春闘期、非正規雇用の課題
今年の春闘でも連合や自治労の重点指標として「非正規労働者の労働条件改善」が掲げられています。厚生労働省の統計資料によると全雇用者5201万人のうち非正規は1906万人、36.7%を占めています。このような現状を踏まえ、労働組合にとって非正規雇用の課題はたいへん重要なものとなっています。働くことに対する価値を社会全体で底上げをはからない限り、低いほうに流されがちです。このブログでも「非正規雇用の話、インデックス」があるとおり様々な切り口から非正規の問題を取り上げてきています。
昨年末、私どもの組合は「継続的な業務に携わる臨時職員は、嘱託職員化をはかること」「臨時職員の時間単価を引き上げ、安定的な確保に努めること。また、1年間を通して仕事がある場合は、同じ職員を配置すること。また、やむを得ず1年を超えて雇用する場合は、1か月の間を開けずに継続雇用すること」という要求項目を掲げた「人員確保及び職場改善に関する要求書」を市の人事当局と教育委員会当局に提出しています。その際、数年ぶりに「嘱託職員に関する独自要求書」も人事当局に提出していました。
①嘱託職員の報酬に報酬表を導入し勤務年数によって引き上げること、②嘱託職員に一時金を導入すること、③全嘱託職員に代休制度を導入すること、④嘱託職員の休暇制度を充実させること、以上4点について要求しています。年明けに重ねている人員や春闘期の交渉を通し、要求の前進をめざしているところです。そのような中、朝日新聞の『春闘60年 賃上げの行方』という連載の一つに「自治体で働けど… 遠い安定 非正職員60万人 月17万円 昇給・退職金なし」という記事を目にしました。
正社員と非正社員の待遇格差をどう縮めるかが焦点となる今春闘で、自治体で非正職員として働く人たちが、待遇の改善を求めている。民間の働き手に比べ法的な立場が弱く、雇用も不安定だ。全国に60万人以上いる自治体の非正職員たちの声は届くのか。
「このまま続けるべきか、転職するべきか」。連合が1月末に東京都内で開いた集会で、広島県安芸高田市の保育士、光實大輔さん(30)が打ち明けた。市内の保育園で働く非常勤職員で、手取りは月17万円。契約は1年更新で、昇給も一時金(賞与)もない。 勤めて8年だが、同じ保育士の妻(31)と合わせても年収400万円だ。2人の子どもを抱える光實さんにとって「生活するのにギリギリの額」。市側はここ数年、賃上げに応じない。転職した方がいいのでは、と考え始めている。
北海道の自治体病院で働く看護助手の増田光子さん(61)は、8歳下の夫と2人暮らし。昇給がなく、30年近く働いても年収は200万円を切る。退職金もない。「この給料ではもらえる年金も知れている。働ける間は働かないと、将来が不安」。同じ病院の非正職員でつくる労組の部会長で、春闘では、非正規の職員には出ていない灯油代など手当の充実を訴える。
雇い止めの不安もある。鹿児島市の図書館で、嘱託職員の司書だった野田千佐子さん(52)は昨年3 月、契約を打ち切られた。働き始めて2年目、市が嘱託職員を5年を超えて雇用しない方針を打ち出した。仲間と労組をつくり、雇用の継続を訴えたが、認められなかった。7年前に夫を病気で亡くし、子どもは高2と中2だった。遺族年金などで乗り切った。
自治体の財政難や定数削減のあおりで、非正職員は増える。総務省の2012年の調査では、4年前より10万人多い60万人。自治労の調査でも、賃金は月給制の場合、16万円未満が半数を超えた。有期の雇用契約が5年を超えると、無期契約に転換できる労働契約法が適用されるのは、民間の働き手だけ。非正社員の立場を改善しようという法的な枠組みから、公務員は「カヤの外」に置かれる。多くの自治体では、正職員に支給される一時金も出ない。地方自治総合研究所の上林陽治研究員は「住民に身近なサービスの多くを非正職員が支える。サービス低下を招かないためにも待遇改善が急務だ」と指摘する。
◆キーワード <自治体勤務の非正職員> 採用の根拠となる地方公務員法などによって、非常勤職員や臨時職員などと呼ばれる。消費生活相談員や図書館職員、学校給食調 理員や保育士などで非正職員の比率が高い。自治労の12年の調査では、自治体の職員全体に占める非正職員の割合は33・1%になる。【朝日新聞2015年2月18日】
かなり昔から私どもの組合は嘱託職員の直接加入を進め、現在、非正規雇用の割合は組合員数全体の2割(再任用含む)ほどの比率となっています。切実な課題が多く、職場や職種によっては定期的な話し合いを頻繁に行なっています。当初、図書館に配置された市民公募による嘱託職員の雇用期間は最長5年間と定められていました。嘱託職員の場合、1年ごとの雇用期間であり、更新回数の問題が争点となりました。教育委員会当局は「この仕事を広く市民の皆さんに経験していただきたい」というような理由を示していました。
