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2015年6月13日 (土)

労働者派遣法の曲がり角

前回の記事は「問題が多い安保関連法案」でした。衆議院憲法審査会で自民党推薦の参考人も含め、憲法学者3人全員が安保関連法案は「違憲」という見解を述べていました。それに対し、菅官房長官は「違憲でないと言う著名な憲法学者もたくさんいる」と反論していました。しかし、安保関連法案の特別委員会では3人の実名しか上げられず、最後は「数でない」という答弁に至っていました。「憲法記念日に思うこと 2014」の中でも砂川事件判決の解釈の問題を指摘していましたが、この法案を巡っては本当にいろいろ提起したい論点が山積しています。

さて、安保関連法案の動きとともに注目している問題があります。労働者派遣法の改正案です。昨年11月の記事「労働者保護ルールの見直し」を通し、大きな問題点を訴えていた法案が衆議院厚生労働委員会を通過するかどうかの局面を迎えています。今回の改正案のポイントは次のとおりです。政府は「派遣労働者の能力向上をはかり、正社員への転換を促す」と説明していますが、企業は運用次第で派遣労働者をずっと使い続けられるという大幅な変更です。

現行法では派遣労働の固定化を避けるため、一般事務など大半の仕事は派遣労働者を3年しか雇えません。一方で、高い技量が必要で企業側の需要も高い専門26業務は、派遣受け入れ期間の制限がありません。改正案が成立すれば、専門26業務の規定は廃止され、全業務とも派遣期間の上限が3年となります。しかし、労働者を3年ごとに入れ替えれば、すべての業務を永久に派遣に任せられます。連合をはじめ、労働組合側は「生涯派遣、正社員ゼロ法案」と強く反発しています。金曜の夕方には日比谷野外音楽堂で連合主催の決起集会が開かれ、集会後、4千人近くの参加者が東京駅までデモ行進に取り組みました。

連合の神津事務局長は「派遣社員をずっと派遣のまま働かせることができるようにするという、一部の経営者の都合だけを考えた天下の悪法だ。欧州をはじめ韓国や中国でも導入されている派遣労働の共通ルールである均等待遇原則も盛り込まれていない。一部の経営者の皆さんは、安い労働が使えれば良いと考えているかも知れないが、それは麻薬のようなものであり、結果として企業競争力や社会の持続可能性をむしばむ。このような問題だらけの法案が成立することは絶対にあってはならない」と訴えています。

そもそも派遣法は、必要な専門スキルを持った人材を育てるには時間がかかる、突発的な事情が発生して採用が追いつかないなど、あくまでも人材不足を一時的に補うための制度でした。派遣で対応している間に必要な人材は自社で採用・育成しなければならないという趣旨のもとにスタートしていました。しかしながら労働者保護ルールを見直そうという動き自体が経営側の視点から発案され、「企業が世界で一番活動しやすい国」を作ることが目的化されている中での今回の見直しだと言えます。

厚生労働省の調査では、派遣労働者約116万人のうち6割以上が正社員登用を望んでいます。改正案は正社員化を後押しするため、派遣元企業に対して労働者への計画的な教育訓練や派遣先に直接雇用を求めることなどを義務付けています。そのため、今回の見直しを歓迎されている方が「労働者の中にもたくさんいる」と政府関係者は強弁されるのかも知れません。しかし、そのような後押しからはまったく逆行する動きがさっそく目立ち始めています。

長年、専門26業務で派遣されてきた方に対し、雇い止めを通告されたという事例が報告されています。弁護士らでつくる「非正規労働者の権利実現全国会議」が当事者に対するアンケート調査を行ない、「約300の回答中、ほぼすべてが派遣法改正に反対するという意見だった。諸手を上げて賛成する人は1人もいなかった」という結果も報告されていました。厚生労働省は「派遣が増えることはない」と説明していますが、改正案が実際に安定雇用に繋がるかどうかは不確定であり、労働者にシワ寄せが行くという懸念のほうが、より正しい見方ではないでしょうか。

政府・与党が重要法案と位置付ける労働者派遣法改正案が5日、今国会で成立する見通しとなった。自民、公明両党が、維新の党が目指す「同一労働同一賃金」の議員立法を新たに共同提出して可決することを見返りに、維新が改正案の採決に応じる方針を固めたためだ。与党は今月中旬にも、衆院厚生労働委員会で派遣法改正案を採決する考えだ。

改正案は、法案作成ミスなどから2度廃案となり、今国会でも日本年金機構の情報流出問題で審議が中断している。企業が派遣労働者を受け入れる期間の制限を事実上撤廃する内容だ。「臨時の仕事」と位置付けられてきた派遣労働の性格が変わる可能性があるため、労働組合や民主党、共産党などが強く反発している。民主、維新、生活の党は先月下旬、改正案の対案として、同じ労働なら非正規労働者にも正規と同じ賃金を支払う同一労働同一賃金法案を共同提出した。一方で維新は、自民党との修正協議を続けてきた。

自民は5日までに維新に対し、同一賃金法案に「法律の施行後3年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講ずる」との文言を盛り込んで再提出し、可決することを提案。維新も同一賃金の実現に向けて前進があったとして、厚労委で派遣法改正案の採決に応じることを決めた。企業への同一賃金の義務づけなど必要な法制上の措置は今後の検討課題にとどまるため、実現するかどうかは不透明だ。

