず、あまりにも警察発表3万3千人を鵜呑みにした批判がネット上で散見されていたため、このブログを通して事実関係を伝えようと機会を見計らっていました。より望ましい判断や評価を個々人が下していくためには多様な情報を得ることはもちろん、正しい事実関係を把握していくことが重要です。このあたりは「マイナーな情報を提供する場として」という記事の中で触れたとおりの問題意識を持っています。
実は今回も「主催者と警察発表の落差」という記事タイトルは後から付けています。この話題から論点を広げていくつもりでしたが、長くなっていますので一区切り付けることにしました。それでも最後に、もう一つ民主党側が猛省すべき問題を紹介します。参院特別委員会で安保関連法案が強行採決された時、民主党の津田弥太郎参院議員が自民党の大沼瑞穂参院議員に暴行を加えていました。経緯や事実関係が曖昧だった場合、不特定多数の方々に発信するブログ上では扱い方に注意しなければなりません。
しかし、YouTubeの動画を視聴した際、津田議員が大沼議員を引きずり倒している場面をしっかり確認できるため、そのような心配は無用のようです。与党の不意打ちから緊迫し、委員会室全体が騒然とした中だったとは言え、津田議員に非があり、大沼議員が被害者であることは明らかです。津田議員は「自分が前に行こうとしたところ、大沼氏が妨害していたので、それをよけようと思ったら、大沼氏が倒れた」と釈明しています。暴行を加えようとする意思がなく、気が動転し、津田議員は過剰な行為に及んでしまったのかも知れません。
それでも繰り返しになりますが、動画から判断できる事実関係は津田議員が明白な加害者です。その犯した行為に相応した事後の対応が欠かせないはずです。津田議員から大沼議員に対する真摯な謝罪、津田議員の責任の処し方、それぞれ現時点では不充分なままにとどまっているようです。この問題を民主党としても重く受けとめ、毅然と津田議員に処分を科す姿勢が求められているものと思っています。このような問題での対応を誤っていくと、ますます民主党への信頼感は失墜していくのだろうと憂慮しています。
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