それに対し、組合は「5年後に本人の意に反した失業者を出すのか」と訴え、労使交渉を重ねる中で雇用延長を認めさせてきました。その後、学童保育所や学校事務職場などでも嘱託職員化が進み、現在、65歳までの雇用保障を原則としています。週4日程度の勤務時間の職場が多く、月収20万円前後が基本となっています。賃金水準のマイナス勧告が続き、職員の月収を下げていた時、嘱託職員の報酬額には連動させませんでした。引き下げだけはとどめさせてきましたが、引き上げがなく、基本的に同水準で何年も推移しています。
そのため、独自要求の上記①のとおり報酬表の導入を真っ先に掲げています。一方で、この報酬表の導入や②の一時金要求に関し、嘱託職員の法的な位置付けによる一定の制約があることも押さえていかなければなりません。昨年7月に総務省公務員部長から「臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等について」という通知が自治体あてに発出されていました。その中の「報酬等について」では次のように記され、嘱託職員には時間外勤務手当や通勤手当以外、手当支給を認めていません。
地方自治法第204条において、常勤の職員(臨時的任用職員である者を含む。)及び非常勤の職員のうち短時間勤務職員(再任用短時間勤務職員、任期付短時間勤務職員及び育児短時間勤務に伴う短時間勤務職員)には、給料及び諸手当を支給することとされている。一方、同法第203条の2において、短時間勤務職員以外の非常勤の職員には、報酬及び費用弁償を支給することとされており、手当は支給できないものである。ただし、時間外勤務に対する報酬の支給や、通勤費用の費用弁償については、後述する②及び③に留意し、適切な取扱いがなされるべきである。
この通知の評価は様々な見方があります。嘱託職員には手当を支給できないという念押しである一方、時間外や通勤手当も出せないと誤解している自治体があり、その誤解を解消するための通知でもあったようです。総務省の「21年通知」発出後、今回の通知に至った経緯や理由が「臨時・非常勤職員の任用等について(新たな通知の背景とポイント)」の中で説明されています。ただ時間外勤務手当に関しては「労働基準法が適用される非常勤職員に対して」という枕詞が付いていることも留意していかなければなりません。
ちなみに「地方自治法改正案が議員提案(非常勤職員にも手当支給を可とする)」という背景も例示されています。この話は以前の記事「非正規雇用の話、インデックス」の中で触れていましたが、残念ながら法改正には至っていません。総務省としては「だから手当支給はダメです」と強調したいのか、このような要請があることを周知したかったのか、判断しづらいところです。判断の難しさは今回の通知全体を通して言えることですが、非正規雇用の待遇改善を求めている組合側に有利に働く記述が随所にあることも確かでした。
休暇の整備や健康診断の義務規定が改めて説明されています。特に「再度の任用の場合であっても、新たな任期と前の任期の間に一定の期間を置くことを直接求める規定は地方公務員法をはじめとした関係法令において存在しない」という箇所に注目しています。前述した私どもの組合要求の臨時職員の継続雇用に際した「追い風」に繋げられる記述ですが、このような場合、嘱託職員化や正規化の必要性を念頭に置くことも考えていかなければなりません。
通知の中でも臨時・非常勤職員の任用の継続に際して留意を求め、特に総務省は任期付職員制度を積極的に活用するよう強調しています。総務省としては現在の法制度の範囲内で、できること、できないことを明記したという立場だろうと思っています。したがって、都合良く勝手に解釈し、違法もしくは脱法と見られるような行為は慎まなければなりません。それでも臨時・非常勤職員の増加を踏まえ、経済全体の底上げをはかる必要性なども背景に掲げているため、待遇改善に生かせる通知であることも間違いないようです。
同一の職務内容の職に再度任用され、職務の責任・困難度が同じである場合には、職務の内容と責任に応じて報酬を決定するという職務給の原則からすれば、報酬額は同一となることに留意すべきである。なお、毎年の報酬水準の決定に際し、同一又は類似の職種の常勤職員や民間企業の労働者の給与改定の状況等に配慮し、報酬額を変更することはあり得るものである。また、同一人が同一の職種の職に再度任用される場合であっても、職務内容や責任の度合い等が変更される場合には、異なる職への任用であることから、報酬額を変更することはあり得るものである。