与党側は、野党が欠席する中で改正案を強行採決すれば、安全保障関連法案の審議にも悪影響を与えかねないと懸念。維新の採決出席を探ってきた経緯があり、派遣法改正案では野党の分断に成功した形だ。維新は採決に出席するものの、改正案によって「派遣雇用が増える可能性がある」として反対する見通しだ。【
毎日新聞2015年6月6日

上記の報道に接した際、たいへん残念な思いを強めながら特定秘密保護案が成立に至った時の国会における既視感を抱きました。昨年末の記事「改正労働契約法の活用」の中で触れたとおり維新の党の掲げる「同一労働同一賃金」の考え方には疑念を持っていましたが、今回の合意内容も「空手形」に等しく、その程度の覚悟しかないことが露呈したものと理解しています。ただ維新の党の代議士会の中では「維新が派遣法改正案成立をアシストしているようにしか見えない」「維新のイメージが悪くなる」「自民党政権がいいとは思わない」という批判意見が相次いだようです。

与党との交渉を主導したのは大阪系だと言われ、党分裂の火種がくすぶっているように見られています。年金情報の流出問題の影響で廃案も取り沙汰された派遣法改正案が息を吹き返してきた背景として、民主・維新両執行部の「調整能力の欠如が原因だ」と指摘する声があります。維新関係者が「切っかけは民主党が次期衆院選の1次公認53人を発表、4選挙区で維新現職と競合していたことです。これで民主なんてアテにならないと維新の党内のタガが外れた。幹事長になった柿沢未途は何をやっているのかという批判も噴出し、もともと野党共闘に不満だった大阪系が執行部の頭越しに自民党からの修正協議の誘い水に乗ってしまった」と語っています。

民主党の枝野幹事長は維新の党の柿沢幹事長に「充分な事前説明もなく発表し、たいへん不快な思いをさせた」と謝罪しています。しかし、このことが切っかけで維新側の労働者派遣法への対応が変わったとしたら「是々非々」の党の看板は下ろすべきではないでしょうか。今回の改正案が労働者にとってどうなのか、多くの国民にとってどうなのか、党利党略ではなく中味を見極めて判断していくことが「是々非々」の立場だろうと考えています。いずれにしても派遣法が改悪されるかどうかの曲がり角にあたり、多くの皆さんに改めて問題点が広く認識され、よりいっそう反対の声が高まっていくことを強く願っています。

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コメント

現行法では、専門26業務にパソコンを使った仕事が含まれてしまっています。
今時では、パソコンを使わない仕事を探すほうが難しい状況ですので、
事実上、どんな仕事でも3年を超えて派遣を受け入れることは可能でしょう。

しかし自分の周囲では3年以上、同じ場所で同じ人が働いているところを
見たことがありません。自社や取引先、顧客企業など数十社で、恐らく100人を
超える派遣の方々を見てきましたけれども、本当に皆無でした。

個人的な感想ですが、改正法を見据えて「雇い止めを通告されたという事例」というのは、
相当なレアケースなような気がしています。


私はむしろ、現行法は相当の欠陥法であり、改正法では、まがりなりにも
派遣元が許可制になり、さらに就業機会の提供が謳われ、教育訓練も義務づけられる
ならば、現行法より悪くなることはないだろうと思っています。

そもそも、管理人の記述では、派遣されて3年たてば解雇のようにも
読み取れてしまうのですが、派遣元には、期間を定めない労働契約を結ぶことが
求められてるので、少なくとも3年たてば単純に解雇とはならないはずです。

これは、むしろ現行法で横行していた登録型派遣が諸悪の根源であったように
思いますし、改正法の派遣元を許可制にするという内容は評価したいものです。


また、改正法が文面どおり機能すれば、逆に派遣のまま長期間働かせることは
相当に難しくなるし、その者が企業にとって有用ならば直接雇用への道は
現行法より確実に広がるだろうと感じています。

もっとも、改正法が文面どおり機能すればの話なので、反対意見を強く言う人の
懸念も理解できるものです。しかし、それでは現行法のどこに救いがあるのかを
教えて欲しいと思っています。


改正法が文面どおりに機能するのは、現代の日本では相当に難しいことは
理解しています。何せ、肝心要の行政組織ですら臨時職員を11ヶ月単位で
任用するところが、それこそ星の数ほどあるのですから。(地方公務員法の関連)

法に抜け道があるのなら率先して使えと言わんばかりの行為を行政自身がしているように
思えます。こういう所にこそ、組合はデモでも抗議でも大々的にして欲しいものです。

投稿: s | 2015年6月14日 (日) 22時11分

sさん、コメントありがとうございました。

ご指摘のように物事には多面的な見方ができます。だからこそ、これまで雇用労働法制は労使合意を大原則としてきました。法案提出前に厚生労働省の審議会である労働政策審議会で労使の代表が議論し、一定の合意をはかった後、法案が示されることが慣行だったようです。そのため、あまり国会で与野党が対決するような場面が少なかったと聞いています。それにもかかわらず今回の進め方の強引さをはじめ、記事本文に綴ったような様々な問題意識を抱いているところです。

投稿: OTSU | 2015年6月20日 (土) 20時32分

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