上記は通知の中の「再度の任用について」における報酬等を説明した箇所です。この趣旨を踏まえれば、報酬表の導入も現実的な検討対象になり得るものと考えています。一時金についても報酬額の支給時期や回数の問題として整理し、条例化をめざす方策があります。代休や休暇制度の充実要求に関しても市側の判断の範疇であるはずです。春闘期、これから人事当局や教育委員会当局と交渉を重ねていく中、総務省の通知内容も有効に活用し、嘱託組合員の要求が一歩でも前進できるよう全力を注いでいきます。
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コメント
自治労とその構成員は非正規公務員を利用して自らの厚遇を謳歌する犯罪的組織であると認識しています。
投稿: れなぞ | 2015年3月 3日 (火) 20時24分
れなぞさん、コメントありがとうございました。
たいへん残念な不本意な見られ方だと言わざるを得ません。なぜ、そのような認識に至っているのか、理由が付されていませんので推測するしかありませんが、引き続き記事本文を通して非正規雇用の課題を取り上げていければと考えています。
投稿: OTSU | 2015年3月 7日 (土) 08時05分
非正規雇用・・・リンコ(臨雇)と昔は言っていた記憶があります。
リンコの人は、それなりに給与が高かった時代もあったように思います。
ICT化の進展などにより、業務が効率化簡略化され、正規と非正規の仕事の内容・量・質はほとんど変わらなくなってきました。
正規の方々が、それなりのクリエイティブな仕事をしているのなら、まだ、話は分かりますが、ヤクショの場合でいうと、雇用の量を確保しておかないと、不測事態(災害、選挙など)の際の対応で、いちいち非正規で雇用することができないということがあります。
それが、働き方の問題で、終身雇用を前提としていないまさに「リンコ」の人だけ、給与水準が低いというのは、違うのではないかと思います。
バブル時代の前後では、たとえ非正規であっても、単発バイトを繰り返していくと、結構なお金になったこともありました。人が足らなければ、労働市場での人件費は高騰しますし、フリーランスでも高度なテクニックを必要とする人たちは、何かと重宝がられたものです。
それが、結局は、個人のフリーランスでは、法人の責任が取れないであるとか、役所では法人とは請負などの契約は基本的にしないものなので、法人に入らなければ、仕事がもらえないわけです。
法人に所属するだけならば、正規であろうが非正規であろうが構わないわけなので、そういうところでも、法人の実績や信頼でモノゴトを進めている日本の経済活動にも問題があるのではないかと考えています。
役所がそのところを変えるのであれば、公益法人を作らせて仕事をしていたのが、昔の実態ですが、最近はNPOを作ることにシフトしています。NPOは2人で法人ができるわけですから、法人に責任を負わせるためだけの法人を作らせているという、なんとも役所的な発想だと思います。
個人と契約できる事例は、任意団体と契約する例はまれにありますが、任団の場合、あくまでも個人との契約なので、ヤクショの場合、自治会に補助金をだすということくらいしかやりません。
まず隗より始めよではないですが、役所も個人契約をどんどんしていかないと、雇用形態の流動化の面で、立ち遅れが生じます。個人で相当なスキルを持っている人はいます。また、その人たちは障がい者であったり生活保護を受けていたりすることがあります。
障がい者や生保者においては、法人に所属さえ認められないひとたちがかなりの割合で存在します。また、女性であって将来結婚して子どもが欲しいという公言する人たちも、そもそも法人に所属することが難しい。
健康で、トラブルを起こさない、クリエイティブでアクティブで、現場から企画まで全部こなせるオールラウンドな人材を求めすぎてはいないでしょうか。
そもそもの正規・非正規の問題は、個々人の特性を認めるという基本的な問題を内包しているようなことがあるのではないかと考えています。
投稿: でりしゃすぱんだ | 2015年3月 7日 (土) 11時56分
でりしゃすぱんださん、コメントありがとうございました。
新規記事は「春闘期、非正規雇用の課題 Part2」とし、今回の続きに当たる内容の投稿を予定しています。ぜひ、またご訪問いただければ幸いですので、よろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2015年3月 7日 (土) 16時57分